対談:「フェティコ」舟山瑛美 ×「ハルノブムラタ」村田晴信 “同志”が語り合うブランドを運営する面白さと課題

今、東京では新たなデザイナーズブランドに勢いがある。その筆頭が、舟山瑛美による「フェティコ」と村田晴信の「ハルノブムラタ」だ。エスモードジャポン東京校の同級生である2人は、20代にそれぞれキャリアを積み、1年違いでブランドをデビューさせた。同志であり、切磋琢磨する舟山と村田がそれぞれのブランドの魅力や、今後の展望について語り合った。

ーーお二人はエスモードのクラスメートだったそうですが、出会いを覚えていますか?

舟山瑛美(以下、舟山):同じクラスになったのは2年生からだったけど、1年生の頃からお互いの存在を知っていたよね。エスモードでは約3カ月に1度プレゼンテーションをする機会があり、他のクラスの子の発表も自由に見ることができる機会があって。

村田晴信(以下、村田): そうそう。公開処刑みたいな感じでね。先生から厳しい意見を言われる姿を大勢の前で見られて、泣きながら教室に帰る生徒がたくさんいてね。

舟山:そういう環境の中で、同志のような気持ちが芽生えていったよね。

村田:心地よい緊張感があったな。瑛美ちゃんは“すごい人”という感じで、1年生のときから目立っていたよね。プレゼンテーションの時に、みんなのポートフォリオを自由に閲覧できたんだけど、瑛美ちゃんのデザイン画の完成度はレベル違いだと思った。

舟山:私はエスモード入学前からファッションや絵の勉強をしてきていたから、ある程度はできたんだよね。逆にハルくんは高校卒業後にそのまま入学したから、1年生のときは目立っていた訳ではなかったけど、2年くらいから頭角を現してきた感じだった気がする。その頃から作るものもキャラも全然変わらないよね。

——学生の頃はどんな作品を作っていたのですか?

村田:僕はいろんな作風を模索した時期がありました。先生に「方向性が分からない」と言われ続けて、一度削ぎ落としてミニマルなものを作ってみたら「それだよ!」と褒められて。最終的にミニマルなスタイルを突き詰めていくようになった。卒業前に神戸ファッションコンテストで受賞することができて、ミラノに留学が決まって。

舟山:コレクションのタイトルは「静謐(せいひつ)」だったよね。

村田:よく覚えているね!

舟山:ハルくんのコレクションで初めて知った言葉だったから。クリーンだけど面白いカッティングのきれいな服を作っていたよね。当時のパターンを担当していたパートナーさんも印象的だったな。ハルくんの思い描く世界観を形にできる人は同世代ではなかなかいないから。

村田:そう。パターン科の優秀な方が3年生の時に一緒にタッグを組んでくれたんだよね。

舟山:あと、ハルくんはMacbookを使ってプレゼンをしていた唯一の人だったね。みんなポートフォリオを手で見せながら、身振り手振りのフィジカルな発表が一般的だったのに、ハルくんはプロジェクターを使っていて、みんな焦っていたよ。

村田:スティーブ・ジョブズみたいな格好してね(笑)。学校はみんなそれぞれの個性が出る場所だったし、好きなことや方向性を見つけていくような指導がされていたから、ライバル意識というよりは、それぞれがやりたいことを極めていく感じがあったよね。

舟山:そうね。エスモードは小さくて自由な感じがあったよね。でもスパルタ校ってこともあって、入学した人数から実際に卒業できる人は半分くらいになっていたけど…。ちゃんと自分と向き合って学んでいけば、自分のスタイルを確立することができる場所だった。

——卒業後はお互いに連絡を取ることはあった?

舟山:ハルくんはミラノへ留学して、私は就職して、別々の道に。たまにハルくんが帰国したときにパーティを開催していたから、そこでいろいろ話を聞かせてもらっていたね。

村田:“帰国フェスタ”というのをやっていたんだよね(笑)。会いたい人がたくさんいたから、一堂に100人くらい集めて、人と人をつなげようと思って。あとFacebookでも繋がっていたから、お互いの近況とかはSNSでチェックしていたかな。

共通点は“イメージ通りのすてきな方”が着用していること

——そうして2019年に村田さんが先にブランドを立ち上げて、その翌年に舟山さんがブランドデビューさせました。それぞれが思う、お互いのブランドの魅力とは?

舟山:「ハルノブムラタ」の魅力は……いい意味で1ミリも日本っぽさがないところ。ヨーロッパのブランドと遜色なく、素材選びやディテールに至るまで、ハルくんの審美眼が感じられる。ラグジュアリーでありモードというブランドは日本には少ないから、人気があるんだなと思う。若手ブランドでありながら、バッグやシューズもトータルで見せられるところもすごい。最初から強気価格で勝負していて、その路線を崩さなくて、かっこいい。

村田:最初はしんどかったよ。バイヤーに理解してもらえるまでには時間がかかったから。でも、最初は友達がオーダーして支えてくれて、友達が多くて本当によかったなと思ってね。スタートして1年後でコロナ禍に入っちゃったから、自分で販売する力をつけようとオンラインでのプレオーダーを開始したのは英断だった。そうして購入してくださった一般のお客さまからの口コミが広がって、ブランドを知ってくださる人が増えて。

舟山:私もコロナ禍でスタートしたから、デビューシーズンは3社との取り引きから始まった。

村田:瑛美ちゃんも学生の頃から、コンセプトやカラーパレットも変わっていないよね。自分が好きなところを突き詰めて作っているのが共感を生んでいるんだろうなと思う。

舟山:そうね。

村田:でも学生時代と異なるのは、経験を積んできた上でリアルなクオリティが向上しているところ。セクシーなデザインの強みがあるけれど、それが下品ではなく女性の色気を引き出す服に仕上がっている。これって男性にはできないことだと思うな。僕の場合は自分では着用できないから、ファンタジーで服を作っているところがあって。前に偶然会った人が「フェティコ」を着ていて、「この服が宝物」って言っていたよ。

舟山:ありがとう。自分のブランドを始める前は、やはり完璧に自分を出すことはほぼできなくて、そのフラストレーションの反動で今は好きなものを作っている感じがする。

村田:作り手もお客さまもブランド愛があって、それがブランドの本来あるべき姿だと思う。

——お互いのブランドで共通する部分は?

村田:両ブランドともイメージ通りのすてきな方が着用していることかな。

舟山:「フェティコ」の方が年齢層は若い気がするけれど、客層がクロスオーバーしているよね。服好きが買うブランドっていうのが共通している。

村田:感度が高い人たちだよね。「フェティコ」はより、最先端を知っているモード好きにも響いていると思うけど、「ハルノブムラタ」はそこまでモード好きではない人にも受け入れてもらえるように意識しているかな。

課題はチームビルディングや、クリエイションとビジネスの両立

——それぞれ課題に感じることは?

村田:ビジネスのことを考えると、スケール感については悩むよね。ブランドを大きくしていくなら、自分の手を離れた場所でも動いていくような組織作りをしていかないといけない。

舟山: そうだね。そんなに大きい組織にしていくつもりはないけれど、ブランドを存続していくために一緒に舵取りをしてくれるブレインになる人は欲しい。

村田:でも経営面を全て手放して、デザインだけに集中しようとも思っていないよね。自分達でコントロールできる範囲で、いろんな人の手を借りながらやっていきたい。特にうちはチームビルディングが課題かな。僕は作家性が強いから、プライドが邪魔をして人に任せられないところがある…やっと生産の担当者が新しく入ってくれて、業務の移行しているところなんだけど。

舟山:手放せる部分は離していかないとね。私もこのまま1人で全部をやっていくのは限界だと思って、先シーズンから生産管理の担当者に入ってもらって、負担が軽くなった。あと企画アシスタントも新たに起用したよ。これまでデザインに関する相談はパタンナーにしてきたけど、よりデザインに特化した人とキャッチボールができるようになるのはうれしい。

村田:いいね。僕はまだ常にテトリス状態で、落ちてきたピースを埋めていく感じ。早くドラクエみたいに武器を持って冒険に出かけたいよ。

——今、それぞれのブランドに必要なこととは?

村田:僕は経営面を見られるCOO的なポジションを担える人や、ECやSNSを運営できるデジタルマーケティングの担当者が必要かな。またビジュアル作りでも攻めたクリエイティブを露出していきたいし。

舟山:私はファッションショーが楽しくなってきたから、ちゃんと新作の型数を増やしていけるように体制を整えていきたいと思っている。今「フェティコ」は女性6人チームでやっているので、そのガールズパワーをクリエイションにも反映したいな。

世界から注目される“東京ブランド”へ

——お互い2度目の東コレを経て感じたことは?

村田:「フェティコ」は会場にミラーボールを設置していて、素直にかっこいいって思ったよ。一歩間違えたらダサくなっちゃうのに、シンプルに洗練されていて。モデル選びやヘアメイク、スタイリングも全てブランドの世界観に合っている。

舟山:私はセンスを信じている人達と仕事をしているので、ヘアやメイク、スタイリングについて基本的には口出しはしてなくて。テーマを伝えたら、各プロフェッショナル達がしっかりと仕上げてきてくれる。私以外の人が「フェティコ」を表現するのを見るのが楽しい。

村田:アイデンティティがあるブランドだからできることなんだろうね。

舟山:逆にハルくんは自分の思い描いている女性像を細かくディレクションしている感じ?

村田:ヘアとメイクに関してはプロに任せているよ。でもスタイリングに関してはまだ任せられる人がいなくて…自分で組むのが好きだからなぁ。

舟山:なるほどね。でも「ハルノブムラタ」はショーをやるようになってから、世界観がより分かりやすくなってきたように感じる。ルックだけで発表していたときは“綺麗なお姉さんに向けた服”ってイメージが正直あったんだけど、ショーからは立体感が分かるようになって幅広い女性の着用を想像できるようになった。

——今後もショー形式での発表を考えていますか?

舟山:可能な限りは続けていきたいかな。

村田:僕もできればやりたいけど…とにかく大変だよね。血を吐く思いでやっている感じ。ショーを発表したシーズンは売り上げが上がるので、資金繰りの部分では恐れていることはなくて、経営面でも安心材料になる。

舟山:私はハルくんが初めてショーを開催したシーズンに売り上げが伸びたって言っていたらから、ショーをやる決意ができたよ。最初は「東コレでショーをやる意味があるの?」って思っていたけど、売り上げにつながった。

村田:最近の東コレは盛り上がってきている感じもするし、新しい世代のブランドがいい流れを作っているよね。「みんなで頑張ろう」っていう雰囲気がある。

舟山:そうだね。もっと東コレが世界から注目されてほしいなって思う。実際にいいブランドは日本にたくさんあるから、みんなショーを発表するようになっていくといいな。

Photography Tameki Oshiro
Edit Nana Takeuchi

author:

大杉真心

「WWDJAPAN」に編集記者として約9年間所属。海外コレクション、デザイナーズブランド、バッグ&シューズ取材を担当。2019年からはフェムテック分野を開拓。21年8月にフリーランスとして独立し、ファッションとフェムテックに関する編集、執筆、企画に携わる。22年4月から文化学園大学の非常勤講師を務める

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