New Jeansやあいみょんにもヘッドピースを提供 国内外で活躍するアーティト松野仁美の創造力

松野仁美(まつの・ひとみ)
サロンワーク、ヘアメイクアシスタントを経て2013年に独立。雑誌、カタログ等でヘアメイクとして活動しつつ、2019年よりアートピースの制作を開始。2022年渡韓、現在は日本を拠点に国内外問わず活動中。
https://www.hitomimatsuno.com
Instagram:@matsuno71

ヘア&メイクアップアーティスト(以下、ヘアメイク)としての活動とともに、New Jeansやあいみょん、Red Velvetなど、アーティストにヘッドピースやマスク、ネイルリングを提供するなど、アートピースのクリエイターとしても知られる松野仁美。

10月2日まで、彼女が制作したアートピースが「ニュウマン新宿」の2階メインエントランス横ショーウィンドウに展示されるなど、新たな領域に活動の幅を広げている。

花や草という自然のモチーフを使用し、どこか未来的な雰囲気を感じさせる松野の作品だが、それらがどのようにして作られたのか。今後は作品制作にもっと力を入れ、よりアーティストとしての活動の幅を広げていきたいという彼女の創作への想いを聞いた。

——ヘアメイクを志したきっかけから教えてください。

松野仁美(以下、松野):幼少期から絵を描いたり、物を作ったりすることが好きでした。また、ファッションも好きで雑誌の「Zipper」 や「CUTiE」、「装苑」などを見るようになりました。 アートへの興味もありましたが、それをどのように現実的な仕事にするのかがイメージが湧かず、そんな時にファッションショーを見る機会があり、世界観に圧倒されてこれだ! と思いました。 ただ、ファッションデザイナーかヘアメイクかと考えた時にヘアメイクの方が自分の性格的に合っている気がしました。

——それからもうヘアメイクをやろうと?

松野:そうですね。私が高校生の時は今のようにSNSなどでの情報もなく、ヘアメイクになる方法がわかりませんでした。そのため、一度大阪で美容室に就職してサロンワークや美容師としての技術を学び、ヘアメイクを目指す選択をしました。

個人的に面白いと思って気になっていた美容師の先輩が独立するタイミングで一緒に働くこととなり、そこで美容師としての技術だけでなく仕事をする姿勢やすべての基礎を学ばせていただき、今に繋がっている気がします。その後、東京に出てヘアメイクのアシスタントを経て独立しました。

——その後、2019年からヘッドピースを本格的に作り始めたのですか?

松野:アシスタント時代からヘッドピースのような物は作って試してはいましたが、デビューした2013年頃の日本のファッションシーンではノームコアやストリートが流行していて、ヘアメイクも作り込むインパクトのあるスタイルよりシンプルなものが求められていると感じて、自分なりにポイントを効かせたヘアメイクを心掛けていましたが、技術的にも成長のないことに段々と物足りなさを感じるようになってきました。それで自分のスタイルをもう一度追求しようと2019年頃から本格的にヘッドピースを作り始め、ヘアメイクで表現できないことを、ヘッドピースを作ることで解消しているような感覚でいました。

——本格的に作り始めて、手応えはありましたか?

松野:すぐに手応えは感じられず、作っていても自信はなくなっていきましたが、時々海外からInstagramのDMに「ヘッドピースを使いたい」と連絡があり、そうしたリアクションが自信に繋がりました。

韓国で感じた環境の違い

——2021年5月から1年ほど韓国を拠点に活動されていましたが、日本とはクリエイティブの環境も違いましたか?

松野:韓国の事務所と契約して行ったのですが、コロナ禍ということもあり、活発な時期ではなかったのですが、若手クリエイターの勢いを感じました。特にチョ・ギソクというグローバルで活躍しているフォトグラファーと一緒に仕事をして、その世界観に衝撃を受けました。韓国ではクリエイティブへの意識が高く、自分の作品を作るという認識が強かったです。

スタイルの違いや意識の違いもありますが、うらやましく思ったのはフォトグラファーがスタジオを持っているので、時間をかけて作品を作れるという点です。時間に余裕があることで、現場でより良い選択ができていました。

——韓国で活動している中で、New JeansやRed Velvetなどにヘッドピースを提供して、海外での活動も増えているように思えますが、今後は海外での活動も視野に入れていますか?

松野:いろいろ考えるとまずは日本を拠点に活動しつつ、リクエストがあれば海外の仕事もやっていきたいです。New JeansやRed Velvetと仕事ができたのも、InstagramのDMから連絡をもらったことがきっかけで、今はどこに住んでいても世界と繋がれて仕事ができる時代になった気がしています。そのためにもフットワークの軽さや語学はまだ勉強中ですが、重要だと思っています。

アナログとデジタルの間の作品

——今回の「ニュウマン新宿」の展示作品について教えてください。

松野:基本的にはデザインを含めて任せてもらいました。作品制作に3Dプリンターを取り入れたのと、依頼をいただいたタイミングが同じくらいで、試行錯誤しながらだいたい1ヵ月くらいで作りました。今回、「ニュウマン新宿」のテーマが“It’s My Classic”だったので、このテーマでどのような作品にするか考えた時に、デザイン面では自分が憧れていた2000年代初頭のファッションと日本神話を取り入れつつ、今起きている事柄から自分の考えもあわせて表現したいと思い、制作にあたりました。

フェイクニュースやキャンセルカルチャー、さまざまな思想など個人の選択でプラットフォームに表示されるものが変わり、振り回されることがないよう自分を神化させて自らを信仰できる装備を作りました。昔の人は神様を信じていましたが、今私達は科学や情報を信じていますし、ChatGPTなどの生成AIが出てきて今後はその代わりとなるという話もあります。

あえてデジタル機器を使用することで、自分を強く持てば未来も明るく前向きでいれるという願いでもあります。今の時代だからこそ感じるアナログとデジタルの間を行き来した作品ができればいいなと思っています。

——ヘッドピースを作る時のインスピレーション源は?

松野:昔観ていたアニメ、兄がやっていたゲームや見ていた特撮、あとはSF映画、他にも日本神話などに影響を受けていると思っています。

——そういうのが作品に反映されていると?

松野:特に意識はしなくても何かしら影響は出ていると思っていて、自分にしか表現できないものが作れるよう思考錯誤しながら制作していきたいです。

——作品に花や草など自然なものを使うのはどんな理由からですか?

松野:有機的な物を人工で表現するというところに面白みを感じることと、花にしても咲いている時よりも朽ちていく瞬間が好きで、自然から得ることのできる美しさも作るうえで意識していることの1つです。

——あいみょんさんの「愛の花」のジャケット撮影にも参加されていますね。

松野:あいみょんさんの作品のアートディレクションを担当しているとんだ林蘭さんから連絡をいただき参加することになりました。とんだ林さんは私の作品が花をモチーフにしていることなども知っていてくれていたみたいで、今回の楽曲は「花」がテーマだったこともあり、私に依頼してくれたのかなと。とんだ林さんと相談しながら、8パターンのお花をモチーフとしたアートピースを作りました。

——最後にこれからやりたいことは?

松野:今まではヘアメイクの延長でアートピースを制作していたのですが、これからは分けて考えていけたら良いなと思っています。ヘアメイクはより良い作品を作り上げるチームの一員として、アートピースは自己表現としてそれがあるだけで意味があるくらい探求していきたいです。

Photography Kyotaro Nakayama

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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