画家・彫刻家の天野タケルが考えるアートの意義

画家・彫刻家として、世界的に人気の天野タケルが、アイコン的なモチーフである“VENUS(ヴィーナス)”をテーマにした最新作個展を「渋谷パルコ」の4階にある「パルコミュージアムトーキョー」で開催。会期は7月22日~8月7日で、本展では約30点もの新作やブロンズ・真鍮製の“VENUS”を初公開する。今回、“VENUS”に込めた思いからアートの意義、そして「渋谷パルコ」での展示について、展示会場で語ってもらった。

——展示タイトルにもなっている通り、今回は天野さんの代表的なモチーフ“VENUS”をテーマにしています。“VENUS”をテーマにしようというのはすぐに決まったんですか?

天野タケル(以下、天野):そうですね。パルコさんのほうから今回の展示に合わせて、作品集も出しませんかという提案があって、僕の中では次に作品集を出すなら“VENUS”をメインにしたかったので、そこはすぐに決まりました。それで展覧会名もわかりやすく同じ“VENUS”でいいんじゃないっていう感じでしたね。

——今回の展示はどれくらい前から準備していたんですか?

天野:1年くらい前にパルコさんから展示の話があって、そこから企画はスタートしました。会場の規模も大きくて、場所も「渋谷パルコ」っていうすごく良い会場だったので、そこでやるなら本気でやりたいなと思って。それで何を作ろうか考えて、コロナ禍で先が見えない状況というのを踏まえて、神様みたいな作品を作ったほうがいいかなと思い、今回初めてブロンズと真鍮で立体の“黄金のVENUS”を作ったんです。僕が設計図を作って、日本でブロンズと真鍮の立体を作れる会社を探して、実際の彫刻にしてもらいました。

——ブロンズと真鍮にしたのは理由があったんですか?

天野:本当は金がよかったんですけど、それだと予算が足りないので(笑)。それで真鍮は色が黄金ぽくていいなと思ったのと、あとブロンズの“VENUS”像も見てみたいなと思って。それで2種類作りました。

——今や天野さんの作品のアイコン的な存在となっている “VENUS”というキャラクターはいつ頃できたんですか?

天野:キャラクター自体は昔からずっと考えていたんですけど、20年くらい前はまだ絵が上手くなくて、30代になってからようやく人物を描くようになったんです。“VENUS”を描き始めたのはその頃からなので、15年前くらいですね。

——“VENUS”というキャラクターは黒目だけで、口も真一文字で無表情なのが特徴的です。

天野:感情を描かないほうが、笑っているのか、悲しんでいるのか、怒っているのか、見た人が勝手に想像してくれる。アートってそうして観た人に考えてもらうことが重要だと思っていて、僕がそこに答えを出さなくてもいい。だから僕からのメッセージとしては「この絵を見てどう思う?」っていうことだけなんです。

——確かに、観る人にとっては違う感情を読み取るキャラクターですよね。あと、日本的なアニメっぽさもありますよね。

天野:アニメっぽさは意図的に出してはいるんですけど、それを売りにしているわけではないんです。でも、そうしたところが海外でも受けている要因の1つなのかもしれないですね。

今でも描けば描くほど絵が上手くなる

——創作活動についてはいつ頃から始められたんですか?

天野:僕が3歳の時に1つ年下の弟に絵を教えていたのが記憶にはあって、それが、「僕は絵が上手い」と思った最初の認識なんですよ。それで結局は弟の方が絵が上手くなっちゃうんですけど(笑)。そこから絵はずっと描き続けています。他の友達がいろいろとやっていても、僕が唯一楽しいと思えるのが絵を描くことだったので、それを続けてきた。今も絵を描くこと以上に楽しいことはないですね。

——肩書き的には画家・彫刻家という感じですか?

天野:今は絵がメインです。彫刻は高校生ぐらいにミケランジェロの作品を見て、「こんなのが作れるんだ」と思い、20歳くらいでニューヨークに行ってから本格的に彫刻と版画を始めたんですけど、彫刻って本当に大変で。今はデザインは考えて、作るのは外部の人にお願いしています。

“VENUS”の立体はいろいろな国で作ったんですけど、設計図は同じでも全然仕上がりが違うんです。日本は顔にすごくこだわってくれたり、中国だとすごく豊満な感じになったりして。それはそれで楽しいんですよね。

——コロナ禍になって、制作へのモチベーションは変わらなかったですか?

天野:ここ1〜2年くらいはアートバブルもあって、仕事が忙しすぎて、それでモチベーションが落ちてきています(笑)。だから今は少し描くペースはセーブしながらやっています。でも、この展示の前までは本当にこんなに描かなくてもいんじゃないかっていうくらい絵を描いたんですけど、描けば描くほど絵が上手くなっていくんですよ。

——天野さんほどのキャリアでもまだ成長を感じるんですね。

天野:半年前の絵と今描いている絵を見比べてもそれを感じます。

——NFT作品も作ってますよね?

天野:やってます。少し乱暴かもしれませんが、僕の作品って転売ヤーの人が買ってたりするので、そういう人はNFTを買ってくれたらいいなと思って作っています。それは悪い意味ではなく、そういう売り買いをするのもアートの楽しみ方の1つだと思うので、否定はしないけど、フィジカルで作品を持つことに興味がないなら、NFTでいいと思うので。

でも、NFTってデータだから、ものとしての価値が0なものが誰かが100万円で買ったら、一気に100万円の価値がつくのがおもしろくて。売買するのも仮想通貨のイーサリアムなので、イーサリアムの価格が変わるとその作品の価値も変わってくるっていうのも、楽しいんですよね。

——天野さん自身、フィジカルの作品はいつ頃から値が上がったなと感じましたか?

天野:3年くらい前ですね。だからKYNE君とかと比べると少し遅いほうだと思います。他の人だとギャラリーの人が上げていってくれると思うんですけど、僕は入っていないので、様子を見ながら徐々にという感じでした。

——ギャラリーには所属しないんですか?

天野:フリーだと自分の好きな時に好きな場所で展示できるし、同時にいろんな場所でできる。それが僕はいいなと思っているので、今後もフリーでやっていくつもりです。

——天野さんは自身の作風について「New Art」と語っていますが、「New Art」の定義を教えてください。

天野:特に定義みたいなものがないんですよ。インタビューで僕の作品は「New Art」って言っていたら定着してしまって(笑)。今のアートシーンに対しての評価は後になってわかってくる。だから「New Art」って提唱しておけば、10年後とかにあの頃は「New Art」の時代だったって言われる可能性もある。そうなればいいなと思って、今は僕と一緒に「New Art」を作って盛り上げてくれる仲間を探しています。

——若くして売れるアーティストも多く出てきましたよね。

天野:今のアート業界はいろんなアーティストが出てきてシーン全体が底上げされているのは感じます。20代でも絵がすごく上手い人もいっぱいいて。結局はアートってアイデアが大事で、そこに技術があればすぐに売れる。今はSNSをはじめ、発表の場はいくらでもありますから。ただそうしたネットで発表する人が増えたからこそ、僕は実際の展示をたくさんやりたいと思っています。

子どもにも見てほしい展示

——今回の展示の見どころは?

天野:見どころは、やっぱりこのブロンズと真鍮の“VENUS”です。自画自賛になっちゃうんですけど、僕がこの5年くらいで見た立体作品で一番いいと思う(笑)。

——展示されている絵もかなり大きいサイズもありますね。

天野:今回は入場料をいただくので、この会場でしか実感できないサイズ感を重視しました。だから来て、実際に見てみてびっくりしてほしいです。

——“VENUS”というテーマですが、男性も描いていますね。

天野:その辺りは展示のバランスを見てあったほうがいいなと思って。背景の色とかも全体のバランスを考えつつ、変えています。

——最後に描いた絵はどれですか?

天野:レモンの絵です。全部人物だとしつこいかなと思って、こうした静物の絵もあったほうがいいなと思って描きました。

——展示会場の内装のコンセプトは?

天野:かわいくて楽しい感じにしたいなと思って、ピンクとブルーとホワイトの部屋をそれぞれ作ってもらいました。

——会場では作品集やグッズも販売していますね。

天野:作品集は昨年と今年にかけて描いた作品を130点以上収録しています。グッズはこの犬のクッションがお気に入りです。

——今回の展示はどういった人に見てほしいですか?

天野:今回は「渋谷パルコ」なので、美術館やギャラリーと違って、たまたま来る人もいるかもしれない。特に入場料も小学生以下は無料なので、子どもにも見てほしいんですよね。それがここでやる1番の理由なんです。僕は10歳の時にキース・ヘリングの展覧会を横浜の「ビブレ」で見て、それですごく感動したというか、アートっていうものを初めて認識した。それってショッピングモールだから見れたんだと思う。だから、ぜひ子どもに来てもらって、それで自分も絵を描いてみようとか、そういうきっかけになれば嬉しいですね。昔の僕みたいに。命をかければ、絵が下手でもプロになれるよって伝えたいです。

——子どもだと、実際に初めて見るアート作品が今回の展示っていう可能性もありますからね。

天野:そうですね。それだとすごく嬉しいです。

天野タケル

天野タケル
画家・彫刻家。1977年生まれ。ポップアートとクラシックな美術を融合した “NEW ART”という独自の表現方法で作品を発表している。日本以外にパリ、ロンドン、ニューヨーク、香港などでコンスタントに個展を開催し、世界各国で人気となっている。
https://takeruamano.com
Instagram:@ takeruamano

TAKERU AMANO EXHIBITION “VENUS”

■TAKERU AMANO EXHIBITION “VENUS”
会期:2022年7月22日~8月7日
会場:パルコミュージアムトーキョー
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ4階
時間:11:00〜20:00 ※入場は閉場の30分前まで ※最終日は18時閉場
料金:一般 ¥500 小学生以下無料
https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1023

Photography Kohei Omachi

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

この記事を共有