「いい作品を作ることだけを考えている」 アーティスト・友沢こたおが語る創作への想い

東京藝術大学在学中に、スライム状の物質を用いた人物画が話題となり、業界内外から注目を集めるアーティストの友沢こたお。色彩にこだわり、質感や透明感をオイルペインティングで生々しく描いたインパクトの強い作品は一度目にすると忘れられないほどの圧倒的な存在感を放つ。

今春から東京藝術大学の大学院に進学し、さらなる創作活動を探究している友沢が、9月16日から10月3日まで「渋谷パルコ」で、過去作と新作を交えての自身最大規模の個展「SPIRALE」を開催。初めての試みとなった立体作品も展示している。さらに、初の作品集『KOTAO』も会場で先行販売を実施するなど、これまでの集大成的な展示となっている。

今回、展示のことを中心に、作品集、大学院進学の理由、AIアートなど、どう考えているのか、今の想いを聞いた。

——今回、展示「SPIRALE(スピラル)」の開催と同時に初の作品集『KOTAO』も出版されます。どちらが先に決まっていたのでしょうか?

友沢こたお(以下、友沢):展示が先に決まっていたんですけど、ほぼ同じくらいのタイミングで作品集の出版の依頼も来ました。じゃあ一緒のタイミングでやりましょうということで、展示も作品集もこの時期になりました。

——具体的にはいつ頃に依頼があったんですか?

友沢:「作品集を作りましょう」となったのは、2021年1月ですね。作品集のほうはそこからすぐ動き出して、確か20日後くらいには当時展示していた作品から撮り始めました。それからは、私のアトリエや展示会場で作品集用の撮影をしつつ、今回の展示用の作品も並行して描いていくという感じでした。

——今回の展示タイトル「SPIRALE」はフランス語で「螺旋」といった意味ですが、どういった意図で付けられたんですか?

友沢:今回の展示は自分にとって過去最大規模の展示で、過去作と新作を合わせて展示するのも始めての試みでした。自分が歩んできた人生を思い返した時、あっちに行ったり、こっちに戻ってきたりしながら進んでいく、螺旋の構造みたいだと思っていて。それは自分の人生だけでなく、世の中を見ても同じように感じています。いつか自分の展示で、「SPIRALE」をタイトルにしたいなとは考えていて、せっかくこの規模でできるので、今回のタイトルは思い入れのある「SPIRALE」にしました。

——展示会場は3つのセクションで構成されています。会場のレイアウトに関しては、どのように決めたんですか?

友沢:タイトルにもあるように会場を螺旋のように巡るコンセプトで、3つのセクションに分けました。中央に暗い部屋を1つ作ることで、少し安らげて、単調にならない明暗のリズムを作る工夫をしました。作品のレイアウトは事前に模型で考えていたんですけど、やっぱり実際に展示してみるともっとよくしたいっていう思いが強くなって、「こっちの方がいいかも」と、当初の配置からはかなり変更しました。3つ目の部屋ではすごく思い入れのある一番大きなサイズの絵を向い合わせにしたりして。だからもうレイアウトが完成した時はヘトヘトでした。でも、それぞれの作品が一番良く見えるように並べられて、とても納得のいく配置になりました。タイトル同様に、展示自体も螺旋のようにぐるぐるとまわって観てもらいたいですね(笑)。

——過去作は何点ほど展示しているんですか?

友沢:5作品くらいです。過去作といっても、この1年半くらいの作品なのですが、私にとってはかなり濃い1年半だったので、もうだいぶ昔の作品に感じられます。

——最近の作品と過去の作品を比べて、自身でも変化を感じたりしますか?

友沢:変化ではないんですが、昔はアトリエを転々としていて、作品によって描いていた場所が違って、その場所の空気とか、当時のことを思い出します。アトリエの照明具合で色も少し変わりますし。私の場合、絵を描いている時はそれだけに集中してしまうので、あの作品を描いた時はベッドが無くて2週間くらい段ボールの上で寝たりしていたなとか(笑)。絵の記憶に関しては、大変だった思い出のほうが多いですけどね。

——作風はそこまで変化していない感じですか?

友沢:このスライムシリーズを本格的に描き始めて2年くらいなんですが、一見すると、大きく変化していないように見えるかもしれませんが、自分的には、毎回「これはできないかもしれない」ということに挑戦しています。今回だと、透明な質感に違う色を混ぜていたり、蛍光っぽい透ける色を使っていたりします。

——今回初めて立体作品にも挑戦しましたが。

友沢:立体作品に関しては前から考えていて、今回は尊敬している造形師さんに作ってもらうことができました。私の絵を私よりもよく理解してくれていて、「ただ平面の絵を立体にしました」というのではなく、質感とか作品の持つ雰囲気などもわかって再現してくれました。だから、こうして立体になっても大事な私の作品だと思えます。

——立体作品に関しては、今後も制作を続けていくんでしょうか?

友沢:そうですね。海外にも持っていけるように、もう少し小さいサイズにして、既にブロンズで立体を作っています。

どんどんすり減ってしまう怖さ

——今年の4月からは東京藝大の大学院に進学して、生活の変化はありますか?

友沢:特に変わってはいないですけど、教授との距離が近くなりました。私は小林正人教授に指導を受けているんですが、小林教授からの刺激を受けることも多くて、すごく充実していますね。研究室のメンバーもみんな個性的で刺激を受けています。基本的には授業がないので、アトリエで作品を作る毎日です。

——大学3年生の時にアーティストとして注目され始めて、ある程度の人気を獲得していました。大学院に行かず、作家として活動していくというのは考えなかったんですか?

友沢:たまたまスライムシリーズを皆さんに愛してもらえて、ありがたい状況だったんですが、それは私の一面でしかなくて。もっと自分の中には深めていくべき要素があると思っています。学部の卒業の時点で、このままのペースでやっていくと、どんどんすり減って出てくるものがなくなってしまいそうで怖いなと思っていました。だから、今は油絵だけではなくドローイングや映像作品にも挑戦しています。

——新しいことにもどんどん挑戦していくと。

友沢:本当の自分の軸は、多分皆さんが感じているよりもっと荒れ狂っているんです。だからそこをもう少し作品で上手く出していきたいなと思っています。そのためにも常に新しいことに挑戦していきたいですね。

——ドローイングや映像作品は今後発表するつもりですか?

友沢:ドローイングのほうは教授に言われて、この前の「藝祭」でパラパラ漫画みたいな映像作品を作って自作の音楽も入れて発表しました。

——作品のアイデアはすぐ浮かぶんですか?

友沢:そうですね。突発的にどんどんと出てきます。今のところアイデアが出なくて悩むことはないですね。

——制作中は音楽を聞いたりしますか?

友沢:映像とか音楽とか何かしら流しながら作業しています。フィッシュマンズが最近すごく好きなんですけど、聞いていると、「フィッシュマンズっぽい影になったな」とか、やっぱり影響は受けてしまうので、なるべく何も考えずに聞ける『テラスハウス』やお笑いのラジオ、YouTuberのホラーゲームの実況を流すことが多いです。今は「テレフォン人生相談」を流しています(笑)。

私にとって、絵を描いて公開するということは恐ろしいことなので、ホラーゲームの実況が自分にはしっくりときていて、人が叫んでいるくらいがちょうどいいです。

——『テラスハウス』とかは逆に内容が気になったりしませんか?

友沢:気になりますけど、他人の恋愛ってすごい他人事じゃないですか。だから何も考えずに聞けるんです。この世に自分にとってどうでもいいことってあまりなくて、何を見ても創作に繋がりがちなので、生きているだけで疲れてしまう。だから絵を描く時は無心になれるのがいいんです。

「もっとパンクにやってみれば?」という母からの一言

——作品集には今回の展示作品も含まれているんですか?

友沢:全部は入っていないですが、ある程度は収録されています。収録作品に関しては、「いい本にしたい」っていう思いで好きな作品を詰め込みました。作品の並びはデザイナーさんにお任せだったんですが、自分の思い入れとかもあって、並べてもらったのを少し修正したりして、できあがりました。

——作品集で一番思い入れのある作品はどれですか?

友沢:全部の作品に思い入れはあるんですけど、作品集ができあがって初めて見た時は、片観音開きになっている作品を見て泣きましたね。3つで1つの作品なので、片観音にしているんですが、この作品集で最初に撮影した作品で、展示をしているところに飛び込みで行って、撮影させてもらったんです。そうした大変だった思い出も甦ってきて。だから作品1枚1枚に思い入れがあります。本当にいいと思える作品集になったので、たくさんの人に見てほしいです。

——創作に関しては、母親である漫画家の友沢ミミヨさんから影響を受けていたりしますか?

友沢:22年ずっとそばにいるので、深い部分では母からの影響を受けています。絵に関して全く干渉してこないんですが、美術高校に通っていた時に、伸び悩んでいた時期があって。「こういう風に描けば褒められそうかな」って考えながら絵を描いていたら、母に「もっとパンクにやってみれば?」って言われて。その時の言葉はすごくヒントになって、今の創作にも繋がっています。

——作品については自由に作れっていう感じですか?

友沢:そうですね。でも、すごくサポートしてくれますよ。スライムで床が汚れないようにしてくれていたり、今回も展示作品の搬入を手伝ってくれて。母がすごくテキパキと動くのでスタッフさんも感動してました。

——作風に関しては、丸いフォルムの感じは似ているなと感じました。

友沢:それはよく言われますけど、全く意識したことはなかったですね。でも、母の漫画もぬめり感がすごくて、私の絵もぬめっている。やっぱり意識していなくても、影響を受けているんでしょうね。

——こたおさんの作品には色へのこだわりを感じますが? 

友沢:色はかなりこだわっていて、納得の色を作るのにすごく時間がかかるんです。何色か混ぜて、希望の色が見つかるまで何度も試しています。好きな色は“抵抗感”のある色。目に張り付いてくるような感じが好きで、そういったことを考えつつ、他の作品の色味とのバランスとかも考えて色を作っています。

——赤、黒は印象的ですが、緑とかはほぼ使われていない感じですね。

友沢:確かに緑は使わないですね。そこまで意識してなかったですけど、得意じゃないんでしょうね。

——絵を描く時は、実際に写真を撮って、それを見ながら描くんですか?

友沢:そうですね。スライムも自分が被ったり、たまにかけてほしいっていう人がいるので、その人にかけたりして。もともとは自分が被るというのが、作品の意図であるので、人形とかほかの人が被るのは実験みたいなものです。

——スライムって被ると気持ちいいんですか?

友沢:気持ちいいですよ。だから人が被りたくなる気持ちはわかります。いろんな人に試してもらいたいです。

「正気にはならない」

——話は変わりますけど、AIアートが話題になっていますが、友沢さんはどう感じていますか?

友沢:超おもしろいと思います。まだやったことはないですが、モーフィングは昔から好きで、これは最先端だなと感じていました。ただ、AIを乱用というか悪用しないでほしいですね。使う人によって、AIって大きく変わってくると思うので、AIをリスペクトして使ってほしいとは思っています。

——自身ではまだやらない?

友沢:やってみたい気持ちはありますが、今は様子見ですかね。でもAIに真剣に向き合ってやっているのはかっこいいと思います。

——NFTは?

友沢:やっていないですね。でもやることは否定しないし、そういう時代なんだと思います。

——実際にこたおさんの作品を観ると、フィジカルならではの強さを感じます。

友沢:ありがとうございます。命を削って描いていると思っています。「そんな無理しないで」って言われることもあるんですが、無理するのがあたりまえというか。削るのが今なんだよっていう気持ちでやっています。

私の場合、1つの作品を描き終えるまでは集中して描くほうなので、以前は絵を描きながらよく倒れたりして不健康な描き方をしてました。今は少し健康的になってますけど、それでも描き終わったら、しばらくは寝込んだりして。

そういう物理的、精神的なものが絵にも宿っていると思うし、そこが強さになっているのではないでしょうか。だから私はキャンバスに絵を描いて、それを肉眼で見てもらう、ということをやっていきたいです。

——ここ2年ほどでかなり知名度も高まりました。ご自身はどう感じていますか?

友沢:常に狂気の中でどう生きるかを考えています。プレッシャーとか考え出したら本当にやっていけないので、そういうことは考えないように、「正気にはならないぞ」っていう気持ちです。「いい作品を作る」ことだけ考えています。本当に恐ろしいので狂ってないとやってられないです。でも、いろんな人に注目してもらうのは大変ありがたいことで感謝してます。

——最後に展示の見所は?

友沢:すべてですね。部屋の圧は強めになっているので、その圧を感じてほしい。本当に頑張ったので、その頑張りをぜひ観てほしいです。

友沢こたお
1999年フランス・ボルドー生まれ。スライム状の物質と有機的なモチーフが絡み合う独特な人物画を描く。シンプルな構成ながら、物質の質感や透け感、柔らかさのリアルな表現が見る者に強い印象を与える。東京藝術大学美術学部絵画学科油画専攻で学び、2019年度久米賞受賞、2021年度上野芸友賞受賞と、早くから注目される。近年の個展に、「Monochrome」(FOAM CONTEMPORARY,東京、2022)、「caché」(tagboat、東京、2021)、「Pomme dʼamour」(mograg gallery、東京、2020)、グループ展に「Everything but…」(Tokyo International Gallery、東京、2021)などがある。現在、東京藝術大学大学院美術研究科在学中。
Twitter:@KKKOTAO1
Instagram:@tkotao

Photography Yohei Kichiraku

Kotao Tomozawa Solo Exhibition “SPIRALE”

■Kotao Tomozawa Solo Exhibition “SPIRALE”
会期:2022年9月16日~10月3日
会場:パルコミュージアムトーキョー
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ4階
時間:11:00〜20:00
※入場は閉場の30分前まで
※最終日は18時閉場
料金:一般 ¥500 小学生以下無料
https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1036

友沢こたお作品集『KOTAO』

■友沢こたお作品集『KOTAO』
A4判変型(287×200mm)
128ページ+片観音2ページ
価格:¥3,300
展覧会先行発売(一般発売10月中旬)
刊行:PARCO出版

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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