「POP COLLAGE」が伝える、再生するアート。儀間朝龍インタビュー前編 レコードジャケットへの挑戦

東京・渋谷にある「hotel koe tokyo」で1月に開催された、アーティスト・儀間朝龍(ぎまともたつ)によるアート展「POP COLLAGE LP+SNEAKER」。その個展会場に足を踏み入れると、儀間の人気作品の1つであるスニーカー作品と、1980年代、1990年代を中心とした人気音楽アーティストのアナログレコードをモチーフにした作品が、まるでスニーカー&ヴィンテージレコードショップのように展示されていた。
破棄されていたダンボールを再生し、それを材料にオリジナルの技法で制作されている儀間の作品は、元ネタから華麗なる進化を遂げて美しいアートとして存在している。

そこで今回は、儀間が個展で展示した作品はどういった作品であるのか、またアーティストとしてこれまでどのような道のりをたどってきたのかを前編・後編に分けて紹介したい。
前編は、今回の開催された個展で初挑戦したという、アナログレコードジャケットシリーズについて。音楽をこよなく愛することから生まれた緻密で繊細なそれぞれの作品は、なんとこの半年で約80枚制作したというから驚きだ。

制作した作品の中にはオリジナルよりも僕が作ったほうが手が混んでいるものもある

ーーアルバムジャケットをモチーフにした作品を展示されるのは、今回が初挑戦だそうですね。展示されていた作品「POP COLLAGE LP」は、どのような趣旨の下で制作されたのですか?

儀間朝龍(以下、儀間):今回個展を開催するにあたって、家で音楽を聴いたり、レコードジャケットを見ていたりする時間があったのですが、その中にアンディ・ウォーホルといった有名なアーティストが手掛けた素晴らしいジャケットがいっぱいあったんです。それはまるで絵画作品を見ているような感じだし、学生の頃に聴いていた思い入れのある曲などは、いろいろな思い出もレコード1枚に詰まっています。そこで自分が持っているレコードを、並べて見てもらったらいい感じになるんだろうという思いが以前からありまして。さらに個展の開催会場が、渋谷という音楽の聖地みたいなところだったので、アナログレコードをテーマにしてやる意義を十分に感じられたので、今回はレコード作品を中心に話を進めていきました。

ーーでは最初に誰のアルバムの作品を作られたんですか?

儀間:初期に作ったのは、アンディ・ウォホールがアートワークを手掛けたヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー作『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』や、ソニック・ユースの『Goo』。ジャケットデザインも好きだったし、曲もよく聴いていたので、最初はこの2作品を作りました。
そして今回のLP展をやるにあたってのテーマの1つに、いっぱい数を作って見せたいというのがありました。でもこれまでの作品制作の仕方だと時間がかかってしまうので、会期に間に合わせるために、実験的にスピードアップして制作できる新しい表現方法を探して制作しました。結果的に、新しい僕のスタンダードの技法ができた気がしています。

ーー制作速度がスピードアップしたとはいえ、緻密なものをよくここまで再生(=制作)できたなと思いました。

儀間:早く仕上げる新しい技法を考えたわりには制作に力を入れてしまったのもあるし、僕は絵も描いているのでなんとなくわかるんですけど、制作した作品の中にはオリジナルよりも僕が作ったほうが手が混んでいるものもあります。といっても、以前よりも全体的にはスピードアップして制作できましたね。もちろん、どれも決して手は抜いていません。新しいやり方で適正な時間で仕上げていく中で、おのおのが僕のイメージに近づけた作品になったかと思います。今回のレコード作品をたくさん作ったら、作ったその先に新しい自分がいるんだろうなっていうことを意識しながら作っていたんです。

ーーちなみに音楽は儀間さんにとってどんな存在ですか? 音楽というカルチャーから生み出されたアルバムジャケットを作品に採用していることには、何か意味があるのかなと思いました。

儀間:自分は個人的にロック寄りの曲が好きだったりするんですけど、音楽にのめり込んだきっかけは、ニルヴァーナの『Nevermind』なんですよね。実はカート・コバーンが亡くなったあとに、当時の学校の先輩から、ニルヴァーナっていうかっこいいバンドがいると教えてもらって。聴いてみたらすごくかっこよくてはまってしまったんですよ。そして大学時代にテンションが下がっていた時期があったんですけど、その時にニルヴァーナの歌詞にすごく共感する部分があって、本当にカートに助けられたというか。
僕の中では、メッセージ性の高い言葉を曲に乗せて発していたり、反体制的な部分もあったりしてと、そんな自分が正しいと思っていることを曲にする、他に例えるなら、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのようなメッセージを含んでいるバンドに引かれてしまうんですよね。
強いメッセージは、当時の社会に必要だったとも思うんですけど、それは今も必要な言葉なんじゃないかなと思うことがあるんです。今は大きな声を上げて主張することが、日本では減ってきているなと思う中で、声を大にして意見を伝えたり、けんかをしてでも議論することが、時には必要なんじゃないかなって。そういう意味では今回の展示では、ロックバンドが重要なキーとまでは言いませんけど、彼らの発していた言葉が、作品を観ることによって、「どんなことを歌っていたんだろう」とか考えてもらえたらいいなと思っているんです。

ーーまさしく音楽が持つ力の強さですね。

儀間:前衛的なことを打ち出したり、強い言葉を発する時に、それまであったことをどう打ち破るか。それにはすごいエネルギーや言葉、演奏が必要だったりすると思うんですけど、それをやってのけた人達を僕はリスペクトしています。創作するエネルギーが僕自身も参考になるというか、力になっているので。そういう意味では、20歳の時に聴いていて力をもらった好きな音楽を題材に、45歳になった今、作品にできたのもいいなと思います。

ーー作品を作っていて技術的なこと以外では発見できたことはありましたか?

儀間:自分自身をアップグレードさせたいという目標があったので、がんばってやれば新しい自分に出会えるのではないかと作り続けたんですけど、後半は徹夜をしたりと大変でした。漫画『スラムダンク』(井上雄彦作)で、桜木花道が先生にシュートを2万本打てば向上すると言われてがんばったシーンがあるんですけど、僕は2万点作品は作れませんでしたが、そのシーンを思い出しながらやっていました(笑)。

僕のやっていることって、学生時代そのまま

ーー作品を観ていて気付いたことがあるんですが、全体的に縦にラインが入っています。これはなぜでしょうか?

儀間:それは僕の作品スタイルの1つでもあるんです。油絵を描いていると、絵の具が滴ることがあるんですけど、そのテイストを残しながら制作しているんです。このスタイルのベースになっているのは、学生時代の経験からですね。高校生と大学生の頃に学んだこと、その経験を基に制作をしています。なので縦の線に関しては、昔に学んだ油絵の意識で、意図的に多く取り入れています。ぱっと観た時に「これって、儀間くんだよね」とわかるテイスト、マテリアルといいますか。そういうものにしたいと、最初から考えていた手法になります。

ーー学生時代に学んだことをベースに、現在のスタイルを生み出されたのですね。ではどのような新しい手法で今回の作品を制作されたのでしょうか?

儀間:例えば、白地に黒い文字がある場合は、下に黒い紙を貼ってからその上に白い紙を貼っているのですが、するとカッターで削ると、その下の色が出てきます。この手法って絵画の技法なんですよね。絵画で下地を完全に乾かしてから、上に塗った絵の具があまり乾いていない時に引っかくという手法があるんですけど、まさにそれです。なので僕のやっていることって、学生時代そのままなんですよ。それと今回展示したRUN DMCの作品なんかは、実物は黒い部分が多いのですが、あえて白い部分を多く残して自分なりの表現を加えてみました。モチーフと同じように作ることもできるんですが、「かっこいいよね」と僕が思う感覚で削るのを途中でストップすることもあります。モチーフとしたジャケットから大きくずれることなく、でも僕らしさとは何か。そして、ダンボールの表情も出せたらいいなだったりと、いろいろなことを考えました。

ーーそのまますべてをコピーするのではなく、ベースにあるものをさらに進化させて新しいものにしていくとういことですね。

儀間:前は迷うことが多かったんですけど、決心がつくようになり線引きできるようになりました。忠実に作るほうが完成形が見えるから楽なんですけどね。でも作品を作る上で、新しい形をどういったものにするか、さらにどこで制作を終わらせるか、この2つの選択肢が出てくるんですけど、その選別が前よりも上手になった感じがします。みなさん、新しいものが見たいと思うんです。僕も思いますし。なのでどうアップデートして、いいものを作ることができるかいつも考えていますね。

儀間朝龍
1976年沖縄県生まれ。名古屋芸術大学美術学部を卒業後、2004年より1年間のニューヨーク留学を経て、沖縄に帰国後、アーティストとして本格的に活動をスタート。これまでに数々のグループ展に参加をして、2018年に「流通と消費」をテーマに初個展「SOME POP」を開催し注目を浴びる。また使用済みのダンボール素材を再利用して制作したノートやレターセットなどを販売するブランド「rubodan」を企画。アジア各国を訪問しローカルのひとびとと交流しワークショップを開催したり、オリオンビールとタッグを組み、廃棄物ゼロを目指すことを目標にダンボールを再利用したステーショナリーセットなども販売している。
Instagram @tomotatsu_gima / @rubodan
http://www.rubodan.com

Photography Shinpo Kimura

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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