KOSUKE KAWAMURA、GUCCIMAZE、YOSHIROTTENによる初の共同展「CHAOS LAYER」制作秘話

ビジネスやサイエンス、音楽やファッションなどさまざまなジャンルにおいて、暗黙の了解というのは存在する。もちろんそれはアート、デザイン業界だってそう。
7月に移転、リニューアルオープンする「ギャラリー月極」のこけら落としとなる展示は、東京を代表するグラフィックアーティスト、KOSUKE KAWAMURA、GUCCIMAZE、YOSHIROTTENの3人による初の共同制作展「CHAOS LAYER」。本展示で彼らが見せるのは、デジタルアート界の中に存在する、暗黙の了解の領域に大きく踏み込んだ表現手法で制作されたデジタルコラージュ3作をキャンバスに落とし込んだ作品と、3人の架空のデスクを連想させる立体コラージュインスタレーション『CHAOS DESK』で構成されている。

彼らが用いた表現手法は、1人目が制作したグラフィックの元データを、2人目が編集・加工し、そして3人目がさらに編集・加工を重ね完成させていくというもの。アーティストやグラフィックデザイナーであれば、制作途中のデータを第三者と共有し、さらにその先の完成を誰かに委ねるということは考えられないだろう。しかも挑戦したとしても、その作品が良くなるとは想像もできない。しかし、この「CHAOS LAYER」で発表された3作品のクオリティの高さは圧倒的だ。
それが意図的だったのか、偶発的だったのか。そして、なぜこの3人だったのか。混沌としたコロナ禍に、カオスな制作手法で完成した本展示について話を聞いた。

グラフィックアートシーンで、新しいスタイルを確立した3人

ーー今回の3人で展示をやることになったきっかけから聞かせてください。

YOSHIROTTEN:7月に移転リニューアルオープンした「ギャラリー月極」のオーナーから「ギャラリーのこけら落としとなる企画のアイデアを考えてほしい」と相談を受けたことから始まります。そもそも「ギャラリー月極」は、立ち上げ当初から携わっているギャラリーということもあったのでこけら落としはインパクトのある企画にしたかったんです。

ーーYOSHIROTTENさんが発起人だったんですね。なぜKOSUKE KAWAMURAさんとGUCCIMAZEさんに声を掛けたんですか?

YOSHIROTTEN:この3人で何かやりたいという気持ちはずっと前からありました。ここ最近、3人で会うことも多くなっていた中で、「ギャラリー月極」ならば3人だからこその展示ができると思ったんです。

ーー3人の出会いについても教えてください。

GUCCIMAZE:先に出会ったのは僕とYOSHIROTTENさんでしたよね。12、13年前ぐらいだったと思います。僕がまだ美大に通っていた頃で、同じクラブでDJをさせてもらう機会もあったんです。その時に話し掛けさせてもらいました。

YOSHIROTTEN:僕がKOSUKEさんに出会ったのは5、6年前ぐらいでした。なぜか日帰りで一緒に鎌倉に行くことになったんです。そのあと、クラブでGUCCIMAZEをKOSUKEさんに紹介したのを覚えています。

ーーそれぞれお互いにどういう印象をお持ちですか? まずKOSUKE KAWAMURAさんから見た2人の印象を教えてください。

KOSUKE KAWAMURA(以下、河村):2人が出てきた頃から、ずっと注目していました。自分が20歳ぐらいの頃って、たくさんのグラフィックデザイナーが世に出始めた時期で、時代の流れ的にシーン全体が良くも悪くも統一されていたんです。そのシーンを見て育ったこともあったので、YOSHIROTTENが出てきた時に、あまりにも違うスタイルだったので「新しいな」「かっこいいな」と衝撃を受けたのを覚えています。そのあとにGUCCIMAZEが出てきて、こっちも「アップグレードされた新しいスタイルだな」って驚きましたね。初めて作品を見た時は、外国人だと思っていたので、日本人だと知ってさらに驚きました。2人ともあまりにもスタイルが違うから仲良くなれないだろうなって思っていたんですけど、めっちゃ仲良くなれました(笑)。

ーーGUCCIMAZEさんから見た2人の印象は?

GUCCIMAZE:出会った頃のYOSHIROTTENさんは、今よりもっとパンキッシュなスタイルでしたよね。「たぶん1回コラージュをして作品にしているんだろうな」って見ていたんですけど、この10年でどんどん進化していくところを目の当たりにしいるので、いつも驚かされています。時代の流れの乗り方や目の付けどころもなんかも、すごく勉強させてもらっています。KOSUKEさんの作品は、ぱっと見てわかってしまうところがすごい。グラフィックアートで「らしさ」をちゃんと出せるって、一見簡単そうですが実はすごく難しいこと。2人とも、2人しか出せないスタイルを確立していて、本当に良い影響を受けてます。

ーーYOSHIROTTENさんは?

YOSHIROTTEN:僕も、KOSUKEさんが言っていた2000年代ぐらいのグラフィックデザイナー、ストリートアーティストの先輩達の背中を見て育ってきました。でも彼らとは「やっぱり違うことをしたい」と考える中で、KOSUKEさんの存在を知ったんです。統一されたシーンの中でコラージュのスタイルをはじめ、他とは異なるスタイルが印象的でした。はじめは『TRASH-UP!!』とかのホラー、オカルトも扱っているようなインディー雑誌やハードコアバンドのアートワークを手掛けていたりと、アンダーグラウンドの界隈にいる人かと思っていたんですけど、大きなクライアントワークもされていて、すごいスタイルを作った人だなと一方的に知っていたんです。ようやく会えて、たくさん話をしていただいた時に、この時代の中で未来の話を一緒にしていける仲間だと思っていました。

ーーGUCCIMAZEさんについてはどうですか?

YOSHIROTTEN:グラフィックをやっている人でクラブにいる人があまりいなかったので、GUCCIが出てきたことは嬉しかったですね。一緒に『PAN MAGAZINE』を作ったこともありました。デザインで活躍し始めて、手描きができるという能力を活かしながら、デジタルと混ぜて才能を伸ばしている印象があります。どんどんスタイルを作っていく姿を見ていたので、今こうして一緒に作品を作れたことが嬉しいですね。

制作途中のデータを共有し加工し編集。暗黙の了解に触れたカオスな制作方法

ーー今回の展示「CHAOS LAYER」は、変わった手法を取り入れたとお聞きしました。

YOSHIROTTEN:まず単純なグループ展にしたくなかったんですよね。グラフィックデザイン、ストリートアートをルーツに持つ3人だからできる作品を作りたかった。「デジタルを駆使して作品を作ることができる3人なので、データを使って何かやろう」と考え、3人で打ち合わせを兼ねて食事をしたんです。その時にKOSUKEさんが大友克洋さんと手掛けた『バベルの塔展』を制作する際に、「作品の中にフォトショップのデータで、約2万5000のレイヤーを重ねたことがある」という話になったんですよね。その時にグラフィックの制作にとって必要不可欠なレイヤーのデータを、互いにパスし合って作品を完成させるというアイデアが浮かんだんです。

ーーレイヤーデータをパスし合う?

YOSHIROTTEN:全員同じサイズの新規のPSDデータを用意して、1人目が制作したグラフィックデータを、2人目が編集・加工し、そして3人目へ送ってさらに編集・加工を重ねて、作品を完成させていくという手法です。

ーーアーティスト同士が制作途中のデータを他人に渡したり、触れさせたりするなんて普通しないですよね。

GUCCIMAZE:そうですね。アーティストとしてアート作品の制作途中のデータを共有して加工・編集していくって、本来なら誰もやりたがらないことだと思うんです。。なので最初にこのアイデアを聞いた時は、正直怖かったです。でも同時に、その背徳感ある手法に対する興味もあり、個人的にはゾクゾクしましたね。

河村:僕もYOSHIROTTENからこのアイデアを聞いた時は、ちょっと怖かったですね。人のデータを見ることってないですから。

YOSHIROTTEN:制作データって統合されるまでの過程はみんなそれぞれですからね。

河村:そうそう。なんか銭湯で裸を見られている感じというか(笑)。隠していることもあるし、見られたくない部分でもあるんですよ。それを共有されるって恥ずかしいというか……。逆に人のデータを見ることもちょっと怖いし、でもその半面、どうなっているか気になったりもしていて。とにかく今までやったことがない手法だったので、完成形の想像もできなかったですね。

ーー完成の想像ができなかったとのことですが、制作していく上でテーマを決めたり、方向性を相談したり、お互いがどういうグラフィックを最初に作るといった打ち合わせはしなかったんですか?

YOSHIROTTEN:ギャラリーに同じサイズのグラフィック作品を3つ大きく展示するということと、Dropboxを使ってのデータのやり取りを行うということ以外は、特に話しませんでしたね。

河村:3作品しか展示しないっていうのもすごく潔くて良いねって話していたんですよ。でも完成した作品はすごい数の作品を制作したのと同じぐらいの内容でした。

GUCCIMAZE:それ以外は、もう本当に全部アドリブというか。その場その場でレイヤーデータを見ながらバランスを取っていきましたね。

YOSHIROTTEN:同じ空間にはいないんですけど、セッションしている感じでしたね。例えば、僕が仕上げた作品(右側の作品。1人目がKOSUKE KAWAMURAで、2人目がGUCCIMAZE。そして3人目がYOSHIROTTENで仕上げた作品)は、GUCCIから回ってきた時に、手のグラフィックの部分が薄くなっていたんです。

GUCCIMAZE:僕がシルバーっぽくしましたね。

河村:そうだそうだ。確かにGUCCIのあとにシルバーっぽくなっていた。

YOSHIROTTEN:でも、それをまた僕が元に戻したりもして。

河村:即興でセッションしながら作っていったよね。2人から回ってきたデータを自分が編集・加工する時に、おもしろいものを作ろうと思うんですけど、グラフィックの中からそれぞれが大切にしてそうな部分が伝わってくるので、そこは活かしてみたり。YOSHIROTTENの作品でいうと階段になっている部分は崩さないようにとか、被らないようにって考えたりしましたね。僕が仕上げた作品(中央の作品。1人目がGUCCIMAZEで、2人目がYOSHIROTTEN。3人目がKOSUKE KAWAMURAで仕上げた作品)は、GUCCIらしさ全開の直球勝負で作っていたので、「これはどうしたらいいんだろう」って悩んで、最後の最後にGUCCIに「シュレッダーやっていい?」って確認したりもして。

YOSHIROTTEN:僕もGUCCIに確認したところがありました。「これ統合したらちょっと変わるけど大丈夫?」って。あとは本当に何も聞かなかったですね。

GUCCIMAZE:みんな自由にやってましたね。ちなみに僕は2人に何も確認しないで仕上げましたね(笑)。

河村:本当に今までまったくやったことがない作り方だったので大変な部分もありました。レイヤーの順番を変えたり、ソースを仕込んだりはありましたけど、レイヤーを勝手に削除するなんてやったらだめだし。

YOSHIROTTEN:最終的に1データに5ギガ以上ありましたよね。

河村:あったね。僕は重すぎて全然データをアップできなくて、一度もDropboxにアップできなかったんです。

YOSHIROTTEN:Dropboxでの共有と言いましたが、KOSUKEさんだけアップロードできなくて。

GUCCIMAZE:ギガファイル便でデータが送られてきたのを、僕達がダウンロードして、Dropboxに入れてあげるっていう作業もありましたね(笑)。

ーーそれぞれのレイヤーデータはどんな印象でしたか?

YOSHIROTTEN:GUCCIのはすごいきれいなデータでしたね。調整レイヤーを全部残してやっているんだなって気付かされたり。

GUCCIMAZE:そうですね。僕はあとでいくらでも編集できるようにしておきたいタイプなんです。KOSUKEさんとYOSHIROTTENさんは、直接レイヤーに描いていますよね。

YOSHIROTTEN:そうそう。調整レイヤーを残さない。

GUCCIMAZE:きっと一度色を変えたりしたら元に戻すのが難しいかと思うんですけど、それでどんどん作っていってますよね。

YOSHIROTTEN:瞬発的に「この色だ」「この形だ」って動かす時間を優先しているんですよね。本来はデータを人に渡すっていうことはありえないので、自分の作りやすい方法で作っていきました。

河村:僕もYOSHIROTTENに近い作り方ですね。あえて話すとレイヤーマスクぐらいですかね。

GUCCIMAZE:確かに、KOSUKEさんのレイヤーマスクはすごくキレイでした。

河村:そうそう。レイヤーマスクはちゃんと作っていて、ほぼ全部に付けていますね。

YOSHIROTTEN:そうですね。KOSUKEさんの作り方も新しい発見でしたね。

河村:レイヤーマスクぐらいしかきちんと作ってないですけどね。それ以外はYOSHIROTTENと同じで、基本的には直接描いてしまってます。

YOSHIROTTEN:大友克洋さんと手掛けた『バベルの塔』での2万5000レイヤーを作っていた時も、レイヤーマスクを作っていたんですか?

河村:作っていましたね。さすがに全部ではないけど、ほとんどレイヤーマスクをかけていたと思います。もうわけがわからなかったですよ。編集しようにも、多すぎて拾えないから、結局その上に新しく作ってっていうのを繰り返しました(苦笑)。

GUCCIMAZE:あとは、2人のデータを見ていて気付いたのは、このレイヤーは使っているのか使っていないのか、どっちなのかわからないものが多かったことですね。使わないなら消したいんだけど、残しておくべきなのかどうか、わからなくて。目のマーク(レイヤーの表示/非表示)で確認してみたら、いい感じの部分だったりもするので、わざと残しているのかなって思ったりもして……。

YOSHIROTTEN:レイヤーは残してるんですよ。一旦、残してるんです。

河村:一緒。いつか何かが出てくるかもしれないって思うんですよね。でも出てこないっていうことも結構ある。もし何かあった時にレイヤーを消しちゃってたら終わりじゃないですか。だから怖くてとっておく。YOSHIROTTENはわかると思うんですけど、数値をあんまり見てないよね。

YOSHIROTTEN:そうですね。残しておくのは、「すごい奴がまだベンチにいるん だぜ」みたいな感じですね。

河村:僕もあまり数値を見ないから、戻せないんですよね。自分でやっているんですけど、数値を覚えてないから、レイヤーを消してしまうと二度と再現できないんです。その怖さがあるので、一応使わないかもしれないんですけど、取っておかないと必要になった時に困る。でも今回の制作の方法だと、いつも通りにやると2人が困るんじゃないかと思って、最初はいらないレイヤーは消していたんです。でも2人からデータがきて、それをいじり始めた頃には素に戻っちゃっていて、今まで通りに作っていましたね。まぁ最終的には、GUCCIがきれいに整えてくれるだろうと(笑)。

YOSHIROTTEN:こうやってデータを共有して作ると、性格まで見えてきますよね(笑)。

カオスな制作方法でも100%、おもしろくなる。絶対的な信頼感から生まれた展示

ーーそれぞれ最初に作ったグラフィックはどんなテーマだったんですか?

YOSHIROTTEN:僕は過去に仕事で制作したけど、世に出なかった作品を成仏させるいう計画の下、その作品をバラバラにして作りました。それを2人がどんな風に仕上げてくれるかなっていうのを楽しみにしながら。

GUCCIMAZE:僕は、みんなが思うGUCCIMAZE像を一発ドカンと入れようと考えて、グラフィティーっぽく「CHAOS」って描いて立体的にしてみました。もはや読めないんですけどね。

河村:そこで確認したよね。「シュレッダーやっても大丈夫?」って(笑)。僕の場合は、過去に壁に描いた5作品から少しずつ素材を取って1つにしました。5ヵ所に点在する壁が1ヵ所に集結することなんてないので、それを集結させたグラフィックです。壁に描くような大きなグラフィックを作る時は、アナログでは作れないのでデジタルでやっているんですけど、そういう意味でも今回の企画にはぴったりでした。

ーー実物の作品を見た感想はどうですか?

河村:テンション上がりましたよ。

GUCCIMAZE:大きなサイズで出力されたのを見ると、「カオス」というタイトルにぴったりな作品になったと思います。もちろん自分のエッセンスもしっかりと入っている作品のはずなんですが、他の誰かの作品を見ているようで新鮮でした。

YOSHIROTTEN:2人のスタイルはよく知っていたので、完成のイメージはあったのですが、想像を遥かに超えた作品になったと思います。完成形ももちろんですが、制作中の作業だったり、2人とのやり取りそのものだったりが「カオス」だったと思います。どれだけ会って、一緒に遊んでいても、データのやり取りは未体験だったので、それも含めて新しいグラフィックの形になったと思います。

河村:僕の場合、作品っていつもは納品した時点で、満足してしまっているところがあったんです。制作期間はずっと見ている作品でもあるし、完成形もイメージして作っているので。でも今回は完成形がわからないまま進んでいったのと、自分でコントロールができない制作だったので、仕上がった作品を見た時はフレッシュに感じました。一番初めの作品は原型を見ているので、「これはYOSHIROTTENだ。これはGUCCIだ」というのはわかるのですが、2番目3番目になってくると誰がどこをいじったかわからないんです。今こうして完成した作品を見ても、自分がどこまでいじったのかすらわからないです。

YOSHIROTTEN:この3つの作品は、まだまだ続きがある気がするんです。きっと完成ではないと思うんです。だからこそインスタレーションのスペース『CHAOS DESK』に設置されたモニターには、tokyovitaminのkenchanさん、YARのNatsumi Sunoharaさん、3DCGアーティストのMirai Shikiyamaさんのそれぞれが本企画を再解釈し、エディットした映像作品も流しています。

「CHAOS LAYER」の開催にあわせて制作された、kenchan(tokyovitamin)による映像作品

河村:確かに終わってない感じはしますね。締め切りっていうもので一旦区切っただけというか。もしかしたら、これがベースとなって第2弾、第3弾になるかもしれないなって。さらにバラバラに振り分けて、また同じことをやっても全然形が変わるはずだし、まだまだ全然付け足せるなって思います。

GUCCIMAZE:そうですね。1回データをパスして戻ってくると、また触りたくなってくるんですよね。

河村:「CHAOS LAYER」っていうタイトルそのものがレイヤーを重ねていくっていうことだから、ずっとアップデートできるんですよね。

GUCCIMAZE:でも1人だと完成してしまうんですよね。ゴールを設定してしまうというか。

河村:そうそう。自分1人だったら、もういじれない、重ねられないところまで作ってしまうんですけど、2人にパスすることでまったく違う形になっていく。それが戻ってくると、またゼロの気持ちになるので、何か付け足したくなるんです。その繰り返しで終わりがないんだけど、3人の好きなところとかはお互い尊重し合ってたりしているので、原型がなくなることはないと思うんですよね。でも最終的に重ね過ぎた結果、真っ黒になったりしたらそれはおもしろいですよね。

YOSHIROTTEN:今回はキャンバスに出力しての展示でしたが、いつかはLGの透明有機ELサイネージに各レイヤーを出力して重ねた作品を制作してみたいですね。

河村:それおもしろい! 正面からも後ろからも見られるってことだよね?

YSOHIROTTEN :そうです。各サイネージの間に入れるようにして、作品の中から見られるようしたいんですよね。

ーー最後にインスタレーションのスペースに作られた『CHAOS DESK』についても教えてください。

YOSHIROTTEN:僕ら3人がフュージョンしたことを想定して、その人物が使用しているデスクというテーマの展示になります。それぞれがインスピレーションを受けてきた雑誌やビデオなど、私物を持ち寄り積み重ねて作業スペースのようにしました。今回の3つの作品がここから生み出されたように感じてもらえたら嬉しいですね。また僕ら3人だけでなく、先ほど紹介した3人の映像作品以外にも、レイヤーを重ねるように来場者の方がここに手を加えていってもいいかもしれません。そういう変動していくタイプのインスタレーションです。

ーーまさにカオスな展示ですね。

YOSHIROTTEN:その「カオス」なことをやれるメンバーだからこそのアイデアでした。この混沌としたコロナ禍に、直接会うことすら難しい時代とシンクロした内容になりましたね。

GUCCIMAZE:そうですね。普段から親交があるからこその信頼と、クオリティに対して絶対的な信頼感がお互いにあるからこそできあがった作品になりましたね。他の人と同じをことやってと言われても無理だったと思います。

河村:それが一番大きいですね。グラフィックデザイナーでありながら、東京を拠点に活動するアーティストで、デジタルとアナログの両方を駆使した制作方法など、共通点の多い3人だからこその作品。普通にやってしまうと恥ずかしい制作途中のレイヤーデータの共有も、この2人だったら恥ずかしくない。最初はどうなるか想像もつかなかったのですが、100%おもしろい展示になるっていうのは根拠はないけどありましたから。その信頼の下に完成した展示になったと思います。

KOSUKE KAWAMURA
1979 年広島県生まれ。東京在住。コラージュアーティスト、グラフィックデザイナー、『EREC T Magazine』アートディレクターなど多彩な顔を持ち、表現方法もシュレッダー、アナログ&デジタルコラージュ、コンピュータグラフィックス、ライヴペインティングとさまざま。ライヴ、イベントといったフライヤーの制作も積極的に手掛ける。大友克洋、田名網敬一、森山大道、中原昌也などといった作家とのコラボーレションも多数。ファッションからアンダーグラウンドカルチャーに至るまでジャンルの垣根を越えて活動中。
https://so1tokyo.thebase.in
Instagram:@kosukekawamura

GUCCIMAZE
1989年、神奈川県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。デザイン制作会社勤務を経て、2018年独立。東京を拠点に国内外へアートワークを発信し、数々のアーティストやブランドとのコラボレーションを展開している。鋭さと硬質さを感じる立体的なフォルムのタイポグラフィー、鮮やかでありながら毒々しさが漂う配色といった、独自のスタイルでグラフィック作品を制作する。
http://www.yutakawaguchi.com
Instagram:@guccimaze

YOSHIROTTEN
1983年生まれ。グラフィック、映像、立体、インスタレーション、空間、音楽など、ジャンルを超えた表現方法で作品制作を行う。2018年には「TOLOT heuristic SHINONOME」にて大規模個展「FUTURE NATURE」を開催。GASBOOKより作品集『GASBOOK33 YOSHIROTTEN』を発売するなど、グローバルに活動中。
https://www.yoshirotten.com
Instagram:@yoshirotten

■CHAOS LAYER
会期:~8月20日
会場:ギャラリー月極
住所:東京都目黒区中央町1-3-2 B1
時間:12:00~19:00
休日:日曜、月曜
http://tsukigime.space
Instagram:@gallery_tsukigime

Photography Takao Okubo

author:

大久保貴央

1987年生まれ、北海道知床出身。フリーランスの雑誌編集者、クリエイティブディレクター、プランナー。ストリートファッション誌の編集者として勤務後フリーランスに。現在は、ファッション、アート、カルチャー、スポーツの領域を中心にフリーの編集者として活動しながら、5G時代におけるスマホ向けコンテンツのクリエイティブディレクター兼プランナーとしても活動する。 2020年は、360°カメラを駆使したオリジナルコンテンツのプロデュース兼ディレクションをスタート。 Instagram:@takao_okb

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