ファーストスキンブランド「ドロウ」ディレクターの須佐京香が語るランジェリーの可能性

昨年、ヘア&メイクアップアーティストの須佐京香が立ち上げた新ブランド、「ドロウ(draw)」が、2月20日にECサイトをオープンし、本格的に始動した。誰かのためでなく、自分のために着て、テンションが上がるランジェリーが作りたい。そんな想いがきっかけとなった「ドロウ」のランジェリーは、飾らないありのままの体のラインを美しく描き、素朴ながらもいわゆるな下着の概念ではなくファーストスキンアイテムとしての存在感が際立つ。「ドロウ」の誕生からヘアメイクを通して“好き”を形にしていく須佐のこれまでとこれからについて語ってもらった。

須佐京香
1996年東京都生まれ。2年間のアシスタント経験を経て2022年にヘア&メイクアップアーティストとして独立。また、同年にアクセサリーブランド「ウィム(whim)」を立ち上げる。2022年に「ウィム」を譲渡し、ランジェリーブランド「ドロウ」をスタート。ヘア&メイクアップアーティストとブランドディレクターとして多岐にわたって活動している。

誰かのためではなく、自分のテンションが上がる下着を作りたい

——「ドロウ」について教えてください。名前の由来やブランド設立のきっかけはなんだったんでしょうか。

須佐京香(以下、須佐):ブランド名の由来は、英語で“draw”の描くということと、“drawer”の引き出しという意味をかけているんです。自分のブランドを立ち上げようと思っていた時は、自分らしく生きたいけど自分らしさってなんだろうって悩んでいた時期でもあって。だから、身に着けてくれる人達へ、「ありのままでいい」というメッセージがあります。あと、描くという意味には下着が自分のラインを描くもの、っていう意味も込めています。“drawer”、引き出しというのは、引き出しに入ったランジェリー、という意味があったり。

——いろんな言葉の意味が合わさってるんですね。

須佐:そうなんです(笑)。ランジェリーを始めたいと思ったきっかけとしては、下着が昔から大好きなことが1番にある一方で、日本人の下着に対して、恋人のため、エロく見せるために身に着けるものとか、パットで形を盛らないといけない、みたいなイメージが私の中にはあって。そうではなくて、もっとナチュラルに自分らしく身に着けられる下着を作りたいという思いから、次第に海外のナチュラルな形の下着を買うようになっていったんです。NYやニュージーランドのブランドが特に好きですが、海外の配送料がめちゃくちゃ高い。だから、自分でブランドを作りたいと思ったんです。

——なるほど。京香さんが作る下着にはどんなイメージやこだわりが込められているのでしょうか。

須佐:クリエイティヴの大前提にあるのは「自分が欲しいかどうか」ということ。もちろん誰かのために着るのもいいけど、それよりも自分のテンションが上がるもの、ハッピーになれるものを身に着けてほしいと思います。あと、ワイヤーではなくゴムを使っているので、自然で開放的に着られるし、なんなら洋服から見えちゃってもいい。下着はファッションの一部にもなれるんじゃないかと思っていて、見えてもかわいいように、肩紐も細くしています。形や色はベーシックなものが多いですが、たまにシースルーやレースの生地を使って、露骨な色っぽさよりも、自然と気分が上がるような思いを込めて作っています。

——シンプルながら、こだわりがたくさん詰まっているんですね。ワイヤーがないから、いろんな体形の人が身に着けられそうです。

須佐:体形に縛られず、自分の体を愛してほしいというのがブランドのテーマでもあって。日本のブラジャーは、アンダーとバストで細かなサイズに分かれていて、正確に自分のサイズに合わせていく感じが多いじゃないですか。でも、私がオンラインで海外のものを買う時は、このブラを着けたいから、ちょっと胸がはみ出てもいい、くらいの勢いでサイズをラフに選ぶことが多いです(笑)。サイズとか形で合わせていくのではなく、むしろどんな胸の形でも、それぞれの特徴が魅力的に見えるようなブランドでありたいから、サイズはあえて2展開に絞ったんです。例えば、胸が大きい人が「ドロウ」のブラを着けると胸元が開いてその感じもとってもかわいいし、小さい人だと布が重なって洋服みたいに着けられます。これもアンダーがゴムだからこそ叶うこと。今はXLサイズ以上の方達へのアプローチを研究中。今よりもっと幅広く、自分の胸本来の形の美しさを楽しめるブランドにしていけたらいいなと思います。

——「ドロウ」は素材にもこだわりがあるとか。

須佐:当初、自然繊維にこだわって作ったわけではなかったんですけど、結果的に生地選びの時に気持ちのいいものがすべて自然繊維だったんですよね。それ以来、「ドロウ」はオーガニックコットンやシルクの素材感を大事にしています。身に着けていて負荷がなく、なんなら着けているかもわかんないような着け心地の良さを追求しています。「ドロウ」は肌に1番近い、ファーストスキンというコンセプトがあります。下着の他にアクセサリーも作ってるんですけど、これも肌に直に触れるものだからこそ、下着と同じように肌への負荷が少なく、ずっと付けられるものにしたいので、シルバー925や純金にこだわっています。

——アクセサリーは「ウィム」でも手掛けられていましたよね。

須佐:もともとアルバイトをしながら、メイクのアシスタントをしていたんですが、朝早くから夕方までメイクの仕事、そのあとそのままアルバイトみたいな、とにかくすごいハードワークでした。結構しんどかったんですけど、その後コロナになって、バイトもできなくなってアシスタント一本になりました。そうすると、貯金が減る一方になっちゃって。このままではやばいと思って友人に呼びかけて始めたのが、ビーズブランドの「ウィム」だったんです。その頃の韓国がビーズブームで、日本にはあまりブランドがなかったこともあってか、2020年の5月に始めてから一気にバズったんです。気が付いたら百貨店からのオファーや、ブランドからコラボのリクエストが来るようになっていました。

今まで、デザイナーの仕事をしたことがなかったんですけど、「ウィム」をきっかけに自分の表現をする場所がメイク以外にもあると気が付いたんです。結局、2022年に「ウィム」は他の会社に権利譲渡して、その時の資金で「ドロウ」を立ち上げました。嬉しいことに、今も「ウィム」のディレクターは継続しています。

「ドロウ」初の展示会の裏側

——去年行われた展示会は大盛況でしたよね。展示会について聞かせてください。

須佐:実は初めての展示会はハプニングだらけで大変な思いをしました(笑)。まず、8月に開催予定だったんですが、やりとりをしていた工場が使えなくなったことが直前に発覚して、当初予定していた販売会を10月まで引き伸ばして展示会として行うことになりました。今回は「ドロウ」だけではなく、いろんなアーティストやブランドの作品も展示させていただいたんですが、その人達にも延期のお願いをしたり、ゼロから工場を探したり、さまざまな挫折を乗り越えて初めてのお披露目の場になりました。

——そんな裏側が……。実際伺った時は、そんなことを感じさせない素敵な空間でした。今回ご一緒されたアーティストはどういう経緯で集まったんでしょうか。

須佐:ありがとうございます。展示会はドローイングアーティストの佐々木良空ちゃんの作品や陶芸家Aya Courvoisierさんによる陶器、inapotによるお花や緑の装飾で「ドロウ」の世界観を体感できる空間にしました。どの作家も個人的に好きな方々ばかりで、あそこにあれば素敵だろうなとか「ドロウ」に合いそうだなと思いながらアプローチしました。みんな、快く受け入れてくれて嬉しかったです。

もう1つ印象に残るキャッチーさが欲しくて、ボーイフレンドでネオンアーティストのWakuさんにお願いして、作品を会場の真ん中に飾りました。彼や友達の他にも、これまで個人的な付き合いがない人まで、自分がこの展示で協力してくれた人達のファンだったことから始まっているので、“愛”に溢れた空間だったと思います。

——なるほど。どの作品も「ドロウ」の世界観とマッチしていて、一体感がありましたね。工場の問題の他にも、苦労したエピソードはありますか。

須佐:今はみなみちゃんとマドレーヌちゃんという2人がアシスタントをしてくれてるんですけど、当時は誰もいなかったから、下着作りもすべてを1人でこなさないといけなかったのが大変でしたね。しかも工場の変更もあって、いつ展示会をするかも下着次第になってしまったので関係者に指示も出せなかったり、申し訳ない思いでした。

自分の中にあるイメージをどうヴィジュアル化するかも課題でしたね。下着をより良く見せるために、単にラックに掛けるだけではダメだし、新しい見せ方を考えていました。結果、展示作品に合わせて什器を用意して、下着も作品のようにして見せることで、満足のいく仕上がりになりました。

——そうなんですね。大変そうでしたが、それでもまたやりたいですか?

須佐:やりたい! これからは新シーズンごとに開催したいですね。ECだと顧客の顔が見えないけど、ポップアップでは顧客が手に取って見てる姿や反応をより近くで見られることが嬉しくて。これからもこういう機会を半年に1回は作っていきたいです。

——ヴィジュアルについても聞かせてください。「ドロウ」のイメージはどうやってできあがったのでしょうか。

須佐:新作は色でテーマを決めていて、東京に海外の下着ブランドをたくさん扱っている店があるので頻繁に通ってリサーチしながら、次のシーズンのヴィジュアルや撮影の方法等ざっくりしたことを話します。それからアシスタントの2人と一緒に、みんなでアイデアを持ち寄って壁に貼っていくようにしています。例えば、来年はスイムウェアも発表する予定ですけど、それもみんなでアイデアを出し合ってる感じ。

ヘア&メイクアップアーティストとブランドのディレクターとしてのワークスタイル

——京香さんは、ヘア&メイクアップアーティストも「ドロウ」もどちらもメインにしている印象があります。仕事の軸は何ですか?

須佐:自分の好きを貫くことですね。以前、ヘアメイクのアシスタントをしながら「ウィム」をしている時に「ヘアメイク1本じゃないの?」とか「二足のわらじなの?」って言われることがよくありました。でも、複数の仕事を持つ考え方は良いと思います。好きなものが3つあるなら、すべて仕事にしたらいいと思いますし、私はそうありたいです。お金は後からついてくるという思いから、とりあえず好きなことを一生懸命追い続けた結果、気が付いたらヘアメイクをしながら自分のブランドも持っていたという感じです。だから、自分の好きなことを続けているという意識が1番強いんです。

——今後の新しい挑戦や夢について聞かせてください。

須佐:ヘアメイクの仕事は誰かを美しくするためなので裏方ですが、「ドロウ」は自分を思いきり表現できて発信できる場所と捉えています。その中でも、アートディレクターという仕事のおもしろさに惹かれているので、アートディレクションの仕事を頑張りたいです。以前、「ヘンリー(HENRY)」というヘアケアブランドのパッケージやヴィジュアルデザインを手掛けていたんです。具体的には、ブランドイメージのためのモデル選定、撮影を含めたヴィジュアル提案なのですが、すごく楽しかった。みんなに驚いてもらえるようなものづくりができるように、これからも丁寧に仕事をしたいです。あとはヘア&メイクアップアーティストでもあるので、自分のコスメラインをプロデュースしたいですね。

それに28歳までにパリかロンドンに住みたいです。どちらにも行ったことがなくて、憧れの街です。想像だけがどんどん大きくなっています。昔から彼と一緒に考えている夢でもあるので一緒に実現させたいです。それまでに「ドロウ」をどれだけ大きくさせられるかが重要だと思っています。

2月20日にECでの販売がスタートして5月に新作が出るのですが、今度は男性も着られるユニセックスな下着も発表します。伸縮性の高いゴムを使用しているので男女で着られて、女性用にはブラジャーとの展開も考えています。

author:

上野 文

1998年生まれ、兵庫県神戸市出身。フリーランスライター・フォトグラファーとしてカルチャーを中心とした執筆や撮影を行う。また、2022年にはイギリス・ロンドンにて収めた写真をもとに、初の個展、「A LIVES」を開催。 Instagram:@ayascreams

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