ランジャタイ・国崎和也のお笑いルーツに迫る——インタビュー前編 「『D-1グランプリ』が芸人生活で一番嬉しかった」

国崎和也(くにざき・かずや) 
1987年富山県生まれ。2006年に伊藤幸司とお笑いコンビ、ランジャタイを結成。2021年『M-1グランプリ』決勝出場。趣味は漫画。特技はバスケットボール危険物取扱者乙種第4類免許を所持。
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お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也による初のエッセイ集『へんなの』が出版された。同作は「QJ web」での連載と「ふっとう茶☆そそぐ子ちゃんnote」の記事の中からセレクト・再編集し、新たに書き下ろしを加えた一冊で、少年時代のへんな思い出から、売れてなくても楽しかったへんな地下芸人時代、そして2021年の『M-1グランプリ』の決勝など近年のへんな日常まで──国崎和也の「へんな原風景」が書かれている。

現在のランジャタイのネタにもつながる国崎の「へんな原風景」とはどんなものだったのか。前編では子供時代の話から、バイト時代の同僚のおじさん、相方・伊藤幸司や芸人仲間との出会い、そして憧れのダウンタウンとの共演について語ってもらった。

怒られてばかりいた子供時代

——連載のころから楽しみに拝読していたんですが、特に子供の頃のことがとても叙情的に書かれていて印象的でした。国崎さんの最初の思い出はなんですか?

国崎和也(以下、国崎):幼少期ってことですよね。なんだっけなあ。あ、妹が生まれた時のことは覚えてますね。家族がもう1人増えるってことがよくわからなくて。

——妹さんとは何歳差ですか?

国崎:それもよくわからなくて(笑)。

——えっ!わからない?

国崎:5~6歳差くらいだと思うんですけど(笑)。

——国崎さんはどんな子供時代を過ごしてましたか?

国崎:怒られてばっかいましたね。本当にどうしようもない(笑)。幼稚園の先生にお父さんが呼び出されて「この子はダメです」って言われたのを覚えてます。親父はそこであきらめたって言ってました(笑)。

——どんなことで怒られていたんですか?

国崎:いろんなことで怒られてましたね。食事中にどっかいなくなるとか(笑)。朝早く起きて無理やり親を起こしたり、全部怒られてました。今思い出しましたけど、幼稚園では、自動ドアの仕組みがわからなくて全部開くと思ってたんですよ。それでダーって突っ込んで、透明な扉にめちゃくちゃぶつかってました(笑)。

——そういう時、泣いたりするんですか?

国崎:いや、そんなこともなかったんですね。とにかく全部が不思議だったんですよ。あー、宿題とかも、小学校1年の時に初めてその原理がわかったんですけど、最初は「じゃあ宿題出してください」って言われて、みんなが机からノートとかを出す意味が全然わかんなくて、ずーっと不思議そうに見てましたね。

——宿題はやらなかった?

国崎:本当にやらなかったですね。

——それでやっぱり怒られるんですよね?

国崎:でも、そればっかりやるから言い訳がめちゃくちゃ上手くなるんですよ。「家に忘れてきた」とか「おかしいなあ……」とか言って本当に真剣に探すんですよ。本とかをバーっとやったり迫真の演技(笑)。

——怒られている時は何を考えているんですか?

国崎:反省はしますよ。それも上手いんですよ、反省したフリとかも(笑)。「なんで僕はダメなんだろう」とか「次からは……」みたいな。

——先生のような「大人」にはどんなイメージがありましたか。

国崎:本当にまともというか、遠い未来の存在だと思ってましたね。いずれ僕もこうなるのかなって。でも小学4~5年くらいの時に、ホリエ先生が僕を叱っている時に「先生が怒らないと、お前は将来、もっと怒られることになるから」って言われたのはすごい記憶にありますね。

——自分がまともな大人になるという想像はしていましたか。

国崎:あんまりできてなかったですね。父親も言ってました。「子育て大失敗」って(笑)。

——えー! 直接言われたんですか?

国崎:高校生くらいの時に、妹と僕に向かって「水族館にも、牧場にも連れて行って、あなた達を自然豊かに育て上げました。結果、こうなりました。もう言いますけど、大失敗です」(笑)。お父さんは、妹があまりに算数できなかったから電卓を与えちゃって、宿題とかも全部電卓使ってたんですよ(笑)。妹には特に甘かったですね。

——ウェブの連載では父親から「新聞だけは読め」と言われたと書かれていますが、逆にこれだけはするなと言われたことは?

国崎:都会に出るときに「金儲けには乗るな」って言ってましたね。だまされるから。それくらいですかね。父親は僕が芸人やっているって職場の人に言ってなかったんです。東京で消防士やって勲章もらったっていう設定。だから僕、地元に帰った時に話合わせましたよ。「火事の家から子供救いました」みたいに(笑)。

——今はもう明かしているんですか?

国崎:『(さんまの)お笑い向上委員会』に出た時にバレちゃって。「お前の息子、モニター横に出てるぞ」って(笑)。

——子供の頃、テレビは自由に見せてくれていたんですか。

国崎:ずっとテレビ見てましたね。子供に見せちゃいけないって言われるような番組も自由に見て。『オレたちひょうきん族』の昔のビデオがあったり、『ダウンタウンのごっつええ感じ』とか好きでした。

——『ごっつ』だとどんなコントが好きでしたか。

国崎:めちゃくちゃあるんですけど、キャシー塚本のコントがお笑い史上一番笑ったかもしれない。料理教室の先生が巨大餃子作って、作った瞬間にうしろの窓ガラスに全部投げて奇声あげてる(笑)。それがめちゃくちゃ気持ちよくて。

——ランジャタイへの影響を感じますね(笑)。

国崎:確かに(笑)。

「へんなおじさん」の魅力

——友達はたくさんいるタイプでしたか?

国崎:ありがたいことに、結構友達は多かったですね。助けられたりもしました。イトくんっていう小5で170センチくらいあった相撲で全国大会に出た友達がいたんですけど、雪合戦するとその子の雪玉がめっちゃ痛くて。僕は逃げ回っていたら道路に飛び出しちゃったんですよ。そしたら僕が車にはねられてイトくんは僕の家まで300メートルくらい抱えて走ってくれて「おばちゃん、国ちゃんがはねられた!」って。たまたま友達のお母さんが車で通りかかって病院に行って、みたいな。なんか恵まれてましたね、友達に(笑)。

——それは恵まれてるっていうエピソードなのかな?(笑)。

国崎:あとこのエッセイに出てくるマーピー。この前、奥さんと一緒にライブに来てくれましたね。

——過去のインタビューで貯まったバイト代で東京のNSCに入ったと話されていましたけど、高校の頃はどんなバイトをやられていたんですか?

国崎:サンクスっていうコンビニですね。ずっと裏で品出しとかの作業してました。レジはもう全部間違うから。「Edyカード」っていうのがあったんですけど、それに4000円チャージするところ、間違って4万円チャージしちゃって、めちゃくちゃ怒られたんですよ(笑)。それからずっと裏で飲み物とかを補充してました。だから補充した時に飲み物が滑っていく「シャーー」っていう音をめっちゃ覚えてるんですよ。逆にそれしか記憶にないくらい(笑)。

——本書では、近所の人やバイト仲間、芸人の先輩など「へんなおじさん」がすごく魅力的に描かれています。

国崎:やっぱりおじさんは面白いですよね。破綻している人に惹かれます。だって出会った初日に「相撲取ろうよ」って言ってくるんですよ(笑)。僕もそうでしたけど、お金持っていないおじさんが一番面白いです。100円ローソンのジュースとスティックパンだけで3日間やりすごそうとするおじさんとか(笑)。

——そういう人には距離を取ってしまいがちですけど、国崎さんはどんどん近づいていくんですね。

国崎:もうめちゃくちゃ遊んでましたね。へんな人なんですよ。歯磨きするんですけど、その時に「F1」の曲(※『F1グランプリ』のテーマ曲「TRUTH」)を流したり(笑)。もう意味がわからない。

——そういう人と接して、何か嫌な思いをしたことは?

国崎:ないですね。そういう人って人間的にはめっちゃいい人なんですよ。だから騙されたりしちゃうんでしょうね。人に騙されて、車も全部盗まれてホームレスになっちゃったって人もいましたから。

芸人仲間について

——NSCでは相方の伊藤さんに出会います。どんな部分に惹かれて仲良くなったんですか?

国崎:今と真逆だったんですよ。当時「松本人志と発想がかぶる」って言ってたくらいですから、“あの頃の松っちゃん”で来てたんですよ。こそっと教えてくれたのが「俺が芸能界に入ったら、(松本人志か俺か)どっちかが消えるよ」って(笑)。それをガチのトーンで喋ってましたから。それが今はツッコミをやってるんだから不思議ですよね。

——それを聞いてどう思ってたんですか?

国崎:心の中で「消えるのはお前だ」って(笑)。

——それで伊藤さんが先にNSCをクビになってしまいます。許されるためにやったはずのゴミ拾いも一緒にやったにもかかわらず、クビだと言われてNSCに対して憤りみたいなものは感じなかったですか?

国崎:いや、もうずっと笑ってました。だってあの「松本人志」がクビなんですよ(笑)。授業中もすごかったですから。一番後ろでにらんでネタを見るんですよ。全然笑わないんだけど、本当に面白い連中も中にはいるから、その時も吹き出すのをめっちゃ我慢してるんですよ(笑)。「笑ってない?」って聞いても「笑ってない。面白くないです」って。あと、ゆずが好きでゆずの本も持ち歩いて。

——ゆずの“本”なんですね(笑)。

国崎:そう(笑)。松本さんの『遺書』とかならわかるじゃないですか。意味わかんない(笑)。ブレブレだから面白かったですね。

——いまやダウンタウンとも共演されて。

国崎:だから『ガキの使い(やあらへんで!)』の「D-1グランプリ」(※ダウンタウン40周年記念として行われたダウンタウンに憧れる芸人達がその愛を詰め込んだネタで競う大会)が今までの芸人生活で一番嬉しかったですね。あのダウンタウンさんの前で、しかもダウンタウンを題材にしたネタができるんだっていうのが、2021年の『M-1』の決勝よりも全然嬉しかったかもしれないです。

——ウェブの連載では『M-1』の決勝は「いつものメンバーで、いつものライブだった」ことが嬉しかったと書かれてましたね。

国崎:そうなんです。なんか3日くらい前に「V-1(※「新宿ハイジアV1」というキャパ70席ほどの劇場)」でライブだったんですけど、ほぼ同じメンバーでしたから。なんだこれ?って(笑)。オズワルドもいました。みんな『M-1』と同じネタで、それを3日後に点数つけられて、友達の錦鯉が優勝ですもんね。なんか感慨深かったです。

——地下ライブと同じようなメンバーというと『ランジャタイのがんばれ地上波!』(テレビ朝日)もそうですね。

国崎:ウソみたいな番組ですね。毎回、楽屋に貼られている出演者の名前見たら、ウソウソウソってなります。モダンタイムスとか桐野安生とかテレビ局にいるわけないのに(笑)。我々もそうですけどね。桐野さんも楽屋でキョロキョロして「こんなに広くていいんですか?」って言ってたり、モダンさんに至っては弁当全部持って帰ったり。普通に窃盗ですよ(笑)。

——そのモダンタイムスは芸人仲間に慕われていますが……。

国崎:(遮って)いや、最近慕われてないですよ(笑)。いよいよ底が見えなくて怖い。最近、僕らのファンと合コンもしてたんですよ!(笑)。

——最初はどんなところに惹かれていたんですか?

国崎:最初からなんか空気も似てたんですよ。同じことをずっと繰り返すみたいなところとかも。いまはマヂカルラブリーさんとか、アルコ&ピースさんとかがテレビに引き上げようとしているんですけど、何回でも崖に落っこちていくんですよ(笑)。

——地下ライブに出ている時、今の状況を想像できましたか?

国崎:全くできないです。日々、主催者にだまされてお金を取られたり、カレー屋の2階でやるっていうのがずっと続くと思ってました。だって会議室みたいなところでやった時なんか、音響がないからプレステ2でやるんですよ。モダンさんのコントの前に起動音から鳴って(笑)。あれは地獄でしたね。ポンポンポンってトラックを選ぶ音とかもお客さんに全部聞こえてましたから。でも「お前、信じられないくらいスベってたじゃないか」みたいに笑い合っているのが最高に楽しかったですね。

——憧れのダウンタウンと共演を果たして、今後共演してみたい人っていますか?

国崎:(ビート)たけしさんとタモリさんはまだ共演したことないので、したいですね。あと、黒柳徹子さんも会ったことはあるんでけど、共演したことがなくて、ぜひ『徹子の部屋』に呼んでほしいですね(笑)。

後編へ続く

Photography Masashi Ura

■『へんなの』著者:国崎☆和也

■『へんなの』
著者:国崎☆和也
価格:¥1,760
判型:四六判
ページ数:248ページ
出版社:太田出版
https://www.ohtabooks.com/publish/2023/02/15164206.html

author:

てれびのスキマ/戸部田誠

ライター。テレビっ子。1978年福岡県生まれ、静岡県出身。「読売新聞」「福島民友」「日刊ゲンダイ」『週刊文春』『週刊SPA!』『月刊テレビジョン』『TVナビ』「QJ web」などで連載。『GALAC』編集委員。主な著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『全部やれ。』『芸能界誕生』『史上最大の木曜日』など。 Twitter: @u5u

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