アーティスト・YOSHIROTTENが新たに「SUN」プロジェクトで挑戦する“境界なき作品表現”

アートディレクター、グラフィックアーティストとして、国内外の多くのプロジェクトを手掛けるYOSHIROTTEN(ヨシロットン)が3月21日から、「SUN」プロジェクトを始動した。本プロジェクトは彼がコロナ禍で1年365日、毎日手作業で作り続けた「太陽」をモチーフとした作品を用い、デジタルとフィジカルを行き来するような新たなイマジネーションをもたらすことをテーマとし、さまざまなメディアを通じて展開される。

今回、なぜ「SUN」プロジェクトを始めるに至ったのか。4月1日、2日に国立競技場の駐車場で行われた展覧会の会場でYOSHIROTTENに話を聞いた。

YOSHIROTTEN(ヨシロットン)
1983年生まれ魚座。ファインアートと商業美術、デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、複数の領域を往来するアーティスト。東京、ロンドン、ベルリンでの個展を経て、2018 年 TOLOT heuristic SHINONOME にて大規模展覧会「FUTURE NATURE」を開催。「見えないものの可視化」をテーマに、1300平米に及ぶ空間を用いた、平面・立体・映像作品を組み合わせた巨大インスタレーションを発表した。 その後も、ニューヨークの Jeffrey Deitch で開催された Tokyo Pop Underground 展への参加、また森山大道やウィン・シャの写真を再構築する「Resolution」シリーズは新宿伊勢丹を皮切りに中国・広東省と香港での展示に発展するなど国際的かつ精力的に活動。2021 年には「SUN」シリーズの制作を開始し、同シリーズは、銀色の太陽を描いた 365 枚のデジタル・イメージを軸にインスタレーション、アルミニウム・プリント、NFT、バイナル・レコード、書籍などさまざまな媒体で構成される。また、欧米ラグジュアリーブランドや国内外のミュージシャン、東京のアンダーグラウンドクラブから現代美術フェアまで幅広いクライアントを持つアートディレクター。代表を務めるデザイン・スタジオ「YAR」では、広告・イベント・ロゴタイプ・内装 / 外装デザイン、ウェブ・映像など、商業に於いて、視覚芸術が関わるほぼすべての範囲で、膨大な量の仕事を手掛けている。GASBOOK より作品集『GASBOOK28 YOSHIROTTEN』と『GASBOOK33 YOSHIROTTEN』の2冊を刊行している。
https://www.yoshirotten.com
Instagram:@yoshirotten

——改めてこの「SUN」というプロジェクトを始めようと思ったきっかけから教えてください。

YOSHIROTTEN:始まりはコロナ禍まっただ中の2020年6月くらいでした。最初はプロジェクトにしようとは思っていなくて、コロナ禍でそれまで結構時間をかけて動いていた企画が中止になったりして、すべての活動が止まってしまって。それで「こんなにもおもしろい企画が世に出ないなんて」ってすごく落ち込んだんです。

その時に、自分は何かを作り続けてきたからこそ、いろんな人と出会えて、それが自分にとってはすごく大きなことだったんだと改めて気づかされて。そこから毎日、作品を作り続けようと決めて、太陽をモチーフにした作品を1日1つずつ作り始めました。それこそ最初は日課としてやっていたんですけど、途中からせっかくなら1年365日分の作品を作ろうと思い、1年間作り続けました。

それで、2022年4月に静岡の伊豆で開催された野外音楽イベント「Rainbow Disco Club」で、初めて「SUN」を使った立体作品のインスタレーションを発表して。もともと「Rainbow Disco Club」は2019年に、インスタレーションさせてもらっていたこともあって、コロナで中止していたのが復活すると聞いて、自分からお願いしてやらせてもらいました。その後も、山梨の「GASBON METABOLISM」でのインスタレーション、京都でのシークレット・プレゼンテーション、MUTEKでのオーディオ・ビジュアル・ライブなどで作品を発表してきました。

——今回の展示も含めて、今年の3月21日から本格的に「SUN」プロジェクトを行っていくことが発表されましたが、やろうと決めたのはいつ頃だったんですか?

YOSHIROTTEN:1年前ぐらいからですね。最初に今年の春分の日(3月21日)に1年間作っていた365個のイメージを発表しようと決めて。それで発表の仕方をどうしようかと考えた時に、デジタル上で作ってるから、まずNFTはおもしろいなと。このNFTは仕掛けがあって、1年間かけて色が変わり続けて一周するんです。今日見たものと明日見るものが微妙に違うし、半年後は大きく変わっていて、その時にしか見られないようになっています。今後は購入してくれた人達とコミュニティを通じていろいろできたらと思っています。

NFT以外に、他に何をやったらおもしろいかなと考えて、書籍やA1サイズの額装作品、レコードも作りました。あと、今年の1月6日から3月21日まで渋谷の「MODI」の街頭ビジョンで深夜の0時から2時までなんの事前告知もなしにこの作品の動画を上映し、深夜にデジタルアートの太陽が街を染めました。今後挑戦してみたいことの1つがパブリックアートの領域なので、それを実践できてよかったです。「SUN」はそうした多角的な見せ方をする複合メディアプロジェクトにしようというのを構想していきました。

——書籍もかなりこだわっていますよね。

YOSHIROTTEN:厚みもかなりあってもう辞書ですね(笑)。書籍はもともと365日の日めくりカレンダーのような本を作りたいなって思っていたんですが、結果ものすごくこだわってしまって。日本最高峰の印刷所、サンエムカラーの松井会長と一緒に紙でこんな色出せないよねっていうところの限界まで突き詰めて作りました。表紙も12種類作って、365部限定で販売しています。

「作品を作っている時間はメディテーションのような時間だった」

——「SUN」の作品はどのように作られたんですか。プログラミング的な作り方ではないですよね?

YOSHIROTTEN:今回の作品は自分の手で毎日1つ作り続けることが目的だったので、そうしたプログラミングの自動生成だったりみたいなことは一切していなくて。ベースのプロジェクトサイズだけ決まっていて、そこに1から作っていきました。毎日、その日の気分で作っていたので、太陽の大きさも実は微妙に変わっていたりもするんです。

——毎日、時間を決めてやっていたんですか?

YOSHIROTTEN:それは決めてなくて、毎日空いてる時間に作っていました。10分で終わる時もあれば何時間もかかったり、いろいろでしたね。

作品を作っている時間は自分の中でもメディテーションのような時間でした。仕事だと何か最終の目的があったりするじゃないですか。でもこの作品は何が終わりかは決まってなくて。それでも不思議と自分の中で「できた」ってタイミングはありましたね。

——1年間作品を作り続けて、技術的な変化は感じましたか?

YOSHIROTTEN:僕はグラフィックデザインをずっとやってきて、余計なものを削っていって、いかにシンプルに、かつ一瞬で伝わるビジュアルで表現するかっていうのを考えてきたんですが、このプロジェクトも色彩やそのグラデーションなど、美しいバランスを見極めて作っていくので、そうしたスキルはもしかしたら上がったかもしれないです。

——太陽というモチーフは昔から惹かれるものがあったんですか?

YOSHIROTTEN:そうですね。2018年に「FUTURE NATURE」という地球の自然をモチーフに、そこに新しい光を通すと違って見えるんじゃないかっていうのをテーマにした個展を開催して。その時からどんどん地球や自然への興味が強くなっていて。コロナ禍でも、ずっとそういう本とか映像などをリサーチする中で好きで見たりしていました。

その中で、地球の“中身”っていうことに興味を持っていって。今回のモチーフとなる“太陽”なんですけど、太陽って本来は地球の外にあるんですけど、僕が描いてる太陽は地球の中心部にあるイメージなんです。

地球って、地殻があって中心に向かうにつれて、マントル、外核、内核があって。外核には鉄を含む、シルバーの海が広がっていて、内核に鉄の塊であるコアがある。それが僕が考えるシルバーの“太陽”なんです。そこに日毎に移り変わるカラフルな石達が混ざった混合物が写り込んだのが、今回作った“太陽”のイメージです。

「SUN」プロジェクトはスタートしたばかり

——今回の展示は国立競技場の駐車場という珍しい場所ですが、いつ頃、ここでやろうと決めたんですか?

YOSHIROTTEN:去年の10月ぐらいからいくつか場所の候補が挙がってきて、今年の1月ぐらいにはこの場所でやろうって決めました。国立競技場の駐車場をこんなふうに展示で使うのは初めてらしいです。

それでせっかくこの空間で表現できるなら、大きな作品を作りたいと思ってできる限り大きなスケールのインスタレーションになるようにしました。動画の映像も会場で流れる音楽も、僕と一緒にYATTという音楽ユニットをやっているTAKAKAHNに作ってもらいました。

——365個あるイメージの中から今回の展示の作品はどう選んだんですか?

YOSHIROTTEN:この空間に、このサイズで置いた時に輝いている作品をイメージして、20作品を選びました。

——これだけ大規模な展示が2日間だけっていうのももったいないですね。

YOSHIROTTEN:そうですね。この作品は雨の中で展示しても大丈夫なので、野外でも展示できるし、光によっても、微妙に色が変わってくるんです。だから今回の展示を見て、「うちでもやってほしい」って声があれば、いろんなところで展示はやってみたいです。

——今回のプロジェクトと同時に「エルメス」の日本でのショーなど大型な企画をいくつも並行して行っていて、大変だったのでは?

YOSHIROTTEN:最初の話に戻るんですけど、自分にとっては作品を作ることが1番のモチベーションなので、大変ではあるんですけど、つらくはなかったです。全部おもしろいと思えるから引き受けた仕事なので、やらせていただきますっていう感じでした。

——依頼された仕事と、自分の作品を作るのとでは、何か違いはありますか?

YOSHIROTTEN:僕の場合はずっと同時並行でどちらもやっているので、作品を作る時の意識は変わらないです。

その中で、自分の作品に関しては、まだやったことのないこと、見たことがないもの、を作ってみたいと思っています。もともとグラフィックアーティストとして、平面から始まった自分の制作活動がこうした空間だったり、プロダクトになったりして。発表方法も平面、立体関係なく、おもしろければやってみたいです。

だから今回の「SUN」プロジェクトも、今回の展示が1つのプレゼンテーションの場になったので、これをきっかけにいろいろとできればいいですね。今後も「SUN HOUSE(宿泊型メディテーションアートスペース)」の宿泊体験とか、どんどんやっていく予定です。

——なるほど。この展示が集大成というよりはスタートなんですね。

YOSHIROTTEN:そうです。今回の展示は、本当に「初めまして」という感じで、やっと世にお披露目して皆さんが購入したり、見たり、触れたりするきっかけのスタート地点なんです。ここからこのプロジェクトがどこまで広がっていくのか、自分自身も楽しみではあります。

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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