DYGL・秋山信樹  × アーティスト・Yosuke Tsuchida ——対談後編 2人が考える音楽カルチャーと日本の社会

DYGL(デイグロー)
秋山信樹(Gt./Vo.)、加地洋太朗(Ba.)、下中洋介 (Gt.) 、嘉本康平 (Dr./ Gt.) の4人組。2012年に大学のサークルで結成され、アメリカやイギリスに長期滞在しながら活動を続ける全編英詩のギターロックバンド。アルバート・ハモンドJr.(The Strokes)がプロデュースした1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』(2017) は、期待のインディーロックバンドとして国内外問わず多くのメディアの注目を集めた。2019年に2ndアルバム『Songs of Innocence & Experience』をリリース。約6ヵ月に及ぶ全世界 53 都市を巡るアルバムツアーを遂行し、日本のみならず北京・上海・ニューヨーク公演がチケット完売となった。2021年に3rdアルバム『A DAZE IN A HAZE』を、2022年12月に4thアルバム『Thirst』をリリース。2023年1月20日の東京公演を皮切りに12公演の日本ツアーを敢行。また、3月にはアメリカでのツアーを開催する。
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YOSUKE TSUCHIDA (YOKKE)
京都府生まれ。DYGL、NOT WONK、ミツメなどのCDジャケット・デザイン / アート・ディレクションを中心に、アパレルブランドのグラフィック、ロゴ、WEBデザインなど多数手がける。並行して Faron Square、White Wear などの名義にて音楽活動も行い、10年代初頭はインディ・レーベル Cuz Me Pain を主宰の1人として運営する。USのインディー・レーベル Captured Tracks からリリースした Jesse Ruins のメンバーとして活動ののち、ロックバンド WOOMAN を結成し Kilikilivilla よりアルバム『A NAME』(2019) をリリースするなど現在も精力的に活動中。
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DYGLのニュー・アルバム『Thirst』のリリースを記念した、バンドのフロントマン、秋山信樹とアートワークを担当したデザイナーにしてバンド・WOOMANを率いるYOKKE(ヨッケ)ことYosuke Tsuchidaとの対談。この後編では、まず『Thirst』収録曲のいくつかを2人に解説してもらった。新作における意欲的な挑戦、新たな音楽性が伝わるものになっている。やがて話は、それぞれの音楽活動を通じて社会をどう変えていきたいかという真摯な話題へと。彼らの地に足が着きながらも、ロマンティシズムをないがしろにしない言葉に耳を傾け、どうか胸を打たれてほしい。

前編はこちら

——新作『Thirst』の中でYOKKEさんが特に好きな曲は?

YOKKE:えーっと……まず思い浮かぶのは「I Wish I Could Feel」かな。デモとスタジオ録音されたもので、だいぶ印象が変わったんです。完成した音源を聴いて、ちゃんと正解が見られたというか「こういうことをやりたかったんだ」とわかった。オートチューン自体は前のアルバムでもイントロダクション的な曲で使われていたけど、今回の「I Wish I Could Feel」ではがっつり取り組みながら、トータルでうまくまとめているところが素晴らしい。このアルバムを象徴している1曲のように思います。

——今回、オートチューンはいくつかの曲で使用されていますよね。「Sandalwood」でも印象に残りました。

YOKKE:「Sandalwood」もすごい不思議なテンションの曲ですよね。ギター・ポップっぽくもあるけど、なんなんだろう? という感じ。この曲は、後半の秋山くんのヴォーカルがめちゃくちゃいいですね。枯れていて寂しげで、本当によくあんな声を出せるなと思います。あと、10曲目の「The Philosophy of the Earth」の、同じフレーズを繰り返しながらグルーヴを作っていく展開も新しいなと感じました。

——トラッド〜ネオアコ的な要素の強い「The Philosophy of the Earth」は名曲だと思います。

YOKKE:最後の「Phosphorescent / Never Wait」もすごく好きでした。2曲が繋がっている構成もおもしろいし、初期のDYGLらしさもあって。

秋山信樹(以下、秋山):この曲は結構ハッキリ僕の中でのエモ欲が出てますね(笑)。DYGLなりの解釈を目指して作りました。ちょうどこのコロナの2年間に、友達の影響でエモを再発見する機会があって。かつその流れでライヴを観に行ったANORAK!というバンドがめちゃくちゃに素晴らしくて、彼らからの影響もあると思います。切なさや寂しさを、ギターをかき鳴らしながら大きな声で歌うっていうのは、自分達が表現したいことの1つでもあるなと。この曲はそうやってたくさんのヒントをもらいながら完成させました。だから、DYGLとしての新しさを出せた曲だという手ごたえもあるし、そういう曲にDYGLらしさが残っていると感じてもらえたのも嬉しいです。

YOKKE:確かにプロミス・リングとか、1990年代後半エモの空気も感じるよね。「Salvation」のイントロもエモっぽい。あの曲(「Phosphorescent / Never Wait」)はライブだとすごいんです。スタジオ音源はある程度抑えた感じに仕上げているけど、ライブだとそれが解放されている感じでめちゃくちゃエモい。ライブで聴いてほしい曲ですね。

「好きなメンバーとおもしろい音楽を作れていることはめっちゃ幸せ」

——今回の作品はこれまで以上に音楽性の面で多彩だと感じました。

秋山:音楽的に冒険したり、創作面で遊べたりするようになったのはデカいです。たぶん俺のこだわり方のせいで、このバンドはなかなか自由に音で遊べない時期が長かったので。前作を経て自分も大きく変われたと思うし、人生的にも音楽的にも余裕ができていろんなことが楽しめるようになった。時々、こんなに穏やかな気持ちで、好きなメンバーとおもしろい音楽を作れていることを、めっちゃ幸せに思います。

YOKKE:ノイズを入れた曲なんかもあるけれど、「入れました!」という感じじゃなく、ちゃんと収まっているのがいいよね。メンバーだけの制作でそれができているのに成長を感じました。だから、バンドとしてすごくガチっとしてきたっていうかね。あと、現代的なサウンドではあるけど、トレンドに寄った感じがしない。DYGLの音楽ってすごく普遍的だと思うんです。僕が彼らのデザインを手掛ける時も、あまり時代性を帯びないものにしたいとは思っていて、特定の年代を意識させないものにしています。50年後の「ディスクユニオン」で見つけても、かっこいいと思えるものにしようって。

秋山:そうですね。「普遍性」や「タイムレス」という言葉は、1stアルバムの頃にすごく意識していたし、インタビューとかでもよく言及していたと思います。それは今も変わっていないんですけど、ただ最近はちょっと違う考え——100年後に忘れられてもいいんじゃないか——というのも思うようになって。実際、今から100年前の音楽ってごく一部しか残ってないと思うんです。しかも、日常的に触れることより、ジョージ・ガーシュインとかくらいすごい人でも100年後の今では実感がないというか、なじみのある人以外からしたら「誰?」て感じだろうし。教科書で学ぶ、みたいな距離感。もちろんビートルズみたいに感動そのままに生き残る音楽になったらそれもいいなとは思うけれど、今生きている自分にとって一番大事なのは、いまここで繋がれている人達との関係や、今どういう生き方をしているのかというスピリットだと思うんです。自分の名前や音楽そのものは残らなくても、精神性は残せるかもしれない。自分やバンドの名前……秋山とかDYGLとかは残らなくても、人と向き合った記憶とかコミュニティーで育まれた感覚とかは、目に見えない形で受け継がれていくのかもしれない。最近はそういうことを考えています。

——その通りだと思います。

秋山:あと、トレンドに向き合いまくって、めちゃくちゃ自分勝手に自分の感情というものに向き合った表現、ある種「普遍性」を目指すのとは真逆を行くもののほうが、その瞬間のリアルになるから、ある意味一番普遍的なものとして受け継がれることもあると思う。だから、普遍性については今ももちろん大事にしているんですけど、昔とはアプローチの仕方が変わってきたように思います。

YOKKE:いまの「リアル」という話で言うと、誠実さっていうか、嘘臭くないものにしたいという気持ちはあります。やっぱりストーリーは必要だし、ちゃんと地続きなものになっているかどうかをすごく考えている。そういう点でも、DYGLとは一緒に作っているという感覚で作業できるので、やりやすくて。

秋山:これまでアートワークに関しても音楽と同じぐらい興味を持って接してきたので、DYGLに関わるものはすべて自分達もちゃんと関わりながら作り上げたいんです。YOKKEさんが、そうやって相談しながら進めさせてくださっているのは本当にありがたいですよ。

YOKKE:今回は、考える段階から一緒にやったので、共同ディレクションというクレジットにしているしね。深いところで一緒に作ったという気持ちがあります。

——秋山さんの子供時代からの友人である画家、Tamao Shiraiさんの油絵をアートワークに使った理由は前編でも軽く語ってくれていましたが、Shiraiさんの絵に惹かれたポイントは?

YOKKE:最初に、Thirst=「渇き」というキーワードがあったんだよね。秋山くんとしては、今の時代のムード——コロナがあったり戦争があったりと、みんなが自由でなかったり、何かを我慢してたりする状況を「渇き」とたとえたんだと思う。潤う前の状態、みたいにも言っていたよね?

秋山:渇きという言葉の満ち足りていないというニュアンス自体はネガティブなものだけど、足りないと感じたり、欲しいと願ったりすることは、生きたいという気持ちと同義     でもあると思うんです。ゆえにすごくポジティブな気持ち、諦めていないという意味でもある。本当にもう干乾びるくらい絶望していたら、「渇いている」とさえ考えられないと思うし。『Thirst』というタイトルや各曲にもそうした両義性があるし、それをアートワークで反映したいとなった時、画面いっぱいにいろんな要素があるものがいいなとなったんです。そこで、全員でいろいろとアイデアを出し合っていく中で、僕がジャケットに使った彼女の絵を見つけて。これがいいんじゃないかなって。

YOKKE:最初はShiraiさんに新作を描いてもらおうとも思ったんだけど、今の絵を当てはめてみたら、もうこれしかないなとなったんだよね。この絵は、アルバムの内容ともすごくリンクしていると思う。カラフルでカオティックだけど、人の顔っぽいモティーフもあって人間味も感じるし、ちょっと物悲しさもある。あと少し褪せている感じも「渇き」を表現しているなって。あと、この絵は明るくも暗くもないと思うんです。その感じも『Thirst』にマッチしているなと思う。

東京も変な無駄が許されるようになればいい

——最後に、おふたりそれぞれ活動を通して、音楽カルチャーをどういうふうにしていきたいかを教えてください。

秋山:僕らはいわゆるインディー・ロックと言われる音楽をやっていて、未だにリスナーとしてもそういうサウンドが好きなんですけど、J-PopとかJ-Rockも全く嫌いじゃないんです。だから、メジャーなシーンもなくなってほしくない。いろんな人といろんな音楽が共存していることが一番ヘルシーだと思ってます。でも、日本では普通に生活していて、いろいろなタイプの音楽や表現に出会うきっかけが少ない気がしますね。広告代理店の手の入った、わかりやすいものばかり。東京ですら音楽やアートと出会うキッカケなしに大人になる人って結構いる感じがあって、地方だと余計にそうなんじゃないかな。単純に家の近所にレコード屋さんがなかったり、ライブハウスがなかったりすることで、自分に必要な音楽やアートと出会えなかった人、たくさんいる気がします。だからすべての地域に文化的な場所があったり、コミュニティがあったりってするってまじで大事だと思う。もし何かの機会にインディーロックに 触れていたら誰よりもKing Kruleを好きになっていたような人が、そうならないまま自分の可能性に気づかず人生を過ごす、みたいなことって少なくないように感じていて。

——確かに。僕は家でよく英BBCのラジオを聴いているんですけど、誰も知らないような1980年代にポスト・パンクのスタジオ・ライブの音源が平気で流れたりするんです。そういうものに息を吸うように触れていたら、音楽への感性が自然と磨かれていくよな、そりゃあイギリスからはいつもいい音楽が出てくるよな、と思ったりします。

秋山:こないだ来日していたカナダのクラック・クラウドとかも、日本でもすでに一部の人にはすごく人気が高いと思うけれど、あれだけ素晴らしいクオリティを考えると、出会うことができたら感動する人は実際もっと多いと思う。できることなら、1億人全員に聴かせてみたいです(笑)。僕としては、もちろん自分の音楽活動自体は大切にしつつ、その上で音楽やアートの場所作りについても、考えていきたいですね。 欧米の音楽がすごいっていう話は、バンド1つ1つのすごさだけじゃなく、そういう音楽を輩出し続けられるシステムとか精神性の話でもあるので。学ぶことは本当にたくさんあります。そして今、アジアを見るとそういうエネルギーのあるコミュニティがたくさんある。一緒に何かできたら楽しそうですよね。     

YOKKE:それはずっと言っているよね。僕に関してはやや個人的な話になるのですが、インディのスタンスで音楽を一生続けられるかどうかの実験中といった感じです。昨年40歳になって、一昨年に娘が産まれたんですけど、仕事をしつつ子どもを育てながら音楽活動を続けるのは本当に大変だなと痛感しています。亮太くん(インタビュアー)はわかると思うけど、10年前に周りでやっていた人はもうほぼいないじゃない? それは仕方がないことだと思うけど、やっぱり既存の仕組みだったり、環境だったりもでかいとは思うんですよ。そこでクリエイティブが失われていくってのは本当にあるし、モチベーションが下がって、もしアイデアが浮かんでも別にアウトプットする必要はないかな、となる人はめちゃめちゃ多いと思う。そうならないようにするには、どうすればいいんだろう? とはすごく考えていて。

秋山:上の世代にいいモデルがいるかどうかで、若者の価値観も変わるかもしれませんね。

YOKKE:さらに50代になると、第一線でやられている方はもちろんいるけれど、インディペンデントでバンドを続けているという人はもっと少なくなりますよね。辞めちゃうのは単純に稼げなかったりして、周囲から反対されたりするうちにその活動を無駄だと捉えてしまうからだと思うんです。でも音楽活動があるから仕事を続けるモチベーションが維持できたり、個人の生活が豊かなものになるなら、全く無駄ではないですよね。だから何とかしてやり続けられたらいいのになって。周りに迷惑をかけてはいけない前提ですけど。音楽に限らず何かを始めたり行動したりしようとした時にマネタイズ以外の道も選べるような、もっと気軽に息ができる・表現ができる社会であってほしいなと思いますね。と、ここで言っているだけでは何も始まらないので、まずは周りのミュージシャンやバンドを自身のバンド・レーベルとは別で自分なりの手段で支援できるような、何かしらの動きができないか企画・検討しているところです。

——日本だと多くの人にとって音楽はみずから表現するものではなくて、受け手として受け取るものという意識が強いですよね。でも、バンドやったり曲を作ったりすることはもちろん、聴いたり歌ったり踊ったりすること自体が主体性のある営みなわけで。

秋山:海外にも良い面と悪い面いろいろありますが、やっぱりロンドンやLAのすごかったのは街中にアマチュアの音楽が溶け込んでることだった気がします。懐が深いというか。お酒を飲みにパブに入ったら、そこでは組み立てのバンドがライブをやってて、みたいな。 最高ですよね、リラックスしてて。別に楽しいから演奏しているだけのバンドもいれば、野心満々でやってる人もいる。いいバンドだったら何かに引っかかって売れるかもしれないし、そうじゃなくても友達や知らん人が自分の曲で踊ってくれたその一晩があれば、人生が少し豊かになりますよね。そういうランダムさとカジュアルさの中にある夢と浪漫みたいなものが、日常生活の中に確かに存在している環境には憧れます。

でも、それを日本で特に東京で作る難しさも感じていて。東京ってやっぱり地価が高くて人口も多く、「無駄」が許されない街になっている気がするんです。町が消費ベースでデザインされてるから、「用事が終わったら家に帰ってください。」っていう街のスタンスがひしひしと伝わってくる。ホームレスの人の居場所もどんどん減らされてしまってますよね、渋谷とか見てると。用のない人は帰ってください、というのは東京の姿勢だと思う。あと、日本はプロと素人の境目にやたら厳しいのもあるかもですね、海外のパブの話とか考えると。「自称ミュージシャン」を笑う感じとかね。 ロンドンやLAにもクソな部分はたくさんありましたが、大きい街なのに変な無駄があったりするのはよかったですね。昼間っからふらーっとしてる大人も結構いたりとか。あと素人音楽や素人芸術にもちゃんと良さを見出せる価値観の人達がいる。それがその社会のすごさだと思うし、そういう余地や隙間があってこそ、いい文化が生まれやすい気がします。東京には難しさを感じつつ、自分にとって大切な街でもあるので、自分達がやりたいことをここでどう表現できるかは日々考えていますね。

DYGL JAPAN TOUR 2023

JAPAN TOUR 2023
1/20 Fri 東京・O-EAST
1/21 Sat 京都・METRO
1/22 Sun 神戸・Varit
1/24 Tue 高松・TOONICE
1/25 Wed 岡山・EBISU YA PRO
1/27 Fri 広島・セカンドクラッチ
1/28 Sat 熊本・NAVARO
1/29 Sun 福岡・BEATSTATION
2/3 Fri 仙台・RENSA
2/5 Sun 札幌・SPiCE
2/9 Thu 名古屋・Electric Lady Land
2/10 Fri 大阪・CLUB QUATTRO
https://eplus.jp/sf/word/0000064909

DYGL 4thアルバム『Thirst』

■DYGL 4thアルバム『Thirst』
価格:¥2,750
1.Your Life
2.Under My Skin
3.I Wish I Could Feel 
4.Road
5.Sandalwood
6.Loaded Gun
7.Salvation
8.Dazzling
9.Euphoria
10.The Philosophy of the Earth
11.Phosphorescent / Never Wait
https://dygl.lnk.to/ThirstID

Photography Hironori Sakunaga

author:

田中亮太

1981年生まれ、福岡育ち。京都でのレコード店勤務を経て、2015年に上京。音楽ライター/編集者としてさまざまな媒体で執筆と記事作成を行っている。サッカー好き。 Twitter:@gagalin

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