伝説的ギタリスト、ランディ・ローズが後世に残したものとは。アンドレ・レリス監督が映画『ランディ・ローズ』で伝えたいこと

映画『ランディ・ローズ』予告編
『ランディ・ローズ』©RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

1982年3月19日、飛行機事故により25歳の若さで亡くなった伝説的ギタリスト、ランディ・ローズ(Randy Rhoads)。彼はクワイエット・ライオット(Quiet Riot)からオジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)とキャリアを重ね、活動の絶頂期において天に舞ってしまった。その彼の存在は、ヘビーメタル界に大きな衝撃を与えた。

今年、没後40周年というタイミングで映画『ランディ・ローズ』が日本のみで劇場公開されている。今回、本作の監督を務めるアンドレ・レリスが緊急来日することになり、いろいろと話をうかがうことができた。

個人的には本インタビューとこの映画をきっかけに、オジー・オズボーンの1stアルバム『ブリザード・オブ・オズ〜血塗られた英雄伝説(Blizzard of Ozz)』と2ndアルバム『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン(Diary of a Madman)』、ライヴ盤『トリビュート〜ランディ・ローズに捧ぐ(Tribute)』はもちろんのこと、そこからさかのぼって当時日本だけでレコード発売されていたクワイエット・ライオットの1stアルバム『静かなる暴動(Quiet Riot)』、2ndアルバム『暴動に明日はない(Quiet Riot II)』も入手しやすくなったので、これを機にランディのギタープレイに触れてほしいと願うばかりだ。

アンドレ・レリス
1975年生まれ。カリフォルニア出身の映画監督。映画への関わりは、1990年代後半にFoxスポーツテレビのプロデューサーとしてキャリアをスタート、後にAmazing MoviesやLionsgateなどで映画配給を行う。その後の2010年には、ハリウッドを拠点とする映画製作会社「VMI Worldwide」を設立、現在も多くの映画を製作し、全世界に配給している。近年では、北村龍平監督『The Price We Pay』、トミー・リー・ジョーンズ&アーロン・エックハート主演『WANDER』などを製作。2015年には、ヒップホップグループ、N.W.Aの真実を暴くドキュメンタリー『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』で初めて監督を務め、本作で2作目。

文化的にも東京という街に刺激を受けたんだ

——監督は今回の来日で何度目なのでしょうか?

アンドレ・レリス(以下、アンドレ):多分、これで6度目の来日になるんじゃないかな。

——わりと日本に来られているのですね。

アンドレ:そうなんだ。家族で1回、小さい頃に1回、1人でも1回、出張では3回ぐらい来ているんだよ。

——10代の頃に日本に住んでいたこともあるそうですね。

アンドレ:ああ、きっかけは家族で日本に来たからさ。父親が政府関係の仕事をしていて、台湾、フィリピン、日本、中国、タイと回ったんだ。そこでうまく言葉にできないんだけど、日本にとても親近感がわいて、もう1度日本に戻りたいと思ってね。それで、夏休みにタコベルでバイトしてお金を貯めて、また日本に行こうと思ったのさ。父親の友人が日本に住んでいて、その方の家に居候したり、他のところに住んだりして、ひと夏を過ごしたよ。

——日本のどんなところに親近感がわいたのでしょうか?

アンドレ:おかしな言い方かもしれないけど、アメリカよりも自由を感じたんだ。日本に住んでいると、解放感を感じたというのかな。何よりも自動販売機でビールが買えるのは嬉しいよね。少年にとって、こんなにクールなことはないよ(笑)。あと、文化的にも東京という街に刺激を受けたんだ。街のイルミネーションはすてきだし、美しいお寺にも魅力を感じた。そして、日本人は親切だし、食べ物もおいしい。

——日本の映画や音楽で監督が好きな作品があれば教えてください。

アンドレ:人の夢を描いた映画が印象に残っていて……。あれは何だったかな、タイトル名を思い出せないんだけど、黒澤明監督の映画だったかもしれない。あと、日本の古典音楽を聴くと、気持ちが落ち着くんだ。自分の育ちとしては、いろんな宗教を総合した教団に所属していたこともあり……、ヒンズー教にはあまり共鳴しなかったんだけど、仏教にはとても惹かれるものを感じたよ。だから、日本には自然と親近感を抱くのかもしれないね。

芸術については日本画の繊細なタッチも素晴らしいね。他に盆栽も好きなんだ。10代で日本に来た時に盆栽に興味を持って、それから自分でも盆栽を買って手入れするようになったんだよ。それで父親に盆栽の水やりを任せていたんだけど、その水やりを忘れられたことがあって、枯れてしまったよ。その時はすごくガッカリして、父親に対して怒ったよ(笑)。

N.W.Aとランディ・ローズにも共通点があると思うんだ

——(笑)。では映画監督になったきっかけは?

アンドレ:僕はもともとミュージシャンで、それから映像に携わるようになったから、音楽が主軸にあるのは間違いないね。音楽系の映像を作る「Vision Music」というレーベルも2003年に立ち上げたんだ。自分が興味があるのはミュージシャンのドキュメンタリーで、「KING RECORDS」と初めて手掛けたのがパンクバンドのジャームス(Germs)の伝記映画『ジャームス 狂気の秘密』で、それが初めてプロデュースしたものになる。

——お好きなドキュメンタリー映画を挙げると?

アンドレ:たくさんあるね。音楽で言えば、オリバー・ストーン監督が手掛けた『ドアーズ』、アレックス・コックス監督の『シド・アンド・ナンシー』、サークル・ジャークス(Circle Jerks)を取り上げた『My Career As a Jerk』とか。他に音楽ものではないけど、『タクシードライバー』も好きだよ。

——パンクミュージックもお好きなんですか?

アンドレ:ああ、僕はパンクバンドをやっていたからね。

——そうなんですか! てっきりメタルバンドだと思っていました。

アンドレ:パンクバンドではあるけど、メタルの要素も取り入れていたんだ。それで映画の話に戻すと、『ザ・デクライン』の3部作(『ザ・デクライン』『ザ・メタリイヤーズ』『ザ・デクライン Ⅲ』)も好きだね。シリーズによってパンクロックだったり、ヘビーメタルをフィーチャーしているからね。僕の中ではパンクとメタルは別ものという意識ではなく、どこか相通じるものを感じるんだ。

——ハードコアパンクとスラッシュメタルを融合させたS.O.D.なども監督はお好きですか?

アンドレ:『SPEAK ENGLISH OR DIE』(※クロスオーバースラッシュの名盤でS.O.D.の1stアルバム)!

——(笑)。映画『ランディ・ローズ』の前に、監督はアメリカのヒップホップグループ、N.W.Aのドキュメンタリー映画『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』を製作されていますね。この映画を撮ろうと思ったきっかけは?

アンドレ:パンクやメタルにハマッていた頃にN.W.Aも同時に聴いていたんだ。黒人としてのリアルな体験を音楽に落とし込んだ人達だけど、ヒップホップもパンクとメタルに通じるものを感じんだ。それと同じように響いたのがランディ・ローズだった。

——そうだったんですね! そして、N.W.Aのドキュメンタリー映画に続いて、今回はクワイエット・ライオット〜オジー・オズボーン・バンドで活躍したランディ・ローズを題材に取り上げました。ヒップホップからヘビーメタルまで、この振れ幅の大きさも興味深いです。

アンドレ:N.W.Aとランディ・ローズにも共通点があると思うんだ。N.W.Aはギャングスタラップの生みの親であり、革命的な存在になった。それと同じようにクワイエット・ライオット、オジー・オズボーンと活動してきたランディ・ローズもヘビーメタルの生みの親という認識を持っているんだ。イギー・ポップ(Iggy Pop)やニューヨーク・ドールズ(New York Dolls)がパンクロックを生み出したようにね。

ヒップホップ、パンク、ヘビーメタルはまったく違うジャンルであり、サウンド的にも違うものだけど、反骨精神という部分で共通点を感じる。僕がやっていたパンクバンドでも、同じレーベルでヤング MC(Young MC)というラッパーと手を組んで、1997年にパンクロックヒップホップ曲を作ったんだ。アイス-T(Ice-T)ボディ・カウント(Body Count)もそうだけど、パンクとヒップホップは相性がいいんだよ。

——確かに。では本作の話を聞かせてください。監督がランディ・ローズのギタープレイに触れたのはクワイエット・ライオット、オジー・オズボーンどちら先だったのでしょうか?

アンドレ:ランディ・ローズを知ったのはオジー・オズボーン経由だね。なぜならクワイエット・ライオットの最初の2枚のアルバム(※1stアルバム『静かなる暴動』、2ndアルバム『暴動に明日はない』)はアメリカでは発売されていなくて、日本でのみレコードが発売された状況だったんだ。正直なところ、このドキュメンタリーを手掛けるまでは、クワイエット・ライオットの音楽をちゃんと聴いたことがなかったよ。

『ランディ・ローズ』©RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

ランディ・ローズがヘビーメタルに与えた影響は革命的だったと思うよ

——そうだったんですね!

アンドレ:もちろん、クワイエット・ライオットの最初のアルバム2枚の存在自体は知っていたけどね。ただ、このドキュメンタリーを製作する過程で、何度もクワイエット・ライオットのサウンドを聴き込むにつれて、素晴らしい作品であることに気付いたんだ。あの2枚のアルバムを深く聴き込んでみて、その後のクワイエット・ライオットの作品よりも、最初の2枚のほうが音楽的には優れていると思ったよ。

——全米1位を獲得した3rdアルバム『METAL HEALTH〜ランディ・ローズに捧ぐ〜(Metal Health)』よりも、初期2作品のほうが監督の胸に響いたと。特にどの辺りに魅力を感じられましたか?

アンドレ:何よりもミュージシャンシップを感じるし、純粋にいい曲が多いと思う。その後の作品でヒットした曲はカヴァーソング(※スレイド(Slade)のカヴァー「Cum On Feel the Noize」)だからね。商業的に大成功を収めたのは、その後の作品であることは間違いないけれど、最初の2枚のアルバムのほうが内容的に優れているし、もっと評価されてしかるべき作品だよ。

『ランディ・ローズ』©RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

——なるほど。オジー・オズボーン時代のランディ・ローズを知っている人は多いと思うんですが、今回の映画『ランディ・ローズ』を通して、クワイエット・ライオット時代からランディの才能はすでに開花していたんだという事実が映像から伝わってくるところが素晴らしいなと感じました。

アンドレ:僕もそこにグッと来たんだ! だけど、ランディ・ローズのように豊かな才能の持ち主であっても、あの時代にレコード契約を結ぶことは難しかった。厳しい現実を目の当たりにするわけだよね? ミュージシャンとして生きていくことは、それだけ大変なことでもあるんだ。それもこの映画を通してわかることだと思うよ。

——そもそも映画『ランディ・ローズ』の青写真はどういうものだったのでしょう?

アンドレ:まずこの映画のポイントとなったのは、2012年に撮られた大元のドキュメンタリーがあって、そのライセンスをクリアして製作できたことが大きい。だから、クワイエット・ライオット時代のランディ・ローズをフィーチャーすることできたんだ。それから彼がヘビーメタルというジャンルをどう切り開いてきたのか、そして、オジーのソロキャリアにおいてランディがどれほど大きな力をもたらしたのか、それをクローズアップしたかったんだ。

——監督が思うランディ・ローズの魅力というと?

アンドレ:音楽一家に育ったところが彼のプレイスタイルにも大きな影響を与えているはず。出し惜しみせずに人に音楽を教え、キャリアにおいて頂点にいた頃もギターにのめり込んで、勉強することを怠らなかった。ランディ・ローズがヘビーメタルに与えた影響は革命的だったと思うよ。あのギター・サウンドは本当に素晴らしい! 1980年代のヘビーメタルを聴くと、ギターリフや音楽性にしても、クワイエット・ライオットの最初の2枚のアルバムでやったことが大きな影響を与えているんじゃないかな。

『ランディ・ローズ』©RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

『ランディ・ローズ』©RANDY RHOADS: LEGEND, LLC 2022

■『ランディ・ローズ』
 出演・音楽:ランディ・ローズ他
 監督:アンドレ・レリス
 脚本・編集:マイケル・ブルーイニン
配給:アルバトロス・フィルム
後援:文化放送
https://randy-rhoads.jp

Photography Shinpo Kimura

author:

荒金良介

大分県出身の音楽ライター。1999年からフリーのライターとして執筆を始める。ハードロック、ヘヴィメタル、ラウド、パンク、ハードコア、ミクスチャーなど洋邦問わず激しい音楽が好み。

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