繊細な点描や、さまざまな文字の要素を含んだオリジナルのカリグラフィー“コスモポリタン”でモノクロの世界を描くUSUGROW(薄黒)。緻密で美しい作品は海外からのラブコールも多大であり、国内外で開催する展覧会は大きな反響を呼ぶ。
6月25日、霞が関や新橋に程近い港区虎ノ門で、アーティストのimaoneと建築デザイナーの野村郁恵を交えた3人で、マルチスペース「SHINTORA PRESS(新虎プレス)」をオープンした。そのこけら落としとして、USUGROWの個展が開催された。
前編では個展のテーマであるダンスに秘めた思いを語ってもらったが、本稿ではこれまでの活動や作風をひもときながら、世界を股にかけて活躍する彼ならではの考えに迫る。
モノトーンの世界とコスモポリタンの意味
——活動の拠点を地元福島から東京に移したのはいつですか?
USUGROW:2000年です。打ち合わせのたびに東京に来ていて、上京しようと思っていなかったけど気付いたらフラッと引っ越していて(笑)。地元でバンドを組んでいたのに残したまま東京に住んじゃったから、逆に福島へ通っていました(笑)。
——当時からモノトーンの作風は変わらず?
USUGROW:変わっていないですね。絶対に白黒以外の色を使わないってわけじゃないし、使いたいとも思うけど、使い方がわからないんですよ。とりあえずは白と黒がきれいだから、ちゃんと使えるようになりたいってだけです。いざという時に使おうって思って、緑と青は一応持っているんですよ。もうガッチガチに固まっていますけどね(笑)。
——緑と青は好きな色?
USUGROW:好きですね。葉っぱの緑と、水と空の青。あと、紫も好き。
——いいですね。彩りのあるUSUGROWさんの作品も観てみたいです!
USUGROW:しばらく先になるかもしれないけど(笑)。
——オリジナルのカリグラフィー、コスモポリタンも長く描き続けていますよね?
USUGROW:当初はコスモポリタンなんて意味合いはなく、自分の書体がほしくて絵を描き始めた時から同じように始めました。好きだった漢字、梵字の要素をアルファベットに混ぜていったり、ヴェニスのタグや、チカーノのスタイルであるチョロライティングの影響もあって形になっていきました。2008年にチャズさん(=Chaz Bojórquez)とセッションする機会を与えられたんですが、その文字で何を書くかが重要だって話してて、文字の形を追求するのと同時にメッセージについて見直すようになりました。
その後アラビア書道を学んだり写経を始めたり。ある時自分の文字の形と外国で良く感じる経験が重なって。外国で英語を聞いていると、英語以外の母国語を持つ人が話す、母国語の訛りが見え隠れするアクセントがおもしろいと思っていたんです。それぞれ違った言語をルーツにするひとびとが1つの都市に集まって、英語を使ってみんなでコミュニケーションを取ろうとするところに協調を感じたんですよ。いろいろな文字の要素が入ってる自分のアルファベットがその光景に重なった気がして。
コスモポリタンは“世界人・国際人”って意味があるから、現代の精神にも通じる部分があるように感じています。
表現が言葉の壁を越える瞬間
——USUGROWさんにとって、音楽もルーツですよね。先ほどハードコアパンクやヒップホップ以外に民族音楽も好きとおっしゃっていましたが、どういったものが好きなんですか?
USUGROW:説明が難しいですが、民族楽器を使いつつも、現代の感覚で創られた音楽が好きですね。古典や歴史を学んだ上での現代とのクロスオーバーみたいな。そういう感覚を自分も目指しているし、共感できるんです。でも、例えばロックバンドが和を意識しましたと言って、上物に三味線の音色をただトッピングするようなものとは違いますね。
——バンドのCDやレコードのジャケットもデザインされていましたよね?
USUGROW:1990年代から2000年の頭までは主にハードコアやメタルのフライヤーやジャケット、マーチャンダイズとか、いろんなバンドに描いていました。1997年から毎年LAに行っていたんですけど、僕がジャケットを描いたレコードを持っている人と偶然仲良くなり、海外で初めて個展を開いたこともあって。
——どんな場所で海外初の個展を?
USUGROW:Brooklyn Projectsっていうスケートボードショップです。最初は偶然入ったんですけど、スタッフにジャパニーズハードコア好きのバンドマンがいて、僕がジャケットを描いたレコードを持っていたんですよ。それで泊まらせてもらうくらい仲良くなって、2006年にショップで個展をやらせてもらいました。前の年に仙台で、人生初の個展を開催したばかりでした。次はLAと東京でできたらな、と思っていたところだったので実現できてよかったです。その後2007年からは海外中心でしたが定期的にどこかで個展をやるようになりました。
——USUGROWさんにとって個展やグループ展はどういう存在ですか?
USUGROW:会ったことのない人に会いたいし、自分のことを知らない人に作品を観てもらいたいです。オープンな活動を心がけているので、やらせていただけるなら大きい会場でやりたいし、小さなギャラリーにも良さがあります。ただ正直に、やりたい場所だから参加して、会いたい人がいるから行って、好きな景色があるから大事にする。単純にそれだけです。
——海外初となる個展はいかがでしたか? 絵もダンスと同様に、言葉の壁を越えるものだと思いますが。
USUGROW:もちろんそれを感じました。アンダーグラウンドの音楽が僕の根底にあって、日本ではあまりメディア露出していないミュージシャンが世界で活躍する前例をずっと見てきたから、自分も表現で言葉の壁を越えることを体感できて嬉しかったです。
——来場した方々の反応は?
USUGROW:点描とか、細やかな手作業に反応があったと思います。あと、足していくのか、引いていくのか、余白を楽しむという点だと、感性が違ったかもしれません。「なんでここがあいているんだ? 文字とか描きなよ」って言われたこともあったけど、「これでいいんだよ」って(笑)。
でも、その話は2000年代初頭の話だから、今は全然違うと思うんですよ。感性は更新されていくものだし、時差なくつながれる現代だからこそ、よく使われている国民性って言葉はもう参考にならないかもしれません。果たして、日本人とは? と聞かれて答えられる人は、どれぐらいいるんでしょうね。国籍だけが唯一のプライドというのも滑稽な気がします。それより、それぞれが自分に自信を持つほうが大事だと思うんですけどね。
——国民性ではなく、個人の精神が国境を越える。前編でお聞きしました個展「SPIRIT BEYOND BORDERS」にもつながりました。
USUGROW:最初はこの作品1枚1枚に、ダンス名と国名を記載したらわかりやすくなると思ったんですよ。でも、国名を書くことに引っかかっちゃって。例えばフラメンコは、スペインのアンダルシア地方が発祥とされてるけど、そこでもアラブの影響があったり、フラメンコを踊ったロマのひとびとはインドから西に流れてきて、インドのカタックダンスがルーツという説もあって。他にも、東南アジア諸国のダンスも衣装や動きに似ているところが多かったり、先住民族のダンスだと、身に着けている飾りだったり、動物の姿を現わすっていう共通点があったり。決して国では分けられない共通点がたくさんあって。
ダンスは古来から人がつないできたものだから、国の文化じゃなくて、人の文化。表現から生まれた文化は、国で分けられないと思うんです。さっき国民性って言葉が出ましたけど、本来は国の前に人があるんだってことを強く言いたいですね。