川のごみから服を作る。シンガー・xiangyuと「パーミニット」デザイナー・半澤慶樹が「RIVERSIDE STORY」で伝えたいこと

去る9月に、東京・恵比寿「KATA」にて開催された「RIVERSIDE STORY 渋谷川編 -川のごみから作る衣装展-」。この展示は、シンガーのxiangyu(シャンユー)と、ファッションブランド「パーミニット(PERMINUTE)」のデザイナー、半澤慶樹が主宰するプロジェクトで、文化服装学院の生徒も制作に参加し、川に落ちているごみから作られた服を発表した。

当事者の2人の話を聞くと、川のごみを拾って服に仕立てることは、環境問題やエコとは違ったメッセージが込められているという。その真意を深掘りすべく2人に、制作に至るまでと展示期間を振り返ってもらい、そこから感じたことを尋ねた。変わりゆく街の姿と人の価値観を、ごみからひもときたい。

Left→Right
xiangyu(シャンユー)
シンガー。自身が制作した服の展覧会で、水曜日のカンパネラのディレクター、Dir.Fから声を掛けられ、同ユニットのミュージックプロデューサー、ケンモチヒデフミのサポートによって、2018年から音楽活動をスタート。ダンスミュージックを軸にした楽曲を展開する。2019年にEP『はじめての○○図鑑』でデビュー。2021年に発表した『ミラノサンドA』は話題の末、ドトールの公式ソングに採用された。シンガーとしての活動に加え、映画『ほとぼりメルトサウンズ』では主演を務めるなど、音楽以外にも精力的に活動する。 
Twitter:@xiangyu_fish
Instagram:@xiangyu_dayo

半澤慶樹(はんざわ・よしき)
ファッションデザイナー。2016年から、ウィメンズファッションブランド「パーミニット」をスタート。“ユニークな実験を通して、そのプロセスから生命と衣服の新しいかたちを創造する”をコンセプトに掲げている。「Amazon Fashion Week TOKYO 2018 SS」でランウェイデビュー。「TAV GALLERY」でキュレーション企画展の開催や、パルコのキャンペーン広告でファッションディレクションを担当するなど、自身のブランド以外にも活動の幅を広げている。日本メンズファッション協会による「第15回ベストデビュタント賞」に選出。現在「パーミニット」は、コレクションをシーズンで区切らず、気温のレンジで提案している。
https://perminute.net
Instagram:@_perminute_

ごみからわかる街と人

——2人はシンガーとデザイナーで活動されていますが、そもそもどういったつながりなんですか?

xiangyu:私達は文化服装学院を卒業していて、その同級生です。4年生の時だけ同じクラスでした。

半澤慶樹(以下、半澤):共通の友達は多かったけど、卒業後に会うまではほとんど話したことがありませんでした。

xiangyu:同じクラスになる前から存在は知っていたけどね。慶樹は優秀だったから、いい作品を作っているとか、コンテストで入賞したとか、学校で有名だったんですよね。

半澤:僕も同じようにxiangyuはすごいって周りから聞いていて。在学中は放課後に遊ぶような関係じゃなかったけど、xiangyuがアーティストとしてデビューしてから、よく遊ぶようになりました。

——遊ぶようになったきっかけは? 

半澤:初ライヴじゃない?

xiangyu:そうそう。私の初めてのライヴに来てくれました。お客さんが2人しかいなかったけど、その1人が慶樹(笑)。

半澤:それで遊ぶようになったし、MVで衣装を提供させてもらうようにもなったんですよね。

xiangyu:「31」という楽曲です。あとライヴでも衣装を借りることが多いです。蓮沼執太フィルにゲストで出演した時だったり、特別なステージで「パーミニット」を着させてもらっています。

xiangyu 「31」

——活躍するフィールドが違っても、お互いのクリエイションを交えているんですね。ではどんな経緯で今回の「RIVERSIDE STORY」のプロジェクトが始まったのでしょうか?

半澤:普段から、あれがおもしろい、これが気になるって、LINEや電話でやりとりしているんですよ。今年の2月くらいに、人や街と、川に落ちているごみの関係性が気になるってxiangyuがポロッと言っていて。

——なぜごみが気になったのですか?

xiangyu:文化(服装学院)を卒業した年に、お花見とごみ問題がセットになっているとニュースになっていたので、ごみを拾って服にしようと思ったんですよね。

——その時から「RIVERSIDE STORY」と同じことをされていたのですね。

xiangyu:作ったら自分で着て、写真に残そうってくらいの、遊びみたいな感覚でしたけどね。上野公園と代々木公園に行ったらお花見をしている層が全然違っていて、それに伴ってごみも違うことに気付いたんです。そんなふうに街が変わると、人もごみも違うというのが印象に残っていました。

それで今年の2月、渋谷を散歩していたら川を見つけました。その川沿いを歩いてみるといろんなごみが落ちていたので、調べてみたら上野公園や代々木公園のごみの違いみたいにおもしろい発見があるかもしれないって、ぼんやり思い浮かんで慶樹に話したんですよね。でもそのタイミングでは、服にして展示会を開催するなんて発想までは考えていなくて、ただ「おもしろいから探ってみない?」くらいの軽い気持ちでした。

半澤:いつもこんな感じの連絡が来るんです(笑)。じゃあ、とりあえず散歩してみるか、と。僕も渋谷川の存在を知らなかったから、興味本位で行ってみることにしました。調べてみたら、渋谷川は途中で名前が変わって、浜松町あたりからお台場の海に流れ出ていたんですよ。

渋谷川

——初めて渋谷川を歩いてみていかがでしたか?

半澤:渋谷駅の近くは思っていたよりきれいで、海が近くなると何年も放置されている大きなごみが目立っていきました。実際に歩いてみると、そういったことを知ることができるのでおもしろかったです。

そして、実は渋谷駅周辺もきれいじゃないことに気付きました。ごみが隠されていたんです。たぶん心理的に、周りにごみが落ちていない場所でポイ捨てする時は隠すんでしょうね。海が近くなると大きいごみが捨ててあるから、大胆にポイ捨てされていて。2回、3回とフィールドワークをやっていくうちにわかってきました。

渋谷や恵比寿は、コンビニのごみが多いいんです。そして海に近づくほど、ごみは大きくなっていく。ダンボールの束やフットマッサージ機、自転車の車輪とかディスプレイなんかも捨てられていました。

xiangyu:そこまで大きいと、捨てようとする強い意志を感じるよね。

——ポイ捨てを超えて、不法投棄ですね。

半澤:渋谷は数週間以内のごみが多いけど、海のほうは数年放置されているものも多かったです。

xiangyu:大きい駅のほうは清掃員がいるから美化されているし、街自体が変わっていくから新陳代謝がよくてパッと見はきれい。でも、ごみは隠されている。人が少ない街に行くと、手入れされていなくて、ごみがよく目に付く。同じ川でも、街の姿でごみが変わっていきました。

川がきれいになるのは、プロジェクトの副産物

——どのタイミングから、拾ったものを服にしようと考えたのでしょうか?

半澤:なんらかの形で、拾ったモノを展示しようとプロジェクトの指針が決まって、僕らは洋服を作れるので、その方向に決めました。でも、どんな材料が集まるかわからなかったし、どんな素材になるか見当もつかなかったんです。とりあえず触って、ごみと仲良くなってみようと思い、最初にでき上がったのが、メインビジュアルのアートワークでした。

「RIVERSIDE STORY 渋谷川編 -川のごみから作る衣装展-」のメインビジュアル

xiangyu:そう。服より先にアートワークができて、自分達のやりたいモノ作りの輪郭が見えてきて方向性が決まった感覚がありました。

——このプロジェクトには、文化服装学院の生徒も参加されています。その経緯は?

xiangyu:ごみを持ち帰ったら素材にするために、洗浄して乾かさなきゃいけないんです。最初は私の事務所でやっていたんですけど、ごみの量が増えてきて広い場所が必要になりました。そこで文化の先生に相談したら、このプロジェクトをおもしろがってくれて、スペースの提供に加え、学生を参加させたいとも提案してくれました。私達が卒業した学科では、外部の人と一緒に作品を制作するコラボレーションという授業があって、このプロジェクトを授業の一環として取り扱ってくれることに。生徒は20人くらい参加してくれました。

——実際、生徒にはどのような形で参加してもらったのですか?

xiangyu:一緒に拾ったごみを洗浄し素材に変えて、落とし込む服のデザインを考えながら制作しました。

半澤:このプロジェクトでは僕とxiangyuがあくまでも中心ですが、トップダウンじゃなくて、みんなで手を動かし、みんなで考えたんですよね。

——参加メンバー全員で作っていったのですね。

xiangyu:一般的な服作りだったら、テーマに基づいたデザインを具現化するために素材を選定して加工していきますが、このプロジェクトではそれができませんでした。拾ったものを生かすので、あるもので制作していったんですよね。こういう素材ができたから、どう使うか考えるというのとは、逆の作り方です。誰かが作った素材を、みんなで発展させていく作り方で、それも楽しかったです。

半澤:最初は3~4体作れるかな、と思っていたけど、アイデアがたくさん湧いてきて、最終的に6体になりました。最初から終着点を決めていなかったので、今回展示した作品は完成形ではないかもしれません。

「RIVERSIDE STORY 渋谷川編 -川のゴミから作る衣装展-」の展示風景

——ごみだったとはわからないくらい作り込まれているのが印象的でした。

半澤:プロセスで意識したのは、“遠回りする”こと。やらなくてもいいことを、あえて手作業することで、モノに対する愛着が湧いて、ごみだったものの見方が変わっていくのが、このプロジェクトの本質でした。

例えば拾ったペットボトルを、そのままつないでいくだけでも洋服っぽくなります。でもそれだと分解すればまたごみに戻ってしまう。なのでひも状にして編んでみたり、分解してつなげていったりすることによって、そこまでにかかった時間も含めて、作った本人にとってペットボトルのごみじゃなくなりますよね。モノの見え方が変わって愛着が湧くことで、見えてくることがあるとやっていく中で気付くことができました。

xiangyu:できる限り自分達の手で細かくして、別の見え方になる素材を作ろうとしました。工場でリサイクル素材にしてもらって服にするのは、このプロジェクトにおいては違う気がしたので。

「RIVERSIDE STORY 渋谷川編 -川のごみから作る衣装展-」の展示風景

——自分で手を加えることで、無価値のモノに価値を見出すということですね。

半澤:川がきれいになって環境が美化されることは、このプロジェクトの副産物だと考えています。それよりも、今まで見向きもされなかったモノに手が加わったことで価値観が変わり、心が動く感覚が大事と言いますか。展示した服は買えるわけでもないし、普段着としては着られるものでもない。でも、人の手から離れた、かつてごみだったモノがまた人の体に帰着している様子に、展示を観た人にも何かを感じてもらうのが、このプロジェクトの一番の収穫と考えていました。

——今回のプロジェクトは、それぞれの活動においても新鮮だったのでは?

半澤:今までとは違う服の作り方で、ファッションとの向き合い方が変わったように感じています。想像通りに完成しないのは、大変だったけどそれもよかったです。より良くするために、洋服を作るだけじゃなくて、見せ方やプレゼンテーションまで一貫して考えるようになり、いろんな角度から語れる洋服を作れたのがおもしろかったです。

xiangyu:私は音楽をメインにアーティスト活動をしていますが、いろんなことに興味があって、それを全部やってみたいタイプ。それによって自分のバランスを取れていると改めて感じました。音楽の休憩でこっちをやって、こっちの休憩で音楽をやってと。常に手を動かしていたので、音楽の発想が広がった部分もあります。あと、文化の生徒達、みんなと一緒に制作できたのも、私1人じゃ思いつかない素材やスタイリングが生まれて、新しい発見がありましたね。

——今後も続けていくそうですね。

半澤:今回制作したのは着られないアイテムでしたが、実際に着用できるアイテムを作るなど、今後レベルアップしていきたいと考えています。理想としては、日本にはいろんな素材の産地があるように、あの川ではこういう素材、この川ではこんな素材、みたいにその土地で暮らす人の生活に準じた地域性を見出せたらおもしろいですね。

xiangyu:他の地域でやることで渋谷川と比較ができて、意外な発見があると思います。そして、文化の生徒が参加してくれたように、いろんな場所に仲間をもっと増やしていきたいです。

Photography Masahi Ura

author:

コマツショウゴ

雑誌やウェブメディアで、ファッションを中心としたカルチャー、音楽などの記事を手掛けているフリーランスのライター/エディター。カルチャーから派生した動画コンテンツのディレクションにも携わる。海・山・川の大自然に溶け込む休日を送るが、根本的に出不精で腰が重いのが悩み。 Instagram:@showgo_komatsu

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