写真家の寺沢美遊が巡る6日間の韓国・ソウル カメラでとらえたリアルな景色【後編】

DJや嫁入りランドのメンバーとして知られているフォトグラファーの寺沢美遊が、2年半ぶりに韓国・ソウルを旅した。6日間にわたって、新沙(シンサ)や梨泰院(イテウォン)などに足を運び、現地の“今”を自身のカメラでとらえた。

10月29日

2時間ほど眠れただろうか。今日は12時に大好きなユミとランチの約束がある。光化門(クァンファムン)近くのお店に着くと、これまた大好きな友達ダハムとヨンジョンまでいて嬉しすぎる。みんなで北朝鮮式の鍋を囲み、約3年分の話がはずむ。ダハムとはここで別れ、ユミがやっているブランド「HALOMINIUM(ハロミニウム)」が最近オープンしたショールームでお買い物。

そしてヨンジョンのアテンドでビンス(かき氷)を食べる。最近見た映画の話など。3人は共通して『はちどり』と『ドライブ・マイ・カー』がお気に入りだった。ヨンジョンが翻訳機を通じて「濱口竜介は憎めない悪魔」だと画面を見せてきて、私は大きくうなずいた。ユミの運転で移動しながらみんなでNewJeansやOriginal Loveを歌う。夕暮れと眠気が相まって、とても幸せな時間。

狎鴎亭(アックジョン)に移動し、「MISCHIEF(ミスチーフ)」のリニューアルオープンパーティでSuminのミニライヴ。Licaxxxが近くの飲み屋にいるというので向かう。エディターのビンちゃんやモデルのえりちゃんたちと軽く飲み、狎鴎亭の小箱Low Keyへ。しばらくしてNanamilkのDJが始まる。マレフィセントのコスプレをしたMatt氏が超絶ビューティで見とれてしまった。私はだいぶ疲労がたまっていたので離脱。Licaxxxはまだ遊ぶらしく、本当に元気だな。

10月30日

LINE NEWSの通知で目覚めるとトップに梨泰院の文字。目がかすんでうまく読めない。中学からの親友から「今韓国? こんなニュース見たけど大丈夫?」とメッセージが来ていた。Discord上でも日本と韓国にいる友達同士で深夜に安否確認していた。私は何も知らないまま爆睡していたのだった。テレビをつけると事故のニュース一色。しばらく呆然として、Little Tempoの「Ron Riddim」を聴く。

夜、友達がホテルに来て朝まで一緒に過ごした。天井に映る街の明かりが等間隔に揺れているのを眺めながら、子どもの頃に車の後部座席に寝転がって見ていた風景と似ているなぁと思った。

10月31日

Salamandaに会う。Yetsubyとは週末のパーティ以来で、Umanとは初対面。日本のフェス「FRUE」への出演を控えていた彼女達は、近くのスタジオでリハをしていたといい、機材の入った大きな荷物を抱えてやってきた。指定された店に入り、Yetsubyが慣れた手順で注文。「これは“しゃぶしゃぶ”みたいなものなんだけど、本当においしくて。大学生の時はアルバイトまでしてたんだよ(笑)。当時は食べたあとでお金を払う手が震えたけど、今は大人になったから大丈夫。ほら、アンビエントでしょ(鍋がぐつぐつ煮える音に耳をすませながら)」とYetsuby。とにかくよくしゃべるYetsubyと、横で聖母のようにほほえむUman。2人の出会いや音楽ルーツを聞きながらしゃぶしゃぶに舌鼓を打つ。時折インサートされるチヂミがあまりにも絶品だった。

梨泰院の話。「びっくりしたね。一緒に遊んだ金曜日も既に人が多かったしね。友達が遊んだりDJしたりするCake ShopやPistilは、梨泰院とは反対のノクサピョン側だから、向こう側がそういう状況になっていたなんて全く知らなかったみたい。事故が起きた後も音楽をかけ続けていたことがより一層つらかったって」。私は、またコロナの時のように、梨泰院という街や夜遊ぶ人達に偏見が生まれてしまいそうなのが悲しいなと思っていた。Yetsubyは続ける。「さっき来る途中も、ニュースが刺激的すぎるって話をしてた。救助の人が足りなくて、事故に遭った人同士で心肺蘇生してる一方で写真やムービーを撮ってる人もいて…人類愛がなくなってるよね」。

11月1日

写真家の寺沢美遊が巡る6日間の韓国・ソウル カメラでとらえたリアルな景色【後編】

フライトまで時間があったので梨泰院に寄り、花を手向ける。あの現場には、まだ見ぬ友達がいたかもしれない。「また会おうね」と声をかけて帰国。

Text & Photos: Miyu Terasawa

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

この記事を共有