特殊メイクアップアーティスト・快歩が提示する新たな「特殊メイク」の可能性

快歩(かいほ)
1996年生まれ、名古屋市出身。名古屋市立工芸高等学校デザイン科卒業。Amazing School JURで特殊メイク・特殊造形の基礎を学び、2014年からフリーランスとして、特殊メイクや造形技術を用いた作品制作を開始。現在では、特殊メイク、グラフィック、アートディレクションなど、独自の世界観を追求した作品制作を行い、その感性を活かして、ミュージックビデオ、映画、ライブなどのさまざまなメディアにおいて幅広く活動中。2020年には、オーストラリアで開催された特殊メイクのコンペティション「WBF 2020 World Championships special effects makeup」において、世界のTOP3に選出された。
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King GnuやALI、Vaundy、藤井風、yama、Tempalay、きゃりーぱみゅぱみゅなど、さまざまなアーティストのミュージックビデオで特殊メイク、マスク、造形物などで作品に参加している特殊メイクアップアーティストの快歩(かいほ)。特殊メイク、グラフィック、アートディレクションなど、独自の世界観を追求した作品制作を行なっている。

11月2〜6日には、東京・原宿で自身初となる個展「TIPSY」を開催。特殊メイクのグロテスクなイメージを制限し、色彩をふんだんに使ったポップかつリアルな、アーティスト独自のユニークな世界観をまとった初監督映像作品をはじめ、写真やマスク、着ぐるみなどの新作を含む20点を超える作品を発表。一般的な「特殊メイク」のイメージとは異なる新たな可能性を提示した。

そんな快歩が目指す特殊メイクアップアーティストの姿とは? 自身のこれまでの経緯とともに個展会場で話を聞いた。

「作品をSNSにアップしていたら、King Gnuからオファーが」

——まずは快歩さんが特殊メイクをやろうと思ったきっかけから教えてください。

快歩:もともと子どもの頃から絵を描いたり、粘土で何かを作ったり、手を動かすことが好きでした。ある日、家にあった水木しげるさんの本を見て、「すごいな」って思い、そこから妖怪のようなファンタジーの世界に興味を持ち始めました。

その延長で特殊メイクというのを知って。最初は「何かおもしろそう」くらいの感じで、高校卒業してから特殊メイクアーティストのAmazing JIROさんがやっている東京のスクールに入学しました。

——実際にJIROさんのスクールに通ってみて、どうでしたか?

快歩:今まで、自分が妄想して平面で描いていたものを、実際に人の顔に特殊メイクをすることで現実世界に存在しているかのように作れて、それが動くっていうのがめちゃくちゃおもしろくて、一気にハマっていきました。

——その学校はどれくらい通われたんですか?

快歩:1年制だったので、1年通って。そこで基礎をしっかりと教えてもらいました。

——卒業後は誰かのアシスタントについてたんですか?

快歩:誰かのアシスタントにつくよりは、やっぱり自分でやりたいっていう思いが強くて、卒業してからは1人でやってます。

そうはいっても卒業後すぐに仕事はなくて。アルバイトしながら、狭い4畳半の1Kの部屋でひたすら作品を作ってましたね。その作品をずっとSNSにアップしていたら、King Gnuのチームが見つけてくれて。2018年11月にリリースされた「It’s a small world」のMVで「特殊メイクをやってくれない」っていうオファーがあって、一緒に仕事をして。それがきっかけで、認知されるようになって、じわじわと仕事が広がっていきました。

きっかけとなったKing Gnuの「It’s a small world」のMV

——その後も藤井風やTempalay、ALIなどのMVにも多く参加されていますよね?

快歩:そうですね。MVの仕事が自分にとっても心地いいんだろうなと思ってます。広告だとどうしても、オーダーされたものを忠実に作るみたいな感じになってしまって。もちろんMVでも「こういう風にしてほしい」と方向性はあるんですけど、基本的には任せてもらえるんですよね。僕の場合は、デザインも作っているうちにどんどん変化していくので、「こっちの方がよくないですか」って提案すれば、それを採用してくれたり。でも、今後はMVだけでなく、広告とか自分が関わる仕事においては、そうできればいいなと思っています。

——快歩さんが手掛けたyamaのマスクも話題になりました。

快歩:あれはyamaさんがメディアに顔を出して初めて登場するタイミングでマネージャーさんから連絡がきて、本当にゼロベースからスタートしました。いろいろ試行錯誤しながら作って。そのマスクの初めてのお披露目が『THE FIRST TAKE』でした。大丈夫かなって心配だったんですけど、好評で。結果的に今はyamaさんのアイコンとして成立して、良かったです。自分的にも大きな挑戦で、めちゃくちゃいい経験になりました。

「特殊メイクのおもしろさを伝えたい」

——今回の個展はいつ頃から準備されていたんですか?

快歩:展示作品は3年くらい前から作ったりしていたんですが、実際にやろうと決めたのは3ヵ月前くらいです。個展はずっとやりたいと思っていたんですけど、コロナもあったりして、タイミングを考えていました。それで作品もたまってきて、僕も自信を持って、「今後こういったことをやりたいです」と出せるなと思って、このタイミングでやることにしました。

——特殊メイクアップアーティストが個展をするのってめずらしいと思うんですが、どういった思いから個展をやろうと決めたんですか?

快歩:一般的な「特殊メイク」の印象って、偏っているなと思っていて。いわゆるゾンビとか宇宙人とか、傷だらけの顔とか。僕としては、本当は特殊メイクってもっといろいろとできるのになっていうもどかしさがあって。それで今回の個展では「特殊メイクでこういうことができます」っていうのを知ってほしかったのと、今後自分がやっていきたい方向性はこんな感じですっていうのを伝えたかったんです。

——マスクだけでなく、着ぐるみも作っています。作る意識としては、同じですか?

快歩:そうですね。僕自身、思いついたらすぐ作りたいって思う方で。今回展示してあるパーカーと着ぐるみが一緒になっているものも変な染め方をしてみたり、遊びながら作るという感覚でした。

こういうのってみんな思いつくとは思うんですけど、それを実際に作る人ってほとんどいなくて。他の作品も技術的には作れるとは思うんですけど、実際にやる人がいないというか。他の人が僕の作品を見て、「あっやられた!」って思ってくれると嬉しいです。

——どの作品も細部までかなりこだわってますよね。

快歩:本当はマスクとか作る工程の半分くらいは好きじゃないんです(笑)。マスクを作るのって、いろいろな素材を使って型を取ったりかなり作業的な工程がいくつもあって大変で。でも、最終、現場でメイクして、見たことがないものが仕上がったのを見るのが楽しく、だからやっているんですよね。造形物なども完成が近づくほど楽しくなってきて、どんどんいろいろと細かいことをやりたくなってしまいます。

——作品は毎日作っているんですか?

快歩:基本的には暇があったら作っている感じです。

——「こういうのを作りたい」というアイデアはすぐ浮かぶんですか?

快歩:そうですね。最初はイメージのラフに描いて、それを粘土で作ったりして。でも、最初は本当に小さなきっかけで。今回展示してある紙袋の作品も、よくある紙袋を逆さに被って、そこに目とか口を書くのを、より立体的にしたらどうなるかとか、そういう風に自分で膨らませていく感じです。

——今後、仕事としてはどんなことをやっていきたいと考えていますか?

快歩:1つは今回展示してあるような作品を仕事でもどんどん作っていきたいと思っています。もう1つは自分でオリジナルのキャラクターを作って、こっちから発信していろいろなコンテンツを作れたらいいなと考えています。特殊メイクも、着ぐるみも、パペットもいけるし、コマ撮りでアニメーションもできる。そっちは少しずつ準備していこうかなと思っています。

あとは、今よりもっと指名で仕事がくるようになると嬉しいですね。「快歩に頼んだらおもしろくなるんじゃない」っていう依頼が増えるように頑張ります。

——海外で仕事したいという気持ちはありますか?

快歩:それはありますね。InstagramのDMも海外の人からよくメッセージをもらうので、作品としては全世界に通用すると思っています。

——ハリウッド映画に携わりたいとかは考えたりしますか?

快歩:それはあまり考えていないですね。とりあえずおもしろいことができればいいかなと思っていて。MVもやりたいし、ファッションショーも舞台もやりたい。いろんな人に僕の作品を見てもらいたいなというのはあります。もっと幅広く可能性を広げていきたいです!

Photography Yohei KIchiraku

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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