VLOTがファーストアルバム『WHO IS VLOT』をリリース DJでありプロデューサーであること

VLOT
東京都出身のDJ/プロデューサー。学生時代、友人が手にしていたスケートボード等のストリートカルチャーやギターといった楽器に興味を持ち、自分らしさを探していたところ、ヒップホップと出合う。ターンテーブルを購入したことをきっかけに、ハーレム等の都内クラブでDJとしての活動をスタートさせる。また、音楽にとどまらず、ヴィンテージ Tシャツを愛用していたことから、2015年、仲間と共に渋谷区神宮前にアパレルショップ「PORTRATION」をオープンした。2019年よりプロデューサーとしての活動もスタートし、ヒップホップユニット、「Bleecker Chrome」のメインプロデューサーをはじめ、国内外問わず幅広いアーティストへ楽曲提供する。6月、自身名義初となるファーストアルバム、『WHO IS VLOT』をリリースした。

現在、Bleeker Chromeのメインプロデューサーをはじめ、KOHH、JP THE WAVY、YOUNG COCO、LEX等、国内外問わず楽曲を提供するプロデューサーVLOTが、ファーストアルバム、「WHO IS VLOT」を6月7日にリリースした。

Only U & Young Coco、MIYACHI、LEXと共作した先行シングルに加え、Jin Dogg、JP THE WAVY、PETZ、Bleecker Chrome、Kenayeboiと、日本のヒップホップシーンを担う豪華なアーティストが参加。同作は、力強いビートと宇宙的なサウンドを持つイントロでリスナーを引きつけ、巧みに展開を切り替えたダーク、ポップ、ソウルとレパートリーに富んだ13曲で構成されている。重厚感のあるエモーショナルなアウトロで締めた作品は、短編映画のような印象さえ受ける。アルバム名の通り、VLOTにとっての今の集大成的アルバムだ。同作の制作背景や今後の展望に加えて、謎に包まれたDJ/プロデューサーのVLOTの素顔に迫る。

『WHO IS VLOT』リリースまでの道のり

−−今回、自身名義のファーストアルバムのリリースに至った経緯は?

VLOT:去年、僕がプロデューサーをしているBleecker Chromeが〈bpm Tokyo〉というレーベルからアルバムをリリースしていて、そこからVLOTとしてのアルバムを作らないかと声をかけてもらったのがきっかけです。以前からいつかやりたいという思いはあったんですが、これまで人のプロデューサーという役割が多かった分、周りに声をかけてもらったことは大きかったです。

−−タイトル『WHO IS VLOT』にけた思いは何でしょうか。

VLOT:今回の作品をリリースするにあたっての1番の目標や課題は、プロデューサーよりもアーティストとしての認知を上げることで、そんな思いも込めてアルバムタイトルを『WHO IS VLOT』にしました。

普段、プロデューサーとして曲を作る時に大事にしているのは、アーティストの世界観を崩さずにアップデートできるか。今回のアルバムに関してもそれは変わりありませんが、作品の中でいかに自分の世界観やキャラクターを打ち出すかをより意識しました。

−−VLOTさんだからこそ実現できた、豪華なアーティストを迎えたアルバムでしたが、参加アーティストの選定基準は? 

VLOT:最初は、今まで曲作りを一緒にやったことのないアーティスト達ともいろいろやってみたいと思っていたんですが、ファーストアルバムという自分のキャリアの節目であることも踏まえて、普段から楽曲制作をしていて信用のある仲間をメインにすることにしました。彼等に相談すると、みんな二つ返事で引き受けてくれて、純粋にめっちゃ嬉しかったし、同時にそれだけのメンバーを巻き込むプレッシャーも感じましたね。

−−それぞれのアーティストとのレコーディングにおけるこだわりについて教えてください。

VLOT:普段から、できるだけ一緒にスタジオに入ることを大事にしていますね。今作の制作中でも、最近聴いている曲を聴かせ合ったり、他愛もない話をしたりしながら、「何を作ろうか」と進めていきました。お互いを理解していればいい曲が作れるとずっと思っていて、一緒にスタジオに入って時間を共にしながら曲作りをするのは、昔からのこだわりの1つです。

−−普段からよく使うスタジオはありますか。

VLOT:アーティストにもよるのですが、1番メインとして使っているのはtokyovitaminのスタジオです。2021年にtokyovitaminが出したコンピレーションアルバムがあって、僕も4曲くらい参加しているんですが、そのレコーディングで出入りするようになったのがきっかけです。

tokyovitaminってあくまでファミリーという感じで、特にメンバーが決まっているわけではないんです。スタジオに行くといつもいろんなアーティストが出入りしていて、例えばヒップホップだけじゃなくて、バンドもいたり。tokyovitaminはコミュニティとして好きで、居心地がいいですね。

アルバム収録における新たな試みと挑戦

−−アルバムにはコラボ曲が3曲収録されていますが、アーティストの掛け合わせはご自身で決められたんですか?特に「wetter」は、JP the wavyさんとKENYAさんの初コラボ曲になると思いますが、それぞれの良さがうまくハマっていましたよね。

VLOT:今回のアルバムに関してのフューチャリングは自分で決めました。コラボを通して新たな側面が見られたり、1人では出せない化学反応を楽しめたり、そういった楽しみ方はヒップホップの良さでもある。あと、洋服のブランドのコラボレーションじゃないですけど、“人気×人気”でお互いのファンからそれぞれを知ってもらう機会にもなるし、僕自身すごく好きなんですよね。

−−ハードでヒリヒリとした曲から、ポップ、エモーショナルな曲まで、幅広い楽曲が収録されていましたが、全体の構成や曲順はどのように決めていったのでしょうか?

VLOT:そもそも自分がDJをやってきたことが、全体の構成を考える上でも生きています。DJも曲順も共通しているのは、最初に勢いを作って、最後はエモーショナルな気分になるような展開をつくること。アルバムにおいては、特にイントロとアウトロが、全体をさらにドラマチックに見せたり、自分の世界観を追求したりするために重要でした。今回最初に手をつけたのはイントロで、それがあった上で曲の流れを考えながら、どう締めようかなと考えながら進めていきました。曲的には、「Yorunotobari」が最後に作った曲なんですが、自分の中でアウトロに近いイメージだったので、そこからうまく繋がるようなアウトロを作って行きましたね。

−−アルバムにおいてご自身がインスピレーションを受けたアーティストはいるんでしょうか?

VLOT:やっぱりDJをずっとやってきたというのもあって、さっきも話したイントロからアウトロまでの展開がかなり重要で、普段から自分が聴くアーティストも展開がおもしろい人が多いんですよね。特に制作期間は、Metro Boominの『HEROES&VILLAINS』がかなり大きなインスピレーションになりました。

−−確かに、アルバムを通して聴いた時、切り替わりや一貫性等『HEROES&VILLAINS』にも感じたような、映画を1本見たような感情を抱きました。

VLOT:映画の世界観を感じられるという声をもらうことはよくあって、やっぱり意識していたところを感じてもらえたのはすごく嬉しいですね。

−−普段Bleecker Chromeのメインプロデューサーも務められていますが、今回のアルバムに収録された「2 seater」、「Yorunotobari」は、このアルバムのために制作されたのでしょうか?

VLOT:去年の12月にBleecker Chromeのセカンドアルバム『Chome Season 1.5』の制作のためにタイへ渡って、2週間がっつり作り込んだんですが、「2 seater」はその時に作成した曲です。帰国してからアルバム用に選定したり構成をしたりしていく中で、この曲はVLOTのアルバムに入れたいなと思い2人に相談しました。Bleeckerらしさをより強く感じる曲だったし、いろんなアーティストの曲が入った作品の中で、その良さがかなり引き立つと思ったんです。

もともとはBleecker Chromeから2曲出す予定はなく、アルバムの9割くらいができたタイミングでKENYAとXINの2人に聞かせたんですよ。その時に、2人がもう1曲作りたいと言ってくれて、それから完成したのが「Yorunotobari」です。アウトロにふさわしい曲になったと思うので、流れも含めてすごく気に入っています。

−−MIYACHIさんとの楽曲「ALOT」はジャージー・クラブが取り入れられていて、普段の彼のラップスタイルとは一味違った意外性がありました。こちらはどのように制作されたのでしょうか。

VLOT:MIYACHIにアルバムを作りたいから参加してほしいと相談した時、快諾してくれて、さらに、「普段自分がやらないトピックとか、新しい試みをVLOTのアルバムでやったらおもしろいんじゃないか」と提案してくれたんです。その後MIYACHIにビートパックを送ったのですが、その中からジャージーをピックアップしてくれたのはとても意外でした。正直、最初はジャージーにMIYACHIが乗るイメージはあまりなかったので、どういう感じになるのかは僕自身とても楽しみではありました。

−−やってみたらどうでしたか?

VLOT:いや、最高でした(笑)。MIYACHIのスキルの高さも改めて再確認したし、「Astro Boy」に続いて、いい形でシングルをリリースできたなと思います。

−−曲と曲の間が繋がっているように感じるところがいくつかあったのですが、どのような手法なのでしょうか?

VLOT:ビートスイッチです。1曲の中で、ビートが2回変わったり、その切り返しでいきなり雰囲気をガラッと変えたりすることをいいます。昔からヒップホップではいろんなパターンで存在はしていたのですが、その中でも、自分も含め世界的にヒップホップシーンに影響を与えたのが、1曲の中に3曲のビートが入ったTravis Scottの「SICKO MODE」で。ある意味、ビートメーカーの腕の見せ所でもあるなと改めて魅了されました。今回のアルバムでも、1曲目から3曲目までビートスイッチに近い感じで曲調が変わるシーンがあります。ただ曲調が変わるだけでは意味がなくて、ここでもDJの要素というか、いい意味で期待を裏切ってくるビートスイッチというのはもちろん目立つし、スキルが試されるところなんだなって思うんですよね。気がついたら、ビートスイッチは曲づくりでの自分らしさや強みにもなってきていますね。

−−活動を振り返った感想や、新しい気付きについて教えてください。

VLOT:このアルバムを作るのに、なんだかんだ1年半くらいかかったんですが、本当に集中したのが最後の3、4ヵ月くらい。印象に残っているのは、みんなと集中して作り込んだ時間です。改めてそれぞれのキャラクターについても考えたし、逆に向こうが捉えている僕のキャラクターについても聞いたりして。それまでぼんやりしていたイメージがその時間で明確になってきたのが実感できたのが単純に楽しかったですね。

僕のことをよく知っている仲間だからこそ「こういうのもいいんじゃないか」という提案をたくさんしてくれました。アルバムを通して、自分についてもより知れて、アルバムのタイトルにも落とし込めたし、みんなとの関係値も深まったと思います。

あとは、今回ミックスからマスタリング、レコーディングまでほぼ自分でやりました。それを参加してくれたアーティストに納得してもらってリリースできたことは嬉しかったです。いろんな人たちがSNSで感想を送ってくれたり、リアクションをくれたりするのも、励みになっています。今までにない反応をもらえて嬉しいですし……でも、もっといろんな人に聴いてもらいたいです。

ウィットに富んだアートワークのこだわり

−−第1弾シングル、「Astro Boy」の鉄腕アトムをマッシュアップしたジャケットは、今では手塚プロダクション公認のアートワークとなっているんですよね。

VLOT:タイの友達がSNSにアップしていた絵がすごく良くて、彼に紹介してもらってそのアーティストにお願いしました。InstagramのDMで連絡を取り合って、曲のイメージや僕等3人のスタイル、求めているイメージを説明して満足がいくものに仕上げてくれました。リリースにあたって手塚プロに許可をもらう時に、A&RのSTEELOくんが掛け合ってくれて。そしたら快くOKしてくれて、オフィシャルで公認になったんです。まさかオフィシャルになるとは思わなかったから、びっくりというか、聞いてみてよかったと思いましたね。

−−今回のジャケットに関しても、プロデューサータグが書かれていたりVLOTさんらしいデザインですよね。こちらはどのような経緯で決まったのでしょうか?

VLOT:アルバムのジャケットは、個人的にも仲が良いtokyovitaminのデザインも手掛けているケイくんにお願いしました。僕自身ケイくんのアートワークがめちゃくちゃ好きだし、彼が作ったTシャツも気に入っていて、よく着ているんです。お互いヴィンテージTシャツが好きだし、感覚が似ているのもあって、彼を信用してほとんどお任せって感じでしたね。最後にプロデューサータグを入れてもらって、自分を象徴する合言葉みたいにもなっていてとても気に入ってます。

−−リリース前日にInstagramでアップしていたトレイラー映像も印象的でした。普段、あまり見られないVLOTさんの姿も注目されたのでは。

VLOT:トレイラー映像に関しては前から予定していたわけではなかったんですが、プロモーションについてはよく考えていました。自分のタグやアルバムのタイトルもですが、ネオ東京なイメージ、かつ自分の普段の生活が少しわかるように意識しました。あとはアナログな質感が好きなので、VHSのナイトモードで撮影してもらいました。

VLOTの向かう先

−−「VLOTとは誰か」というタイトルの作品ですが、ご自身で自分の音楽性についてどう捉えていますか。

VLOT:普段は年代を問わず、メロディアスな曲が好きでよく聴いています。R&Bやラップは自分の音楽にかなり影響している部分です。もちろんベースにはヒップホップがありつつ、その中でさらにメロディアスな側面があるビートが自分の強みだと思います。

−−普段さまざまな世代のアーティストと楽曲制作をされるVLOTさんですが、現在の日本のヒップホップシーンについてどのように考えていますか?

VLOT:ヒップホップのいいところは世代とか性別、国籍も関係ないこと。みんながお互いをアーティストとして認め合って、尊敬し合ったり、コラボレーションみたいに、いろんな関わり合いができる音楽だというのが、ヒップホップの魅力の1つです。みんながトップにいける時代という意味で、今は健康的なシーンだなという実感はあります。

−−今後について教えてください。

VLOT:ファーストアルバムをリリースしたばかりですが、すぐに次のアルバムに取り掛かりたいですし、あくまで最初の一歩を踏み出せたような気持ちです。Metro Boominが今年行ったコーチェラのショーや、全面プロデュースを行った『スパイダーバース』のサウンドトラックにはかなりの衝撃を受けました。彼のように、音楽をベースにしながら、ショーやサウンドトラックをプロデュースできたら最高だと思います。ただ、プロジェクトの大小に関わらず、絶えずアップデートする謙虚な姿勢を大事にしていきたいです。

−−DJ兼プロデューサーというスタイルはこれからも続けていきますか?

VLOT :DJはやっぱり大好きで自分の根底でもあります。プロデューサーとしても、引き続き毎日音楽を作りたいですし、仲間のサポートも続けていきたい。僕の音楽にとってDJとプロデューサーっていうのは別軸ではなくて、2つの良さや強みをお互いに生かしてこそなので、これからも変わらずやっていきたいですね。

−−2つは切り離せない関係なのですね。これまでも、そしてこれからも、どんなアーティストでありたいですか?

VLOT:みんなそれぞれ大変なことがあったり、さまざまな状況にいたりすると思うけど、そんな中で僕の音楽で少しでもみんなの心が動いてくれたら、それ以上に嬉しいことはないです。これからも自分がかっこいいと思うことを真っ直ぐにやり続けて、たくさんの人の心を動かしていきたいです。常に作り続けることが唯一の癒やしで、僕にとって音楽は、やり続けないとだめなことですね。

■VLOT 『WHO IS VLOT』
1.Intro
2.Low Key / Jin Dogg
3.VLOT in this bihhh / Young Coco
4.ALOT / MIYACHI
5.Dirty Diana / LEX
6.Wetter / JP THE WAVY & KENYA
7.Magic Stick / kZm
8.2 seater / Bleecker Chrome
9.Castle Flow / Young Coco
10.Ride with my glo / Kenayeboi
11.DQN / HEZRON, PETZ, Yung sticky wom
12.Living Now / Only U
13.Yorunotobari / Bleecker Chrome
14.Outro

author:

上野 文

1998年生まれ、兵庫県神戸市出身。フリーランスライター・フォトグラファーとしてカルチャーを中心とした執筆や撮影を行う。また、2022年にはイギリス・ロンドンにて収めた写真をもとに、初の個展、「A LIVES」を開催。 Instagram:@ayascreams

この記事を共有