「Japan Photo Award」の主宰者でクリエイターとしても活動する八木沢俊樹 その“ものづくり”への考えに迫る

八木沢俊樹(やぎさわ・としき)
1983年福島県生まれ。クリエイティブスタジオToshiki を主宰。これまでに、「M/M(Paris)」、「JWアンダーソン」、「Dis」、「New Tendency」、「Spike Art Magazine」 などのアーティストやデザイナーとのコラボレーションを通じて、新しい表現を探究してきた。また、「Japan Photo Award」の主宰者でもあり、評論家のシャーロット・コットン(Charlotte Cotton)や、「Foam Magazine」、「Mousse Magazine」などを審査員に迎え、過去の受賞者には水谷吉法、川谷光平、藤原聡志、三ツ谷想など、国内外で活躍する写真家を選出。 
https://toshiki.studio
Instagram:@toshikistudio

今年3月、東京・中野にオープンしたオルタナティブスペース「クードス (セントラール)(kudos (Centraal))」で、7月28〜30日の3日間限定で「Toshiki(トシキ)」こと、クリエイターの八木沢俊樹による初の陶芸作品の展覧会が開催された。クリエイティブデュオ「M/M(Paris)」とコラボするなど、バッグデザイナーとして話題となることが多かった八木沢が、今回は陶芸作品の展示ということで意外な一面を見せた。

一方で「Japan Photo Award」の主宰者としても活動する八木沢。インターネットで調べてもあまり情報が出てこない八木沢俊樹=Toshikiとは何者なのか。そして、どのような経緯で今の活動に至ったのか。自身の“ものづくり”の考えとともに紐解いていく。

「Japan Photo Award」から“ものづくり”へ

——まず現在の活動から教えてもらえますか?

八木沢俊樹(以下、八木沢):今はフォトコンテスト「Japan Photo Award」の運営と、クリエイターとしてプロダクトの制作と、半々くらいで活動しています。

——現在の活動を聞くと不思議な立ち位置ですよね。今に至るまでの簡単な経歴を教えてください。

八木沢:僕の場合、アートを専門的に学んできたわけではなく、基本的にはすべて独学でやってきました。そもそも最初はミュージシャンになりたいと思っていた時期があったりもして、社会人になってから大学に入っても遅くないかと思って、とりあえず上京したんです。それで偶然広くて安いスペースを新宿で見つけて、20歳の時にコマーシャルギャラリーを始めました。それから何年かギャラリーを運営していたら、今度は清澄白河にあるスペースを運営してくれと頼まれて。そこがカメラ機材の会社の跡地だったので、それなら写真のアワードをやってみようかなと思い、始めました。

——写真のアワードっていきなりできるものなんですね。

八木沢:それまでギャラリーを運営してきた経験もあったので、それも活かされていると思います。ただ、そうはいっても写真を専門的に学んできたわけではないので、「1枚の写真でその人の才能ってわかるものなのか」という自分の好奇心をテーマにして、写真1枚から応募できるアワードにしました。審査員の方にはその1枚の写真を見て選んでもらうようにお願いして。いわゆるレコードのジャケ買い的な企画ですね。あと、始めた当時は海外の審査員を入れてやっているアワードがあまりなくて、それもよかったんだと思います。結果、「簡単に参加できる」と人気が出て、盛り上がってきて、日本の現代写真のアワードでは最多の応募者になったので、「Japan Photo Award」と命名して(笑)。それで2013年に「Japan Photo Award」としてスタートしました。

——ものづくりよりも「Japan Photo Award」が先だったんですね。そこから、どのようにしてものづくりのほうにシフトしたんですか?

八木沢:「Japan Photo Award」をやり始めて、受賞者に渡すプレゼントとして、カメラのストラップを探していた時に、自分がいいなと思うものがなくて。それなら自分で作ってみよう、とストラップを自作したんですが、それがおもしろくて、そこからものづくりにはまっていきました。実はその時作ったストラップを「クードス」の工藤(司)くんが気に入ってくれて、そこで共通の知りあいを通じて、連絡をもらって、仲良くなったんです。

——それが今回の展示にも繋がるんですね。それまで特に何かを作っていたわけでもなく?

八木沢:子どもの頃から趣味としてものを作るのは好きだったんですが、自分がアーティストやクリエイターになりたいとは思っていなくて、その頃は科学者やエンジニアに興味がありました。でもアートはとても好きで、小学6年生くらいからクリストや(アンディ・)ウォーホルのポスターや作品集などは買い集めていました。中学生の頃に「ポンピドゥー・センター」でブルース・ナウマンの個展を見て、すごく衝撃を受けたんですけど、その時も自分が作家になろうとは思わず、こういうアートを扱う仕事をしたいなとは漠然と思っていましたね。それでギャラリーを運営したりしていたんですけど、気がつけば今はこうしてものを作っている(笑)。不思議ですよね。

「M/M(Paris)」とのコラボ

——プロダクトのほうは、カメラストラップの次にバッグを作るんですか?

八木沢:そうですね。カメラストラップを応用して何か作れないかなと考え、そこからバッグを作るようになりました。

——話題となった「M/M(Paris)」とのコラボバッグはどのような経緯で実現したんですか?

八木沢:もともと「M/M(Paris)」には、地元の福島が被災したこともあり、東日本大震災のチャリティーイベントのロゴをお願いしようと思って、普通にウェブのコンタクトからメールしたんです。そしたら奇跡的に返事がきて。

たまたま次の日大阪にいると言うので、それで会いに行きました。ただ、急に会うことが決まったので、お土産とかも用意する時間がなくて、家にあった自作のトートバッグを持って行ったんです。そしたら、ちょうど「M/M(Paris)」が20周年で本を出すから、それに合わせて特別エディションのバッグを作ろう、となって。それでコラボすることになりました。

——すごい流れですね。そこから「JW.アンダーソン」のお店でもコラボバッグを販売することになった、と。

八木沢:それは2回目のコラボの時ですね。ジョナサン(・アンダーソン=「JW.アンダーソン」デザイナー)と「M/M(Paris)」がちょうどロンドンの直営店の「JW.ANDERSON WORKSHOPS」でポップアップをするタイミング(2016年9月)で、そのお店と「DOVER STREET MARKET LONDON」限定で作って販売しました。その時は、ファッションのことにそんなに詳しくなくて、ジョナサンのことも知らなかったんですけど、後ですごい人だと知りました(笑)。

——それもあって日本よりも先に海外で認知度が高まったと?

八木沢:そうですね。「M/M(Paris)」とコラボした実績もあってか、その後もニューヨークを拠点に活動するアート・コレクティブ「DIS」などいろいろな海外アーティストとコラボしています。

——「M/M(Paris)」とのコラボ後はバッグ作りをメインに活動するんですか?

八木沢:その頃はメインで「Japan Photo Award」の仕事をやりつつ、その都度、年に1度くらいのペースでコラボレーションしながらプロジェクトとしてバッグを作る、といった感じでしたね。

ヴァナキュラー的発想の“ものづくり”

——なぜ今回は陶芸作品を作ろうと思ったんですか?

八木沢:4年前に東京から群馬のほうに引っ越しをしたのが大きなきっかけです。当時、大きいスタジオを探していて、群馬はゆかりのない土地だったんですけど、ちょうどよさそうな大きな倉庫を見つけて、それで引っ越したんです。引っ越しをしてから、いろいろとこの土地のことを調べていくと、土器が出土するエリアだったんです。

それで土器に興味を持ったのと、個人的に、建築家の寺本健一さんととても仲良くさせてもらっていて。寺本さんは「ヴァナキュラー建築(※気候や立地、そこに住む人々の活動といった風土に応じて造られる住居や施設)」をコンセプトとしていて、その活動を見たり、話を聞いたりしていると、自分も地域に根ざしたものづくりに興味が出てきて。そのエッセンスを自分のものづくりに生かしていきたいと思ったんです。

それで自分のスタジオですべてが完結できるように、3Dプリンターや陶芸用の大きな電気釜をそろえて、自分と妻の二人三脚で陶芸作品を作り始めました。

——陶芸はどこか学校に通ったんですか?

八木沢:2~3回だけ陶芸体験に行って、あとはYouTubeを見ながら独学でやっています。まだ陶器の作品自体は作り始めて半年くらいですけど。

——実際に陶芸作品を作ってみて、手応えがありますか?

八木沢:作っていて楽しいですね。意外とバッグの形をしている陶器ってないんじゃないかなというところから発想をして。もともとバッグを作っていたので、それともリンクするようなデザインを考えました。それで作品名も<セラミックバッグ>なんです。あと、今回の展示作品に関して、「クードス」のポップさや無邪気さを少しイメージして作りました。

——確かにストラップや色使いにどことなく「クードス」っぽさを感じます。作品は展示が決まってから作り始めたんですか?

八木沢:(「クードス」の)工藤くんに陶器の作品を作っているという話をしたら、「ぜひ『クードス (セントラール)』で展示をしてください」って前から言われていて。でも、なかなか2人の日程があわなくて、結果、このタイミングになりました。展示が決まったのは1ヵ月くらい前で、そこから作品は作り始めました。

3Dプリンターや電気釜を使っているので、昔よりは作るのがだいぶ楽にはなったんですけど、作って乾かして、また色を塗って乾かしてって工程が結構時間がかかるんですよね。色も指針となる配合表はあるんですけど、それでも思った色が一発で出なくて、何回かテストする必要があって。今回はその試作品も展示しました。

——今回は3日間という短い期間の開催でした。

八木沢:まずはお披露目的な感じだったので、3日あればいいかなという感じで。今回はこうした展示の形ですけど、今後はいろいろな形での発表に挑戦したいとは考えています。

——陶器以外の作品もありますね。

八木沢:<スタック>というモルタルで作った作品なんですけど。陶器が少し形になるのに時間がかかるので、すぐに形になる、かつ手に入りやすい素材を探していて、そこでモルタルを見つけて。これも元の型は3Dプリンターで作っています。もともとは花瓶にもなるし、ライトにもなるし、いろいろな用途として使用できるユニットシステムとして考えていたんですが、現状ではまだそこまでできていなくて、これらは試作品です。今後はモルタルに草を混ぜたり、色を混ぜたりして、モルタルの可能性を引き出した作品も作っていこうと思っています。

——今後の活動については?

八木沢:「Japan Photo Award」に関しては、これ以上大きくしようとは思っていなくて今くらいの規模で続けていければと思っています。

作品に関しては、「#おうち時間」のエキストラタイムではありませんが、より身近で、生活に根ざした自分にとってリアリティのあるものを作っていきたいと思っています。

また、今はスタジオの周りに庭を作ったりもしていて、牧歌的な時間を楽しんだり、一方で3Dプリンターをはじめとした最新テクノロジーにも興味があるので、それらを融合させたハイブリッドかつヴァナキュラーナな生活様式を自分の解釈とペースで実現できたらと思っています。

——海外での展示予定などもありますか?

八木沢:来年あたりドイツでガラスデザイナーと共同制作して展示しようかという計画はあったりするので、ぜひ楽しみにしていてください。

Photography Kohei Omachi(W)

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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