Mamikoが鈴木真海子名義でソロのリリースやライヴをこなしていたものの、ユニットとしては、Rachelの結婚・妊娠にともない、ライヴといった表立った活動を2021年春から休止していたchelmico(チェルミコ)。
2人が、11月にひさしぶりの有観客ワンマンライヴとそれに合わせたデジタルシングル「三億円」で再スタートを果たした。気ままでキャッチ―な楽曲はまさに「お帰り」と言葉をかけたくなる仕上がり。タイミングを合わせたわけではもちろんないだろうが、さる10月にはイギリスのベテランミュージシャン、エルヴィス・コステロが、英ガーディアン誌のコラムで、アニメ『映像研には手を出すな!』への賛辞とともに、その主題歌であるchelmicoの「Easy Breezy」を「very cool」と評したことも話題になったばかり。
気取らぬ2人に変わりはないようだが、そうした状況も1つの追い風だとすれば、「三億円」で吐露した思いもなんら夢ではなくなるはず。
そしてまた、彼女達の世界がさらに広く評価されるだろう。
メジャーデビュー~環境の変化とコロナ禍で「成長した3年」
——メジャーデビューから3年あまりですが、振り返ってみていかがですか?
Mamiko:Rachelが結婚と出産をしたっていうのは大きかったよね。
——やはり制作面などにも影響はありましたか?
Mamiko:曲作りの変化はあんまなさそうな気がする。Rachelも忙しくて書けないかと思いきや、意外と制作もできてるから(笑)。
Rachel:むしろ少ない限られた時間の中でいいものを作りまくりたいってずっと頭ん中でラップのこと考えてる感じですね。
——そうなんですね。子育てとの両立は大変なんじゃないかなと想像していました。
Rachel:物理的に時間は取れないんで、逆にメリハリ(がある)っていうか。だからホントに今仕事サイコー。こうして集まって音楽の話ができるのもホント幸せで、今までよりも大好きになりましたし、今が一番楽しいかもくらいですね。
——それは何よりです。
Mamiko:よかったねえ(笑)。
Rachel:よかった(笑)。自分にとってはすごいプラスになったし、ずっと「こんな曲作りたいなー」とか考えて、急いで出すみたいなスタイルになったんですけど、案外自分もやれるねえって感じで(笑)。
——はは。Mamikoさんにしてもソロのリリースやライヴがあったりしましたよね。
Mamiko:そうですね。楽しいですよ。ソロはchelmicoとはまったく違うジャンルだし、ラップじゃなく歌なので。chelmicoの制作とソロのライヴがかぶった時はモードの切り替えが難しかったけど、それはそれでいい経験でした。今はライヴも落ち着いたし、制作がすごい好きなんで、あとは制作期間にできたら嬉しいです。
——個々のそういった環境の変化もですが、ここの3年でいうと、何よりその多くをコロナ禍が占めてますよね。活動がままならない中で気持ち的にはどうでした?
Mamiko:しんどかったっすね。ただ、ライヴできないし気持ちも滅入るけど、「休めてラッキー!」っていう気持ちもあったかな(笑)。「集中して好きなことできる」って。
Rachel:音楽作るぞって感じでね。実際、コロナ禍の中で出した『maze』の何曲かはその影響でクラブの思い出を書きましたし、基本的に日記みたいな感じで曲を出すことが多いので、どうしても曲には反映されます。ただ、それこそMamiちゃんもソロ出したし、楽曲への関わり方はやればやるほど身につくので、すごい成長した3年間だったかな。
——では、3年の間に音楽への向き合い方が変わったりはしました?
Rachel:今まではトラックメイカーにトラックをもらって「じゃあそのトラックで書くわ」って感じでしたけど、それが「こんなのをやりたい」とか言うようになり、具体的にそうするためにどういう音色とかどういう音楽のジャンルにするとかっていうところを話すようになりましたね。ミックスや歌詞に対してもどんどんこだわりが増え始めて、それを実現するノウハウ、経験を積んでいます。
——それは音楽の志向が変わってきたっていうこともありますか?
Mamiko:そこはそんな変わってないけど、気分は揺れ動いてますね。前回は結構ゆったりめのEP(『COZY』)を出したんですけど、今回の「三億円」はバッキバキのビートでイメージが変化してるように見えるかも。
アゲアゲな「三億円」と、楽曲を楽しむchelmicoらしさ
——確かに今回の「三億円」は、『COZY』のいわばすっぴんに近い穏やかなムードとは真逆ですよね。ただ、それも意図的に変えたわけではないんですね。
Mamiko:そうです。いろんな種類の音楽を聴くので、その時その時のマイブームみたいな感じですかね。「三億円」は復帰1発目みたいな感じだったので、気分的にも結構アゲアゲで、強めな気持ちで行きたいなっていうのがあって。その中でもRachelが好きな雰囲気の曲が速かったり、強かったりするので、Rachel色強めでやろうっていうのが勝手に自分の中であったんです。だから「三億円」にはRachelのほうに熱い気持ちがあるかな(笑)。
Rachel:そうだね。Mamiちゃんにはソロもあるけど、chelmicoではこういうこともできるよっていうので、逆張りじゃないですけどchelmicoならではの元気さが出る曲になったらいいなと思ってましたし、何よりライヴでやるってことも決まっていたので。
——ともあれ、chelmicoらしいといえばchelmicoらしいキャッチーな曲ですよね。お2人自身はそもそもchelmicoらしさをどういうものと捉えていますか?
Mamiko:chelmicoらしさ……なんですかねえ。でも、やっぱ歌詞なのかな?
Rachel:そうね。楽曲面でいうとホント、バラッバラだからね(笑)。chelmicoらしさってさてなんだろうって思いながらも、歌詞とか楽曲のテイストで嘘はつかないっていうのが1個あって。やりたくないことはやらないし、使わなそうな言葉遣いとかは無理して使わないっていうのは私達らしさかな。
Mamiko:好きなことをやってるのがchelmicoらしいよね。
——「三億円」もその点ではまさにですね。MVにしても楽しそうです。
Mamiko:でもテーマに関しては、最初はもうちょっと「逃げ出したい」みたいな感じでネガティヴだったんですよ。それこそコロナの話なんですけど。でも結局突き詰めていったら、「金ありゃだいじょぶじゃね?」みたいな(笑)。最初は強い言葉や怒りみたいなものがなかったので、書けるかなあって感じでしたけど、お金の話ならポップにできるなって思ったので、そこを何回か話し合いながら作ることができました。
Rachel:トラックもガラッと変わったよね。リフが印象的な曲にしたかったのでそこは変わらないんですけど、最初はもっとバンド寄りなスカっぽいサウンドで、ドラムの音も荒々しいし、クラブっぽくはなかった。
——そうなんですね!
Mamiko:確かにあとからいろいろ音を入れたよね。
Rachel:「逃げ出したい」にしても「お金欲しい」にしても強い感情だから、トラックが凶暴だとバランス取れないなって思って。ちょっとコミカルでおもしろく聴こえるようなビート感、アホっぽさを出してもらいました。
——曲を聴いてもそのムードがまず先に入って来ますしね。
Rachel:歌詞でも言ってるんですけど、今を生きてる人達って、こんなことしたいといったヴィジョンを抱きづらくなってるんじゃないのかな。コロナ禍もありますし、景気がよくないことも相まって、どんどん窮屈になってて。それでもそこそこ生活できてるからいいじゃんってなったりするけど、ホントにそれでいいのかなっていう気持ちでMamiちゃんも歌詞で〈もっと上もっと上〉って言ってて。もちろん、コミカルでキャッチーな曲ではあるんですけど、そんなテーマで書いてるし、素直に「こんなことしたい」って、夢を見られるような世の中になってほしいっていうのがありますね。
——そういった社会への目線は、RachelさんのTwitterにも時折見られますよね。
Rachel:やっぱ母になると身につまされることもあるし、SNSでも思ってることを言えたらいいよねって。日常のこんなことあったよっていうようなことでも、告知だってそうですし、常に発信していくので、「三億円」を聴いた人にも「お金欲しい!」って言ってもらいたいです(笑)。
Mamiko:その通りです(笑)。これ聴いてバカだなあと思って笑って聴いてくれれば嬉しいですね。
海外からの評価~「もっと気付いてほしい!」
——お2人といえば、タイのアーティスト、LUSS(ラス)さんとのコラボレーションが今年ありました。このコラボは、向こうからオファーがあったんですよね?
Rachel:LUSSさんはコラボする相手を探してるみたいな感じで、chelmicoいいなってことで声かけてくれました。
Mamiko:音楽にめっちゃアンテナを張ってる人達だからたまたま見つけたんじゃないですかね。それで、曲を聴いてよかったのでぜひぜひって感じで一緒にやりました。
——海外での活動も考えたりしていますか?
Rachel:バリバリやりたいです。それこそ、こないだ(エルヴィス・)コステロさんが褒めてくれたのも、もちろんアニメパワーはあるけど、自分達の楽曲に言葉が通じなくても「いいね」ってなってくれたのがメチャクチャ嬉しかったです。
Mamiko:あれはめっちゃ嬉しかったですね。マジでサイコーでした。私の中で、なんかやっと認められた感があったんですよね。
——え! そうなんですか!?
Mamiko:今までは認められてなかったというより、その意識すらなかったんですよね。私達の曲をこの人が聴いてるってことを実際に知ったのはコステロさんが初めてだったので。
Rachel:海外の方は特に。日本でも聴いてくれてる人はいるけど、音楽関係でキャリアある人に公言されたのはたぶん初めて……いや、ユーミンさんが聴いてくれてる(笑)。
Mamiko:ユーミンさんもマジで最高でした。でも、コステロさんのはめっちゃ嬉しかったんですよね。それで海外にはより行きたいなと思っています。
——認めることもそうなんですけど、そもそも見つけること自体すごいと思いました。エルヴィス・コステロって70歳近くのベテランで世代も音楽性も全然違うわけじゃないですか。
Rachel:そうそう。chelmicoを音楽的に聴かれたっていうこともあるけど、それを発信してもらったこと、楽曲を純粋に評価してもらったことがホントに気持ちよくて。マジメに作ってるので、ちゃんと聴いてくれてる人がいるんだ! っていうのが実感できたのもホントよかった。
Mamiko:ねえ。なんでみんな気付かないんだろうと思ってたから(笑)。
Rachel:もっと気付いてほしいよね(笑)。私達はchelmicoの音楽めっちゃ好きなのに。海外もそうですけど、日本の人にももっとchelmico聴いてほしい!
——それこそ今後に向けた意気込みになりますね。
Mamiko:もっともっとchelmicoの曲かけていいんだよー(笑)。