Haroshi「I versus I」で表現したカルチャーへの愛 ―前編― 再生が生み出す珠玉のアート

使い古したスケートボードのデッキを素材にアートを制作。スケートボード界はもちろんのこと、世界的にも人気を呼んでいる現代アーティスト作家のHaroshiが、今年新しくオープンした「NANZUKA UNDERGROUND」で、個展「I versus I」を開催した。デッキの塊から彫り出された「GUZO」と、スケートボードデッキを平面に配置していった「Mosh Pit」をメインに、伊達直人のソフビを使用したトイも発表。カスタム、ストリート、そしてスケートボードとそれぞれのカルチャーに対する熱意を感じられる個展となった。
本インタビューは、夏がやってきたばかりの頃に開催された展示開催中に行った。開催された個展について、そしてHaroshiが向き合うアートへの姿勢など、前後編、2回に分けてお届けする。

前編は個展「I versus I」について、ソフビを利用することになったきっかけ、そして「GUZO」に対する思いなどを聞く。

周りにソフビ好きがいたことが、ソフビシリーズの始まり

ーー今回の展覧会を開催したきっかけから聞かせてください。

Haroshi:2017年に初めてNANZUKAで展示をやった時に、NANZUKAと相談してどんなものを作ろうか話があったんですよね。それまでニューヨークのギャラリーとかでやってた頃は、好きなものを作って展示してたんです。会場のサイズ感だけは決まっているので、でかいものを作ってほしいとかはあるんですけど、モチーフに関しては相談したことがなくて、だけど日本のギャラリーの場合は、自分も日本人なんでいろいろと話せるじゃないですか。だからNANZUKAでやるメリットは、相談しながら作れることで、NANZUKAに相談をして、何を作ろうかとかなった時に、人型がおもしろいんじゃないかなって話をもらって、それで「GUZO」っていう名前にした人形シリーズを作り始めたんです。

その展覧会(「Haroshi “GOZU”」@Nanzuka Gallery)をやったのが2017年で、その1ヵ月後にロンドンで展覧会があったんですよ。だけど2ヵ月しか制作時間が、ギャラリーをすべて埋められるほど作品がなくて。困ったなと思っていた時に、ちょうどスタジオをシェアしていた向かいの部屋の近藤さんがソフビの原型師なんですけど、そこのストレージにあった段ボール箱をのぞいたら、伊達直人ってタイガーマスクのマスク部分を紛失したものが突き刺さっていたのが見えたんです。それで、「これちょうだい」と聞いて。要するに1作品作るのに、顔だけスケートボードでタイガーマスクを作ればいいじゃないですか。であれば、2ヵ月で個展が開けるくらいの数が作れるんじゃないかと、それでソフビの壊れたやつをもらって、頭だけ作ったのがソフビシリーズの始まりなんです。

ーーソフビは昔から好きだったんですか?

Haroshi:正直、ソフビにハマっていたわけではないんですが、僕の周りにはソフビを好きな人ばかりいるんです。僕の友達にパスヘッド(以下、パスさん)っていうアーティストがいるんですけど、パスさんが僕の英語があまりにもひどいのを見かねて、英語の先生を紹介してくれたんです。その方はソフビ作家のデニスさんという、日本に住んでいてソフビ工場をやっている方だったんです。だからSkypeで英語の授業をしてると、後ろにいつもソフビがいっぱい並んでいるのが見えるんですよ。だから毎回「これは?」とか、僕はそんなに興味ないのに、めちゃくちゃ僕にソフビの知識を入れてくるんですよ(笑)。そこから一緒にデニスさんが出品するスーフェス(=SUPER FESTIVAL)とかに一緒にいくようになり、デニスさんの隣に座るようになって、ソフビが気になりだした頃、スタジオを僕が借り切らなくてはいけなくなったんです。そこでメンツを集めようとした時に、パスさんのソフビの原型を作っていた先程の近藤さんがちょうど作業場を失って困っていると聞いて、うちに誘致したんです。そこからどんどんソフビの関係者の方がスタジオに集まるようになって、気付いたら僕もソフビを作ろうかなという流れになったので、わりと自然にソフビの仕事をしだした感じですね。

「I versus I」の根源にはカスタムカルチャーが存在する

ーーてっきり子どもの頃からソフビ好きかと思っていました(笑)。

Haroshi:もちろん好きではあるんですけど、買う時に並ぶのが嫌いなんですよ。ソフビって並ばないと、いいのが買えないじゃないですか。自分は胆力ないし、並ばなきゃ買えないのならいいやって、それぐらいだったんですけど。
自分でやるようになってからは伊達直人みたいにみんながいらないようなソフビをオークションなどで買っているんです。マスクを紛失されているものは、タイガーマスク史上もっともいらないやつだから、それを僕は買いあさってるんです。なので、うちには、同じ顔をした伊達直人軍団がいるんですよ(笑)。バイクのチョッパーみたいな文化と一緒で、いらないものをカスタムしてこそ、初めてカスタムカルチャーと言えるというか。それが「I versus I」の根本にあって、ソフビの伊達直人といういらないものを作品のタイトルにして、個展のメインピースにする格好よさっていうのが僕の中ではあるんです。

ーーカスタムカルチャーの格好よさですね。

Haroshi:ヴィンテージのものを愛する気持ちがすごくありまして、例えばヴィンテージデニムやバイクとか、すごく格好いいですけど、始まりはみんながいらなかったものを格好よくしている人の独占的市場だったわけですよ。パンクスがロンジャンにビス打って格好よく着ているのも、ロンドンではロンジャンが一番安かったからだし。僕としては価値のないものに価値を見出すことのほうがエキサイティングなんです。

ーー使い古したスケートデッキを、現代アートへと転換していったことは自然の流れだったのですね。

Haroshi:そうです。みんなが捨てているもので格好いいものを作るって、すごくバランスがいい。金で宝飾品を作ることは普通だけど、ゴミで宝飾品クラスを作ったほうが格好いいじゃないですか。昔から錬金術っていう、なんでもないものから金を作る考え方ってありますけど、価値の創造が人間の役割だと思うので、そうやってものを作っていったほうがおもしろいと僕は思っています。

子どもの頃は夏休みの自由研究で目立っていた

ーーHaroshiさんのアート制作は独学なのですか?

Haroshi:ジュエリーの専門学校へ行っていて、卒業してから造形の人のところへ飛び込んで教えてもらったことはありますけど、木工とかいわゆるアートの勉強っていうのはしてないですね。ただものを作るっていうことは子どもの頃からずっとやってたんで、ある程度の感覚はあるんですよね。小学校の頃はティッシュとかで人形を作ったり、ないものを作るみたいな。当時はキン肉マンとかがはやってたんですけど、僕の好きだった『魁!!男塾』ってマンガのフィギュアなんかないんですよ。だからそれを自分で作ったり……。めちゃめちゃ汚いんですけど。

ーーその頃から立体物は作っていらっしゃったんでしょうか?

Haroshi:言うと格好いいですけど、そんなにちゃんとしたものじゃないです。僕はすごく病弱で、いつも入院してたんです。だからあまり運動ができなくて、その代わりに夏休みの宿題が僕のオンステージだったんです。爺ちゃんがめちゃくちゃもの作りができる人だったんで、夏休みに入ることで僕らのもの作りにスイッチが入って、東急ハンズで材料を買ってきていろいろなものを作る。それで、新学期が始まった時の夏休みの自由研究発表会で目立つっていうルーティンが僕にはありました。

ーー「GUZO」についてお聞きしたいのですが、綿密に計画されてから、できあがったシリーズですか?

Haroshi:それがあまり、その……一番最初の1体を作ったのは、スーフェスとかで買ったミラーマンのブートレグがあって、それがジャイアントサイズだったんですけど、その身体のバランスが好きだったので、それを見て最初の1体を作りました。1体作るとなんとなくわかってくるので、2体目、3体目は自分のボディバランスでどんどん作っていって、なので時系列的でいくと1体目のボディバランスはめっちゃソフビなんです。その1体目をNANZUKAが「アート・バーゼル」に出してくれたんですけど、リアクションがあったようで、それで自分の個展用にブラッシュアップしていきました。

仏様をお迎えするように彫り出されたGUZO

ーー何かイメージしているモチーフはあるのですか?

Haroshi:特定の何かをイメージして作るのではなく、デッキの塊を作る段階で、トップの色が赤だったら、赤い感じのイメージで奥側に削っていくことによってどんどん色が出てくるんですけど、この色まで出そうとか、この色で止めとこうとかなので、彫刻とはまた違うんですよね。普通は彫刻って完成形ありきですけど、僕の場合はこんな感じっていう形の正解はなくて。出てきた色の好みで止めるので、それは僕の裁量次第なんです。

ーー彫り過ぎると色が変わったり、Haroshiさんならではの美学と感覚で調整していくんですね。

Haroshi:仏様を彫る仏師の言葉で「仏様をお迎えする」というのがありますが、例えば木の塊の中から仏様を彫り出すじゃないですか。その時に仏様に傷をつけないように彫る、という考え方があるんです。つまり中に仏様がいて、それをその完璧な仏様の形として彫り出す。彫りすぎても傷つけるし、彫らなすぎても完璧な姿でお迎えできてない。僕の「GUZO」も同じで、「GUZO」をそのスケボーの塊の中からお迎えするという感覚なんです。削りすぎれば余計に傷をつけてしまうし、ちょうどいいバランスで自分の中から取り出すという感じですね。

ーーそういった話は、何がきっかけで知ったんですか?

Haroshi:仏師の話が好きなんですよね。僕は大学を出ていない分、いろんなもの見たり調べたりしてきたんです。例えば籔内佐斗司さんという芸大の先生がいるんですけど。籔内さんは仏像も作れば、修復もされる方で、本もいろいろ書いているのでそういったのを見て考え方を学びました。

ーー完成形は予測できない……。まさに世界に1つしかないですね。

Haroshi:彫っていく上で感じたことをきちんと生かすというか、正解を最初に出してしまうとそれありきになってしまうので、どうしてもいろいろとゆがんでくるんですね。本来ここはこうであるべきなのにうまくいかないとか。そういうのはやはり臨機応変であるべきだと思うんです。だからわりと緩くそのあたりはやっています。

ーー「GUZO」の手法で何か制作してみたいなと思うものはありますか?

Haroshi:何を作ってもいいと思っています。これっていうキャラクターを決めちゃったらそれしか作れなくなっちゃうし、特にこうあらねばならないとか考えてないんですよ。だから作りたいものは、もちろんいっぱいあります。
基本、作りたいものをライヴでたくさん作っているんで。ただそれが世の中に発表できるほどのクオリティなのかはまた別ですけどね。趣味で、木彫り熊とかも作ったりしてるんですよ。でもでき上がった木彫り熊はどう考えても展覧会に並べるのとは違うし、それはうちに飾っています。
(後編へ続く)

Haroshi
1978年生まれ。東京都出身。1993年からスケートボードを始める。ジュエリー制作を経て、2003年にパートナーとともにHaroshiをスタート。スケートボードデッキの廃材を使用した彫刻作品、インスタレーションを開催。スケートボードブランド「ハフ」とのコラボレーションや、BATB(Battle At The Berrics)のトロフィー制作をはじめ、2018年Art Basel Miami BeachのNOVAセクションにおける個展、2019~2020年にかけては「Jeffrey Deitch」のNY、LAを巡回した「Tokyo Pop Underground」での展示など、東京下町を拠点に世界で活動中。18年間のアート活動を記録した作品集『HAROSHI(2003 – 2021)』をリリースしたばかり。
Instagram:@haroshi
https://www.instagram.com/haroshi/

Photography Shinpo Kimura

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

この記事を共有