アーティスト・COIN PARKING DELIVERYが創作に込める思いとは

2018年に活動を開始したアーティストのCOIN PARKING DELIVERY(コインパーキングデリバリー)。活動後、すぐにそのポップな作風で人気となり、多くのブランドとコラボレーションを実施。最近では立体にも挑戦するなど、活躍のフィールドを広げている注目のアーティストだ。今回、COIN PARKING DELIVERYに創作を始めたきっかけから、そこに込めた思い、そして今後のビジョンなど、ざっくばらんに語ってもらった。

——これまでもいろいろなメディアでインタビューを受けられていますが、今回「TOKION」に初登場ということで、基本的なところからじっくりとお聞きできればと思います。まずは創作に関してですが、子どもの頃からグラフィックアートは好きだったんですか?

COIN PARKING DELIVERY(以下、CPD):美術館に行ったり、絵を描いたりするのも好きでしたけど、今のようなポップな作品ではなく、線画や写実的な絵を描いていました。だから、こうしてポップな作風のアーティストになるとは、全く想像していなかったです。

——小学生や中学生の時に影響を受けたものってありますか?

CPD:水木しげるさんの『ゲゲゲの鬼太郎』です。怖いのはダメだったんですけど、妖怪は大丈夫で、当時は妖怪についてずっと調べていました。週末には妖怪の聖地巡りをして過ごしたり、小学生から中学生に上がる手前くらいまで、毎年のクリスマスプレゼントは水木しげるさんの瀬戸物でしたね。

——今の作風に、多少なりとも妖怪や水木しげるさんの影響はあったりしますか?

CPD:ないです。むしろこれから、そういった要素も入れていけたらいいなと思い始めてきたところです。

もともとアートに対しては、わからないというか、「なんでこの作品がこんなに高価なんだ?」と、少し批判的な目で見ていたんです。でも、いざこのフィールドで戦うことを決めた時に、何も知らない状態で戦うのはよくないと思い、独学で勉強して。その中で、「なぜそこに価値があるのか」ということに気づけたんです。要は、「アートは社会全体の仕組みを表現している」ということを知り、「アートっておもしろい」と思えるようになりました。

僕がポップな絵を描くのも考えがあって。ポップな絵って何も考えなくても「カワイイ」と感じる。それって今の世の中の状況と一緒だと思うんです。「何も考えずに楽しめる世界にしようとしている」と僕は感じていて、それを表現するためにポップな絵で描いています。作風はポップだけど、作品のコンセプトはかなり深くまで考えているんです。

——個々の作品もそのようにテーマやコンセプトを固めて作るんですか?

CPD:そうです。どの作品のテーマ、コンセプトにおいても「白井さん」と「片山さん」というキャラクターがいることが共通点です。「白井さん」は刹那を描いたキャラクターで、「片山さん」はその友人・恋人・知人です。その2つのキャラクターを通じて、個々の作品のメッセージなどを表現しています。

——アイコン的な存在の「白井さん」はどのように誕生したんですか?

CPD:「白井さん」は「やりたいこと」が生まれた、その刹那を描いているキャラクターであり、恐竜と宇宙人のハーフという設定なんです。これは、宇宙人を未来の象徴とし、恐竜を過去の象徴とすることで、その過去と未来が組み合わさった「現在」が白井さんなんです。

「現在」ってすごく刹那的で、その刹那が重なって「現在」と「過去」という認識が生まれます。でも人はその刹那の部分を軽視しがちだと思っていて、「白井さん」を作ることで、人が「現在」の刹那性を読み解くことができると考えて、「白井さん」を作りました。

——「白井さん」「片山さん」というネーミングも独特ですね。

CPD:日本は0を1にするよりは、1を100にする文化だと思っていて。その上でオリジナル性を持たせるのが強みだと思っているので、西洋的なキャラクターを日本人的なアニメーションで解釈するのがいいなと思い、あえて「白井さん」「片山さん」という日本的なネーミングにしました。

——ネーミングで言うと「COIN PARKING DELIVERY」も独特ですが、どのように考えたんですか?

CPD:もともと、この名前で活動をやるつもりはなくて、「COIN PARKING DELIVERY」は最初に作ったパーカーのフロントに入れた文字で、結果、それがアーティスト名になったという感じです。

ストリートのグラフィックアーティストって描いて、すぐに逃げられるように3、4文字の名前にすることが多いんですが、僕の場合、最初にスマートフォンからグラフィックを始めたので、逆に時間があるからこそ書けるような、あえて長いネーミングにしたんです。それで「C」から始まる言葉がよくて、かつ一瞬で覚えられるような語感も踏まえて、「COIN PARKING DELIVERY」にしました。あと、「白井さん」「片山さん」もそうですが、少し違和感を覚えるようなネーミングを意識しましたね。

——いつもメディアに出る時はマスクを被っていますが、活動する上で匿名性についてはどう考えていますか?

CPD:別に顔を隠したいわけじゃないけど、ただ出す必要性がないかなと思っています。あと顔を出さないほうが、普段の生活はしやすいですし。

——マスクについてのこだわりは?

CPD:最初に使っていたマスクはアメリカの市場で買ったものだったんですが、最近オリジナルで作ったんです。元のものと顔が変わりすぎないように意識しつつ、目などのディテールをより自分っぽいグラフィックにして、あとはどこか生き物感があって怖い感じが出るように作りました。前のものは遠征用として、海外に行く時に使おうと思って保管してあります。あとマスクだけじゃなくて手も作っていて、これは着けたままでスマホがいじれるようにしてあります。

——作品でもよく使用されていますが、青色へのこだわりは?

CPD:青を見ていると本当に落ち着くんですよね。青って扱いが一番難しい色だと言われていて、トーンが変わるとすごく性格が変わる。顔料によっては主張がえげつないくらい強くなったり、急になくなったりもする。だから僕は好きで、作品で使用している絵の具は自分で調合して作り、「白井さんのラインは何番」など決めて描いています。

「最強に広くて浅い人間」になる

——創作を始めたのは美容専門学校の通学電車の中だと以前のインタビューで話していましたが、改めてそのきっかけを教えてもらえますか?

CPD:学生時代が忙しくて、バイトする時間があまり取れなくて。でも、生活していく上でお金が必要だったので、電車での移動中にスマホでイラストを描き、それをパーカーにプリントして、販売したら結構売れて。最初はそうしてアパレルとかをメインにやっていたんですが、それだと服を本気でやっている人に失礼かなと思ってアパレルはやめて、そこから「COIN PARKING DELIVERY」と名乗りアーティストとしての活動を本格的に始めました。それが2018年5月くらいですね。それから4ヶ月後の2018年9月に初めて個展を開催した……という感じです。

——なるほど。ちなみにスマホではどんなアプリを使って描いているんですか?

CPD:今は処理が追いつかないので、デスクトップのパソコンを使っているんですが、もともとは「Xperia」の「スケッチ」というアプリで全部描いていました。携帯を「iPhone」に変えてからは、「Procreate」を使って、ひたすらスマホで少しずつ描いていましたね。人によっては結構大変かもしれないけど、僕は楽しんでできたので、お金があまりなかったのもあって、毎日イラストは描いていましたね。

——最近は平面だけでなく、天王洲アイルのパブリックアートだったり、立体もやられていますね?

CPD:そうですね。最近は彫刻の仕事も増えています。彫刻のほうは、まだ始めたばかりですが、ドローイングと違って雄弁さみたいなものは感じていて、おもしろいですね。

1つのことを極めるのがカッコイイって風潮もありますが、僕の場合は飽きちゃって、他のことに興味が移ってしまう。最初はすごくそれをネガティブに考えていたけど、今となっては「最強に広くて浅い人間」になろうってマインドに変わっています。それが結果的に1つの知識ではたどり着くことのできない新しい自分のカルチャーを作ることができると確信しています。彫刻とか、空間立体とか、いろいろとやることで初めて見えるドローイングの良さって絶対にあると思うので、今は広く浅くやっていこうと考えています

——パブリックアートに関しては、前からやりたかったそうですね。

CPD:彫刻には憧れがずっとあって、いつかはやりたいと思っていました。パブリックアートって街の人を巻き込むものだから、街の人が笑顔になれるものじゃなきゃいけないと思っています。100%全員が喜ぶものは無理かもしれないけど、多くの人が納得できる内容は必要かなと。

電車の駅って降りた瞬間になんとなく街の雰囲気がわかると思うんですが、今回パブリックアートを設置させてもらっている天王洲は、輸入文化が形成されてる場所だなと感じていて。今回の作品では、白井さんが松の木の種を持ち上げているのですが、その松の木の種は、僕の中で日本文化と輸入文化をつなぐ上で大きな意味があり、それは2021年から今年にかけて開催した「ディーゼル」での展示でも発表していて、その流れで天王洲の作品でもそれをテーマに作ったんです。

また、個人的には日本の伝統文化に興味があって、日本の伝統文化は口伝で残っていくものが多いので、僕もそうした伝統的な文化を継承していきたいと思っています。

ギャラリーに所属せずに価値を高めていく

——これまで多くのブランドとコラボもされていますが、コラボで意識していることは?

CPD:本当に自分がやりたい、着たいものを徹底的に作ることは当然として、いい意味で相手が想像できないものを作ることが大切だなと思っています。このブランドがCOIN PARKING DELIVERYとコラボするなら「こうだろうな」という想像とは、違うことをやりたいですし、それがうまくいくと、気持ちがいいですね。

——最初のコラボはアイウェアの「ポリス」の店内装飾でしたが、あれって急に連絡が来たんですか?

CPD:最初の個展を見て、担当者が連絡をくれました。「ポリス」は外資系企業で、店舗をいじったのはあの時が世界で初めてだったらしいです。今思うとアーティストとして活動し始めた僕に、よく任せてくれたなって思います(笑)

——その後も、「モンブラン」や「プーマ」「アディダス」「ナイキ」「カルバン・クライン」「セサミストリート」などオファーが殺到していますよね。

CPD:それに関してはいろいろと運が良かったのもあります。今も多くの案件の相談をいただいているんですが、まずはやったことないものをやってみたいです。最近だと「モルテン」のバスケットボールのデザインをして、箱の中のデザインも全部作り込みました。時間はなかったんですけど、おもしろそうだからやろうっていう感じで。コラボに関しては、何年も先のプロジェクトも動いているので、結果を残し続けていかないといけないと思っています。

——昨今のアートバブルに関しては、どのように感じていますか?

CPD:アートバブルだなっていうのはめちゃくちゃ感じますし、なんなら僕はそれに助けられた人間だと思います。でも、長くは続かないという危機感はあって、一応、どこで弾けても大丈夫なように仕組みは考えています。

僕の場合は、ギャラリーにも所属せず、存在がアート業界っぽくもないところもある。その中で、ギャラリーに入らなくても、それを超える価値を自分で作れたら、大きな流行りになると思うので、そこを目指したいです。

——以前、「今後やりたいこと」で遊園地を作りたいと話されていましたが?

CPD:遊園地は作りたいですね。できれば3ヵ月とか期限を決めて、「あれに行ったんだ」って、後々話せる感じがいいなと思っていて、今は常設型遊園地と移動型遊園地の2パターン想定しています。遊園地もすごくカルチャーがミックスしたものにしたくて、音楽系のフェスもやったりして、子どもだけでなく、大人も楽しめるようにしたいです。そして毎日違うイベントをやって、スタートした時点で3ヵ月分のチケット売り切ったら、おもしろいだろうなって思っています。

——どんどんやりたいことのアイデアが湧いてきますか。

CPD:いや、大変ですよ。だから1日1知識と決めてインプットしています。本も読むし、知識だけではなくいろいろなものに直接触れることも大事だと思っています。

——海外での展示予定は?

CPD:既に何件か話はあります。LAで個展をやるって話もあったんですけど、今年できるかどうかって感じですかね。日本では1件はやる予定です。

——最後に遊園地以外で今後やりたことはありますか?

CPD:アニメを作りたいですね。テレビで「白井さん」とかが動いていたらテンション上がるじゃないですか。だから子どもでも楽しめる内容で作ってみたいです。

COIN PARKING DELIVERY(コインパーキングデリバリー)
2018年、電車での移動時間にスマートフォンを使い、指で絵を描きだしたことからクリエーション活動をスタート。現代人の必須アイテムでもあるスマホを片手に、「今」というこの時代ならではの疑問や理想を落とし込んだ作品を制作、国内外で高い評価を得る。近年では、データのみならず造形、空間、ドローイング、海外のパブリックスペースの外壁など、さまざまな場所で独自の世界を構築している。
https://www.coinparkingdelivery.com
Instagram:@coinparkingdelivery_art

Photography Kazuo Yoshida

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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