連載「ジャパンブランドのトリビア」Vol.8 「サイクル」を通して伝えたいサステナブルなメイド・イン・ジャパン

デザインや機能性、トレンドやスタンダードという軸があるように、“メイド・イン・ジャパンであること”も、もの選びの基準の1つになっている。連載「ジャパンブランドのトリビア」では、最先端であり、ソーシャルフルネスというステートメントに沿った、“メイド・イン・ジャパン”のものを、さまざまなクリエイターが紹介。今回は、「サイクル(Cycle by myob)」のデザイナーcomiがセレクター。前身のブランドからの独立、出産をきっかけに環境のことに目が向くようになり、サステナブルな服作りをテーマに掲げる「サイクル」をスタート。昔から日本に根付いている習慣や職人の手によって生まれるもの、彼女はそれこそが本来のメイド・イン・ジャパン製品だと考えている。

−−環境問題にファッションでアプローチしている「サイクル」ですが、日本と海外のエコへの意識の違いはどのようなところに感じていますか?

Comi:「サイクル」では、ペットボトルを糸にして生まれるポリエステル生地や廃棄された服を粉々にし、糸にしてから紡ぎ直した生地、自然染色の生地などのエコ生地をメインに採用しています。そういったエコ生地の文化、研究開発が進んでいるのはダントツで日本の方だと思います。今まで中国や韓国でも生産はしてきましたが、まだ向こうにはエコ生地の文化が根付いていません。最新のコレクションで使用したリネンは、完全天日干しで作られたもの。乾燥機を使わず太陽の光だけで乾かし、職人さんが手で染めた生地を使っています。手仕事だから多少ムラも出るけれど、そこがまた良い。無駄な電力を使わず、昔ながらのやり方で生地を作っているというところがブランドの思想と合致して、価格は少し高くはなりましたが、採用することを決めました。「サイクル」というブランド名にはリサイクルなど環境のサイクルはもちろん、人との繋がり、縁の意味も込められています。「サイクル」を通して、環境問題をもっと知ったり、日本の職人達のことを広めたり、きっかけやいい連鎖をたくさん作っていくことがこのブランドのミッションかもしれません。

−−アトリエで縫製をしている商品もあるそうですね。実際日本の工場での生産は多くなってきていますか?

Comi:これまでは中国や韓国で量産してきました。やはりコスト面で安いイメージがあるけれど、最近はコロナの影響によって人員不足等で工場が減っているせいか高くなっている。それなら日本で作りたいという考えに自然と変わっていきました。一番良いのは何かあったら工場とすぐに連絡が取れて、すぐに会いに行けること。海外だと荷物が届くのに2週間くらいかかったりするけれど、日本だったら1〜2日程度で届くし追跡もできる。コミュニケーションがとれることはもちろんのこと、トラブルもなくなりました。今は生地を買って、プリントしてから、3分の1ほどを、アトリエで縫製しています。最近ポップアップで発売したリメイクデニムはアトリエですべて作り、お店に納品していました。徐々にですが、完全メイド・イン・ジャパンブランドに近づいてきている実感はありますし、目指したいところですね。

天然の素材で染めた「サイクル」

染めに興味を持ち始めたのは、子どもの着なくなった服をアボカドの種で染めている動画をSNSで見てから。まずは自分でやってみようと思って、アボカドの種や玉ねぎの皮、挽いた後のコーヒー豆のかすを使って、自宅のキッチンで染め始めました。アボカドの種は、なんとピンクに変わるんです。全部捨ててしまうものだけど、ためておけば染色に使えるという楽しい発見でしたね。それから藍染めもやってみようと藍を取り寄せたり、泥染めをしてみたり。自宅のキッチンからスタートした染めを、ブランドでも大きく展開するようになると、藍染のシルクスクリーンや泥のシルクスクリーンなどを独自に開発している方と出会い、新しいデザインが生まれました。藍は自宅のプランターで育てて、そのまま染めにも使える。全部家の中で完結しておしゃれも楽しめる、楽しいエコ活動です。

蚕が生み出すシルクのストール

自然染織家の伊豆蔵明彦さんのドキュメンタリー映画を観て、蚕産業を知り興味を持ちました。映画では伊豆蔵さんが1万匹の蚕と共に制作する巨大な糸の大球体、その制作過程が描かれています。本来シルクは人の手で織りますが、伊豆蔵さんは蚕の特性を生かして、吐き出した糸がそのまま布になるという技法を生み出した人。大きな球体に1万匹もの蚕を乗せると球体を守ろうとみんなで糸を吐きながら上に上がっていく。上にたまると重さで球が回り、下になった蚕はまた糸を吐きながら上に上がっていく。それは円運動と呼ばれていて、自然の摂理で蚕の生涯を全うさせるというのが伊豆蔵さんのプロジェクト。蚕によって出来上がった球体は、草木、雨水、太陽のみで染色されていて、すべて自然界にあるものだけで完結しています。その球体の中に入ると、命の紡ぎを感じて鳥肌が止まらなくなりました。バッグとストールを持っているんですが、ストールはお腹が冷えたときに巻いたりするとじんわり温まる。着るものも食べるものも生命に支えられて生きているんだと実感します。

自然あふれる街、生まれ育った滋賀

最近、実家の敷地内にある小屋をリノベーションして別荘にしたんです。だから実家に帰る機会は、今まで以上に増えました。滋賀は自然豊かで、人も温かくて、動物も多い癒される場所。東京にいると常に頭の中がフル回転。常にせかせかしているし、追われている。自分の感情を考えられないくらい忙しい。でも家族で滋賀に帰ると、まず子どもがいつもと全然違うんですよね。まさに魂の解放! 自然豊かな場所で遊ばせるとこんな顔して笑っているんだとか、こういうことが楽しいんだとか、本当に細かい表情の変化が見れる。私自身も同じで、今こう感じているとか、実はこれが好きなんだとか、今どんなこと考えているとか、頭の中がシンプルになる。きっと大人が解放できているから、子どももそれを感じ取って解放できているのかもしれません。滋賀で生まれ育って、ニューヨークでブランドをスタートして、今東京で暮しているけど、滋賀に帰ってくると一番心が落ち着く。やっぱりここが良いと思えるかけがえのない場所です。

Comi
2020年「M.Y.O.B NYC」から独立後、「サイクル(Cycle by myob)」をスタート。「サイクル」は再生生地、リサイクル、環境汚染、人との繋がりや縁と定義し、ファッションを通して環境問題をユニークに表現していくことで何かのきっかけを生み出したいと考え活動している。
Instagram:@comi_myob@cycle_by_myob

author:

奥原 麻衣

編集者・ライター。「M girl」、「QUOTATION」などを手掛けるMATOI PUBLISHINGを経て独立。現在は編集を基点に、取材執筆、ファッションブランドや企業のコンテンツ企画制作、コピーライティング、CM制作を行う他、コミュニケーションプランニングや場所づくりなども編集・メディアの1つと捉え幅広く活動中。 Instagram:@maiokuhara39

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