ランジャタイ・国崎和也のお笑いルーツに迫る——インタビュー後編 漫☆画太郎からの影響「頼むから金返してくれ」

国崎和也(くにざき・かずや) 
1987年富山県生まれ。2006年に伊藤幸司とお笑いコンビ、ランジャタイを結成。2021年『M-1グランプリ』決勝出場。趣味は漫画。特技はバスケットボール危険物取扱者乙種第4類免許を所持。
Twitter:@ranjyatai_staff
Instagram:@ranjyatai_staff
YouTube:@user-xj3kn9yc5b
https://grapecom.jp/talent_writer/ranjyatai/

お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也による初のエッセイ集『へんなの』が出版された。同作は「QJ web」での連載と「ふっとう茶☆そそぐ子ちゃんnote」の記事の中からセレクト・再編集し、新たに書き下ろしを加えた一冊で、少年時代のへんな思い出から、売れてなくても楽しかったへんな地下芸人時代、そして2021年の『M-1グランプリ』の決勝など近年のへんな日常まで──国崎和也の「へんな原風景」が書かれている。

現在のランジャタイのネタにもつながる国崎の「へんな原風景」とはどんなものだったのか、話を聞いた。後編ではバイト時代の「魔の部屋」や『お笑いの日』のダイアン津田とのコラボ、漫☆画太郎の影響、これからの芸人人生について語ってもらった。

自分を一番笑わせたい

——『へんなの』の中で、9年間続けたというガソリンスタンドのバイトの話がとりわけ印象的でした。

本当に何もなかったのだ。誰もいない時間がありすぎて、電柱に話しかけていた。ただ、電柱と話すのも楽じゃない。電柱にもいろんなタイプの電柱がいて、何言ってるんだと思われるかもしれないけど、なかなか笑わない電柱もいた。そんなときは笑うまで変な顔をしたり、オナラをこくさまを電柱めがけてしたりしていた。
電柱だけに飽き足らず、スタンド内のカラーコーンにも話しかけた。カラーコーンの告白を手伝ったこともある。(略)
また、カラスともよく絡んだ。 カラスが電線に止まるたびに、「ヤッター!!」 「スッゲー!!!」と喜ぶ。その名も“カラスが飛んできたら、とにかく嬉しい男”。こんなのを、何を思ったか9年していた。9年間だ……。今考えると、まったくの時間の無駄だった。

『へんなの』「9年間のできごと」より

読んでいて「魔の部屋」で過ごした時間が今の芸風につながっているのかなと感じました。

国崎和也(以下、国崎):すごくつながっていますね。長机をもう少し広げたくらいの小さな部屋でずっと椅子に座ってお客さんが来たらボタンを押すって仕事なんですけど、誰もお客さんが来ないから無人島にいる感覚と近かった。自分に話しかけたりして、どんどんおかしくなって(笑)。自分でやっているのを動画で撮ったりもしてました。前の前の携帯電話にめっちゃ保存してあったんですよね。

——その動画を見直してネタを作っていくんですか?

国崎:そうです。それで手の動きとかの所作は全部その動画で学んだと思います。こうしたほうが伝わるなって。

——ネタ作りは、そうやって自分でやってみながら作るという感じなんですか?

国崎:そうですね。台本は全然書けなくて、全部わーってやるのを撮って。あとその時に思いついたのを(舞台)袖で相方に「これやるから」って言って出ることも多いかも。相方は結構パニックになりますけど(笑)。

——伊藤さんの反応の仕方とかは指示されるんですか?

国崎:いや、お任せで。ここだけはこれを言ってくれくらいはありますけど、それくらいですね。

——しつこく繰り返すっていうのも特徴だと思いますが、それもこのバイトの経験からですか?

国崎:それはなんですかね。なんかずっとスベってたんですよ、漫才(笑)。スベって、それでもやり続けるのが楽しくなってきちゃったんですよね。お客さんが5分くらい、ひとウケもしていなくて、もう1回同じことをやる(笑)。

——ウケていない時はどういう気持ちなんですか?

国崎:ウケている時もウケてない時もあんまり変わらないかもしれないです。見てくれるだけでありがたい。なんか動いちゃってるから見えてなかったりするんですよね。めちゃくちゃスベっている時はわかりますけど。自分の足音しか聞こえないこともありますから(笑)。でも、無観客でやってた時が一番楽しかったですね。無料ライブでお客さんゼロとかってたまにあるんですよ。コンビはまだ楽しいんですけど、ピンの人が可哀想すぎて(笑)。誰もいない席にめがけてジョークを飛ばしてブリッジとかをやってる。それが見ててめちゃくちゃ面白い。

——中止にはならないんですね(笑)。

国崎:もうやっちゃおうってなるんですよね。けど、ひどかったです。雨宿りのおじいちゃんとかしか来なかったり、競馬中継聞いてるおっちゃんしかいなかったり。でもそのおっちゃんが1票を持ってるから、みんな勝ちたくて、しょうがないから馬を褒めたりして(笑)。メイプル(超合金)さんとかもそういうライブに一緒に出てましたね。

——よくお客さんを笑わせるためとか、あるいは相方を、舞台袖の芸人を笑わせたいとかいわれますが、国崎さんは一番誰を笑わせたいと思ってやっていましたか?

国崎:あ、でもそれは変わってないかな。ガソリンスタンドで動画を撮って、自分で笑っている時と。だから自分ですね。自分が出た番組を見るのも楽しいです。めっちゃスベっとるやん、こいつ!みたいに(笑)。

漫☆画太郎からの影響

——昨年、『お笑いの日』でダイアン津田さんとコラボネタをやられていましたが、その際、言い方やタイミングなど細かい部分を直させて繰り返し練習していたと伺いました。国崎さんはどんな部分にこだわったんですか?

国崎:言い方でめっちゃもめましたね(笑)。「すいません、わんこそばの時間です」というイントネーションが僕が思っているのと全然違うんですよ。だから指導して「すいません」をずっと言い直させてたら「なんやお前!俺、大阪人やねん!」って(笑)。確かにあっちのほうが正解なんですけど、このトーンじゃないとダメだっていうのをずっと伝えて。そしたら本番ではばっちりやってくれましたね。

——そこはリズムとかイントネーションとか、何が大事なんですか?

国崎:伝わり方ですかね。これがいちばん、100で伝わるっていうのが、なんか自分の中にあって、どうしてもこれだけはやってくれって。でも僕もどうなるかわからないから、もうずっと笑ってました。津田さんから本番前に「ダウンタウンさんと今いい関係築いているんです。お前のせいで壊れるかもしれん」ってずっと言われるからそれがもうめちゃくちゃ面白くて。あー、津田さんに本の帯、頼めばよかったですね。

担当編集:1回血迷って言ってましたよ(笑)。

——血迷って(笑)。

国崎:誰も賛同しなかった(笑)。

——ちなみにこの本の原稿は何で書いたんですか。

国崎:携帯ですね。

——宿題をやらなかった子供だったと思いますが、締め切りは守ってましたか?

国崎:守って…、ないですよね?

担当編集:守ってましたよ。

国崎:優しい(笑)。全然守れてない時もあったと思いますけど、延ばしてくれてたりしてましたね。そもそも締め切りを決めていなかったり。

——すごく感動的な文章ですけど、小説のような文章は読まれてきたりしたんですか?

国崎:いや、あんまり読んでないですね。もう漫☆画太郎先生の漫画一本。こういう泣けるエッセイが書けるようになったのも先生のおかげですね(笑)。

——画太郎先生の漫画はどんなところが魅力ですか?

国崎:いい意味で、読んだ後に「もう頼むから金返してくれ」って思うところですね(笑)。同じことを使いまわして描いちゃう。でも結局めちゃくちゃ笑っちゃうんですよね。だからこの本も先生のために書きました。最後に画太郎先生の漫画が載るってなったから、もう泣ける話を詰め込んで、ひっくり返して台無しにしようって。

——収録されている画太郎先生の漫画のチョイスはどなたがされたんですか?

国崎:僕がどうしてもこの話をってわがままを言い、聞いてもらいましたね。画太郎先生も快諾してくださって。最後のオチがおなじみなんですけど、この間、始まった「ジャンプ+」の新連載(「漫古☆知新-バカでもわかる古典文学-」)の第1話もこれだったんで僕、腰抜かして(笑)。

——画太郎さんの漫画はランジャタイのネタに影響はありますか。

国崎:めちゃくちゃあると思います。同じことを繰り返すところとか、たぶんそっから来てると思います。お客さんも思ってるでしょうしね。「頼むから金返してくれ」って(笑)。

——ウェブの連載のほうでは好きなものの中に「BUMP OF CHICKEN」とも書かれていました。

国崎:中学2年の時にすごい聴いていた友達がいて、その影響で好きになりましたね。今回、本も送ったんですよ。全く関係ないんですけど「BUMP OF CHICKENさまへ」って手紙も書いて。いろんな方に送って。ユーミンさんにも送りました(笑)。

——BUMP OF CHICKENの曲で一番好きな曲は?

国崎:あー、なんだろうな。でも、CDの最後に隠しトラックがあって、ふざけて歌う曲があるんですけど、それが好きで。そっか。この本のカバーを外すとQRコードがあっておまけに飛べるとかみたいな仕掛けを作ったのは、その影響があるのかもしれないですね。

——ちなみにランジャタイの出囃子は神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」です。ぴったりですよね。

国崎:ホントっすか。あれは伊藤が決めたのかな? 僕も伊藤も好きでいつの間にかかまってちゃんになってましたね。

これからの芸人人生

——本書は辞めていく芸人さんへの眼差しも温かいなあと感じます。

国崎:ああ、だってある芸人さんなんて借金100万円して、それで自己破産しちゃうんですもん。100万円ですよ! まだ頑張れるって、芸人仲間全員止めましたよ。けど踏み切った(笑)。面白すぎるじゃないですか。

——国崎さんは借金とかはなかったんですか?

国崎:なかったですね。家賃も4万5000円とかの風呂なしに住んでたんで。

——自分が芸人をやめることを想像したことはありますか?

国崎:案外なかったかもしれないですね。なんとか延ばし延ばし、絶対働きたくないから。だから芸人だって言い張れば働かなくていいですから、魔法の言葉ですよね(笑)。

——よく芸人さんは全く仕事がないか、めちゃくちゃ忙しいか、両極端だと言われますが、今の状況は国崎さん的にはいかがですか。

国崎:今、ちょうどいいですね。なんか本当に自由にやらせていただいて。ウエストランドとか優勝して家に帰れない時もあるって言ってたんで、そう考えると恵まれてますね。寝れてはいるし、休みもたまにあったりしますし。

——今だとめちゃくちゃにすることを求められると思うんですけど、それが逆にやりにくくなったりとかはしないですか?

国崎:いやでも、みなさん優しいですね。案外、これをやってくれみたいなのがなくて、何をやってくれてもいいですよっていうのが多くて楽しいですね。食レポなのに食べないとか(笑)。

——それは怒られたりはしない?

国崎:怒られないです。その前に走って逃げますから(笑)。

——将来設計のようなことは考えますか?

国崎:なんにも考えてないです。このままなんとか薄く長く生きていく。ひもじくないくらいに月15万円くらいでいいから富士そばとか食える感じならいい。でも去年くらいから税理士さんにお願いしたんですけど、去年、僕、2枚しかレシートを取っていなくてめちゃくちゃ怒られたんですよ(笑)。だから税金がとんでもないことになって。ちゃんと生きていかないといけないなって思いました(笑)。

——じゃあ、今年はちゃんとレシートは保管して。

国崎:もう去年の二の舞いにはなりたくないんで。税理士さんが入っているグループLINEで「これはなんの経費ですか?」とか聞かれるんですけど、この前、伊藤がコンビニで肉まんとかを買ってる領収書を出してて、それは無理だろって(笑)。

Photography Masashi Ura

■『へんなの』
著者:国崎☆和也
価格:¥1,760
判型:四六判
ページ数:248ページ
出版社:太田出版
https://www.ohtabooks.com/publish/2023/02/15164206.html

author:

てれびのスキマ/戸部田誠

ライター。テレビっ子。1978年福岡県生まれ、静岡県出身。「読売新聞」「福島民友」「日刊ゲンダイ」『週刊文春』『週刊SPA!』『月刊テレビジョン』『TVナビ』「QJ web」などで連載。『GALAC』編集委員。主な著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『全部やれ。』『芸能界誕生』『史上最大の木曜日』など。 Twitter: @u5u

この記事を共有