「ヒステリックグラマー」×「キコ・コスタディノフ」の写真集を手掛けたロジー・マークス さまざまな文化が交差する視点とは

ロジー・マークス
1993年生まれ。ロンドンを拠点に活動するフォトグラファー兼ビデオグラファー。日常に起こる出来事をシュールに捉えた写真で注目を集め、ファッションブランドのキャンペーンからアルバムのジャケット写真、ミュージックビデオの撮影まで手掛ける。

「ヒステリックグラマー」と「キコ・コスタディノフ」。先日発表された異色のコラボレーションプロジェクトでは、アパレルやスニーカーといったファッションアイテムのみならず、写真集もリリースされた。「Pretty Hurts(Pretty Hurts)」と名付けられたドキュメンタリータッチの1冊は、イギリスを拠点に活動する29歳のロジー・マークスが撮影したもの。美容医療の現場を接写したセンセーショナルなストーリーで幕を開け、時にユーモアを交えながら語りかけてくる超現実的な写真の背景には、一体どんな思いがあるのだろうか。写真を始める経緯から、今回のコラボレーションの秘話まで、来日した彼女にインタビューした。

ドキュメンタリーフォトとの出合い

まずは、写真を始めることになったきっかけから教えてください。

ロジー・マークス(以下、ロジー):学生時代に休暇でティーンエイジャー達が多く集まるヨーロッパの海沿いの街を訪れました。そこでは、みんな自分の世界にいて、なんとなく彼らの没入感に魅了されてゆるく写真に収めていたんですが、ふと「人々がカメラに意識を向けていないドキュメンタリーフォトを撮りたい」と気付いたんです。その当時は、ファッションが一番好きだと思い込んでいたので、まずはファッションデザインの道に進んでみたものの1年で辞める決断をして。それから、「AnOther Magazine」でスタイリストのインターンをしたんですが、これまたしっくりこなくて(笑)。リースや返却作業でロンドン市内を移動するバスや電車の窓から、退屈しのぎで人間観察をしながら写真をたくさん撮りましたね。それを収録したのが、最初の写真集「08.14-10.19 by Rosie Marks」です。

–そこからどのように写真の仕事を本格始動させたのでしょうか?

ロジー:スタイリストのインターンを辞めたあとは、フォトグラファーでありビデオグラファーのタイロン・ルボンのアシスタントをしました。彼から技術的なことを学ぶと同時に、ファッションの仕事をしながらパーソナルワークも積極的に行なっていくバランス感覚に影響を受けましたね。今回のコラボレーションで写真集をリリースできたのも、「ヒステリックグラマー」のノブ(北村信彦)とタイロンが昔から家族ぐるみで仲が良かったことも関係していると思います。

「キコ・コスタディノフ」と「ヒステリックグラマー」の共同出版で、写真集「Pretty Hurts(Pretty Hurts) 」をリリースしましたね。それについて教えてください。

ロジー:まず、「キコ・コスタディノフ」とプロジェクトについて話したあとに、ノブとZOOMで打ち合わせしました。自由にやっていいって言ってもらえましたが、「ヒステリックグラマー」のブランドコンセプトなどをヒアリングした上で、写真集の軸を考えることにしました。それで、ブランド名にもある“グラマー”について自分なりに分析してみることにしたんです。例えば職業なら、過去にスチュワーデスはグラマラスだと捉えられていたけど、今はそうではないとか。そうやって、さまざまな視点で考察したグラマラスにまつわるシーンを捉えていくことに決めました。

制作期間はどれくらいだったのでしょうか?

ロジー:6ヵ月弱でしょうか。今年の夏に私が撮ったものとアーカイヴをミックスして編集しました。ビューティコンテストの写真は8月後半に撮影したんですが、ギリギリのスケジュールでなんとか間に合って一安心(笑)。「キコ・コスタディノフ」とノブをつないだマイケル・コッペルマンから、「ヒステリックグラマー」が過去に出版したアート本を何冊か見せてもらったんですが、印刷の素晴らしさも魅力的だからどこかで見てほしいですね。今回はスケジュールの都合でイタリアの出版社を利用することになりましたが、次回は日本の印刷会社と仕事がしてみたいです。

物事のプロセスとのギャップに興味をそそられて

では、お気に入りのページをあなたの言葉で解説してもらえますか?

ロジー:ロシアンリップスという唇にヒアルロン酸を注入するビューティトレンドがあるんですが、そのプロセスを撮影したストーリー。イギリスでは、施術の規制がゆるくて、ベッドルームをサロンにしている人もいますよ。最終的にはグラマラスなスタイルが手に入るけど、全く色気のないスペースで施術するというギャップが興味深いんです。写真で施術をしているサロンのオーナーは、もともと「ベイブステーション」というアダルト系テレビ番組の看板ガールだったんです。その当時からInstagramをフォローしていて、いつの間にか転職していたので良いチャンスだと思ってコンタクトしました。

ドレスのスカート部分にたくさんのシャンパングラスをセットした女性の写真も印象的でした。

ロジー:それもすごくお気に入りです。パーティなどでマドンナのモノマネを披露するアーティストで、彼女が構築的なドレスを装着するシーンや、仕事に向かうまでの風景とのギャップに惹かれましたね。

今回のコラボレーションプロジェクトでは、東京の街でヴィジュアル撮影もしていますね。モデルの水原希子さんが、メイクアップをしっかり施したバージョンとナチュラルなバージョンがあり、こちらでも“ある種の二面性”を捉えていますが、意図的なのでしょうか?

ロジー:イギリスには「デイリー・メール」というタブロイド紙があって、誰かが道でコーヒーを飲んでいる写真をたくさん並べたページなどがあります。それらみたいに、パパラッチ風に撮ることに決めていたんですが、希子が撮影に来た時は、すでにウィッグを被ってばっちりメイクが完了した状態でした。今回は、現場のノリでナチュラルな感じも撮ろうってなって、二面性を表現することにしたんです。ナチュラルなヘアメイクでジャンプをしている写真は、ニコール・キッドマンがトム・クルーズとの離婚調停が終了したときのパパラッチ写真をオマージュしました(笑)。

生きているということを教えてくれる場所

さまざまな都市で撮影をしていますが、フォトグラファーとして、東京の街はどんな魅力があると思いますか?

ロジー:荒木経惟や森山大道らのように、東京を捉えた伝説的な写真家の作品は好きですが、具体的にインスパイアされるかといったらどうでしょう。どちらかと言うと、パーソナルな話かもしれません。自分が生きていると実感させてくれる場所であることは確かです。今回のコラボレーションにおける、希子との撮影で、渋谷の知らない道で撮影できたのはすごく新鮮な体験でしたね

「ヒステリックグラマー」といえば、音楽のイメージがあります。あなたもミュージシャンとたびたび仕事をしていますが、今後は音楽関連の仕事も力を入れていくのでしょうか?

ロジー:大好きな音楽をジュアルと組み合わせて表現できることはすごく光栄なことだと思います。いつだって自分が好きな人とイメージをリンクさせるのは嬉しいこと。「C.E.」とTシャツを作ったジョイ・オービソンのアルバム『still slipping vol.1』のプロジェクトでは、よりドキュメンタリー色を強めて撮影したので、彼の家族とも親しくなることができて楽しかったです。今一番好きなアーティストは、ジョックストラップ。いつか、K-POPのビッグなバンドと撮影できたらいいですね。どちらかといえば、彼等が1つのバンドにいて、そこからどうやって有名になっていくかというプロセスへの関心かもしれません。

Photography Anna Miyoshi
Interview & Edit Ayana Takeuchi

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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