CGクリエイター・たいらかけるが創り出す“生々しく不穏な風景” 独学で始めたCG創作の現在地

たいらかけるは、Twitterを中心に作品を発表するCGクリエイターだ。彼が作り出すのはそこで事件が起きるような不穏さを感じさせる、生々しいほどリアルな風景。昨年末から同シリーズの作品を発表し始めて、着実にファンを獲得している。聞くとCGの知識は独学で、創作を始めてからまだ1年にも満たないという。今回、たいら本人に創作の裏側について話を聞いた。

たいらかける

たいらかける
1994年、岩手県生まれ。前職を退職したタイミングでSNSにイラストの投稿を始める。点描画や女性モチーフのイラスト投稿を経て、2021年12月からブレンダーを使用した3DCGの制作を開始。現在は不気味な空間をテーマに3DCGの作品を投稿している。
Twitter:@taira__kakeru
Instagram:@taira_kakeru

職探し中のタイミングで始めたCGでの創作

——たいらさんご自身について、教えてください。

たいらかける(以下、たいら):岩手県に住んでいる、27歳です。学生時代から手を動かすことが好きで、イラストを描いたりギターを弾いたりしていました。その後はCDショップのアルバイトや通販ショップでの裏方などを経験して、現在は職探し中です。時間に余裕があるこのタイミングで自分が好きなことをやってみようと、SNSにイラストやCGで作った風景をアップし始めました。

——CGでの作品作りを始めたきっかけは?

たいら:以前は女性をモチーフにしたイラストを描いていたのですが、自分のスキルだとできることが限られてしまって、長く描き続けるイメージが湧かなかったんです。そこでCGに移行しました。

CGを始めたきっかけは、漫画家の浅野いにお先生が3DCGモデリングソフトの「ブレンダー」で漫画の背景を作っていると知ったことです。僕はギターがきっかけで『ソラニン』を知ってから先生のファンだったので、「ブレンダー」を練習すれば憧れの人のようにお仕事できるのではと、甘い期待を抱いて始めました。今、CGを始めて10ヵ月になります。

——「ブレンダー」とはどんなソフトなのでしょうか?

たいら:誰でも無料で使えるのが魅力で、3DCGのモデリング以外にも、動画編集や実写を構成するVFXという技術も使えます。YouTubeにチュートリアル動画がいっぱいあるので、初心者の僕でも独学で習得できました。

最初に作ったのは室外機で、モデルの表面に材質感や模様をつけるために写真を貼り付ける方法で作りました。簡単なのにすごくリアルに作れるので、今も風景に設置するアイテムは同じ方法で作っています。

——今の不気味な風景を作る作風にはどのようにしてたどり着きましたか?

たいら:Twitter上で注目してもらうためにはリアルな表現がいいのではないかと、CG作品の2〜3作目でコインランドリーの風景を作りました。そこで良い見せ方がないかと探っていたところ、片隅から監視カメラのように俯瞰で見る構図がしっくりきたんです。さらに設定やものの配置を自分なりに細かく作り込んでみたら、何者かがそこで生きているような不穏な雰囲気に仕上がりました。生活の中で見ている窓やドア、雑貨など、多くのものは理由があって設置されています。でも、その中に理由のわからないものが置かれているだけで、受け手の想像力をかき立てられるのだとわかりました。

Twitterで投稿すると、見ている人からも初めて大きな反応をもらえたので、これならきれいな空間を作るよりも人の心をドキドキさせられると思ったんです。

今は、難解な映画のように受け手に判断を委ね、じっくり見て考察してもらえる作品作りを目指しています。SNSでは指1本ですぐに別の情報にアクセスできてしまうので、考える余地を作ることで少しでも長く作品を観てもらえたらと思っています。

——作品は、どんな手順で作っていますか?

たいら:まずざっくりとテーマを決めてから、家具などの必要なパーツを先に作ります。ひと通り出そろったらパーツを組み合わせて、とりあえず風景を完成させるんですけど、アイテムを追加したり配置を整えたりすると、結局行き当たりばったりになることも多いですね。どのアングルから観ても矛盾がないように仕上げたいので、微調整に時間がかかるんです。毎日10時間くらい作業していても、1つの風景を作るのに3週間から1ヵ月ほどかかっています。

——どんなところからインスピレーションを受けることが多いですか?

たいら:映画からの影響は大きいですね。作品を1つ挙げるとすれば、『グランド・ブダペスト・ホテル』。ウェス・アンダーソン監督が手掛けたヨーロッパの最高峰と言われているホテルを舞台にしたコメディ作品なのですが、作中にシンメトリーな構図が頻出するんです。同作を通して、風景を構図として捉えたり構成したりする感覚が養われたかなと思っています。

その他にも、映画で知らない街の風景を見た時のはっとするような感覚がすごく好きなので、自分の作品を通してその感覚を呼び起こすにはどう作ったらいいのかを考えています。

観る人の感覚に触れる違和感を残す

——パーツの配置もすごくリアルに感じます。どのように決めていますか?

たいら:画像検索でレイアウトの法則を探って構図を固めてから作るか、実在する場所をモデルに作ることが多いです。コインランドリーの風景でいうと、洗濯機と洗濯機の間に長椅子があるのが定番のレイアウトのようだったので、自分の作品にも採用しました。その後に発表したアパートの風景は、僕が前に住んでいたアパートをモデルにしています。換気をしないとカビが生えてしまうような湿っぽい部屋で独特な雰囲気があったので、住人の性格まで設定を作り、玄関に放置しているゴミ袋や倒れた調味料などの細かなアイテムを設置することで、生々しく表現しました。

池袋駅の地下にあるコインロッカーをモデルにしたものもあります。コインロッカーの配置と証明写真機の位置は実際の風景に忠実ですが、公衆電話やゴミ箱は自分で加えました。実在する場所をアレンジして仕上げることも多いです。

——作品を作る時の自分なりのルールはありますか?

たいら:必ず観る人の感覚に触れるような違和感が残るようにしています。洗い物がそのままになっていたり、時計を登場させて時間の情報を追加したりして、ストーリーを想像させる要素を盛り込んでいます。

また、風景ができあがってから“散らかす作業”をするのですが、必ず人の動線を気にしながら散らかすようにしています。例えばコインロッカーの風景であれば、人は通路の真ん中を通るので、落ちたレシートは隅に追いやられています。この散らかし方次第で急に不自然に見えてしまうこともあるので、こだわるポイントではありますね。

——毎日10時間も作業をしているようですが、その原動力になっているのは?

たいら:今、僕が職探し中ということで人一倍時間があるので、できるだけ起きている時間は創作に充てたいと思っているんです。今、SNSを中心に活動しているCGクリエイターの方は学生から20代前半くらいの若い人が多くて、負けたくない気持ちがあります。

——今後の目標は?

たいら:いずれはファンタジーな表現もしてみたいですね。今、誰でも写真を撮って簡単にCGが作れるフォトグラメトリという技術が注目され始めていて、それが普及したら僕のリアルに作る作風は珍しいものではなくなると思うんです。なので、リアルとファンタジーを両立する作風を模索していきたいですね。

一方で、ファンタジーな世界観を作り出すにしても、細部の辻褄が合わないと世界観を正確に伝えられないと思うので、今はモデリングの技術を磨いてリアルな表現を突き詰めていきたいです。そして、できればCGのお仕事をいただけるようになればいいなと思っています。

author:

福永千裕

1997年生まれ、横浜市出身。高校生の時に雑誌「スタジオ・ボイス(STUDIO VOICE)」に出合い、編集者を志す。大学在学中から編集プロダクションに所属し、カルチャーやエンタメの領域を取材、ウェブメディアを中心に寄稿する。2022年にINFASパブリケーションズに入社。

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