音楽をベースにファッションも横断するロンドン生粋のビートメイカー、スティーヴン・ジュリアン来日インタビュー

ロンドン生まれの、ロンドン育ち。カリビアンの血を引く生粋のロンドンローカルであるサウンドプロデューサー・DJのスティーヴン・ジュリアン(Steven Julien)。ファンキンイーヴン(FunkinEven)名義でも知られる彼が放つ、革新的なエレクトロニックなビートとサウンドは、ストリートでありながらニクいほどスタイリッシュでかっこいい。

1990年代からヒップホップカルチャーに慣れ親しみ、ロンドンのアンダーグラウンドパーティシーンで活動を繰り広げてきた、間違いなく今もっともホットな存在だと言ってもいい。

そのスティーヴンが、「Steven Julien Japan Tour 2022」にて約4年ぶりの来日を果たし、東京・大阪・沖縄でパーティを開催。また渋谷パルコで、彼が運営するレコードレーベル、「Apron Records」のポップアップイベントも開催し、ヨーロッパでは4月にリリースされ話題となった、「Patta Soundsystem」 × 「Apron Records」のコラボレーションアイテムを販売した。

今回は、楽曲制作にDJ、レーベル運営、映像制作、そしてファッションと音楽を軸にトータルプロデュースを行うスティーヴン・ジュリアンを紹介したい。

スティーヴン・ジュリアン
ロンドンを拠点に活動する音楽プロデューサー・DJ。レコードレーベル「Apron Records」主宰。10代前半の頃からヒップホップカルチャーに慣れ親しみ、音楽活動を開始。ハウス、エレクトロ、ディープハウス、デトロイト&アシッドハウスなど、「ローランド(Roland)」808と「アカイ(AKAI)」MPC2000に影響を受けたオリジナルサウンドと、カリビアンの血を引くことから生まれた独特なビートが魅力。2009年にファンキンイーヴン名義でフローティング・ポインツ(Floating Points)が主宰する「Eglo Records」からデビューを果たし、自身のレーベルからリリースをした「Fallen」(2016)、「Bloodline」(2018)、「8 Ball」(2018)などの作品ががさらに話題を呼んだ。またDJとしても人気で、数多くのDJミックスのネット配信だけでなく、ヨーロッパ、アジアなど各国でプレイ。ファッション面においては、アムステルダムのセレクトショップ「パタ(Patta)」と深い交流を持ち、コラボアイテムをリリースするなどしている。
https://apronrecords.com
Instagram:@stevenjulien
Twitter:@funkineven

ラップするのがヘタくそだったから、マイクを置いて音楽制作を始めたんだ

――ロンドンの今年の夏はどうでしたか?

スティーヴン・ジュリアン(以下、スティーヴン):今年の夏はとてもとても忙しかった。フェスティバルやカーニバルから戻ってきても、パーティ! パーティ! パーティ! ってロックダウン以降、初めて夏が戻ってきた感じだったよ。ホットでクレイジーな、素晴らしい夏だった。

――いいですね。日本はまだもうちょっとかかりそうですよ。東京はこの間、2つ大きなクラブがクローズしてしまったし、これも時代の変わり目なのでしょうか。

スティーヴン:知っている。俺の友達のジェイ・ダニエル(Jay Daniel)が(「コンタクト」の)最終日にDJをしたよ。

――スティーヴンは、ジェイ・ダニエルやカイル・ホール(Kyle Hall)と仲良しですよね!

スティーヴン:そうなんだ。俺が一番年上だよ。

――おいくつなのですか?

スティーヴン:ははは。それはミステリーだ(笑)……。俺が一番年上で、ジェイはカイルより年上で、俺達の中では、カイルが一番年下。

――日本でのインタビューは初めてですか?

スティーヴン:前にやったのはソウルでだったから、ということはたぶんこれが日本での一番最初のオフィシャルインタビューになるのかも……。

――では最初にシンプルで良いので、スティーヴンのヒストリーを教えていただけますか? 音楽を始めたきっかけなど。

スティーヴン:子どもの頃は、 たぶん11歳から16歳くらいまで学校でヒップホップダンスをしていて、ブレイクダンス以降の1990年代後半のダンスを、ロンドンで仲間(クルー)と一緒に。そこからヒップホップのクルーでラップをするようになって、そのラップグループの音楽を作るようになったんだ。だけど俺はどうしようもないワック(=下手くそ)なラッパーだったから、マイクを置いて音楽プロダクションを始めたんだ。それでビートを作り始めるようになって、カセットテープに録音したり、ドラムマシンで実験したりと、音楽を作るのが好きになっていった。

――音楽制作が先なんですね! DJではなくて。

スティーヴン:そう、音楽制作が先だね。でもいつもレコードを買っていたから、友達のベッドルームでミックスをしていたよ。ハウス、ドラム&ベース……いろいろなヴァイブスを持った、いろいろなジャンルの音楽。

「ローランド」808と「ヤマハ」のシンセ、それとMPCを使ってサウンドを作り、文化を継承していく

――機材は何を使っているのですか?

スティーヴン:一番最初に使った機材は「コルグ(KORG)」minilogue xd。いつも日本の機材を使用しているよ。「コルグ」のドラムマシーン、「ヤマハ(YAHAMA)」のシンセサイザーとカセットテープって。MPCはもっと大人になってから使うようになった。

――好きなプロデューサーはいますか?

スティーヴン:常に強烈に好きなのは、トライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)Qティップ(Q-Tip)だね。だけどトライブのアルバムをJ・ディラ(J Dilla)がやっていたことを当時は知らなくて、あとになってそれを知ったんだけど、ハードドラムとループ。いろいろな人を巻き込んでいたしね。あとエレクトロニックだと、セオ・パリッシュ(Theo Parrish)のレーベル「Sound Signature」からリリースもしているウォーレン・ハリス(Warren Harris)のハナ(Hanna)名義での1stアルバム『Severance』を聴いた時、ものすごくショックを受けたんだ。それで「彼みたいに音楽を作ってみたい」と思ったんだ。

――それから自身の楽曲をリリースしたんですね。

スティーヴン:初めて出したEPは2009年かな。アレックス・ナウ(Alex Nut)フローティング・ポインツがやっている「Elgo Records」からリリースされたんだ。

――初めてスティーヴンの曲のビートを聴いた時は衝撃でした。

スティーヴン:そりゃいいね! 他に聴いたことがない感じだった?

――はい。ビートの打ち方が、独特というか……。

スティーヴン:(笑)。俺はカリビアンだし、それといろいろなタイプの音楽を聴いているからだと思う。エレクトロニックとヒップホップの融合で新しいサウンドなんだけど、継承(=ヘリテージ)していくサウンドでもあるんだ。前進していくためにね。

俺の場合は1960年代ではなく1970年代や1980年代初期、1990年代のデトロイト、シカゴ、ニューヨーク、UKのブラックミュージックと自分が聴いてきた音楽を継承しているってことになる。ビートのリズムに関しては、俺はカリビアンの血を引くから、ドミニカ、ジャマイカ、トリニダードから大きな影響を受けている。アフリカのリズムと、カリブのリズムは異なるんだ。言語によるメッセージと一緒で、リズムやドラムは、本当にたくさんのいろいろなことを語っているんだ。ドラムは多くのことを語る。

――スティーヴンのビートは、自身のカリビアンのルーツを元に制作されているということなんですね。謎が解けました!

スティーヴン:そういうこと(笑)。なんで俺が影響を受けているのは、カリビアンからアフリカまで、それと1970年代から1990年代。ジャズ、フュージョン、エレクトロ、ヒップホップといった感じ。

Steven Julien 「Bloodline」

Steven JulienのSound Cloud

――日本の音楽は好きですか?

スティーヴン:ものすごく大好きさ。特に坂本龍一の大ファンなんだ。彼の作品は、どの時代も、どのシングルも大好きだ。すごくファン。彼と仕事をすることが俺の夢でもある。それほど坂本龍一の作品はすべて好き。

――坂本龍一を知ったきっかけは?

スティーヴン:YMOの「ファイアー・クラッカー」。ドゥドゥドゥン・ドゥドゥドゥドゥ・ドゥンドゥン♪って。この曲が出た頃に知ったわけではないけど、子どもの頃にたぶん叔父が観ていた昔のラップビデオかブレイクダンスかなんかのビデオでこの曲を知って、すごく耳に残っていたんだ。それからレコードを買い始めて、YMOや坂本龍一のことを勉強し始めたんだよ。

――日本の機材では何が好きですか?

スティーヴン:日本の機材は、エレクトロニックミュージックを作ったよね。「ローランド」と、「ヤマハ」は2大機材だね。「ローランド」808なんか、クレイジーなほどトラップミュージックを生み出しているし。808は世界を支配している。生まれてきてから世界をロックしているんだ!

――スティーヴンはどの機材が一番好きですか?

スティーヴン:808かな!! それとMPC2000XLも大好きだね。今は「ローランド」、MPC、コンピューターにはロジックが入っていてアレンジに使っている。

ホーミーで成り立つ、「Apron Records」

――次は「Apron Records」を始めたきっかけを教えてください。

スティーヴン:「Eglo Records」を運営しているアレックスに俺が作ったディスコエディットの曲をリリースしないか聞いたんだ。 だけどアレックスには断られたんだ。なぜなら、サンプルをリリースすることはリスキーだから。そしたらアレックスが、「なんで自分でやらないの?」って言ってきたんだ(笑)。「訴えられたら困るし、自分でやれば?」ということが、俺を目覚めさせたんだ。「そうだよ、 自分でできるじゃないか!」って。

それですでに「Wild Oats」というレーベルをやっていたカイル・ホールに相談したんだ。彼はレコードのプレスからディストリビューションまで知っているプロデューサーだからさ。すると、いくつかコンタクトすべき連絡先を教えてくれたんだ。それでブローカーにアプローチして「300枚レコードをプレスしたい」と言ったんだけど、事務所にいる人達が「誰だ、この男は?」って。それで現金を彼らに渡したら「オッケー、クール!」となってプレスしてもらったんだよ。3枚目のレコードをリリースした時に、ようやく信頼関係ができて、レーベルに名前をつけてきちんとスタートさせたんだ。

――レーベルに所属している他のアーティストはどのように探しているんですか?

スティーヴン:みんな俺のホーミー、友達だね。あ、でも1人だけ見つけた人がいる。グレッグ・ビート(Greg Beato)というマイアミのアーティストなんだけど、SoundCloudで見つけたんだ。彼のプロフィール写真がニンジャタートルズで「このプロフィールの写真気に入った!」と思ったんだ(笑)。それで曲をチェックしたらすごくエナジーがあって、1発で決めたよ。

「Apron Records」からリリースされた作品

「Patta Soundsystem」と「Apron Records」の関係

――渋谷パルコでの「Apron Records」のポップアップでは、「パタ」とのコラボレーションアイテムを紹介していましたけれど、どのような経緯で「パタ」とはコラボを行うことになったのでしょうか?

スティーヴン:「パタ」から数年前にアプローチがあって、DJで俺をパーティにブッキングしてくれたんだ。その時に、「Patta Soundsystem」の1人と友達になって、一緒に踊って、俺達はファミリーになった。それで彼らがスコアをしないか聞いてきたんだ。それでレコードとTシャツとハットを一気にワンパッケージにしてやることにしたんだ。その話を2019年にしたんだけど、パンデミックもあってそれが2022年に入って落ち着いてきたから、4月にリリースしたんだよ。12インチレコード、トラックハット(キャップ)と、Tシャツを、レーシングカー・チームに見立てて“Better Together”っていうスローガンで制作したんだ。レーシングフラッグを使ったり、キャップはレーシングキャップをイメージして作った。なぜなら俺がカーガイ(=車狂)だからなんだ。とにかく車が大好き。他には、「パタ」 × 「ナイキ(NIKE)」の“Air Max 1”がリリースされた時に、キャンペーン用に曲をオリジナルで作ったこともある。

Steven Julien  「Better Together」

――好きな車はありますか?

スティーヴン:ポルシェかな。古いのから最新まで、ポルシェは全部愛してるよ。「Patta Soundsystem」と「Apron Records」とのキャンペーン映像で、ポルシェ 80’s 911に乗っているよ。あとBMWも好きで、映像の中でも運転している。2003 BMW E46 コンバーチブルが好きなんだ。

――ファッションは重要ですか?

スティーヴン:ファッションというよりは、ライフスタイルの1つとして重要かな。カルチャーがあってこそのファッションだからさ。自分が音楽活動をしていて影響を受けたものを託すというか、自分の中から出てきたものを着る感じだよね。もちろん服は好きだし、ファッションについては少しは理解しているけど、だけどそこまで俺はファッションガイではない。あくまでもライフスタイルとしてのファッションだね。

――ところでスケートボーダーとも交流がありますね。

スティーヴン:仲の良い友達に「パレス スケートボーズ(PALACE SKATEBOARDS)」ルシアン・クラーク(Lucien Clarke)がいる。彼もホーミー。彼らも音楽が好きだからね。ロンドンのアンダーグラウンドなカルチャーシーンは狭いから、みな互いを知っているし、つながっている。俺達は知り合って15年くらいはたつけど、ここ数年でまたさらに近い存在になっているよ。

――今後の予定はありますか?

スティーヴン:あるよ! まだ言えないけど、でかいコラボレーションが来年に控えている。ビッグでクレイジーで、ともかくエキサイティングなコラボになる。アルバムのリリースに関しては、カイル・ホールのレコードを近々リリースを予定しているのと、その後に、自分のものをいくつか。

――ところで約2週間ほど日本に滞在しますが、何かしたいことは?

スティーヴン:「Five G music technology」って原宿にある有名なシンセサイザーの店に行きたい。買うかわからないけど、たくさんあるって聞いているから、体験としてね。あとはフード、ショップ、パーティ。大阪に行ったら京都へも行きたい。お寺には行きたいな。

――音楽以外で興味があることはありますか? 普段の生活の中でメンタルをキープするために何かしていることがありましたら。

スティーヴン:いろんなことに興味があるけど、自然が好きだよ。 それと座禅……治療的なメディテーション、セラピーのようなやつ。バランスを保つために自然の中へ行って、そこで座禅しながらデモ(音楽)を聴きながら、深呼吸をする。それをすることが重要なんだ。

――都会育ちの音楽家らしいバランスの取り方ですね。

スティーヴン:そうそう。俺はロンドンで生まれて、ロンドンで育った、ロンドンが好きで、ロンドンローカルだからね(笑)。

Photography Yusuke Oishi

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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