偶然から生まれるコラージュに何を見出すか ヤビク・エンリケ・ユウジの個展「MOTION」

コラージュアーティストのヤビク・エンリケ・ユウジの個展「MOTION」が東京・渋谷の「ディーゼル アート ギャラリー」で5月13日まで開催されている。

ヤビクは1997年にブラジルのサンパウロで生まれ、11歳の時に日本に移住した。服飾学校や販売員などを経て、2017年にコラージュアートの制作を開始。古い雑誌の切り抜きや自身で撮影した写真、さらには街中で拾ったゴミや商品のパッケージなどを用いて作品を制作している他、「ヴァレンティノ」等のファッションブランドとの協業も行っている。

自身最大規模となる「MOTION」では、アナログなコラージュアートだけでなく、絵画やプロダクトデザイナーのトトキサクラとともにオブジェクトやインスタレーションも制作している。今回は自身の経歴にも通じる作品制作や、タイトル「MOTION」の理由にしていることなどについて話を聞いた。彼のコラージュアートを通して混沌とした現代と向き合うことで、新たに見えてくるものがあるのではないか。

経歴にも通じる、偶然から生まれる作品制作

――ヤビクさんはコラージュアート制作を始める前は文化服装学院に在学していたそうですね。

ヤビク・エンリケ・ユウジ(以下、ヤビク):中退しちゃったんですけど、1年間だけ通っていました。もともとあき性で、いろんなことにハマる性格なのですが、高校生の時に熱中していたのがファッションだったんです。服飾は難しそうでしたが、思いつきで行動するタイプなのでまずは受験してみようと。

――やりたいと思ってもなかなか挑戦しない人が多い中、行動力がありますね。

ヤビク:自分の直感を信じるようにしています。突然湧き上がった考えに不思議な力を感じるというか。そういう性格もあって、今までにいろんなことを試してきました。最初から目標を定めるというよりも、まずはいろいろ試してみて、その中から本当にやりたいことを見つければいいやと思っています。

文化服装学院を辞めた後は「イッセイ ミヤケ」で販売員のアルバイトを始めました。入った時は嬉しかったんですけど、でも、やっぱり別のこともやってみたいという気持ちになったんです。結局辞めてしまい、そのあとくらいからコラージュ制作を始めました。今から3年半くらい前の話ですね。

――古い雑誌などを切り抜いてコラージュ制作を始めたそうですが、雑誌を集めるきっかけはなんだったのでしょうか?

ヤビク:文化服装学院を辞めたあと、友達に連れられて池袋の今はなき古本屋に行ったんです。僕はもともと古本屋に通う習慣はなかったんですけど、そこで見た昔の「プレイボーイ」がとにかく印象的で。当時はお金もなかったけど古本は安いですし、いっぱい集めるようになりました。「イッセイ ミヤケ」を辞めてからは時間があり余っていたので、いろんな古本屋に行きましたね。最初はただ好きで集めていた感じです。

――作品の特徴をあげるとしたらなんでしょうか?

ヤビク:作品の中の余白はとても大事にしています。コラージュ自体はいろんな素材が組み合わさって情報が溢れている状態なので、余白があることで全体のバランスが良くなるんです。余白を意識していることは自分の全作品に共通して言えることですね。

――制作過程についても教えていただけますか?

ヤビク:制作はある程度偶然に任せています。考えすぎると手が動かないですし、たまたま生まれるものが好きなんです。その制作方法は自分の経歴とも似ているように思います。思いつきに任せてきたせいか、作品もそのように作るようになったのかもしれません。偶然の中から何が生まれるのかは僕も予期できないけど、それがおもしろくもあるんです。

――ご出身はブラジルのサンパウロで、現在は東京在住ですが、それぞれの街はヤビクさんの目にどのように映っているのでしょうか?

ヤビク:ブラジルは移民も多いし、僕の周りにもいろんな人種の友達がいました。それに街自体もごちゃごちゃしていましたね。美術館の隣にスーパーがある、みたいな。ただ、ものすごい情報量で混沌としているのに、街としてきちんと成立していると思っていました。

東京もサンパウロと似たところがあると思っています。ただ日本はブラジルよりも技術が発展しているし、ファッションやカルチャーがものすごく強い。いくつもの独自の文化で構成されているのが東京の魅力なんでしょうね。

無常の世の中から何を見出すか――「MOTION」の由来

――今回の個展のタイトルを「MOTION」にした理由はなんでしょうか?

ヤビク:無常という言葉もあるように世の中は常に動いていて、その中から新しいものが生まれたり、同時に朽ちていったりするじゃないですか。そんな常に“動いている”状態の中からどうやって美しさを見出したり、自分が置かれた状況を前向きに捉えることができるかを考えたくて、このタイトルにしました。

それに“MOTION”という字面も好きなんです。左右のMとNが似ていて、その2文字が挟むように真ん中にOが2つある感じがかっこいいなって。字面の良いタイトルにすることは最初から意識していましたが、それに加えて自分の考えに合う言葉がないかを考えた時に浮かんだのが「MOTION」でした。

――今回の個展では、アナログのコラージュ以外の作品も展示していますよね。

ヤビク:さまざまな手法で作品を制作してみたかったんです。今回はアナログなコラージュをはじめ、ペインティングやプリンターから出力した作品、オブジェクトやインスタレーションのような立体作品も展示しています。それに、いくつものアプローチで制作した作品を並べることで、会場全体を1つのコラージュとして捉えることができるとも思いました。

――抽象絵画の作品は表面の質感が特徴的ですね。近くで見るとよくわかります。

ヤビク:絵画は和紙を何枚も重ねています。そうすることで日常生活では見ることがないテクスチャーを生み出せるんじゃないかと。それに自分は近くで見て、ようやく気付く程度の違和感が好きなんです。最初は和紙を均等に並べたりもしていたんですが、最終的には和紙を適当に投げて落ちたところに貼ったり、一度貼ったものをまた剥がしたりして、偶然生まれた配置をもとに制作していきました。

――立体作品はどのように作り上げたのでしょうか?

ヤビク:フラワーベースやインスタレーションは一緒にFELSEMというクリエイティブチームをやっているデザイナーのトトキサクラさんと制作しました。FELSEMではミニマルかつストリートな要素を落とし込んでいくことを目指しています。

立体物の制作は偶然には任せられない部分もあるので、まずはトトキさんに自分が作品に入れたいストーリーを伝えて、そのあとにどうやってお互いのスタイルを出すかを話し合いながら進めていきました。大枠ができあがったら、余白を意識しつつもペインティングなどは偶然に任せて自分が手掛けていきました。純粋に今の気分をどう反映するかを考えましたね。

――インスタレーションにはトタンのようなものも見受けられますが……。

ヤビク:トタンは通販で見つけたインドネシアのものです。このインスタレーションで使っている素材はそれぞれ別の場所に存在していました。作品自体は「縁側で若いスケーターが息抜きをしている」というストーリーをもとにしているのですが、縁側にあたる部分は工事現場で実際に使われていた足場です。青い部分は木材にペインティングしました。金色の部分は和紙にリトグラフでプリントしたものを切り抜いてコラージュにしています。そして、実はところどころグラフィティも描かれていたんですよ。おじさんがローラーで消したような質感をイメージして塗りつぶしています。

――和の要素を取り入れて制作したんですね。

ヤビク:そもそも“わび・さび”みたいな概念は母国のブラジルにはなかったので、日本に移住してから本で読んだ時にすてきな考え方だと思いました。僕は曲線に日本的な美しさを感じているので、ゆがんだ円をモチーフに取り入れています。

どうやって和を自分のスタイルに落とし込むかは一番悩みました。わかりやすいのも違うなと。いろいろ試した結果、自分には説明して初めて気付くくらいの違和感のほうが合っているし、一番かっこいいと思っています。いつか大きい作品を作りたいと思っていたので、実現できて嬉しかったですね。今後の制作のモチベーションにもなりました。

作品を通して表現するもの

――コラージュアートは、1つの作品の中にいくつもの要素が共存しています。ヤビクさんが作品を通して表現したいことはなんでしょうか?

ヤビク:もともと全然違う場所にあったもの同士をコラージュすることで初めて見えるものがありますが、それは普段の生活にも似たようなことが言えると思っています。技術の発展によって複雑化して、情報に溢れかえった世界で僕達は生きていますが、その中でもやっぱり新しい価値観が生まれてくるじゃないですか。新型コロナのせいで生活がガラッと変化したけれど、その中でも新しい楽しみが見出されていますし。コラージュ制作では、交わるはずのなかったもの同士や、経年変化で美しさが失われたものを意識して組み合わせた瞬間に生じる新しい価値観や美しさを表現したいと思っています。

――先ほど、インスタレーションを制作できたことが嬉しかったとおっしゃっていましたが、今後やってみたいことはありますか?

ヤビク:今回の大きいインスタレーションのように、実際にその空間の中に入ることができる作品に可能性を感じました。また制作してみたいですね。そして、コラージュアートだからこそ見せられる美しさもありますし、それに捉え方によっては素材や技法など、いろんなものを組み合わせられる表現方法だと思うので、今後も新しい方法を模索していきたいです。

ヤビク・エンリケ・ユウジ
1997年、ブラジル・サンパウロ生まれ。11歳の時に日本に移住。一時、文化服装学院で服飾を学ぶ。その後、2017年からコラージュを用いた表現活動を始める。2019年に初の個展「FIRST IMPRESSION」をW+K+ Galleryで開催。同年、雑誌「Them magazine」で「ヴァレンティノ」とコラボレーションしたアートワークを掲載。2021年、「ディーゼル アート ギャラリー」にて自身最大規模の個展「MOTION」の開催に至る。現在はコラージュを中心に、オブジェクトの作成や空間インスタレーションなども行い、表現の幅を広げている。プロダクトデザイナーのトトキサクラとともに、クリエイティブチームのFELSEMとしても活動している。

■「MOTION」
会期:2021年2月13日〜5月13日
会場:ディーゼル アート ギャラリー
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti DIESEL SHIBUYA 地下1階
時間:11:30〜21:00
入場料:無料

■ZINE「MOTION」
サイズ:A4
ページ数:36ページ+表紙周り
価格:¥4,950

今回の個展開催を記念して制作されたZINE「MOTION」。
サイン入りリソグラフプリントで、オリジナルBOXとポストカード付。
「ディーゼル アート ギャラリー」とECで販売している。
https://www.diesel.co.jp/art/yabiku_henrique_yudi

※リソグラフプリントにサイン、エディションナンバー入り。
※エディションナンバーは選択不可。
※配送は日本国内のみ。

Photography Ryu Maeda

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author:

等々力 稜

1994年長野県生まれ。大学卒業後、2018年にINFASパブリケーションズに入社。「WWD JAPAN. com」でタイアップや広告の制作を担当。『TOKION』復刊に伴い、同編集部に異動。

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