「ハッピーでなければ続かない」 ヴィーガンコスメ「アンナチュラリーナチュラル」が目指すブランドの形

「アンナチュラリーナチュラル」は、ファッションンブランド「セルフ ポートレート」の創業メンバーである平野ジェマ愛がスタートしたスキンケアブランドだ。平野の華麗な経歴と、製品が100%ヴィーガン対応かつ環境配慮もなされたクリーンビューティブランドである点が注目を浴び、国内でも多数のメディアで取り上げられた。しかし、実際にブランドが発信したいメッセージは少し異なるところにある。

健やかな肌に導く“アンナチュラルな成分

平野は15歳でイギリスに留学。物心ついた頃から夢だったデザイナーの夢を追いかけ、高校、大学とイギリスで過ごした。スキンケア製品を作りたいと思ったのは「セルフ ポートレート」立ち上げよりずっと前、学生時代に自身の友人に貸した化粧水がきっかけだったという。

「友人が敏感肌で化粧水が肌に合わず、肌荒れを引き起こしてしまったんです。その経験がショックで、肌にやさしいスキンケア製品を作りたいと考えるようになりました」。

そうして肌にやさしいスキンケアを追い求めるうちにたどり着いたのがヴィーガンだった。ヴィーガンは動物性を含まないものや、動物から搾取しないあり方を指すものだ。「もともとイギリスに住んでいたこともあり、ヴィーガンは身近なものでしたが、実際に私がヴィーガンを取り入れたのは、20代後半の時。乳製品が体に合わなくなり、避けるようになって、その時にヴィーガン食に変えたんです。実際に自分で実践してみて、ヴィーガンは安全性が高く、肌にもやさしいのではないかと気が付きました」。

2019年3月には自身の会社ポートフォリオスを設立。効果のある“アンナチュラル”な成分と、ヴィーガンでクルエルティフリー、アルコールやグルテン、サルフェート不使用という“ナチュラル”な処方を兼ね備えたヴィーガンコスメブランド「アンナチュラリーナチュラル」を立ち上げた。

「自然由来成分がすべて肌にやさしく、そうでない成分が肌に悪いわけではない。肌の健康をサポートする原料を使用した高機能なスキンケアであることを最優先に考えています」。

製品には世界中から選りすぐった成分が使用される。ビタミンCなど栄養素を豊富に含むキウイシードオイル、古い角質を分解し毛穴を目立たなくするパンプキン発酵エキスなどの珍しい成分も多い。また香料に関しても、「抽出時に使用されるアルコールの数値はキャリーオーバーの数値を含め厳しく管理。また、香料自体の組み合わせも弊社の不使用成分リストとクリーンフィロソフィーに則って厳しく作っています」と徹底してこだわっている。

現在は3製品(化粧水、美容液、クリーム)を展開するが、今後はパーツケアなど新製品の投入も決まっている。

ヴィーガンは特別なものではない

グランドビューリサーチの調査によると、全世界のヴィーガンコスメ市場規模は2019年には144億ドル(約1兆5699億円)、2025年には208億ドル(約2兆2676億円)まで成長し、全コスメ市場の30%を占めると予測される。

「アンナチュラリーナチュラル」はヴィーガン製品である証明として、外箱にイギリスのヴィーガン協会「ヴィーガン・ソサエティ」と、アメリカの動物愛護団体「PETA(People for the Ethical Treatment of Animals)」の認証マークが並ぶ。欧米や韓国などヴィーガンコスメが既に一般的な地域では珍しくないが、日本ではめったに見かけない。それだけまだ市場は成長段階にあるということだ。

そのため、ブランド立ち上げ当初は「本当に日本でもヴィーガン市場は伸びるのか」という声もあったという。

「そもそも日本はヴィーガンという言葉が身近ではないこともあって、難しく捉えたり、言葉自体にネガティブな印象や厳格なイメージを抱いたりする人もいます。そのため、徹底しなければヴィーガンと名乗ってはいけないとか、徹底できないからヴィーガンにはなれないと思う人が少なからずいます。ただ近年ヴィーガンに対する認識や活動が少し柔軟になっていて、身近にできることから始める人も増えていますね。海外では決められた期間だけ、今日の1食だけヴィーガンを選択するという柔軟な考え方をしていたりもしていて、どんな取り入れ方、始め方でもいいと思います」。

例えばミートフリーマンデーは「月曜日だけ動物性の食事をやめてみる」、ヴィーガニュアリーはヴィーガン+1月(January)を足した造語で「1月は1ヵ月ヴィーガン生活をしてみる」といった運動だ。またヴィーガンのように動物性食品を一切摂取しない人だけでなく、魚介類は口にするペスカタリアンなど、選択は人によりさまざまだ。

「ヴィーガンブランドと書くと、ヴィーガンの人しか使ってはいけないように思われるかもしれない。だから『アンナチュラリーナチュラル』では“ヴィーガン対応”という発信の仕方をしています。ヴィーガン対応にすることで、より多くの人に使ってもらいやすくなると思いますし、誰にでも手に取ってもらいたいんです」。

環境、動物愛護、社会問題…配慮すべきなのは誰か

さらに平野はこうも話す。「ヴィーガンだから、環境に配慮されているから買うという人がいるのは嬉しいことですが、普通に手に取りたくなるかわいいパッケージや使用感で選んでいる化粧品が、実はヴィーガンやサステイナブルなど社会や環境に貢献できている製品だったらより良いですよね。そうしたヴィーガンやサステイナブルが前提であることが化粧品業界のスタンダードになっていけばいいなと思います」。

平野は、そもそも消費者が環境配慮や社会問題を考えながら商品を選ばずとも良い方向に進むべきだと考える。「そういったことはメーカーが達成すべき目標で、消費者はいい商品かどうかで選べるようにならなければいけないと思います。棚のどの商品を取っても配慮がなされた商品になるのが理想的ですよね」。

「アンナチュラリーナチュラル」の製品はヴィーガンであるだけでなく、さまざまな環境配慮を行う。明るいピンク色のプラスチック製ボトルもサステナブルな観点から選ばれた。「環境に配慮してガラスボトルを使うブランドもあるけれど、海外発送が多くなることを考えて、あえて軽くて輸送の二酸化炭素排出や割れなどの負担が低いプラスチックを選びました。ボトルに関しては正解が一つではないと思います」。また売り上げの一部をMake A WishやUN Women(国連女性機関)など、女性や子供達を支援する団体に寄付するなど、社会的課題に多面的に取り組む。

こういった考え方や姿勢は平野にとっては自然なことだという。「もともと社会に貢献できることをしたいと考えていた。イギリスでは『ラッシュ』や『ザ・ボディショップ』のようにクリーンな価値観の企業が当たり前のようにある。そういった環境の影響も受けているかもしれません」。

ストーリーの共感者を生む“ブランド”作り

「アンナチュラリーナチュラル」のように成分がクリーンなコスメは「クリーンビューティ」とカテゴライズされ、この数年、欧米を中心に注目されている。海外では市場が拡大しており、「アンナチュラリーナチュラル」もアメリカでの販売を目指すという。

「なぜ市場ができている欧米でブランドを立ち上げないのかと聞かれることは多かった。けれど私はアジアにもヴィーガン、クリーンビューティ市場はあると思っています」と平野は語る。既にタイやシンガポールに顧客がおり、海外配送することも多いそうだ。

もちろん日本国内にも求める人達はいるが、日本市場は5年、10年先を目標にしているという。「今の中学生、高校生が大人になる頃を目指し、アメリカから逆輸入できるよう成長したいと考えています。今の若い世代はグローバルの情報にもSNSを通して接しているから、非常にフラットな考えを持っていて、ヴィーガンへの偏見も少ない。自分の意見をしっかり持ち、ブランドのコアの部分を見る人も多い。そういった人達に選ばれるブランドになりたい」。

海外ではインディーズブランドが続々登場しており、特にクリーンビューティでは資生堂が買収した「ドランクエレファント」を筆頭に成長著しい。一方、海外で売られる日本発の製品は大手メーカーのブランドが目立つ。その差はどこにあるのかと問うと、やはりブランドのコアだという。

「あくまで私見ですが、日本では“ブランド”とは安心感につながるものを指し、大手メーカーがブランドになっています。けれど海外では、ストーリーに当てはまる商品を作ることがブランド。1シーズンごとのコンセプトではなく、長い期間でどうなりたいのかを発信するのがブランドではないでしょうか」。

ブランドに対する捉え方が違えば表現も異なる。大手メーカーなどは機能性に関する訴求が強くなりがちで、そのためにブランド全体のコンセプトがわかりにくくなっている。ここ数年は日本国内でもD2Cブランドが続々と登場しており、ブランドストーリーを軸にした見せ方、作り方を行うブランドも増えた。今後はグローバルで戦う日本ブランドが増えるかもしれない。

「アンナチュラリーナチュラル」の場合、伝えたいブランドストーリーは肌にやさしい、ヴィーガン対応であるという点だけではない。「ナチュラルなブランドだけど、アプローチブルなブランドにしたかったんです。そのためデザイン性も重要視してポップでかわいくしています。見た目も価格帯も含め、ハッピーでなければ選ばれないし、続かない。サステナブルであるためには無理なく続けられることが大事なんです」。肌にも社会にも、そしてユーザーの気持ちにも寄り添うあり方こそが、ブランド最大の強みだ。

平野ジェマ愛
15歳でイギリスに留学。セントラル・セント・マーチンズでファッションデザインを学び、在学中に出会ったデザイナーのハン・チョンを含む3人で、2013年にファッションブランド「セルフ ポートレート」を設立。帰国後、2019年3月には自身の会社ポートフォリオスを設立。2020年からヴィーガン対応コスメブランド「アンナチュラリーナチュラル」をスタートする。
https://unnaturally-natural.com

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author:

臼井杏奈

フリーランスライター・青山学院大卒後、産経新聞社に入社。その後INFASパブリケーションズに入社し、「WWD BEAUTY」で記者職。現在は美容業界記者として外資ブランドおよびビューティテック、スタートアップ、アジア市場などの取材やインタビューを行う。

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