自らをアーティストではなく「何か作ってるのが好きな人」と話すKousuke Shimizuのクリエイティブ

コラージュやイラストなど多彩な手法でグラフィックを制作するアーティスト、Kousuke Shimizu。ファッションシーンから捉えると、「コム デ ギャルソン」「キディル」「ステューシー」といったブランドとコラボレーションし、作品提供してきた経歴を持つ。ファッション、アート界においての注目クリエイターだ。彼がどのようなルーツを持ち、どのような考えで作品制作を行っているのかを、東京で開催されたKousuke Shimizu × 『ジャングル大帝』の現場で聞いた。

自分がほしいものを作りたいという思いが出発点

——まずはアートやサブカルチャーへの原体験からお伺いしたいのですが、どういったものに影響を受けてきましたか?

Kousuke Shimizu(以下、Shimizu):原点をたどると、15、16歳の頃、地元にあった「クリームソーダ」(ロック、ロカビリーといった音楽をバックボーンにしたブランド)に出会ったことを思い出しますね。ドクロといった怖いモチーフなのにかわいく表現されていて、ギャップがある世界観に引かれたんです。「クリームソーダ」を取り扱うショップに通ううちにスタッフの方とも仲良くなって、お店でかかっている音楽を扱うおすすめのレコードショップを教えてもらって。それで今度はレコードをジャケ買いするようになりました。実際に聴いてみると、ジャケットのアートワークに対して想像もつかないような音楽が鳴り出したりして。まだ、そこまで深い音楽の知識があったわけではなかったので、これはどういうことなんだろう!? って感覚でしたね。当時の情報源は、まだテレビや雑誌だったので、そういった音楽やアートワークから得られる情報がすごく新鮮で影響を受けたのを覚えています。

地元には「クリームソーダ」に限らず、「アンダーカバー」や「エイプ(=A BATHING APE®)」「ヒステリックグラマー」を取り扱うショップもあったので、同時期にいろんなカルチャーが自分に流れ込んできてミックスされていきました。

——そういった意味では、1990年代の裏原カルチャーにも影響を受けてきた部分はありますか?

Shimizu:あると思いますね。例えば、「バウンティーハンター」や「ネクサスセブン」など、洋服を探しに行ったらアメリカントイや洋服でないものが売っていたりと、そういったブランドを調べていくと、全然関係なさそうなカルチャーを提示しているブランド同士が実はつながっていたりして、ジャンル問わずいろんな人が同じシーンにいるということが不思議でした。ですが、その不思議な感覚もすぐに自分の中では自然なこととして理解できるようになって、そのミックスされた場所や感覚を引きずったままずっと生きているような感じです。

——では、グラフィックデザインやアートを始めたのは、どういうきっかけがあったんでしょうか?

Shimizu:デザインをやろうと決意して始めたというより、ほしいものが街からなくなってきてしまって、自分で作ろうと思ったのが理由でした。高校生を経て21歳頃までは、好きなブランドを追いかけていろいろなものを買ってきたんですけど、どのブランドも徐々に方向性が変わってきて、当時の自分にしてみれば、僕ら世代のものじゃなくなってきちゃったという感覚があったんですね。それも、今であれば理解できることなんですけど、その時はそう感じたんですよ。

——まずは、何から作り始めたのですか?

Shimizu:まずはTシャツが作りたくて、グラフィックデザインに関する知識を独学で習得していったんです。今思えば上達は遅かったんでしょうけど、あの頃は日々、自分のスキルが上達していくような感覚でのめり込んでやっていたので楽しかったですね。遠回りばかりしていたように思いますけど、逆に遠回りしていたからこそ、普通に勉強していたら表現できないようなエフェクトやデザインに対する切り口を見つけられたのかもしれません。

——グラフィックデザインを独学で学ぶにあたって、どんなことから着手しましたか?

Shimizu:宗教モチーフのコラージュですかね。昔の宗教画を宗派関係なく組み合わせて1つのビジュアルとして作ったりしていました。完成したあとは、結局Tシャツにすることなく、ひたすらグラフィックを作り続けていましたね。とにかく制作が楽しくて、それしかしていないような日々でした。

イラストは柔らかい線の集合体という認識

——同時に、Shimizuさんと言えばポップなキャラクターのイラストも特徴の1つだと思うんですが、絵となると特別な技術が必要だと思います。絵のテクニックはどう体得されたのでしょうか?

Shimizu:イラストに関してもなんとなくで、自分にとっては落書きの延長線上にあるようなものなんですよね。僕が好きなのは、柔らかい線が集合したもので、こういうキャラクターを描こうと思って描いているわけではないんです。それっぽい目があって、それなりの形をしているからキャラクターと言えばそうなんですけど、自分の中ではキャラクターのイラストという認識で見ていないかもしれないです。柔らかい線の集合体といったイメージで見ていますね。

——なるほど。今ではアーティストとして広く認知されていますが、ターニングポイントとなったきっかけはなんだと思いますか?

Shimizu:ターニングポイントに関してなんですけど、僕自身は自分のことをアーティストだと思っていないんです。人に説明する時に肩書きとして、アーティストやデザイナーと謳ったほうが便利だから、そう紹介されているだけのことであって。自分で自分を称するのであれば、「物を作るのが好きな人」だと一貫して思っています。だから、何かをきっかけにアーティストになったというわけではなくて、ずっとなんとなく好きなものを作り続けているだけなんですよね。

第1章の集大成的な『ジャングル大帝』とのコラボレーション

——そのような姿勢で制作を続けていった先に、今回の『ジャングル大帝』とのコラボレーションが実現したわけですが、こちらのプロジェクトに関して思うことはありますか?

Shimizu:小さいことかもしれないですけど、自分の集大成の1つだと捉えています。最初に個展を開催したのが2011年の5月なので、そこから10年続けてきて2022年4月に今回の個展が開催となったわけですけど、2、3年前からいつまでこういう表現を続けるんだろうって自分自身に疑問があったんですよね。

——こういう表現というのは?

Shimizu:やはり世間的に見て、僕の絵に期待されている部分ってキャラクター的な表現だと思うんです。だからこそ、今回を機に、その表現をやり切ろうと思って制作したんです。もともとは遊びでやってきたようなイラストでの表現なんですけど、目をつなげて顔を3つに分裂させて身体が立体的に飛び出るような構成にして。この展示を実現させて、自分の中の第1章を終わりにして区切りとしたいと考えたんです。『ジャングル大帝』のレオやライヤ、ハム・エッグなどのキャラクターには小さい頃から知っていてすごく思い入れもあったし、自分の中で良い内容に仕上がったと思っています。

——第1章を終わりにするということは、次に見ているものがあるということですか?

Shimizu:そうですね。今、興味があって作りたいのは少し抽象的で断片的な構成のものです。今までのキャラクターのように、わかりやすい構図のものではなく、より瞬間的な断片を見せられるようなグラフィックを作りたいと考えています。だからといって、今後はキャラクターを描かないというわけではないんですけどね。自分の中でやりたいことは少し抽象的で断片的な表現なんです。もう制作場所も用意していて、エアブラシなど、これまで使ってこなかった道具もそろえています。パソコンだけで完結するものではなく、手作業で表現する作品を改めて作りたくて、準備を整えてました。また海外でも展示をしたいですし、いろいろな方とももの作りをしたいですね。

——それは非常に楽しみですね。今後はまったく違うShimizuさんのアートを見られるかもしれないということになりますね。

Shimizu:どうなるかわからないですけどね。でも、やったことがないことをするのは好きなので、自分的にも楽しみではあります。でも、今の時点で別なコラボレーションの個展のお誘いもあるので、そこでは、今までと変わらない提示になるかもしれませんが、将来行われる僕の単独展で、今までの作風と変わらないような内容が展開されていたら、「あっ、うまくいかなかったんだな……」って察してください(笑)。おそらく、これまでと異なる世界観をお見せできるとは思います。

Kousuke Shimizu
東京を拠点にアナログコラージュ、シルクスクリーン、イラストレーション、グラフィックから半立体物など、さまざまな手法、アイデアを取り入れ作品制作を行う。アパレルブランドなどとのジョイントワーク、コラボレーション、作品提供も多数。
http://www.koooooou.com
Instagram:@kousuke_kou

Photography Masashi Ura
Text Ryo Tajima

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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