香取慎吾の個展会場サウンドデザイン、TR-808特別番組の音楽制作を渋谷慶一郎が担当:連載「MASSIVE LIFE FLOW——渋谷慶一郎がいま考えていること」EXTRA

領域を横断しながら変化し続け、新しい音を紡ぎ続ける稀代の音楽家、渋谷慶一郎。連載「MASSIVE LIFE FLOW」は、そんな渋谷に密着し、その思考の軌跡や、見据える「この先」を探っていく。今回は特別回として、渋谷による最新のクリエイションに触れられる2つのトピックを紹介する。

TOPIC1:香取慎吾個展『WHO AM I』で、10ギガ以上のサウンドファイルと24本のスピーカーを用いたサウンド・インスタレーションを制作

香取慎吾の個展『WHO AM I』が渋谷ヒカリエ、ホールAにて12月7日から開催中だ。歌や演技、ファッションブランドのディレクションと様々な領域に渡り活動を行う香取だが、2018年に仏ルーブル美術館にて自身初の個展『NAKAMA des ARTS』を開催するなどアーティストとしての顔も持ち合わせており、今回で国内2度目の個展開催となる。

本人が「より深く自分を知ってもらいたい」と語る同展では、実に200点もの作品を展示。会場は「闇」と「光」の2つのエリアに分かれており、前者にはこれまで香取が表立っては見せてこなかった、不安や迷い、焦燥などといった感情を想起させるような作品も見られるなど、『WHO AM I』は香取慎吾という表現者を多面的に感じ取ることのできる展示となっている。

そんな同展の音楽・音響を手がけたのが、渋谷慶一郎である。香取と渋谷――。少し意外にも感じられる組み合わせだが、2人はかつて渋谷がパリに滞在していた頃に同地にて知り合って以来の仲で、今回の取り組みは香取本人からの指名を受けて実現したのだという。

本展において渋谷が制作したのは、固定的・静的な楽曲ではなく、10ギガ以上のサウンドファイルと24本のスピーカーを用いた空間的・動的なサウンド・インスタレーション。サウンドファイルは全て渋谷自身がコンピューターやシンセサイザーで生成/プロセッシングしたもので、それらは渋谷のコラボレーターである今井慎太郎が作成したプログラムを介して天井に吊るされたスピーカー群を動き回り、会場に無限変化のサウンドスケープを織りなし続けていく。

このプログラムは1~8個のサウンドファイルを同時再生し、ファイルの選択や再生範囲・ピッチ、サラウンドパンニングには偶然性を介在させているものの、各エリアでどのような傾向のサウンドスケープが形成されるかについては、渋谷のディレクションによりコントロールされているのだという。それを広義の「作曲」と捉えるならば、この会場に鳴り響いているのは、香取の作品世界を受けて渋谷が書き下ろした「サウンドトラック」とも言えるのかもしれない。また、サウンドシステムには渋谷のライブパフォーマンスでのPAを手掛ける鈴木勇気が手掛け、今井慎太郎と共にアンドロイド・オペラのチームが多様なランダムネスを含む本展の音楽を綿密に仕上げていることも特筆に値する。その聴取体験は、来場者の鑑賞体験にこの上ない豊かさと奥行きをもたらすことになるだろう。

香取の個展『WHO AM I』はヒカリエでの会期を終えた後に全国を巡回予定で、会場を移す度、渋谷も現場に入り、ベストな聴取体験を生み出すべくスピーカーやプログラムの調整が行われるとのこと。香取の作品世界を立体的に感じることができ、渋谷のサウンド・インスタレーションとしても貴重な機会。ゆめゆめ見逃すことなきよう、スケジュールをチェックしておきたい。

■『WHO AM I -SHINGO KATORI ART JAPAN TOUR-』
会期:~2023年1月22日 
会場:渋谷ヒカリエ9階 ヒカリエホール ホールA
住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ 9F
時間:12:00〜19:00(月~木 ※最終入場18:30)、12:00〜20:00(金 ※最終入場19:30)、11:00 〜20:00(土 ※最終入場19:30)、11:00 〜18:00(日 ※最終入場17:30)
※2022年12月28日~2023年1月3日は土曜日と同じ開催時間
休日:2023年1月1日
入場料:一般・ ¥2,300(平日)、 ¥2,500(土日祝)/中高生・ ¥1,300(平日)、 ¥1,500(土日祝)
※2022年12月28日 ~ 2023年1月3日は土日祝価格での販売。
オフィシャルサイト:https://www.whoamitour.jp/
※今後の巡回予定など詳細はオフィシャルサイトを確認のこと

サウンドスタッフ:
COMPOSER, SOUND PRODUCER: Keiichiro Shibuya
SOUND PROGRAMMER: Shintaro Imai
SOUND SYSTEM ENGINEER: Yuki Suzuki

TOPIC2:伝説の名リズムマシン「TR-808」特集の番組音楽を渋谷が制作

TR-808は1980年から1982年までの間に日本の楽器メーカー・ローランドが製造・販売したリズムマシン。特色あるアナログサウンドと(当時としては)強力なシーケンス機能を持つ同機は、ジャンルを超え先進的なアーティスト達に愛され、エレクトロ、ヒップホップ、ハウス、R&Bなどの発展に多大な影響をもたらすこととなった。

12/17にNHK総合にて放送される『ノーナレ』では、今でも世界中で愛され続けるそんな伝説の名機を特集。「808 Revolution」と題した同特集には、YMOの作品・ライヴにマニピュレーターとして参加した松武秀樹、エレクトロ、ヒップホップの草分け的存在であるアフリカ・バンバータ、日本テクノ・シーンを牽引し続ける石野卓球、米ビルボードR&B /ヒップホップ部門1位獲得作を手掛けた日本人プロデューサーのTRILL DYNASTY(トリル・ダイナスティ)、そしてTR-808の開発者である菊本忠男が登場し、各々の同機に対する想いや貴重な開発秘話が語られるという。

渋谷はそんな全ミュージックラヴァー必見の特集において番組音楽を担当。かねてよりTR-808を愛用し、時にはピアノや声明を交えながら同機を用いたパフォーマンスも行ってきた渋谷。今回の番組音楽の制作にあたっては、TR-808のみを音源として使用し、同機の内部シーケンサー、リアルタイムのリズムプログラミング、サウンドエディットを駆使して楽曲制作を行ったという。

音楽の未来を切り開き、永遠のスタンダードとなったTR-808。錚々たるクリエイター陣は、その革新性と独自性をいかに語るのか。そして、渋谷はどのようなサウンドを紡ぎあげたのか、心して見届けたい。

■『ノーナレ』最新話「808Revolution」
放送日時:12月17日 23時20分~
出演: 松武秀樹、アフリカ・バンバータ、石野卓球、TRILL DYNASTY、菊本忠男
音楽:渋谷慶一郎
番組サイト:https://www.nhk.jp/p/ts/268WGKYP84/episode/te/QJ4GWZ51R5/

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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