アコースティックバンド、OAUが考える『Tradition』 さまざまな“伝統”が混じり合った「今のOAU」

OAU(オー・エー・ユー)
2005年にBRAHMANの全メンバー、TOSHI-LOW(Vo,Bouzouki, A.Gt)、KOHKI(A.Gt)、MAKOTO(Cb)、RONZI(Dr)に、ヴァイオリニストでフロントマンも務めるMARTIN(Vo, Violin, A.Gt)とパーカッショニストKAKUEI(Perc)から成る、6人組アコースティック・バンドOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDを結成。欧米をはじめとしたトラッドやルーツ・ミュージックを巧みに織り込んだ有機的な音楽性に、繊細さとダイナミズムとを併せ持ったパフォーマンスで多くのオーディエンスを魅了。国内最大級のフェスをはじめ海外でもライブを重ねるほか、2010年からは全てのアーティストがアコースティック限定の編成で出演するキャンプフェス「New Acoustic Camp」のオーガナイザーを務めている。2019年4月にOAUに改名。2023年4月12日にニューアルバム『Tradition』をリリース。
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アイリッシュフォークやカントリーミュージックなど、ルーツ音楽を基調としつつも現在進行形の音楽へとアップデートして奏でる6人組のアコースティックバンド、OAUよるニューアルバム『Tradition』がリリースされる。フルアルバムとしては、自分達のバンド名を冠した前作『OAU』からおよそ4年ぶりとなる本作は、これまでのOAUのサウンドコンセプトを受け継ぎつつも、80’sや90’sの要素さえ「オールディーズ」とみなし貪欲に取り込んだ、OAUの定義そのものを拡張するような仕上がりとなっている。前作リリースの直後にコロナ禍が訪れ、ステイホームが強いられる世界で彼等は、この極上の「ダンスミュージック」をどのようにして作り上げたのだろうか。ソングライティングはもちろん、アルバムのサウンドプロデュースも手がけるマーティンに制作秘話をじっくり語ってもらった。

『Tradition』が意味するもの

——アルバム制作は、いつ頃から始まっていたのでしょうか。

マーティン:前作『OAU』を作り終え、コロナ禍に入ってからもずっと作り続けていました。去年にはもう結構な数の曲がそろったので、「アルバムの前に、ちょっとまとまった作品を出そう」という話になって5曲入りのEP『New Spring Harvest』をリリースしました。今作は、ためていた曲プラス、去年から新たに作った曲を足した14曲になっています。

アイデアの断片みたいなものは、コロナ禍の前からあったのかな。2019年に作った曲もあるからね。本格的に作り始めたのは、コロナ禍になってから。すでに海外ではロックダウンが始まって、この調子だとしばらくは家から出られなくなると思ったし、それをどこかチャンスとして感じる部分もあったんだよね。「今は大変だけど、いつか必ず終わりがやってくる」「その時にいい作品をバシッと出せれば、きっといいことにつながる」と信じていました。

——前作よりもモダンなサウンドに仕上がっている本作に、「伝統」を意味する『Tradition』というタイトルが付いているのも印象的です。

マーティン:OAUを始めたばかりの頃は、フォークミュージックをはじめとするさまざまな国の古い音楽を、ポップスと混ぜて作るというビジョンを掲げていた。なので、僕等の作る楽曲には必ずそういう古くて懐かしい感じの音が入っているんだけど、今の若い人達からすれば、80’sや90’sだって「オールディーズ」として聴こえるんじゃないかなと思ったんだよね。もう立派な「tradition」だよなって。

——確かに、「夢の続きを」の中にシンセのアルペジエーターのようなフレーズが入っていますよね。

マーティン:90’sっぽいよね(笑)。実はあれ、シンセじゃなくてアコギなんだけど。ディレイをかけて、指でスラップさせているからああいうサウンドになっている。ポール・オーケンフォールドとかああいう90年代のトランスミュージックに近い感じ……トランスだってもう30年前の音楽だから「オールディーズ」だよね。

ただ、それをシンセでやってしまうと面白味がないじゃない? あの曲は、自分達が普段使っているアコースティック楽器を使って、どこまで広げられるか? という実験の「始まり」と言ってもいいかもしれないね。あのサウンドを作ったKOHKIはやっぱり天才だと思う。

TOSHI-LOWによる日本語詞

——「tradition」と一言で言っても、いろんな時期の伝統音楽が散りばめられているわけですね。しかも、それを現代のポップスにアップデートしている。「This Song -Planxty Irwin-」は、400年前からずっと受け継がれているアイルランドの伝統曲をポップスにアレンジし、なおかつ日本語の歌詞を乗せていて。まさしく「今のOAU」という感じがします。

マーティン:この「Planxty Irwin」という曲は、ケルトミュージックを追求していると必ず行き着く盲目のハープ奏者、ターロック・オキャロランによるインスト曲。僕の両親はミュージシャンで、家族で楽器を持ち寄って演奏する時に必ずと言っていいくらい取り上げていたし、自分にとっては「子守唄」みたいになじみのあるトラディショナルソングなんだよね。

で、ある時スタジオでこの曲を演奏してみようということになったんだけど、それがもうめちゃくちゃエモーショナルだったんです。これ、インストじゃなくて「歌もの」にしたらもっと良くなるぞと思って、メロディをより際立たせたアレンジにしてTOSHI-LOWに歌詞を書いてもらった。「これ、いったいどこで生まれた曲?」と思うくらい、あちこちのルーツミュージックが混じり合った面白い曲に仕上がったと思う。

——英語の歌詞ではなく、TOSHI-LOWさんによる日本語詞をTOSHI-LOWさんに歌ってもらおうと思ったのは?

マーティン:単に英語詞を付けただけなら、英語圏のバンドでもできることじゃないかなと。よりオリジナルな楽曲に仕上げるなら日本語の歌詞のほうがいいし、僕達は日本で活動しているわけだから日本語のほうが伝わりやすいよな、と。古いアイルランドのトラディショナルソングが日本に渡って「日本の歌もの」になり、日本人のリスナーに広く知れ渡っているこの状況がめちゃくちゃ面白いなと思います。

——ケルトのメロディが、日本人の琴線に触れるのも不思議だなと思います。

マーティン:これ、前から思っていたことだけど、音楽って古くなればなるほどみんな同じになっていくよね。どこの国も「太鼓」と「笛」だけの演奏になってくるし、笛って基本的に単音だし穴もせいぜい8個くらいしかなくて、吹ける旋律も限られてくる。太鼓もシンプルになればなるほど、叩けるフレーズも似てくるじゃない?

今回、アルバムには他にも「Blackthorn’s Jig」というアイルランド民謡っぽいインスト曲が入っているんだけど、その曲も沖縄のノリに近いと思っていて。そこにアフリカのリズムも少し混じっているから、アイルランド、日本、アフリカのミクスチャーソングとして聴けるんじゃないかな。

——ちなみにこの曲、歌詞のテーマもTOSHI-LOWさんにお任せでしたか?

マーティン:まあ、歌詞はTOSHI-LOWが絶対にいいものを上げてくれるってわかっているから、僕からは特に何も言うこともないよね。そもそも前作『OAU』の時に、結構テーマを細かく決めたんですよ。今回はもうちょっと他のメンバー個々の「味」が濃く入っていると思う。

僕がレコーディングのプロデュースという形でずっとスタジオで作業をしていたんだけど、前作で自分達の方向性が明確になったからか、「こうやって弾いて」みたいな指示を出すこともほとんどなくて。みんながちゃんとイメージを共有していたから、「これ!」という期待通りのサウンドやフレーズが自然と出てきた気がする。

——マーティンさんの歌詞はどうでしょう。アルバムを通して何か一貫したメッセージなどありましたか?

マーティン:どうだろう……自分はTOSHI-LOWよりも、もうちょっとベーシックというか。そこまで1つのテーマを深く掘り下げるわけじゃなくて、ストーリーの中に何かテーマが見えて来ればいいのかなと思いながら作っていました。TOSHI-LOWも僕も、言いたいことは明確にあるけど、自分の方がちょっと明るい内容が多くて、それでバランスが取れているのかもしれない。「昼」と「夜」みたいな(笑)。

家族、娘への想い

——冒頭曲「Old Road」は、アフターコロナの世界で「再生」する意志を歌うマニフェスト的な曲だと思いました。

マーティン:それももちろんあるけど、あの曲のテーマは「旅」かな。旅をしている時の寂しさ、大事な人のもとへ走って帰りたいけど、「また同じ旅がしてみたい?」と聞かれたら多分「やる」と答えるだろうな、と。そういう気持ちを歌っています。とにかく、一番大事なのは家族。それはコロナ禍でより強く再認識したことだね。いろんな人と会えなくなったことで、誰が大事とか何が大切かとか、みんな改めてはっきりしたんじゃないかな。

——「Homeward Bound」の歌詞も、家族のもとへ帰りたいということを歌った曲ですよね。

マーティン:「もう、今すぐ帰るからね」「待ってて!」と家族に訴えかけるような歌詞。ちなみに、2020年の再録ベストアルバム『Re:New Acoustic Life』にも収録した「Change」でも、そういうことを歌っています。「世の中はすっかり変わってしまったけど、家族への気持ちは何も変わってない」って。OAUは、コロナ禍でもホールツアーとか回ることができたんだけど、だからこそ家族を思いながら書く曲が増えたのだと思う。

——「Time’s a River」は、時の流れを川にたとえた歌詞が印象的です。

マーティン:今年40歳になったんだけど、20歳になる娘がいて。今の娘と同じくらいの年齢の時に、彼女を授かったのかと思うと時の流れを感じるよね。「自分の娘が、もう20歳?」って、我ながらびっくりしてしまう(笑)。川の流れって止まらないじゃない? 本当にそんな感じ。

自分自身についてもそうで、若い頃は全く感じなかった「死」や「病気」についても、人生の折り返し地点に来てようやく意識するようになってきた。これからの人生をどう過ごしたいのか、常に考えているし、この曲ではそういうことを歌っている。要するに「俺も歳を取ったな」ってこと(笑)。もちろん、娘へのエールソングでもあるよ。

——川の水は海へと流れ、水蒸気になって再び川へと戻っていきます。時の流れも同じように「めぐる」と表現しているのも(The time has come again)この曲の特徴ですよね。

マーティン:そう。きっと娘も同じように自分の子供を持った時、その成長の早さに驚く日が来ると思うんだよね。そういうサイクルはこの先もずっと続いていくのだろうなって。そして、僕よりもいい人生を生きてほしいなと願ってる。自分の人生もなかなか面白いけどね(笑)。

「みんなの笑顔を早く見たい」

——本作にはインスト曲が「Blackthorn’s Jig」「Linden」と2曲入っています。「Blackthorn’s Jig」を聴くと、ケルトミュージックはダンスミュージックなのだと再認識しますね。リズムも躍動感があり、アイリッシュ音階で延々と繰り返されるフレーズを聴いているとだんだんトランスしてくる。

マーティン:本当にそう。TOSHI-LOWのブズーキと僕のバイオリンがずっとユニゾンしているので、これライブでやったらめちゃめちゃ楽しいし盛り上がると思う。ちなみにカクさん(KAKUEI)はアフリカの民族楽器シェケレを演奏してる。さっきも言ったように、アフリカのノリと沖縄のノリはすごく似ていて。ダド、ダド、ダド……って前のめりになっている感じが踊らずにはいられないよね(笑)。

——それとは対照的に「Linden」は静謐で美しいナンバーです。

マーティン:「Linden」はKOHKIがスタジオで、たった1人で作った曲。他の曲は、ベーシックの部分は僕が作っているから、どうしても自分っぽくなるんだけど、あの曲は完全にKOHKIの世界。彼はソウルやR&B、ファンクがすごく好きで、「Homeward Bound」にもそんなKOHKIの色がかなり濃い目に入っているんだけど、「Linden」はもっとスロウでジャジーな感じ。個人的にもすごく気に入っていますね。アルバムではインタールード的な役割を担っていて、尺も短いんだけどライブでは思いっきり長くやりたいな。

——「Without You」の、〈All I need Is all I want〉というフレーズも印象的です。

マーティン:この曲も、コロナ禍で気づいたことを歌ってる。さまざまな命が亡くなっていくのを目の当たりにして、シンプルな暮らしでいいし余計なものはいらないということを思い知らされたんだよね。いろいろ物を集めたって、死んだ後は持っていけない。それだったら、目の前にある命、友人や家族の命を俺は大事にしたい。もともとそんなにモノを持ってないんだよ。父親がめちゃめちゃ物持ちがよくて、家の中にモノがあふれてるから、その反動かもしれない(笑)。

——お話を聞いていて、このアルバムはコロナ禍や戦争が続く中、自分にとって何が大事なのか、何を大事にすべきなのかを再認識させられるというか。きっとメンバーの皆さんも、作りながら再認識していったのだろうなと思いました。作り終えて今はどんな気持ちですか?

マーティン:「早く次のアルバムを作らなきゃ」って(笑)。マスタリングを確認した瞬間、「よしじゃあ、次!」という気持ちになった。やっぱり、このアルバムにいい感じで繋がる作品を来年には出したいし、そのためには今から仕込んでおかないと間に合わないじゃん?

——もうすぐツアーが始まりますが、最後に意気込みをお聞かせください。

マーティン:この間フェスをやったんだけど、お客さんの「声出し」がすごかった。大勢の人逹と一緒に歌うなんて、3年間ずっとなかったから、その光景を見た時には泣きそうになりましたね。踊ってもいいし、声を出してもいい。きっとツアーが始まる頃は、マスクを取ってもいいってなるかもしれない。めちゃくちゃ楽しみですよね。しかも今回は札幌をはじめ、毎回必ず行けるとは限らない場所でも演奏することが決まっていて。みんなの笑顔を早く見たいな。

Photography Hironori Sakunaga

■New Album『Tradition』
2023年4月12日発売
価格:¥3,300
CD収録曲 全14曲
1. Old Road
2. セラヴィ -c’est la vie-
3. 夢の続きを
4. Time’s a River (New Acoustic Camp 2022 テーマ)
5. 世界は変わる (映画『追想ジャーニー』主題歌)
6. Homeward Bound
7. Blackthorn’s Jig
8. 月だけが
9. Whispers
10. Family Tree
11. Linden
12. This Song -Planxty Irwin-
13. Without You
14.懐かしい未来 (J-WAVE「HEART TO HEART」テーマ)
https://oau.lnk.to/tradition

■OAU Tour 2023「Tradition」
・6月3日 北海道 札幌サンプラザホール
・6月7日 大阪 サンケイホールブリーゼ
・6月9日 岡山 ルネスホール 
・6月14日 愛知 名古屋市芸術創造センター
・6月23日 宮城 トークネットホール仙台 小ホール 
・6月30日 福岡 電気ビルみらいホール
・7月5日 新潟 新潟市音楽文化会館
・7月8日東京 昭和女子大学人見記念講堂

author:

黒田隆憲

大学卒業後、90年代後半にロックバンドでメジャーデビュー。その後、フリーランスのライター/エディター/カメラマンに転身を果たす。世界で唯一のマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン。2018年にはポール・マッカートニー、2019年にはリンゴ・スターの日本独占インタビューを務めた。著書に『シューゲイザー・ディスク・ガイド』(共同監修)、『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』、『メロディがひらめくとき』など。 Twitter:@otoan69

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