連載「ジャパンブランドのトリビア」Vol.5 街をアトリエに日常を描写する エイドリアン・ホーガンが思うメイド・イン・ジャパンの魅力

デザインや機能性、トレンドやスタンダードという軸があるように、“メイド・イン・ジャパンであること”も、もの選びの基準の1つになっている。連載「ジャパンブランドのトリビア」では、最先端であり、ソーシャルフルネスというステートメントに沿った、“メイド・イン・ジャパン”のものを、さまざまなクリエイターが紹介。今回は、出身地であるオーストラリアから東京を拠点に移し、イラストレーターとしてさまざまなメディアで活躍するエイドリアン・ホーガン。イラストレーションに対する考えや思い、そして彼にとって“メイド・イン・ジャパン”のものは、自身の創作にどんな影響を与え、インスピレーション源になっているのだろうか。

−−日本に活動の拠点を作って8年が経つそうですが、あらためてメイド・イン・ジャパンのモノの価値や魅力をどのように感じていますか?

エイドリアン・ホーガン(以下、エイドリアン):日本に来る前、メイド・イン・ジャパンのものに対して、“ハイクオリティ”と“長く使えるもの”という2つのステレオタイプがありました。そのイメージは日本に来て合っていたと確信しましたが、思っていたよりもものづくりの幅の広さと芸の細かさに驚いたのを覚えています。例えば、レストランの各テーブルにおいてある爪楊枝。先端を折り箸置きのように爪楊枝を置くとテーブルに直接置くことなく使えるとか、温かいおしぼりを出してくれるとか。用途を考えて誰かがデザインしたものが、時代を越えて残っていて、日本のおもてなし精神につながっている。その考え方をもっと理解したいと思って、日本語の勉強をするようになりました。実際に東京で暮らし始めて8年になりますが、クオリティライフとしては東京に住んで本当によかったと思っています。大きく国際的なビジネス街の面もありますが、自分らしくも暮らせる街。ビル群の中にも、少し歩くと昔ながらの街並みや工場が残っていたり、そのミックス感もおもしろいですしね。

−−気になる“メイド・イン・ジャパン”のものやスポットはどこで見つけていますか?

エイドリアン:東京に引っ越してきたばかりの頃からいろんな街をたくさん歩いて散策しています。5分歩いただけで景色が変わり、その変化も見ていて楽しい。東京の都会の部分も好きですが、東村山のように都心から離れたカントリーな雰囲気の街も好き。街を見ていると長く使っているもの、そのエイジング感に魅力を感じるようになりました。ボロボロになってしまったら、捨てて新しく買えばいいと思っていたけど、古き良きを大事にする精神、直して長く使うという習慣をものだけでなく建物にも感じて、そういう風景の絵をよく描いています。東京はベーシックな色の建物が多いけれど、人がお洒落でたくさんの色をまとっている。その建物と人のコントラストも描いていておもしろいなと発見しますね。

日常的なスモールトレジャー「ポスタルコ」のペンケース

長く使っている「ポスタルコ」のペンケース。「ポスタルコ」というブランドは、アメリカ人と日本人の夫婦で、日常的に使うステーショナリーや革製品を使いやすくデザインし、販売しています。アメリカから拠点を東京に移し、日本人の職人さんに生産を依頼している彼らは、インターナショナル感もあるけれど、メイド・イン・ジャパンであるというおもしろさもある。僕はそのイラストヴァージョンを目指しています。例えば、一緒に暮らせる絵。長く愛してもらえるように、日差しで色が落ちて変わってしまっても、味があるみたいな絵を描いていきたい。そういう意味でも「ポスタルコ」のものづくりの考えやコンセプトは、お手本であり、先輩でもある。それに、海外から原画を買いたいという依頼が来ると、ある意味僕の作品もメイド・イン・ジャパンだと思っているので、梱包時に“MADE IN JAPAN”と書いているんです。外国人のイラストレーターなのに、メイド・イン・ジャパンというのは違和感があるけど、意味としては間違ってはいないんじゃないかなと思っているから。

筆のタッチと特有のワビサビに惹かれた「筆ペン」

日本に来た時、それぞれの色の意味もわからず使って絵を描いていた筆ペン。液がなくなってきた時の擦れ感とか、色の濃淡が調整できたり、力の入れ加減で繊細な線が描けたりする。何よりコンビニでも手に入り、そして安い。使っていてとても楽しい。日本に来てこの筆と出会わなかったら、描けなかった絵もたくさんあります。書道用の筆も、細いものから太いものまでいくつか持っていて、それで絵を描くことも。最近はデジタルで、こういうタッチの質感が出せるツールもありますが、僕はアナログなスタイルにこだわっているので、デジタルで描いたものに、筆ペンを使って描いた絵をスキャンして合わせたりすることもあります。手作りで完璧というメイド・イン・ジャパンのものづくりの精神に従って、そういう手法を取り入れています。それに似顔絵を描いていても似ているかどうかより、フィーリングで描く手描きの絵にはその人らしさや個性が表れます。それが僕の作品のオリジナリティーにも繋がっていると思います。

絵をきっかけに人とつながることができる「カフェ」

イラストレーターとして駆け出しの頃、人を描くのが好きなので、家で描いているよりも外で描いている方がいいと思って、電車の中や街を歩きながらスケッチしたり、いろんな街のカフェでも絵を描いていました。よく行くカフェの店の同じ場所で絵を描いていても、いつも違う発見がある。1枚として同じ絵はないんです。今いちばんのお気に入りはワーキングスペースの下にある「パーラーズ」。カフェは、偶然の出会いも多く、描いていたら「イラストレーターさんですか?」とスタッフの人が声をかけてくれて、同じ店内にいたアートディレクターの人を紹介してくれて、仕事につながったり。そういうきっかけにつながるコミュニケーションの場所でもあります。あと、最近はiPhoneでみんなすぐ写真を撮るけれど、僕はその瞬間をスケッチで残したい。そういう習慣の中で、幸せな瞬間や、たくさんの思い出をスケッチブックに残そうと思って、ポケットにコンパクトなスケッチブックをいつも入れています。見返すと、日常的な瞬間もアートになるんだなと感じることも多いですし、名刺の渡し方やお辞儀の角度といった日本らしい習慣やマナーを、自然と描いていたスケッチから知ることもありました。

エイドリアン・ホーガン
オーストラリア出身。2013年から東京に拠点を移し、フリーのイラストレータとして活躍。国内外問わず、雑誌をはじめ、広告、書籍、壁画など、幅広くイラストを手掛けている。日常の様子をスケッチし投稿しているSNS も人気。
Instagram:@adehogan
http://www.adrianhogan.com/

author:

奥原 麻衣

編集者・ライター。「M girl」、「QUOTATION」などを手掛けるMATOI PUBLISHINGを経て独立。現在は編集を基点に、取材執筆、ファッションブランドや企業のコンテンツ企画制作、コピーライティング、CM制作を行う他、コミュニケーションプランニングや場所づくりなども編集・メディアの1つと捉え幅広く活動中。 Instagram:@maiokuhara39

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