古田新太が語る舞台『パラサイト』の見どころ 「オシャレして観に来て、イヤ〜な気持ちになってほしい(笑)」

古田新太(ふるた・あらた)
1965年12月3日生まれ。兵庫県出身。劇団☆新感線公演『宇宙防衛軍ヒデマロ』(1984)でデビュー。以来同劇団の看板役者として幅広く活躍。最近の主な出演作は映画『KAPPEI』(2022)、『ヴィレッジ』(2023)、ドラマ『忍者に結婚は難しい』(2023)、『ケイジとケンジ、時々ハンジ』(2023) 、NHK大河ドラマ『どうする家康』(2023)、舞台『ロッキー・ホラー・ショー』、『薔薇とサムライ2−海賊女王の帰還−』(2022)など。『関ジャム~完全燃 SHOW~』 (テレビ朝日系)にレギュラー出演中。
https://www.cubeinc.co.jp/archives/artist/furutaarata

貧しい家族が裕福な家族に「寄生」する。そんな大胆な発想で格差社会を題材にしつつ、サスペンスやコメディの要素も織り交ぜたユニークな作風で話題を呼んだ韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。米アカデミー賞を受賞したこの名作が『パラサイト』として舞台化されることになった。物語の中心になる金田一家の主人、金田文平を演じるのは強烈な存在感で映画や舞台で幅広く活躍する古田新太だ。映画ではソン・ガンホが演じていたキャラクターをどう演じるのか。宮沢氷魚、伊藤沙莉といった若手との初共演も話題になる中、古田に舞台に対する意気込みを聞いた。

——映画『パラサイト 半地下の家族』はすでにご覧になっていると思いますが、どんな感想を持たれました?

古田新太(以下、古田):ミニマムな世界だなって思いました。シチュエーションがそんなに変わらないじゃないですか。これだったら、舞台でもやった方が面白いんじゃないかと思いましたね。

——ということは、舞台化の話も違和感がなかった?

古田:舞台を日本に置き換えるとしたらどうなるんだろう? っていうのは思いましたけど。

——台本・演出を手掛けた鄭義信(チョン・ウィシン)さんとは今回が初めてのお仕事ですか?

古田:はい。仲間内からいろいろ聞いてはいるんです。「しつこいぞー」とか(笑)。鄭さん自身も言ってましたしね。「演出しつこいんで、よろしくお願いします」って(笑)。役の心情に関してしつこく言われるのは苦手なんですけど。笑いに関してのしつこさだったら望むところです。

——しつこく演出されるのは嫌いじゃない?

古田:全然! オイラは演出家や監督のいいなり。言われたことを拒否しないんです。自分の意見を言ったりしない。工夫もしないし、アドリブもやらない。できるだけ早く帰りたいんで(笑)。

——ということは、共演相手によっても演技が変わっていくわけですね。

古田:はい。だから(宮沢)氷魚にも言ったんです。「オイラはピッチャー型だと思われてるけど実はキャッチャー。どんな球を投げても捕るから大丈夫だよ」って。

——文平の息子、純平役の宮沢氷魚さん、娘の美姫役の伊藤沙莉さんとは初共演ですね。

古田:2人のことも、役者仲間からいろんな情報を聞いているんで楽しみです。

「きっと映画よりも笑えるところが多くなるんじゃないかな」

——今回の台本を読んでどう思われました?

古田:上手いなって思いました。初めて鄭さんのお芝居を観たのは『焼肉ドラゴン』だったんですけど、笑えて悲惨な話を書ける人なんです。今回の舞台もそうで、きっと映画よりも笑えるところが多くなるんじゃないかと思います。あと、日本を舞台にしても説得力があるのもさすがだと思いました。

——確かに。関西を舞台にしているところも映画の雰囲気にあっていると思いました。セリフが関西弁なのがいいですよね。

古田:関西弁は重要だと思います。主人公達のゲスだけどたくましい感じがよく出ていて。関西弁のイメージってあるじゃないですか。「銭や、銭や〜」みたいな(笑)。お金に対する執着とかのし上がろうとするどぎつさが関西弁から伝わってくる。

——あと、劇中で大変な出来事が起こりますが、コロナで大きく変わった今の世の中を重ね合わせている気もしました。

古田:コロナの時もそうでしたけど、世の中に大変なことが起こると貧富の差ってはっきりしますから。これは関西に住んでいる人しかわからないかもしれませんが、文平一家は差別を受けている地域に暮らしている。彼らがそういった場所で生きていることが、関西以外の人達にも伝わるんじゃないかと思います。

——ただ貧しいだけではなく、差別を受ける場所に生まれ育ったから、子供達は自分達がいる場所から必死に這い出そうとして、とんでもない計画を立てるわけですね。

古田:そして、純平の計算高いところが裏目に出てしまう。純平や美姫の人間くささが出れば出るほど芝居として面白くなるので、オイラは子どもや嫁に振り回されっぱなしの父親で行こうかなと思っています。映画のソン・ガンホは強い父親を演じていましたけどね。

——映画とは違った父親像になるかもしれない?

古田:映画のソン・ガンホは相変わらずうまいなって思いましたけど、そこまでシリアスにする?って感じたところもあったんです。演技にケチをつけているわけじゃないですよ。オイラはソン・ガンホのファンだし、吹き替えで声を当ててもいるので。ただ、ソン・ガンホの家族って貧しくても楽しくやっていたところがあったと思うんですよね。シリアスにやると、その楽しさが出ない気がしたんです。自分がやるんだったら、もうちょっと軽妙に演じたい。

「貧乏って決して悪いことじゃない」

——舞台の台本では、映画以上に貧しい一家のささやかな幸せが描かれていましたね。無理に上を目指さなくてもいいのに、と思ってしまいます。

古田:そうなんですよ。みんなでバイトしたり、パートで働いたりすればなんとかなるんじゃないの?って思うんですけどね。

——純平達に限らず、テレビや雑誌やネットを見て金持ちやセレブに憧れてしまう人々がいる。それが不幸の始まりかもしれないですね。

古田:タレントに別荘を買わせたりするテレビ番組とかがあるじゃないですか。それを見て「いいなあ」と思うか、「バカだなあ」と思うかの差ですよね。自分には分不相応なものを欲しがるのは、さもしいことだと思うんです。だからオイラは博打はやらないんです。仲間にいっぱいいますよ。パチンコとか競馬が好きで、1時間で2万円すった、なんて言っている。そういう話を聞くと、「オイラだったらコンビニで1時間バイトして1200円もらう方がいい」って思います。

——世間のイメージでは、古田さんは博打人生を送っているように思われがちですが、実は堅実なんですね。

古田:以前、大阪のラジオ番組『ヤングタウン』のパーソナリティをやって、その後、東京に出てきて『オールナイトニッポン』を始めたんです。東西のラジオのトップ番組をやっていた時でさえ、それまでバイトをやっていた「金龍ラーメン」を辞めなかった。当時は「今は大きな仕事をやらせてもらっているけど、そんなの長続きするわけない」と思っていましたから。

——地に足が着いていますね

古田:アングラ出身ですからね。まさかテレビや映画に出るなんて思ってもみなかったし、60歳過ぎるまでバイトしながら舞台をやっているんだろうなって思っていたんです。だから結婚するまでは、いつか下北沢にラーメン屋を出すつもりでした。バンドマンとか劇団員って、地方を回る時はバイトを休まなきゃいけないんで店をクビになるでしょ? シフトを工夫して、そういう人達が働けるラーメン屋があったら良いんじゃないかと思っていたんです。

——名店「金龍」で仕込んだ腕で仲間を救う(笑)。

古田:麺は打てるし、チャーシューもキムチも作れますからね。実はラーメン屋の初期費用も貯めていたんですけど、結婚してむにゃむにゃってなくなりました(笑)。

——ラーメン屋の代わりに家庭を作ったわけですね(笑)。そういう古田さんの生活力があれば、文平一家も貧しいながら楽しくやっていけたのかもしれません。

古田:貧乏って決して悪いことじゃないと思うんですよ。考え方1つで楽しむことだってできる。舞台が終わったあと、お客さんが文平達の家族が貧しかった頃を思い出して〈貧乏だったけど楽しかったよね〉って思ってくれれば良いなって思います。

最近の世の中って、楽して得したいと思う人間が増えているじゃないですか。ちゃんと努力して、欲しいものを勝ち取った方がいいんですよ。そういう人間の愚かさみたいなものを、この舞台から感じ取ってもらえるといいんじゃないかと思いますね。

舞台ならではの迫力を体感してほしい

——稽古はこれか入られるそうですが、舞台ならではの見どころはどんなところだと思われますか?

古田:最初のうちは「この家族、うまくいくといいね」とのんきに笑って観てるけど、最後に「ほーら、言わんこっちゃない」と大変なことになる。それは映画と同じなんですけど、生身の人間が目の前で演じている舞台の方が、一家の悲劇がよりリアルに伝わるんじゃないかと思います。あと、ラストで起こるバトルロイヤルで、お客さんにドキドキしてもらえるんじゃないでしょうか。距離が近いだけに迫力あるし。

——映画以上の恐ろしい展開になりますもんね。

古田:あれを舞台でどうやって表現するんだろう?って今から楽しみです。オイラ、アンハッピーに終わる話は大好きなんですよ。最初、笑って観ていた自分が恥ずかしい、みたいな物語をゲラゲラ笑ってしまうんですけど、そういう悲惨な物語をできたばかりの豪華な劇場でやるっていうのも最高ですよね。オシャレして観に来て、イヤ〜な気持ちになってほしい(笑)。でも、最終的に嫌な気持ちで放り出さないのも鄭さんの上手いところなんで、そこも楽しみにして頂ければと思います。

Photography Hana Yoshino
Styling Keisuke Watanabe
Hair & Makeup Nastuki Tanaka
協力:東急歌舞伎町タワー「JAM17」

■THEATER MILANO-Za オープニングシリーズ/COCOON PRODUCTION 2023『パラサイト』 原作:映画『パラサイト 半地下の家族』 
台本・演出:鄭 義信
出演:古田新太、宮沢氷魚、伊藤沙莉、江口のりこ / キムラ緑子、みのすけ / 山内圭哉、恒松祐里、真木よう子
青山達三、山口森広/田鍋謙一郎、五味良介、丸山英彦、山村涼子、長南洸生、仲城 綾、金井美樹

東京公演
2023年6月5日〜7月2日
THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6 階))

大阪公演
2023年7月7〜17日
大阪・新歌舞伎座

企画・制作:Bunkamura SUMOMO レプロエンタテインメント
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_parasite/
Twitter:@parasite_stage

author:

村尾泰郎

音楽/映画評論家。音楽や映画の記事を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CINRA』『Real Sound』などさまざまな媒体に寄稿。CDのライナーノーツや映画のパンフレットも数多く執筆する。

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