乃木坂46の久保史緒里が語る「俳優としての自覚の芽生え」

久保史緒里
2016年、「乃木坂46」3期生オーディションに合格しデビュー。32ndシングル「人は夢を二度見る」ではWセンターに抜擢。ファッション誌「Seventeen」専属モデル、『乃木坂46のオールナイトニッポン』のメインパーソナリティー、2023年度NHK大河ドラマ『どうする家康』に五徳役で出演。初めて現役の乃木坂46メンバーとして大河ドラマに単独出演するなど、グループ内外で活躍し注目を集めている。個人での主な出演作に、【舞台】『桜文』(2022)、『夜は短し歩けよ乙女』(2021)、【映画】『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『リバー、流れないでよ』(2023)、『左様なら今晩は』(2022)、【ドラマ】『落日』(WOWOW・2023)、『どうする家康』(NHK・2023)、『サマータイムマシン・ハズ・ゴーン「乙女、凛と。」』(CX・2021)など。劇団☆新感線には本作が初参加となる。
Instagram:@kubo.shiori.official
https://www.nogizaka46.com/s/n46/artist/36753?

人気アイドルグループ「乃木坂46」。そのメンバーの久保史緒里が、俳優として活動の場を広げている。現役のメンバーとして初となるNHK大河ドラマの単独出演となった『どうする家康』や映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』、『リバー、流れないでよ』、9月放送予定のドラマ『落日』に続き、劇団☆新感線への初参加が決定。9月に開幕する『天號星(てんごうせい)』で彼女が演じる役は、古田新太が演じる「藤壺屋半兵衛」の娘で、母親譲りの占いの才能を持つ、歌って踊って神を降ろしてお告げを伝える、踊り巫女の「神降ろしのみさき」だ。現在、稽古に奮闘中の彼女の、俳優業への意識の変化を聞いた。

——『天號星』の製作発表で、「殻を破りたい」とおっしゃっていましたね。そこにどんな思いが込められていたのかを、お聞きしたいと思っていました。

久保史緒里(以下、久保):はい。ありがたいことに、今までいろいろな舞台で経験を積ませていただいたんですけど、お芝居に対して凝り固まった考え方が、自分の中のどこかにあって。そういうものを全部とっぱらって、本当にまっさらな気持ちでこの舞台に挑みたいなという思いで、「殻を破りたい」と言いました。

——何がどう凝り固まっているのでしょうか?

久保:例えば、私自身、すごく心配性で、稽古が始まる前からものすごく準備をして、自分の中で「こういうお芝居をしよう」と決めてしまうところがあるんです。そうなると、想定外のことが起きた時に何も対応ができなくなってしまうので、今回は新しい挑戦として、お芝居の考え方や演じる道筋みたいなものを、共演者のみなさんとお稽古をしながら、その空気感の中で作り上げていくことを大事にしたいなと思っています。

——『天號星』の稽古が始まって2週間(※取材時)とのことですが、手応えはいかがですか?

久保:今回のみさきという役は、すごく考えて行動する人間ではあるけれども、考えるよりも体が先に動くシーンが結構あります。そういう時に、思い切りのよさみたいなものが必要になってくるので、そこが頑張りどころだなと感じています。私の場合、そういった思い切りが必要な場面で、思い切る力が足りないなという自覚もあるので。

——みさきというキャラクターのどんなところに魅力を感じますか?

久保:すごく頭のいい人で、繊細さも持ち合わせているところです。『天號星』はいわゆる裏稼業の話で、見え方としては“大人のお話”が進んでいく中で、純度の高い人間がこの舞台にいるとしたら、それはこのみさきという人物だと思うんです。なので、すごく大人びた人間ではありつつ、純度や子供らしさというものも持ち合わせた人間でいたいなと思いますし、そこがとても魅力的です。

——みさきは劇中で歌って踊るそうですが、久保さんは『夜は短し歩けよ乙女』や乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン2019』といった舞台作品でも歌唱経験がありますね。

久保:今回の舞台が決まった時点ではまだどんな歌を歌うのかはわからなかったんですけど、今まで新感線の作品をいちファンとして見てきて、ロック調の激しい歌が多いという印象だったので、そういう歌い方の準備だけはしておきました。ハードな曲調に合う歌い方のイメージを固めていく作業といいますか。振り付けはこれからなんですけど、今まで自分がやってきたジャンルとは全然違う音楽ですし、着物で踊るということもあって、全然違う見え方になるのだろうな、と思います。

——「劇団☆新感線」は殺陣が大きな魅力になっています。久保さんの殺陣のシーンも期待していいですか?

久保:私は……ずっと占っています(笑)。殺陣が見どころのこの舞台で、私が殺陣をせずに歌うことの意味はなんだろう? と考えるにつれて、プレッシャーが大きくなっていきます。

「求められる人間でありたい」

——久保さんは乃木坂46に憧れてメンバーとなり、その後、歌、芝居、ラジオパーソナリティーと個人仕事でもその才能を開花させています。お芝居に関しては、1つ1つ、大きな仕事に丁寧に向き合っているように見えますが、久保さんにとっての演じることの楽しさと難しさをお聞きしたいです。

久保:楽しさは、毎回毎回、自分が今まで体験したことのない役柄になれることです。台詞を言う時のニュアンスも役によって違うので新鮮ですし。難しさは楽しさと表裏一体で、やったことがない世界観の役だと、役としてその場に簡単にはなじめないところかなと思います。今もその真っ最中です。

——グループを離れて俳優の仕事をする上で、意識の変化はありますか?

久保:普段はグループとしてメンバーが一緒にいる環境でいろんな仕事をしてるので、新しい現場に1人で乗り込む仕事は、ものすごくエネルギーを使います。このお仕事を始めて7年目ですが、全然まだそれに慣れなくて、毎回新鮮に緊張します。それでも現場の方とお話ししていく中で、「1人の俳優として接する」と言っていただく機会も増えてきて、それがすごく自分の中で大切な言葉になっています。

自分としては、アイドルが俳優業界というか、舞台やドラマに出演することに対してちょっとした申し訳なさみたいなものをずっと抱えていたんですけど、そう言っていただいてから、私もその考えを持ってないとダメだな、作品に対して同じ気持ちで挑まないとダメだなという気持ちに年々なっていっています。

——とはいえ、アイドルは専業の俳優よりも忙しいと思うんです。作品の撮影が3ヵ月なかったとしても、グループの活動があるから休みが取りにくいし、体も酷使されますし。

久保:例えば今だったら、ライヴツアーというアイドルとしての活動をやっているんですけど、それは舞台の皆さんにとっては全く関係のないことなんですよね。別物なので、そこは絶対に混ぜちゃいけないなと思っています。逆もしかりで、私が今舞台の稽古をやっていることは、メンバーにとっては関係のないことなんです。だから、自分の中でちゃんと線を引いて分けて考えたいですし、そこに気をつかわせてしまわないように、とは思っています。自分のコンディション不良でどちらかに迷惑をかけることは絶対にしたくないですし。でも、近くにいるスタッフさんだったり、マネージャーさんだったりがすごく支えてくださるので、そこはちゃんと甘えながらやっています。なにより、どちらも楽しいことなので、全然きついとは思わないんですよね。

——2022年2月からは、『乃木坂46のオールナイトニッポン』のメインパーソナリティーも務めています。久保さんにとってのラジオはどういう場所ですか?

久保:1年半ぐらいやってるんですけど、私にとってすごく大事な場所です。それこそ稽古期間とかって、自分のできなさにすごく落ち込むんですよ。でもさっき言ったように、舞台の方にとって私の他の仕事が関係ないのと同じように、ラジオの前で聞いてくださっているリスナーさんにとって、私が落ち込んでいることっていうのも全然関係のないことなんですよね。1週間に1回は絶対に、どんなに落ち込んでても、ラジオでは元気でいなきゃいけないっていうのが逆にありがたくて(笑)。2時間喋ってると、リスナーの皆さんからのメールやスタッフさんと喋っている時間で、だんだん落ち込んでることも忘れちゃうんですよね。落ち込んだことがあったら、その気持ちは持ち込まずに、トークとしてラジオで喋っちゃえばいいし、という環境がすごくありがたくて。私は楽しいので、できるだけ長く続けていたいですね。

——ということは、この稽古の進捗状況もラジオで聞けるということですね。

久保:そうですね。古田新太さんのことを「おとっつぁんと呼べるようになりました」とか、そういうのはちょいちょい話していきたいなと思っています(笑)。

——では最後の質問です。今後どんな人になっていきたいのか、どんな仕事をしていたいのかといった、未来予想図は描いていますか?

久保:未来予想図……、んー、なんだろうな。あ、でも、自分がどなたかから求められる存在であれたら幸せだなと思います。それがもし仮に、お芝居の世界だったらすごく幸せだなって思いますけど、そこにとらわれずに、何かを求められる人間であれたら、それがすごく幸せな未来かもしれないです。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)
Stylist Maiko Ito
Hair & Makeup Risa Uto

■2023年劇団☆新感線43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎『天號星』
作:中島かずき 
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太 早乙女太一 早乙女友貴 /
久保史緒里 高田聖子 粟根まこと 山本千尋 / 池田成志
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ 礒野慎吾 吉田メタル 中谷さとみ 保坂エマ 村木 仁 川原正嗣 武田浩二
藤家 剛 川島弘之 菊地雄人 あきつ来野良 藤田修平 紀國谷亮輔 寺田遥平 伊藤天馬 米花剛史 武市悠資 山崎朱菜 本田桜子 古見時夢
企画・製作:ヴィレッヂ 劇団☆新感線
http://www.vi-shinkansen.co.jp/tengohsei/

【東京公演】 THEATER MILANO-Za オープニングシリーズ
日程:2023年9月14日〜10月21日
会場:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6 階) 
全40回公演

【大阪公演】
日程:2023年11月1〜20日 
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
全22回公演

author:

須永貴子

ライター。映画、ドラマ、お笑いなどエンタメジャンルをメインに、インタビューや作品レビューを執筆。『キネマ旬報』の星取表レビューで修行中。仕事以外で好きなものは食、酒、旅、犬。Twitter: @sunagatakako

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