連載「ぼくの東京」Vol.7 「変わりつつある東京と今」 東京で生まれ育った梶雄太が青春時代を過ごした町を再び歩く

ぼく・わたしにとっての「東京」を紹介する本連載。第7回は、文章でも独自の世界観で魅せる梶雄太。

東京の中心的スポットは変化し始めている

1998年からスタイリストとして活動を始め、ファッション誌や映画、広告等で活躍する梶雄太。2020年にはメンズブランド「サンセ サンセ(SANSE SANSE)」をディレクション。初の文章での作品展示「YUTAKAJI 203040」で作品を発表し話題を呼んだ。イベントを開催したのは武蔵小山にあるクリエイティブスペース「FLOAT」。ファッションの中心として盛り上がりを見せる渋谷や原宿ではない。都心から少し離れた場所でありながら、多くの業界人が訪れた。

「コロナの影響で会社に行く必要がなくなった人は多いと思う。すると渋谷とか原宿等の中心地に行く意味も変わってきた気がする。自分達が暮らす町の近くに新たな楽しみを見つけているのかもしれない。そんな意識の変化もあってか、最近は都心から離れた町にギャラリーやカフェ、古着屋等ができて盛り上がってきていますね」

彼が生まれたのは東京。幼少期から東急東横線沿いの学芸大学の町で暮らし始めた。多くの業界人も暮らすこの町は渋谷駅から各駅停車でわずか4駅。人気スポットとして連日多くの人が訪れる中目黒からもほど近い。

「僕が知っていた学芸大学は変化し、昔から通っていた飲食店や日用品店も軒並みなくなったりして、この町は新しく変貌を遂げているんだなと感じます。ずっとあたりまえと思っていたものが消えていく。その記憶を残しておきたい。東京はスピードも速く、その価値はたった10年でも大きく変わってしまうんじゃないかと思う」

たくさんの思い出がある商店街

取材当日は学芸大学の駅で待ち合わせ。夏の光がまぶしく輝くほどの快晴ながら、時折吹く心地よい風がふと忘れかけた記憶を思い出させてくれる。少し涼もうと思い向かったのは、梶にとって馴染み深い「やぶそば」という蕎麦屋だった。

「おいしく蕎麦が食べられる季節になったね。年越し蕎麦もよくここで買ってる。この後は商店街を抜けて、いろんな場所に立ち寄りながら目黒通りに行こうと思ってるけどどう? 碑文谷公園も好き。ポニーがいて、幼少の頃よく遊びに来てた。小学生の頃から1人で行ってた中華料理屋の東軒もうまいよ。あと、サンライズというステーキ屋もおすすめ。よく家族で行っていた。確か隣は八百屋だったんだよな」

まるで昨日のことのように次々と思い出を話す彼にとって、学芸大学はちょうどいい町だった。以前は好みの古着屋もあり、不足はなく、とにかく心地いい。今では以前2軒目に愛用していた居酒屋が20時には満席になるほどの人気店となった。

「生まれ育った人にしかわからない町の変化とでも言うのかな。歩くたびにこの町はすごく動いているって実感する」

この町の記憶を今残しておきたい

「僕にとってのシンボルはずっと変わらずこの電波塔。この周辺のいろんな場所から見えるんだよね。小さいけどエッフェル塔みたいな形じゃない?」

商店街を抜ける途中で彼はそう言った。

「あ、学芸大学に来たならマッターホーンにも行こうよ。クッキーの詰め合わせ好きなんだよね。お土産にもいいし」

次々と変化を遂げるこの町を淡々と見続ける駅の構内。その近くに古くからある書店「恭文堂書店」も彼のお気に入りだ。学生時代、ここで雑誌を読みファッションに興味を持った。多くの繋がりが生まれる東京ならではの縁で、スタイリストを目指した彼の原点でもある。

「今年の展示会で文章を書いているのも、この場所がきっかけだったかもしれないよね。本が好きだから、さまざまな町の本屋がなくなりつつあるのは寂しい」

さまざまな彼のストーリーを聞きながら歩く商店街の風景は、いつもと違って見える。目黒通りについた頃には、あのステーキハウス「リベラ」が抜群の存在感で迎えてくれた。

「やっぱりここは半端ないよね。ヤバい! そしてここの肉は最高においしい。東京1じゃないかと思う。こんな近くにアメリカがあったのか、と感動したよ」

なぜか都市伝説的にリベラはおいしくないと植え付けられてきた幼少期。何周もして、やっと30代後半に初めて訪れた場所だという。

さて、再び休憩がてら入った喫茶店でアイスコーヒーを頼む。カランカランと氷をかき回しながら、せっかくなら武蔵小山の「FLOAT」まで行こうという話になった。

「学芸大学で僕の骨組みはできたし、思い出もたくさんある。ただ、今はこういう風が吹いているのか、と実感している」

徒然なるままに歩いた梶の地元。気が付くと、空はあっという間に暗くなり始めていた。

梶雄太
スタイリストのみならず、文章に写真、映像制作等、自身の世界を自由に表現する姿にファンも多数。2020年にメンズブランド「サンセ サンセ(SANSE SANSE)」を立ち上げる。自ら綴るという商品説明にもオリジナリティーがあふれる。

Photography Yuta Kaji
Text Akemi Kan
Edit Kana Mizoguchi(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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