ロンドンの新星ジョックストラップが初来日 ジャンルにとらわれない音楽の新境地

折衷的な音楽性でエキセントリックな存在感を放つロンドンのデュオ、ジョックストラップが初来日。昨年9月にリリースされた最新アルバム『I Love You Jennifer B』では、クラシック、フォーク、ダブ、ハウス、ジャズ……といったさまざまな要素を取り込み、一筋縄でいかない中毒性のあるエレクトロニックサウンドで魅了する。その類稀な才能を認められ、リリースするやいなや海外メディアから高い評価を獲得し、ここ日本でも初来日公演がソールドアウトするほどの人気を得ている期待の新星だ。メンバーのジョージア・エラリーとテイラー・スカイの2人に、それぞれの音楽的バックグラウンドから、アルバム制作の秘話まで聞いた。

――ギルドホール音楽演劇学校在学中に出会って意気投合したとのことですが、それぞれどんな音楽を聴いて育ったのでしょうか?

テイラー・スカイ(以下、テイラー):いろいろ聴いてきたけど、ジェイムス・ブレイクは特別な思い入れがあるね。10代半ばに彼の音楽と出合って、ベースラインにフォーカスされた曲をそれまで聴いたことがなかったから、衝撃を受けたんだ。全体のノイズの使い方も遊び心があって素晴らしいよ。サブの音使いってやりすぎるとトゥーマッチな感じになるけど、どこでドロップするかとか、ブロダクションの仕方において、かなり影響を受けている。2人ともダブステップは好きだよね。

ジョージア・エラリー (以下、ジョージア):そうだね。他にはジョニ・ミッチェル、ビヨンセ、ラベル、チャイコフスキーが私はお気に入り。テイラーが作った曲を初めて聴いた時、ジェイムス・ブレイクのダブステップの要素や、70年代のシンガーソングタイラーを彷彿とさせるボーカル使いが共通する感覚だなと思って「一緒にバンドやらない?」って誘ったんだ。

――2人ともダブステップが好きとのことですが、カリブ諸国からの移民文化がイギリスの音楽に影響を与えている部分があると思います。レゲエやダブは小さい頃から馴染みがあるものでしたか?

ジョージア:ウォーマッド・フェスティバルというワールド・ミュージックのフェスに行ったことがあって、そこでダブを聴いたことがあった。けど、それがダブステップに繋がっていくということは後々知ったよ。

テイラー:僕もレゲエやダブはあまり聴いてこなかったけど、デジタル・ミスティックズとかの初期のダブステップは馴染みがあるかな。最初に話した通り、幅広い音楽に触れてきたから、子どもの時から振り返ると、ジェイムス・ブレイク以外はスティービー・ワンダー、ディアンジェロ、スクリレックス、ジョン・ケージ、バッハ……ほんと色々だよね。

――ざっと出てきた固有名詞で、アルバムでキーとなるクラシックな要素やグルーヴ感が浮かび上がりますね。

ジョージア:アルバム制作の時に、グルーヴ感については特に考えを巡らせていたよ。パンデミックだったので、踊りにも行けなかったから、意識が強くなったんだと思う。とは言え、そもそも仲良くなったきっかけが、2人ともダンスミュージックが好きだったというのもあって、踊れる曲が作りたいというのは、バンドの核とも言えるね。

テイラー:制作の時はラジオでダンス系のミックスをよく聴いていたんだけど、ジョイ・オービソンとかが流れていたね。

――ジョイ・オービソンの『still slipping vol.1』のジャケットを撮影している写真家で映像作家のロジー・マークスが、あなた達のアルバムに参加するオーケストラのドキュメンタリーを制作していますね。

ジョージア:友達を介して知り合ったんだけど、すごくスウィートな人。一人ひとりにフォーカスしていくスタイルで、台本はいっさい作らずに、インタビューしていくという流れだったんだ。ところどころにユーモアを交えて、私達らしさを感じさせるムービーに仕上げてくれて嬉しかった。音楽でもユーモアはとても大切にしているから。

――楽曲におけるユーモアは、具体的に言うと?

テイラー:全部の曲にジョークがあるよね(笑)。

ジョージア:プロセスにおいてユーモアがあるという感じかな。例えば、目指すサウンドの基準を選定する時も、真剣になりすぎずに、ちょっと変テコな鳴り方だったとしても「こういう音でいいかっ」ってある種の気楽な感覚が、私達らしさかな。初めてマネージャーに曲を聴かせた時も「自宅のスピーカーが壊れているんじゃないかと思った」と言われたこともあったね(笑)。間違えてこういう音が出ていると捉えられがちだけど、わざとなんだ。

――アルバム収録曲の『Greatest Hits』は、ラジオ局に送って放送されたものを再録音したという話を聞きました。これもユーモアの1つでしょうか?

テイラー:僕がラジオ局にたまたま送って実験的にトライしてみたんだけど、作詞をしたジョージアからラジオについての曲だって後々おしえてもらって、偶然一致したエピソードもあるよね。

ジョージア:そうそう(笑)。この曲はMVもこだわって制作したから見てほしいな。とてもグラマラスでリッチなストーリーなんだけど、2人のミュージシャンが登場して、さらにお金をせしめようと裁判を執り行うんだ。途中から、出演者が歌って、おかしな展開になっていくんだけど、私が思い付いたストーリーをベースに、監督が内容を膨らませてくれたよ。

――そういったストーリーはどんな時に思い浮かぶのですか?

ジョージア:MVを制作するものに関しては、作詞作曲の段階からヴィジュアルが浮かんでくることがほとんど。やっとつくり上げた曲を映像作品にすることは、解放感があるから好き。クリエイティブな楽しさがあるし、映像として新しいかたちにできることは特別な体験だよね。

――MVではボディスーツやスイムウェアを身にまとい、ライブでもセンシュアルなファッションをしていることが多いですが、それはどうして?

ジョージア:ジョックストラップの音楽は、すべて人生で起こったことがベースになっているんだ。もっと言うと、自分を表現するための音楽だと自覚しているから、自分自身を受け入れないと始まらない。そういう意味でも官能的な衣装を選ぶことが多いよね。

Photography Miyu Terasawa

『I Love You Jennifer B』(Rough Trade/BEAT RECORDS) CD 国内盤 ¥2,200
www.beatink.com

ジョックストラップがデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』を「Rough Trade」からリリース。シングル「50/50」と「Concrete Over Water」、サード・シングル「Glasgow」を含む全10曲を収録している。日本盤CDには解説と歌詞対訳のDLコードが付く他、ボーナス・トラックを追加収録。輸入盤は通常LPに加え、数量限定のグリーン・ヴァイナルが販売中だ。

author:

竹内彩奈

1989年生まれ、エディター。

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