パンクなアートを表現し続けて10年。D.I.Y.を貫くHirottonの現在地

アートシーンからファッション、音楽シーンまで、国内外で幅広く認知されているHirottonが、“絵を描いて10年”というタイミングで、「BEAMS T 原宿」で個展を5月に開催した。この個展の開催に合わせて、集大成的作品集『Paradox』も発表。パンクとスケートカルチャーをバックボーンに、この10年まったくブレることなく絵で表現し続けてきたHirottonが、今思うことは何か。そのルーツと真意を探る。

ロンドンで絵を描くことのおもしろさに気付いた

個展「Eye Beam」の展示風景

――5月に開催されたアートショー「Eye Beam」ですが、活動してから10年という節目での開催になったそうですね。

Hirotton:はい。2022年で絵を描き始めて10年になるので、今回の「Eye Beam」は集大成の1つだと捉えています。そんな気持ちがあって、作品集『Paradox』を展示に合わせてリリースしたんです。編集・出版は、「HIDDEN CHAMPION」にお願いしました。

――本や冊子という意味では、これまでにZINEも多数リリースしてきましたよね。今回、ハードカバーのしっかりとした作りでアートブックを出したのには何か理由があるのですか?

Hirotton:形にするってことは大事だと思うんですよ。展示を観てくれた人の記憶に残るというのもいいんですけど、しっかりとした作品集として残すというのは前々から実現させたいことだったんです。実際に自分もリスペクトしているアーティストの画集はたくさん持っていますからね。だから10年という区切りで出せたら一番いいなと思ったんです。

自身初となるアートブック『Paradox』

――そもそも10年前に、Hirottonさんが絵を描き始めたきっかけとは?

Hirotton:僕は大阪芸術大学に通っていたんですけど、その時はオブジェや立体を作っていました。ただ、卒業後に自分のやりたいことが明確になかったので、ロンドンに行くことにしたんです。それも明確な目的があったわけではなく、「パンクカルチャーが好きだったから」という理由から。

ロンドンには当時、スケートブランドの「HEROIN SKATEBOARDS」のチームがあって(現在の拠点はアメリカ)、このチームにはパンク好きのスケーターや絵を描いているヤツが多くて、彼らからZINEをもらったりして、絵ってめちゃくちゃいいなと思うようになったんですよね。しかもそのZINEに描かれていたのは、上手な絵というよりも、エネルギーやパッションが感じられるものばかりでした。それで自分も描いてみようと思ったのが、最初のきっかけです。なので、ロンドンに行っていなければ、自分は絵を描いていなかったと思います。

――そうなんですね! ではロンドンに行かれる前の、大阪に住んでいた当時のことで、現在につながるルーツの話を教えてもらえますか?

Hirotton:ルーツをたどると、高校生の頃にスケートチーム「OSAKA DAGGERS」のボス、CHOPPERさんのスタイルに衝撃を受けたことが入口になっていますね。CHOPPERさんは「HEROIN SKATEBOARDS」のクルーでもあるし、スケートスタイルからパンクなファッション性にもすごく影響を受けました。それもあって、大阪の芸大に行こうと思ったんです。なぜなら、CHOPPERさんの周りで一緒にスケートしたかったので。それから三角公園にも通ってスケートをしていたら、おもしろい人が集まってきていたので、本当にいろんな経験を積むことができました。まさに完全に自分のルーツですね。それこそ大阪に行っていなければ、ロンドンにも行っていなかったでしょうね。

CRASSから受け取ったD.I.Y.精神

――Hirottonさんのバックボーンにパンクカルチャーがあることは、作品からも伝わってきます。もっとも影響を受けているアーティストは誰ですか?

Hirotton:CRASS(クラス)ですね。彼らのメッセージ性やD.I.Y.のスタイル、作る音楽、アートワークというのはもちろんですが、スタンス全般に共感していてリスペクトもしています。それこそロンドン滞在期間には、CRASSのアートワークなどを担当していたジー(・バウチャー)の個展に行って、本人に会えました。その時に「ダイヤルハウス(※)に行きたい」って伝えたんですよね。

※ダイヤルハウス:CRASSによる自給自足で集団生活を営む家のこと

――それでHirottonさんはダイヤルハウスにも行かれたんですね。

Hirotton:ジーと話して連絡を取れたことも大きかったのですが、偶然なんですけど、その時にハウスシェアしていて、一緒に暮らしていたヤツがダイヤルハウスに通っていたんですよ。その彼はCRASSというバンドを知っていたわけではなく、ダイヤルハウスで自然とともに生きることなどを教わりに行っていたようです。そんなつながりもあって行ったんですよね。ダイヤルハウスは本当におもしろい場所でした。

――そのダイヤルハウスでの体験は、今のHirottonさんにつながっている部分はありますか?

Hirotton:もちろんです。ダイヤルハウスやCRASSの活動自体もそうですけど、根本にあるメッセージはD.I.Y.で、自分の力で作り上げるということだと思いましたし、それを実際に体験できたというのはすごく大きな出来事でした。ダイヤルハウスにはジーの本も置かれていて、それも自分が本を作りたいってことにつながっていると思うんですよね。

アートブック『Paradox』より

行動し続けることでインスピレーションを得る

――なるほど。思い返せば、2015年に開催した個展「KNOCKING AT THE DOOR OF MY BRAIN」では、実際に家のオブジェを作って展示されていましたね。それ以外にもHirottonさんの作品では、家をモチーフとしたものが多くあります。

Hirotton:あの時の展示もそうですけど、家の絵も多いですね。それこそ一番初めに描いた絵は、ロンドン時代のシェアハウスでしたから。以前から家に関してはずっと好きで、それもルーツの1つだと思います。ですが僕自身は、1つの場所に永住したいという考えはなくて、変化を求めていろんなところに旅をして刺激を受けたいんですけどね。

――続いて、Hirottonさんの作風についても教えてください。かなり細かく描きこんでいる作品が多いですが、どのような影響を受けているのでしょうか?

Hirotton:本当にいろんなものに影響を受けてきたので、何かコレと断言できるものがあるわけじゃないんですよね。古い本の挿絵も好きだし、ハードコアバンドのアートワークやスケートボードのグラフィックにも影響を受けましたし。僕はいろんなものの積み重ねなんですよ。

「5mindrawing」シリーズの作品

――精密に描きこんでいく作品がある一方で、「5mindrawing(5 minutes drawing)」というカテゴリーで、ちょっとラフな絵も展開されていましたよね。「Eye Beam」でも展示されたのですか?

Hirotton:展示しましたね。今となっては進化して、全然5分で描けるようなものじゃなくなっちゃってはいるんですけど(笑)。もともと「5mindrawing」を始めた時は、アイデアベースのラフで描いたものが、逆にリアリティある表現になっていておもしろいと思っていたんです。だから、文字でメッセージも入れるようにしているんですよね。サイズ的にも小さいですし、キャンバスに描くよりも時間がかからなくて、価格を下げることもできるので、展示に来てくれた若い人やスケーターにも気軽に手に取ってもらえると思います。そういった理由から、現在も展示作品に加えています。

――こちらの立体作品は、最近よく作っているものですか?

Hirotton:これは今回の個展で初のアプローチになりました。知り合いに木質粘土でオブジェを作ってもらって、そこに絵を描きこんでいるんですよね。

――では、絵以外での活動についても教えてください。

Hirotton:「HAILPRINTS」というスクリーン工房を友人と2人でやっていますね。他にPARADOX名義でシルクスクリーンのアイテムも作っているんですが、ロンドンにいた頃にシルクスクリーンは学んで、刷る技術を習得しました。そういった自分発信のアイテムは、基本的に全部自分で作っています。タグも自分で刷っているんですけど、自分でやったほうが熱量は伝わると思うし、伝わる何かがあると思うんですよね。

――最後に、この10年という大きな節目を迎えて、今後やってみたいことを教えてください。

Hirotton:やはり海外で作品の展示をしたいですね。時勢的に難しい部分はあるでしょうけど、こうしてアートブックもリリースできましたし、海外に対してアプローチできるものも増えました。今後も国内でやっていくのもいいんですけど、自分としてはもっと視野を広げたいです。そもそもロンドンに行ったことで大きな影響を受けて始まったアーティスト活動なので、そういった動きは今後も続けていきたいです。なんにせよまずは、行動することですね。

Hirotton
アーティストであり、ペインターでもある。PARADOX名義でTシャツなどのプロダクトを自作し展開もしている。同時に、スクリーン工房「HAILPRINTS」を友人とともに運営する。これまでの主な活動として、「HEROIN SKATEBOARDS」のデッキシリーズのデザインから、ファッションブランドや音楽アーティストのグラフィックアートワークまで数多く担当する。
Instagram:@hirotton

Photography Cho Ongo
Edit Shuichi Aizawa(TOKION)

author:

田島諒

フリーランスのディレクター、エディター。ストリートカルチャーを取り扱う雑誌での編集経験を経て、2016年に独立。以後、カルチャー誌やWEBファッションメディアでの編集、音楽メディアやアーティストの制作物のディレクションに携わっている。日夜、渋谷の街をチャリで爆走する漆黒のCITY BOYで、筋肉増加のためプロテインにまみれながらダンベルを振り回している。 Instagram:@ryotajima_dmrt

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