スーパーオーガニズムが“ポップ”というツールで切り開く未来のカルチャー

オロノ(日本)、ハリー(イギリス)、トゥーカン(ニュージーランド)、ビー(ニュージーランド)、ソウル(韓国/オーストラリア)といった多国籍なメンバーを中心に、世界中の音楽ファンを魅了し続けている、スーパーオーガニズム(Superorganism)。

結成された2017年当時は、まだ無名に近い状態だったにも関わらず、フランク・オーシャン(Frank Ocean)エズラ(ヴァンパイア・ウィークエンド<Vampire Weekend>)が、デビューシングルの「Something for Your M.I.N.D.」をApple Musicのラジオ番組で紹介したことで一気にブレイク。2018年には、イギリスの名門レーベル、Dominoからデビューアルバム『Superorganism』をリリースし、新時代のインディポップバンドとして飛躍を遂げた。

そのスーパーバンドが、待望の最新アルバム『World Wide Pop』をリリースした。星野源チャイ(CHAI)、フランスのシンガーソングライター、ピ・ジャ・マ(Pi Ja Ma)ペイヴメント(Pavement)スティーヴン・マルクマス、UKのオルタナティブヒップホップアーティスト、ディラン・カートリッジ(Dylan Cartlidge)マドンナ(Madonna)デュア・リパ(Dua Lipa)フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)を手掛けるプロデューサー、スチュアート・プライスなど、最強の布陣で作り上げた名曲が連なる。

これまで、メンバーの多様性に焦点をあてられることが多かったスーパーオーガニズムだが、本作によって、もっと大きなフィールドにおける新たな価値観、音楽だけじゃなく未来のポップカルチャーそのものに影響を与えそうな世界観を表現。来日中だったオロノとハリーに、あらためて“ポップ”について語ってもらった。

Superorganism(スーパーオーガニズム)
2017年、ロンドンを拠点にイギリス、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国といった多国籍のメンバーによって結成されたスーパーバンド。2018年にデビューアルバム『Superorganism』を、英名門レーベル、Dominoからリリース。現在は、オロノ、ハリー、トゥーカン、ビー、ソウルを中心に活動。最新アルバム『World Wide Pop』では、星野源やチャイをはじめ、フランスのシンガーソングライター、ピ・ジャ・マ、ペイヴメントのスティーヴン・マルクマス、UKのオルタナティブヒップホップアーティストでラッパーのディラン・カートリッジなど、世界屈指のアーティストが参加。取材に参加したのは写真左から、オロノとハリーの2人。
https://www.wearesuperorganism.com
Instagram:@sprorgnsm
Twitter:@SPRORGNSM

ルールがないこと、それが唯一のルール

——最新アルバム『World Wide Pop』は、これまでの制作スタイルとは少し別のアプローチを試みたそうですね。

ハリー:制作のプロセスにあまり変化はないけど、前作はメンバー同士が集まることなく、それぞれが作業をしてメールでファイルを送り合って曲を完成させていたんだ。でも今回は、アメリカでインストのジャムセッションをやったり、ベッドルームに集まって作ることがたまにあった。そのことで大きく変わったのは感情の部分かな。前作のリリース後にツアーを回ったこともあったし、実際に会う時間が増えたことでお互いの理解も深まったからね。

——メンバーと一緒に過ごす時間が増えたことで、今まで知らなかった新しい発見はありましたか?

ハリー:ツアーバスも含めて一緒に過ごす時間が増えたから、今まで知らないことのほとんどを知る機会になったよ。家族のような関係性になったというか。しかも、来日した時にオロノの実家にも行って、日本のことや彼女がどういう環境で育ってきたかなど、新しい一面を知ることができた。人種や国籍、生まれ育った環境や文化の違う人達が集まってお互いを理解できることは、僕らのバンドならでは特権だからね。

——イギリス出身のハリーさんが、オロノさんの地元に行った経験は貴重だったのではないでしょうか?

オロノ:自転車に乗って、実家の近くを案内しましたからね。

ハリー:日本には5回くらい来ているけど、いつも東京の真ん中で滞在して、雑音の中で過ごしていた。でも、オロノの地元へ行くことで、日本のピースフルな一面を知ることができたよ。お寺や神社に行ったり、田んぼの畦道を走ったりしながら鳥の鳴き声を聞いて、日本が本当に平和な国だということを実感したね。

——メンバーそれぞれの価値観や、音楽の趣味趣向も違うと思います。スーパーオーガニズムで音楽を作る、奏でるにあたって、何か独自のルールを設けていたりするんでしょうか?

ハリー:みんなでコラボレーションしながら制作していくことが大切なので、最初に楽曲の方向性やコンセプトは決めずに進めているかな。

オロノ:ルールがないこと、それが唯一のルールだね。

——とはいえ、楽曲を聴くとスーパーオーガニズムらしさを感じることができます。自分達では、自分たちらしさ、という部分はどう捉えていますか?

ハリー:自己分析するのは難しいけれど、自分達に正直でいること。それと、エキセントリックで自分達が興味のあるものを作り、楽観的でユーモラスがあること。音楽を作ることには真剣だけど、その他の部分で自分たちのことを真面目に見せることはしない、かな。

常に時代の先端にいるような音楽を発信したい

——世の中で注目されている、トレンドの音楽は聴きますか?

オロノ:新しい音楽だから、という基準で聴くことはしていないけれど、気になったものは聴いたりもしますよ。でも、新しいからといって聴いた時に頭に残っているかどうかは別の問題かなと。自分達がアップデートするために、いろいろな音楽を聴いて吸収するという感じ。個人的には、ビヨンセ(Beyoncé)の楽曲も好きだったりしますね。

ハリー:僕はトレンドをそこまで気にしていないかな。というのも、ポップカルチャーって、常に前進しているものだと思っているから。例えば、今のトレンドの曲に影響を受けて楽曲を作ったとしても、それをリリースする頃にはポップカルチャーが別のところへ移ってしまうという目まぐるしい状況がある。だから、後追いになるより、常に時代の先端にいるような音楽を発信したいよね。そのためにも、自分達がやりたいことをやって、それが結果的に時代の先駆者的になっているのが理想かな。

——ちなみに、日本の音楽に対してはどんな印象を持っていますか?

ハリー:J ポップということでいえば、キャッチーな要素と注目を誘うような強力なメロディが組み合わさっていることが多いよね。一方で、実験的で風変わりなことも取り入れて、独自のバランス感覚を持っていたりもする。

それは音楽だけに限らず、日本のポップカルチャーそのものに言えることだと思う。エキセントリックな部分を許容するような、懐の深さがあるような印象かな。

オロノ:Jポップを聴くと、人工的でプラスティックのような印象を受けるんですよね。クレイジーで変な部分があって、JポップはJポップならではの特徴があるというか。昔は好きではなかったけれど、今は独特な変な部分をおもしろく聴けるようになっていますね。

ハリー:僕は日本人ではないから正しい解釈ができていないうかもしれないけど、イギリス人の僕からするとイギリスのカルチャーとも共通する部分もあるのかなと。ブライアン・イーノ(Brian Eno)やデヴィッド・ボウイ(David Bowie)も、要素が違うけれどさまざまなものを許容するという部分は似ているよね。とにかく日本は、風変わりなものに対する居場所があるように思うよ。

自分のクレイジーさを恐れずオープンにしている人達に惹かれる

——Jポップのくくりではないですが、今回のアルバムでは星野源さんとの「Into The Sun (feat.Gen Hoshino,Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)」や、チャイとの「Teenager(feat.CHAI & Pi Ja Ma)」「Solar System(feat.CHAI & Boa Constrictors)」で、日本の音楽シーンを牽引している日本人アーティストとコラボレーションしています。まず、チャイの魅力を教えてください。

スーパーオーガニズム 「Teenager(feat.CHAI & Pi Ja Ma)」

ハリー:彼女達のライヴを初めて観たのは、ブリストルで前座を努めてくれた時なんだけど、その時からものすごいエネルギーを感じていたし、僕らのクリエイティビティもよく理解してくれているんだ。一緒にツアーを重ねることで感じたのは、ライヴの後半になると客席の全員が笑顔になるということ。

オロノ:彼女達が持ち合わせる、エキセントリックでパンクロックな部分が大好き。私の日本人の友達はみんなクレイジーですが、チャイのみんなも同じようにクレイジー(笑)。それでいて、彼女達が持つカワイイ部分は、とても現代的でクールですよね。

ハリー:だから、僕らの音楽世界に招いても絶対にうまくいくと思ったよ。

オロノ:クレイジーな人は世界中にたくさんいるけど、その感覚って世界共通だと思うんです。でも、日本はクレイジーな部分を隠して生きなきゃいけない雰囲気がありますよね。そういう中で、自分のクレイジーさを恐れずオープンにしている人達に惹かれるというか。チャイもそういう部類の人達。ちなみに、私の父親もクレイジーです(笑)。

——星野源さんとは、2019年のEP作品『Same Thing』でコラボレートしていますが、今回はスーパーオーガニズムに招いた感じになりましたね。

スーパーオーガニズム 「Into The Sun (feat.Gen Hoshino,Stephen Malkmus & Pi Ja Ma)」

ハリー:彼は本当に優しくて親切で、自分に正直な愛すべき人だよ。ひと言でいうと、グッドナイスガイ。普通、成功して有名になったら人と一定の距離を取ってしまうもの。でも彼は、ちゃんと相手に興味を持ってくれて、目を見て接してくれるよね。

オロノ:普通の感覚だったり一般的な常識がある人だけど、クレイジーさがある。ノーマルとクレイジーが共存している、特殊なバランス感覚を持った友人ですね。

——さまざまなアーティストを招きつつ、今のスーパーオーガニズムのムードが形になった最新アルバム『World Wide Pop』ですが、自分達にとって“ポップ”とは、どういうことになるのでしょうか?

ハリー:このアルバムは、決して最新のポップミュージックです、ということで作ったわけじゃなく、純粋に僕らが良いと思った音楽を作りたかった。じゃあ“ポップ”って何なのかと考えると、コミュニケーションが重要な世の中にとって、やっぱりアクセスしやすい文化なのかなと思う。いろいろな垣根や弊害を乗り越えられるようなもだし、それを可能にするツールでもある。

音楽においては、美しい歌声や親しみやすいメロディも必要だし、そのアーティストのカルチャーの一部になるために迎え入れてくれる要素でもある。例えば、耳障りのよいメロディから入っていって、そこからもっとそのアーティストのことや楽曲の難解な部分に導いてくれたりする。そういう意味でも、教育的なツールにも成り得るんじゃないかなって。

オロノ:私にとってポップは“すべて”ですね。フィーリングでもあり、サウンドでもあり、好きになるんだけどバカバカしくなって捨てることもできる。とにかく、すべてのものがポップと捉えることができるものだと思っていますね。

■LIVE! : Superorganism World Wide Pop Tour
出演者:Superorganism
日時:
2023年1月13日 @東京・お台場 ZEPP DiverCity Tokyo
2023年1月15日 @大阪・難波 Namba HATCH
2023年1月16日 @愛知・名古屋 ダイアモンドホール
2023年1月17日 @広島・広島 Hiroshima CLUB QUATTRO
2023年1月18日 @福岡・福岡 Fukuoka DRUM LOGOS
チケットインフォメーション:SMASH
https://smash-jpn.com/live/?id=3754

Photography Shiori Ikeno
Text Analog Assassin

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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