サンローランが6都市とコネクトした4日間 東京の「都市とファッション」を写したホンマタカシの話

2022年6月9日、「サンローラン」のクリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロが束ねるアート・プロジェクト「SELF 07」が世界6都市で同時スタートした。円柱に囲まれた吹き抜けのスペースで、各都市1名のフォトグラファーの作品を展示。一周ぐるりと鏡面になっている外観が周囲の景色を映し出し、都市と溶け込むように同化する。

「サンローラン」というブランドは多くを言葉で語ろうとしない一方、アートとのつながりが深く、これまでも多様なフォトグラファー、映画監督やアーティスト達とコラボレーションしてきた。そのルーツをさらに自由に拡張し、多彩なつながりをリアルに可視化させたのが、今回の「SELF 07」だ。建て込みのディテールを都市ごとに最適化させながら、共通事項としていずれもサークルの中央に木が植えられている。まるでそこにあらかじめ根を張っていた木を取り囲むように展示された6都市6様の写真。国、都市、文化、そこに生きる個人とファッション。複雑な個性を内包する「サンローラン」の今が、各都市に生きるフォトグラファー達のまなざしを通して浮かび上がる。

アンソニー・ヴァカレロがキュレーションするアート・プロジェクト「SELF」。森山大道を迎え、パリフォトで作品展示を行った2018年のスタートから7回目を迎える今回は、写真家集団マグナムとのタッグで、東京はホンマタカシがゲストフォトグラファーとして参加している。

渋谷・宮下公園の屋上に広がる芝生ひろばのど真ん中に、東京会場はポップアップ。サークルの裂け目から入って左手、渋谷駅側のウォール全面を覆うのは、カメラオブスキュラで写し取られたビル群のイメージだ。ホンマタカシは活動初期からカメラオブスキュラの技法を実践しており、今回もどこか都内ホテルの一室をカメラに見立てて、窓の外の景色を捉えたようだ。ボタン穴ほどの小さな1点を除き、完全に光を遮った部屋に充満するイメージは、まさに今回の展示と近い見え方なのだろうか、と一瞬想像するが、今回の設営は屋根がないので、カメラオブスキュラの壁の上はスコンと抜けて空。初日はあいにくの雨だったが、最終日には太陽の光が燦々と差し込み、見たことのない景色を立ち上げていた。対面のウォールには、サンローランの服を着た男女のモデル写真と、都市の写真がそれぞれ10枚ずつ、額装なしのランダムなレイアウトで貼られている。

「今しか撮れないもので、先々まで残る写真。それを僕は撮っています」

−−ひと目でホンマさんとわかる、都市とファッションが共存する写真でした。

ホンマタカシ(以下、ホンマ):このプロジェクトの話を最初に頂いた時、まず先方に質問したのは、いつもの僕のスタイルでやっていいのかということ。「もちろん。だから選んだ」といってもらえました。僕が、例えば白バックでロックな写真を撮るのは違うでしょう。その点、森山大道さんの回は、「サンローラン」の世界観とも合っていましたよね。

−−東京の都市をテーマにした撮影は、これまでも多くありましたよね。

ホンマ:そうですね。海外から声がかかる時は、大体「東京のストーリー」を撮ってといわれます。撮るのは、服と着たモデルと都市の写真で、レイアウトも自分で組みます。どのメディア、どのブランドでも、それが僕のスタイルでいつも変わらない。

−−今回、モノクロの写真が混ざっていたのは、ちょっと新鮮に映りました。

ホンマ:そこは新しいアレンジでした。

−−車道や横断歩道、ガードレールや標識など、記号的な要素がいつもより印象的に入り込んでいる印象です。

ホンマ:僕等の行動は、実は東京という街の圧によって、制約され、誘導されている。今回の展示リリースには、そんなコメントを寄せました。

−−パリの空港で撮ったハリー・グリエールの写真も、人の流れを誘導するサインが目立ちました。他都市の写真を、ホンマさんはどうご覧になっていますか。

ホンマ:パリの写真はものすごく作り込んであってすごいと思いました。今回のプロジェクトは、6ヵ所で次々にスタートするっていう同時開催のコンセプトがおもしろいと思う。4日間しかないので、できることならワープして自分も見に行きたい。他都市の写真とミックスして並べて、バーチャルでも見れるようになったら楽しいですね。

−−これぞという決定的瞬間を捉えてきたマグナムの方向性と、写り込んでしまうハプニングの要素も楽しむようなホンマさんの写真のアプローチは一見相いれず、意外な座組みだなと思いました。

ホンマ:どうかな。全く方向性が違うかというと、そうでもない。なぜならファッション写真は、ドキュメンタリーだから。その時の洋服で、その時のモデルを東京で撮る。今しか撮れないもので、先々まで残る写真。それを僕は撮っています。

ホンマタカシ
1991~1992年にかけてロンドンに滞在し、カルチャー誌「i-D」で活躍する。1999年、写真集『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』(光琳社出版)で第24回木村伊兵衛写真賞受賞。2011年から2012年にかけて、個展『ニュー・ドキュメンタリー』を日本国内3ヵ所の美術館で開催。著書に『たのしい写真 よい子のための 写真教室』、近年の作品集に『THE NARCISSISTIC CITY』、『TRAILS』(ともにMACK)がある。また2019年に『Symphony その森の子供 mushrooms from the forest』、『Looking Through – Le Corbusier Windows』を刊行。 現在、東京造形大学大学院客員教授。

author:

合六美和

フリーランスエディター/ライター/ディレクター。2003年よりコレクション取材記者としてキャリアをスタートし、ファッション、ビューティ、カルチャー分野で活動。2019-21年ウェブメディア「The Fashion Post」編集長を経て、2022年独立。編集・執筆・制作・校正を行うエイリ代表。 Instagram:@miwago6

この記事を共有