北海道・苫小牧を拠点に活動を続ける3ピースバンド、NOT WONK(ノット・ウォンク)。加藤修平(Vo.&Gt.)を中心に2010年に結成。2015年に1stアルバム『Laughing Nerds And A Wallflower』をリリース以降、そのライヴパフォーマンスでロックファンのみならず、多くのミュージシャンからも支持を集める。
今年1月27日には4枚目となるアルバム『dimen(ダイメン)』をリリース。これまでのUSインディー、メロディック、パンク、ギター・ポップ等をクロスオーバーさせてきた彼らの新たな実験的な試みが感じられる作品となった。
今回、NOT WONKですべての曲の作詞・作曲を手掛ける加藤修平のインタビューを前編と後編の2回に分けてお届けする。前編では、アルバム『dimen』についての話がメインだったが、後編はバンド、そして地元である苫小牧での活動について聞いた。
苫小牧に住むのは、音楽制作が第一だから
――バンドメンバーとはどれくらいの頻度で会っていますか?
加藤修平(以下、加藤):週に1度、リハで会っていますね。週に1回か、隔週くらいで、スタッフ含めたミーティングがもう1日くらいあります。
――けっこう頻繁に会っているんですね。メンバーは全員、今後も苫小牧拠点で活動を続けるんでしょうか?
加藤:そうですね。ただ、今後もずっと苫小牧から出ないかというと、少なくとも僕に関しては、そこまで意固地になっているつもりもなくて。他の2人はわからないですけど、僕は東京のほうがいいとなったらスパっと出てくる気もします。今のところは、東京に住むよりも苫小牧を拠点にしているほうが、メリットがあるという感じがするんです。人と会うんだったら「東京に来ないと」とは思いますけど、僕は音楽を作ることが生活のメインを占めていますからね。作ることだけ考えたら、間違いなく北海道のほうがいいんですよ。やっぱり住みやすいです。僕らの場合、地元のライヴハウスにアンプとか大量に持っていって、機材をまるまる置きっぱなしで占拠してしまっていることもあって(笑)。
――それはすごい話ですね、ふつうそんなことあるのかな(笑)ライヴハウスの一角にNOT WONKゾーンがあるということですよね。
加藤:そうですね。同じことを東京でやったら、いったいいくら掛かるんだろうなと思います。「ELLCUBE」というライヴハウスなんですけど、僕はそこにいつもいるんです。ブースとコントロールルームがあって録音もできるんです。1時間300円くらい払って借りて、そこでミックスしています。
この間、ELLCUBEで働いているエンジニアの先輩に相談しながらライヴ音源のミックスしたりしました。車でライヴハウスまで10分くらいなので、パソコンを車に積んで持っていって。「今日夜行ってもいいですか?」みたいな感じで作業をするというのは、かなりすごいことなんじゃないかなと思います(笑)。
――メリットがあるという感じなんですね。
加藤:そうです。デメリットがないというよりは、メリットがありますね。もし、みんな僕と同じ環境でできるんだったら、楽だと思いますね。機材の運搬のことを考えないで、好きな時にスタジオ代300円を払って使って。
――300円でコントロールルーム借りるってすごい話ですよね(笑)。
加藤:値上げして300円なんですよ(笑)。
――良い音楽を作っていれば、東京じゃなくて、苫小牧でいいんだというのは、ローカルで活動しているバンドマンに勇気を与えるかもしれませんね。
加藤:東京に来るということが最初のうちは結構大変だったんですけど、最近は、東京は東京でいいなと思う部分が大きくて。この間、計算したんですけど、苫小牧から新千歳まで車で行って、1時間前に空港に着いて、飛行機に乗って、渋谷のライヴ会場まで、ドアtoドアで5時間くらいなんですよ。関西で活動していて、車に乗って行くのと大変さがそんなに変わらない気がして。飛行機も早くとれば、8000円で行けるし。苫小牧は何もないといえど、ライヴハウスがあって、スタジオがあって、何の気なしに音楽がやれる環境があるというのは、かなり恵まれた環境だなと思います。
東京に来ればレーベルがあって、手伝ってくれるスタッフがいて、今回であればavexという資本主がいて、そのお金を使って移動してというのができる。僕が今も苫小牧を拠点に気持ちよく活動できているのは、それらすべてのパーツがそろっているからということがもちろんありますけど。そういう風にできるんだったら、今の形がいいなと思って。
「苫小牧を代表する」っていう気持ちはない
――苫小牧の音楽シーンについて教えてください。
加藤:「CLUB ROOTS」があって、2年くらい前に「CLUB ROOTS」の斜向かいに、「bar BASE」というバーができたんですよね。一応、Produced by 「CLUB ROOTS」のバーで、「CLUB ROOTS」のラウンジとしての「bar BASE」たいな。そこには30代以上のクラブに通っている人達がいて。ちょっと離れたところに「ELLCUBE」があって、そこにはNOT WONKがいて、後輩のバンドがいてみたいな感じで。僕らも苫小牧でライヴするのは年に1回とかなんで、シーン的なところはそもそも存在していないかも……。昔はあったんですけど、僕がそのシーンにいるバンドをたいして良いと思っていなくても、地理的に近いだけで仲良くしないといけないのは嫌だったので、そんなに一緒にやりませんでした。苫小牧にいる時は、自分らを一個のバンドとしてパッケージするみたいな意識でいたいんですよね。シーンみたいな横のつながりは希薄で、いつも一緒にいるやつとかとは一緒に飲んだり、遊んだりしますけど、共演するより一緒に遊んでいる時間のほうが長いかもしれないですね。
――苫小牧くらいなら何かしらのシーンがあるかなと思ったんですが、そうでもないんですね。あと、加藤さんが苫小牧についてけっこうドライな感じなのが良い意味で意外でした。苫小牧よりも札幌にいるバンドほうが気持ち的に近いとかそういうのはありますか?
加藤:最近は札幌に行っても、一緒にやるバンドはthe hatchとDischarming manくらいですかね。2つとも先輩バンドですけど、かわいがっていてくれていますね。こうやって話していると、僕らが北海道にいるのって、単純にそこで音楽を作っているというだけなのかもしれないですね。もしかしたら、北海道の人が一番NOT WONKというバンドがどういうものなのかわかっていないかもしれませんね。
――NOT WONKはavexと契約して音楽制作をしているわけですが、地理的に遠いことでavexのスタッフとのコミュニケーションで困ったことはないですか?
加藤:コミュニケーションをするということだけでいうと、困ってないですね。メジャー・レーベルはCDを作る会社という認識は本人達にもあるし、最初の話の段階で、「基本的に中身に関しては、加藤くんの好きなようにやって大丈夫です」という話でしたし、僕もそのつもりで契約したので。でも、個人的には、共同制作者的な感じで、誰かと意見をぶつけ合いながら何かを作ったりするということをavexの方とやってみたいと思うことはあります。自分が好きなようにやるのはもちろんありがたいことなんですけど、お互い言いたいことを言いあって、良いアイデアを作るのが人と関わる醍醐味かなと思います。
ソロの活動のSADFRANKとNOT WONKの違い
――『Down the Valley』や『dimen』でかなりプロダクションについて勉強したと思うんですけど、将来的にはプロデューサーもやってみたいという気持ちがあったりしますか?
加藤:やるとおもしろそうだなとは思いますね。ただ、今度、地元のバンドの曲をミックスすることになっているんですよ。あと、まだ発表していないんですけど、この間とあるバンドにギターで参加して、サウンド・プロデュース的なことを少しだけ手伝ってきました。それと、去年自分のソロの活動(SADFRANK)もやるようになって。リーバイスのCMソングを手掛けたんですけど、あれが結構楽しかったんですよね。オーダーがあって作るのもいいなと。僕の頭の中にある楽曲のアイデアは、自分のバンドではやらないこともたくさんあるので、そのネタを無責任に使える感じがいいなと思って(笑)。
――SADFRANKに関してはNOT WONKとの住み分けが気になっていましたんですよね。
加藤:SADFRANKに関しては、日本語で歌おうと思っています。そうなってくると、NOT WONKでOKだったサウンドが、こちらでは全然OKじゃなくなっていくことがすごくありますね。逆もしかりで、NOT WONKで使えなかったものが、こっちだったらOKだなということもたくさんあります。だから、片方で生まれたアイデアがもう片方に流出する感じはないですね。
――日本ではASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤さんなんかもそうですが、ロックバンドとソロ・プロジェクトの両方をやっている人がたくさんいますけど、やっぱり全然違うものとしてあるんですね。って当たり前のことを言ってますけど(笑)。
加藤:NOT WONKでやる時はメンバーの顔が出てくるというか。誰が演奏するかということがはっきりしているので。おのずとちょっとした制限が外側でかかっていて、その制限の中で作っているという感じがします。逆にソロのほうは、誰が演奏するとか決まっていないので、制限が果てしなすぎて、逆に手がつけられないという感じがありますね。
だからSADFRANKが形になるのは、もう少し時間が掛かるだろうなという感じがしていますね。
――最後に、コロナ禍によって音楽に対する考えが変わった部分はあるかを聞かせてください。
加藤:コロナ禍になって、初めて8月にライヴをしたんですけど、前に比べてライヴをすることが楽しくなりましたね。これまではライヴする時は鼻息を荒くして、よしという感じで気持ちを作っていたんですけど。でも今は、ステージに単純に音楽を聴きに行ったり、観たり、演奏したりすることが純粋にめちゃくちゃ楽しみになっているというのはありますね。追われるものが全くなくなっちゃったというか。急いでもどうしようもない状況になったじゃないですか。コロナになってから、理由はさまざまですが今までのような活動ができなくなってモチベーションが続かずに脱退や解散に至るという話はよくありましたよね。僕はそういうタイプでもなかったんだなと。スタジオに入って、3人で古い曲を演奏しているだけでも全然楽しいなと思いながらやっているので、それがわかって良かったと思いますね。