「変態なアイテムを作ってお客さまに喜んでもらいたい」 「NISHIMOTO IS THE MOUTH」西本克利インタビュー 前編

架空のカルトクラブをコンセプトにしたブランド「ニシモト イズ ザ マウス(NISHIMOTO IS THE MOUTH)」は、ディレクターである西本克利の全身にタトゥーが施された容姿も含め、唯一無二の存在感を放っている。同ブランドは、コアなファッションフリークの間では以前から知られた存在であったが、今年に入り、『街録ch』や『ニートtokyo』をはじめとする人気YouTubeチャンネルに西本が多数出演し、多くの人に知れ渡ることになった。

インタビュー前編では、西本本人にメディアに出演する意図やブランドの今後について考えを聞いた。

西本克利(にしもと・かつとし)
1979年埼玉県生まれ。「ニシモト イズ ザ マウス」ディレクター。人気アパレルブランドを退社後、2020年から「ニシモト イズ ザ マウス」を本格的にスタート。さまざまなメディア、YouTubeチャンネルに出演しており、自身のYouTubeチャンネル「NISHIMOTO IS THE YOUTUBE」もスタートするなど、積極的に露出を増やしている。
https://nishimotoisthemouth.com/
Instagram:@k_nisimoto_
Twitter:@Nishimoto6996
YouTube:NISHIMOTO IS THE YOUTUBE

多分、全員に神対応していると思います

——これまでもさまざまなメディアにインタビューが掲載されていましたが、最近はYouTubeにも出演されています。出演には何かきっかけがあったのでしょうか?

西本克利(以下、西本):毎年、年末に来年の目標を紙に箇条書きしているんですけど、2022年の目標の1つに「メディアに出る」っていうのを書きまして、それを実践しています。

——目標は他にどんなことを書いたのでしょうか?

西本:「人に優しく」とか、「お金を稼ぐ」とか、「彼女を作る」とか普通のことです。別で「死が宣告されたら絶対やりたい10のこと」っていうのもあるんですけど、そっちはヤバいことしか書いてないです(笑)。

——実際に『ニートtokyo』『街録ch』など、人気のYouTubeチャンネルにも出演されましたね。出演の経緯は?

『ニートtokyo』に出演する西本克利

『街録ch』に出演する西本克利

西本:『ニートtokyo』さんはInstagramにDMをいただきました。『街録ch』さんはシソンヌの長谷川さん経由ですね。僕にとって長谷川さんはキーパーソンのような存在で、「ニシモト イズ ザ マウス」が売れる前から着てくださっていて、それを見た、どきどきキャンプの岸さんもファンになってくれて、その岸さんが東野幸治さんにつないでくれて、さらにそこから宮川大輔さんにもつながったりと連鎖がありました。

メディアに出れるところがあれば出て、ブランドの認知度を上げていこうという目標だったので、おかげで認知されたかなと思っています。

——ブランドの認知度を高めることを目的としたメディア出演だったんですね。

西本:ドレイクが着たとはもう言われたくないんですよね。むしろそのイメージを外したかった。周りが言うのはいいんですけど、3年ぐらい前の話なので自分達からはもう言いたくないし、僕が「ビズビム(visvim)」で働いていた職歴ももう言いたくはないので、今は自分でブランドをやっていますって感じですね。

——こうしてYouTubeに多数出演されましたが、声がかかったらテレビ番組にも出ますか?

西本:今だったら100%出ますね。コンプライアンス的にテレビは基本的には出られないと言われていて、YouTubeとかAbemaの番組がギリギリ出られるのかなって思いますが、『クレイジージャーニー』が始まったら、初めてのテレビ出演があり得るかもしれないと思っています。呼ばれたらラッキーかなと。

——出たい番組はありますか?

西本:NHKにも出てみたいですね、絶対に無理だと思いますけど。テレビを観ないので番組は全然わからないんですけど、声がかかっておもしろければなんでもいいかなと。どういういじられ方をするのかも気になります。

——今後の出演予定は何かありますか?

西本:AshleyさんフィーチャリングJin Doggさんのミュージックビデオに出ます。『ニートtokyo』さんに出た時に好きなラッパーにJin Doggさんの名前を挙げたら、LUNAちゃんってMr.マリックさんの娘さんが友達なんですけど、LUNAちゃんがJin Doggさんのミュージックビデオをプロデュースしてて「出てほしい!」って連絡をもらいました。多分、すげえちょっとだと思うんですけど、Jin Doggさんと絡めるのは嬉しいです。

——メディア出演はこれからも続けるのでしょうか?

西本:年末になった時に頭の思考がどうなっているかで、来年も続けるか、続けないかを考えます。正直、いい時にやめたいっていうのはありますね。今は存在としておもしろいと思うんですけど、だんだんおもしろくなくなってくるじゃないですか。そうなってくるとマイナスになると思うので、いいタイミングでやめたいです。中田ヒデ(=中田英寿)みたいに(笑)。

——メディアに出るようになったことで変化はありましたか?

西本:「写真を撮ってください」と言われるようになりましたね。そういうことを言われるのはめちゃくちゃ嬉しいです。僕は普通の人間なのに、「サインください」とも言われるので練習もしたんですよ(笑)。声をかけられたら丁寧に接するようにしているので、多分、全員に神対応していると思います。

これまでは30代の人がインスタを見てくれていたんですけど、『ニートtokyo』さんに出てから、10代、20代の若い世代も見てくれるようになりました。『街録ch』さんとはコラボTシャツも作りましたが、価格はいつもだと¥9,000ぐらいするものを¥4,500ぐらいにして、受注生産でほしい人は誰でも買えるようにしました。すると、老若男女というか、ファッションが好きというよりも『街録ch』さんが好きな方が多く買ってくれた気がします。購入した方からDMももらいましたし、女性の「遂にきたー」っていう反応もありました。女性にも着てほしいんですよね。

——今まで女性のお客さまはいなかったんですか?

西本:友達には街で見るって言われたりするんですけど、僕自身では女性で着ている人をあまり見たことなくて。この見た目だし、カルトな感じがするので、敬遠されがちなのかなと。でも、「ニシモト イズ ザ マウス」の服を見て、カワイイと言って買ってくださる方もいるみたいです。まったくかわいくないですけどね(笑)。

最初に選ばれた預言者として僕がフィーチャーされているだけ

——「ニシモト イズ ザ マウス」の認知度もかなり上がったと思いますが、もともとは仲間内で配るために西本さんの顔をプリントしたTシャツを作ったことから始まったんですよね。

西本:5年ほど前、アメリカ在住のデザイナーの友人が日本に来て、僕と画家の中村穣二さんと3人で飲んでいた時に、軽いノリでTシャツを作ろうってなったのがきっかけです。その友人はコロナ禍になる前で頻繁に日本にも来ていたので、来日するたびにデザインしてくれたTシャツを何十枚も持ってきたので、それを友人に配っていました。カルト的なものを作ろうって話していたので、酔っ払いながらふざけて「タクシーに乗っちゃいけない」とか「霊柩車が来たら親指を隠す」とかのメッセージが載せてあります(笑)。

ブランドスタート時に作成した初めてのTシャツ

——ちなみに、自分の顔がプリントされているというのは……。

西本:めちゃくちゃ嫌でしたよ(笑)。しかも、メガネを取っているバージョンだったし。まあ最初は嫌でしたけど、仲間内ならいいかなと。あとは「ニシモト イズ ザ マウス」がここまでブレイクするとは僕も思っていなかったので。

——そのブレイクするきっかけは、先ほどもお話がありましたが、やはりドレイクが着用したことですか?

西本:2枚目のTシャツを作った時に、先ほどのアメリカの友人が向こうでもTシャツを配ってて、友人づてでドレイクやトム・サックス、ヴァージル・アブローなどにも配ってくれたんですよ。するとその着用した画像がメディアに露出して「これはなんなんだ」ってなってました。ただ、その時はまだ僕が前職で働いていたこともあって、仲間内で配っているだけで販売はしていませんでした。

——そこからブランドとして販売するようになった流れを聞かせてください。

西本:副業みたいな形でTシャツを作っていたり、友達のブランドの手伝いとかをしていたのが会社にバレちゃって、半分クビみたいな形で僕が会社を辞めたんです。その2ヵ月後ぐらいに知人の紹介で「コモンベース」のスガヤさんと出会って「ブランドをちゃんとやっていきませんか?」と声をかけてもらって、2020年から本格的に始めました。

——本格的にスタートしてからも、デザインはアメリカの友人が担当しているのですか?

西本:彼は今はデザインには携わっていなくて、プロデューサーというか、ストーリーを作ってくれています。直接、「ニシモト イズ ザ マウス」の洋服にストーリーは関わってはいないんですけど、その友人がストーリーを考えてくれていて、そこから生まれるひらめきもあります。これからはストーリーも連動させて洋服作りをしていきたいと思っています。

——ストーリーがあるんですね。

西本:そうなんです。例えば、Tシャツに「2022年5月25日に何かが起こる」といったことを書いていたりするんですけど、そのために実際に何かを起こしていて、2022年5月25日に預言者である僕の耳が聞こえなくなりました。現在は、そこまでストーリーは進んでいます。あと、もう年なので太ってきちゃったんですけど、それも僕がどんどんお金目当てになって「お金をください」って信者の方からお金をもらって豊かになったことで太ったという設定にしています。

これから先はまだわからないですけど、自分が死んで神になることもあるかもしれないですし、死んでまた再生するっていうのもあるかもしれないです。

——預言者が変わることもありますか?

西本:あり得ますね。「サトウ イズ ザ マウス」とかになっているかも(笑)。それでもいいと思うんですよね。個人的にはおもしろいと思うので。最初に選ばれた預言者として僕がフィーチャーされているだけで、僕もそれを演じているだけですから、実際は預言者ではないんです(笑)。

変態なアイテムを作ってお客さまに喜んでもらいたい

——今後は、どのようなアイテムをリリースする予定ですか?

西本:ダブルネームを出していきたくて、8月にポップアップショップをやったんですけど、そこでは「ケニー・カガミ」という加賀美健さんの男前のアバターとのコラボアイテムをリリースしました。加賀美健さんのコラボはこれまでにもたくさんあるので、それ以上におもしろさを出すことを考えて、「ケニー・カガミ」は誰もやっていなかったので、それを最初にやりたくて加賀美さんにお願いしました。

他にも今年中だと、HIMMAさんやdooooくん、faceくんといったアーティストや、海外ブランドだと「P.A.M.(パム)」とのコラボリリースも予定しています。faceくんとのコラボでは、僕のソフビが出ます。ちょっとむっちりというか、体がデブなので、それっぽい感じでおもしろいと思います。あとは、鶯谷にいるおばあちゃんの風俗嬢が大好きで、その人にセーラー服を着せて僕が撮った写真があるんですけど、そのフォトTシャツを作っていつか出したいと思ってます。

「ケニー・カガミ」とのコラボレーションのルック画像

——どんどんと新しい展開を予定していますね。

西本:日本でようやく知られつつあるというか、わかってきていただいているので、日本でしっかりと土台を作ろうと今は動いていて、コラボレーションも必ず2つぐらいは入れていきたいと考えています。ただ、リリースが近過ぎるといろいろと言う人もいるので、「そことやる?」といった感じの方がいいのかなと。大仁田厚さんみたいに、僕が好きだった人や憧れていた人とか。スケシンさんも、30歳前半から40歳までずっと遊んでもらっていて、めちゃくちゃ影響受けていますし、尊敬もしている人ですが、ちょっと今は頼みづらいので、最終的に僕が死ぬ間際とかにやってもらえたら幸せです。前回まで展示会にも呼べてなかったので。

——尊敬している人だから、どう思われるだろうということですか?

西本:そうなんですよ。スケシンさんはお父さんみたいな存在なので、ちょっと恥ずかしいんですよね。

——西本さんはコラボを誘われることも多いのでは?

西本:月に2〜3社ぐらいはお誘いの連絡があります。でも、僕がやりたくないものはやらないので、僕がやりたいなっていうコラボだけをやっていて、ケミストリーが起こらなそうなコラボはスガヤさんから断ってもらっています。

僕はこの現状の生活を維持できればいいので、お金目当てのコラボは一切考えていないです。それよりはもっとおもしろいことをやっていきたいですね。他の人がやれない、自分にしかやれないことをやりたいと思っていて。アートが好きなので、アートシーンで活躍している方とやっていきたいですね。リュウ・イカちゃんっていうモンゴル人の女の子のカメラマンと、平手さんっていう、この前銀座ですごくぶっ飛んだ展示をやっていたカッコいいアーティストがいるんですけど、3人で上野動物園での撮影を考えていて、写真が良かったらTシャツにしようかなと思っています。仕事でコラボするっていうよりは、遊んで作品撮りをして、それを商品にして売ってみんなハッピーという感覚です。「こういうの作って売っちゃえばいいんじゃない」っていう昔の裏原の感覚ですね。

——いわゆるインライン商品は作らないのですか?

西本:次のシーズンから、春夏秋冬っていう概念はとっちゃおうと思っています。冬だからといってアウターを作らなくてもいいと思いますし、僕のブランドは立体裁断のジャケットとかは一切出さないので、軽い感じのカットソーとかでいいのかなと。あと、コレクションブランドだと展示会から納期までに半年ぐらいかかると思うんですけど、正直、忘れちゃうんですよね、半年前のアイテムって。だから、「ニシモト イズ ザ マウス」は、今ほしいアイテムを納期まで2、3ヵ月ぐらいでクイックに作りたい。展示会に間に合わないアイテムはポップアップをやって、受注会もやろうと思っています。地方で買えないお客さまから「ほしい」ってDMが来るので、インターネットで受注してお客さまが必ず買えるようにしようと思っています。

——必ず購入できるのはいいですね。

西本:最近だと、ギフトで送ったTシャツがメルカリで3万円ぐらいで売られていて、僕もインスタで買わないように書いたんですけど、それでも買っている方がいたんですよね。個人的にそれが切ないというか。プレ値がつくことってブランドをやっていて嬉しいことで、転売の人をどうこう言うつもりはまったくないですし、僕もスニーカーをプレ値で買うことがありますけど、よくよく考えるともったいないですよね。そのお金があれば、おいしいご飯が食べられますから。

——今後、「ニシモト イズ ザ マウス」をどうしていきたいですか?

西本:半年後のことしか考えるのはやめようと思っています。さっき、自分が死んで神になるかもって言いましたけど、実際にいつ死ぬかわからないですし。10年後のことを聞かれることもありますが、10年後は何もやっていないかもしれない。ブランドがなくなっているかもしれないです。ガン宣告でもされたらブランドをやっている場合じゃなくなりますしね。だから、ギリ半年後のことしか考えないようにしたので、その中で今まで以上におもしろいことをやって、他にないアイテム、自分独自のアイテムを作りたいです。ひと言で言えば変態なアイテムを作ってお客さまに喜んでもらいたい。「こいつバカだよね」って言ってもらえるぐらいがちょうどいい。そんなところですかね。

後編へ続く

Photography Hidetoshi Narita
Text Kango Shimoda

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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