連載「ぼくの東京」vol.5 「人生の節目に関係する街」 国内外で活躍する注目のダンサー・アオイヤマダが思い出の詰まった東京駅を歩く

ぼく・わたしにとっての「東京」を紹介する本連載。第5回は、アオイヤマダが15歳で初めて足を踏み入れて衝撃を受けたという東京駅を再び歩く。

多くのカルチャーが交差する場所

特定のジャンルにこだわらず、ファッションやメイクも含めて独自の世界観を発信しているダンサーのアオイヤマダ。生まれは長野県で、15歳の時に上京した。そして母と初めて訪れた東京駅に大きな衝撃を受けたという。

「実は長野の実家から電車で東京に出てくる時は、東京駅ではなく、新宿駅に着くんです。だから東京駅はあまり縁がなかった存在なのですが、せっかく母も遊びに来るから東京駅を見に行こうという話になって。初めて見た時に『なんか、すごい』と思いました。無機質なビルの中にヨーロッパというか異国のような建物が大きくドーンとあって、そこにスーツを着た人や外国の人や地方の人がたくさん行き交っている。いろんなものが交差する場所なんだなって思いましたね」。

現在22歳になるアオイヤマダは、ダンサーとして活動する中、大きな仕事のオーディションやムービー撮影などで東京駅の近くに来ることも多かった。そして結婚した夫は、この駅を使って今も毎日通勤している。

「初めて東京に来た時は遠い存在だったのに、実は人生のいろんな節目で関係しているなと思ったんです。15歳で見た東京駅と、今ここに立っている自分が見た東京駅とは全然違う。この場所で大人の階段を上ってきたような気がします」。

東京に変えてもらうのではなく、自分が変える

「15歳の時は東京という存在に頼っていたと思います。東京に行けば何か新しいものが見えるだろうと思っていた。でも実際に住んで、いろいろとやってきた中で、そうではなく、自分がいろんな所に足を延ばしたり、いろんなものを見たりするのが結局は大事なんだと気づきました。東京に変えてもらうのではなく、東京自体を変えられるのも自分。そういう気持ちに変わったのは大きいですね」。

最近はレオタードでパフォーマンスを多く行っているアオイヤマダ。そこにはボディラインを出すこと自体が表現の1つという考えもある。SNSなどの登場で人の目に多く触れられる時代、ボディラインをコンプレックスにして隠す人も多いかもしれない。でも、ありのままの自分をどれだけ笑いに持っていけるかで、誰かの心を救えるのかもしれない。このパフォーマンスにはそんな想いもあるのだ。

「東京では、ジェンダーレスだったり、ドラァグクイーンの方だったり、いろんな文化や多様な人間性に出会ってきて、世界は広いし、人それぞれに個性があって、どういう輝き方をするのかは本当にわからないなと思いました。今までは自分のことで精一杯だったけれど、単純に自分が出て満足して、注目されて拍手をもらえることが本当に自分のやりたいことではない。以前、『アオイヤマダちゃんのパフォーマンスを見ていたら浄化された』という感想をいただきました。それを聞いて、私はアオイヤマダという入れ物を使って、誰かが何かを発散できる時間を届けたい。そのために踊り続けたいと思います」。

東京に、日本に恩返しがしたい

最近では音楽制作にも力を入れている彼女は、音楽と言葉、そしてレオタードとダンスを使って、新しい表現をしていきたいと意気込みを見せる。多彩な表現方法もきっと東京にいたから知ることができること。東京にはいろんな文化があるからこそ、そこに多くの人が集まってくるのだ。

「今までは東京を見上げてきた感覚の方が強かった。この場所で学び、何かを得ている。そんな気持ちでしたね。でも今は見下ろすっていう表現は少し変ですが、この東京にも自分が何かを持ってこれるような気がしている。もっともっと大きくなって、東京に、日本に恩返しできる人になりたい」。

たくさんのインスピレーションを得るためには多くの人に出会うことが大事だ。もしあのまま地元にいれば、外出してもきっと知り合いしかいない。日常の暮らしの中で、吸収できることが無限にある東京はやはり特殊な場所。だからこそ魅力的で、彼女の才能をどんどん引き出す。何気なく通り過ぎる東京駅の存在が、この日は一層眩しく見えた。

アオイヤマダ
ダンサー。自らを表現者と名乗る彼女はダンスのジャンルやパフォーマンス形式にとらわれず、独自の世界観を発信。人気アーティストのMVに出演することで、一躍脚光を浴びることになった彼女は、東京2020オリンピックの閉会式では独創的なパフォーマンスを披露し、世界を魅了した。今後の活躍が期待される注目の人物だ。

Photography Yusuke Abe
Text Akemi Kan
Edit Kana Mizoguchi(Mo-Green)
Cooperation  (marunouchi)HOUSE

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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