連載「ぼくの東京」vol.8 「心地よさの可能性を広げる場所」 海外で長く生活し、自由を謳歌してきたアーティスト門間理子の拠点となる場所

ぼく・わたしにとっての「東京」を紹介する本連載。第8回は、帰国子女ならではの視点で東京を眺める門間理子。

門間理子
幼少期よりニュージーランドで生活、ロサンゼルスやオーストラリアなどでも暮らし、多彩な感性を身につける。14歳で米国の大学に進学。大学では化学/物理学を専攻し、その後、北海道大学大学院で化学工学を専攻。2018年からアーティスト活動を開始。東京を拠点にアブストラクト・アーティストとして活動を続ける。

カルチャーショックを受けた東京暮らし

北海道で生まれ、7歳から14歳までニュージーランドで過ごした門間理子。その間に合計4学年を飛び級して、15歳からアメリカ・バーモント州の大学へと進む。大学院は日本で通いたい。そう思っていた彼女は、2015年に北海道大学大学院へ入学。現在も両親が暮らしている場所である。

「卒業後に東京で住み始めました。もう7年になります。長く海外で育ったので日本への憧れは強かった。海外生活中に日本のカルチャーに触れる機会も多かったので、その世界を実際に見てみたいという気持ちもあったかもしれません」

大学院を卒業後に、外資系化粧品会社に研究職として入社。大学では化学と物理学を専攻。大学院では化学工学を学んでいた彼女にとってその才能を生かせる会社だった。会社が掲げている理念にも共感した彼女は、新宿のオフィスで働く日々を続けた。

「化粧品会社といえば美白が必須なのに、サーフィン好きの私はどんどん黒くなって(笑)。上司がすてきな方だったので、無理に私を変えるようなことはしなかったのですが、ニュージーランドみたいに自然がいっぱいな場所で自由に育った私にとって、東京は合わないのかもという感覚も生まれて……」。

そして彼女は入社3年後に退社。アーティストとしての活動を始める。そこにネガティブな感情はなく、自分にとって難しいと思える東京で心地よい在り方を追求できれば、世界中のどこに行っても大丈夫なんじゃないかという気持ちがあったからだ。

何でもある街だからこそカスタマイズが楽しい

「退職後はまずニュージーランドのクイーンズタウンに行きました。この街は何か新しいことを始めたいと思う人の背中を押してくれるような場所なんです。アーティスト活動をするうちに、興味を持ってくれるクライアントにもたくさん出会えて、自分にとって楽しい仕事をしながらお金を頂くという暮らしを実現できました」。

同時に、東京でのあわただしい暮らしをスローダウンしたいという気持ちもあった彼女は、最初は友人のカフェで働く。ゆっくりとクッキーを焼きながら、訪れるお客さんと何気ない会話をする日々。研究職時代にはない感覚が楽しく、その後はお気に入りだった洋服屋でも働くことに。

「とても楽しい日々でした。でもこの街ではあまりにもスムーズに物事が進みすぎて、まだ自分には早いと思ったんです。多彩な人が暮らす東京でもう一度チャレンジしたい。そう思って帰国しました」。

東京という都会にいながらも、都会的ではない暮らしをする。なんでも手に入る場所だからこそ、自分でカスタマイズして、東京をより居心地のいい場所にする。大好きなサーフィンができる場所も遠くない。そう思うと東京は今までと違った街に見えてきた。

人との繋がりに身を任せることができる場所

「以前はパーティ等にも顔を出したいと思っていたけど、自分のタイミングで好きな時に。そう思ったらこのカフェにしか来なくなりました」。

そう彼女が話す場所は、3年ほど前にグループ展を開催したことがきっかけで訪れた裏原宿の「SPACE & CAFÉ BANKSIA」。サーファー夫婦が営むこのギャラリーは、東京の中心にありながら心地よい空気が流れる。海も山も好き。ニュージーランドで育った彼女の感性を共有できる人が多く集まってくる。

「東京で初めて心が安らぐ場所を見つけました。日本での展示は初めてに近かったので、最初は緊張したけれど、展示期間中毎日この場所にいたら、どんどん居心地が良くなって。それからは頻繁に通っています。今でも週に3、4日訪れないとなんだか心配になってしまう。空間はもちろん、オーナーの津乗ファミリーがとても好きなんです」。

ふらりと訪れては絵を描いたり、ギターを弾いたり、時にスケートボードで滑ってみたり。友達との待ち合わせや仕事の打ち合わせで訪れることも多く、この場所を拠点に新しい出会いも増えてきた。

「基本的に自然ばかり描いています。自然を人々がどう化学的に、また考古学的な面で捉えているのかというのも興味があります。インスピレーションを受けるのは1850年代の作品。昔の人が想いを込めて作ったものが好きです。時には文献を読んで研究し、結びつくイメージを出していきます」。

絵を描く時には瞬間的なアイデアを深く掘り下げる彼女。アイデアの源流には必ず理由があり、そこを突き詰めることで作品の輪郭が現れてくるという。

「人間が地球に存在する上で、どうすれば環境を崩さずに過ごせるかも伝えていきたい」。そんな気持ちでアートを昇華する彼女は、貝殻や植物で絵の具を作ったり、古いキャンバスを使ったりすることもある。

「化学とアートは違うようで似ていると思います。どちらも“実験”が基本にあって、その結果に何が起こるかが大切。少しでも人の心が安らぐものを描いていきたいと思っています」。


Photography 217
Text Akemi Kan
Edit Kana Mizoguchi(Mo-Green)

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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