バーバー「ミスターブラザーズ・カットクラブ」の小松大輔が語る「LA出店」と「これからの展開」

2015年に1号店を原宿に出店し、日本でのバーバーブームの火付け役となった「ミスターブラザーズ・カットクラブ(MR.BROTHERS CUT CLUB)」。オランダの有名バーバー「シュコーラム(SCHOREM)」とも親交があり、日本だけでなく、海外でも知られる存在だ。1号店の出店以降、その人気の高まりとともに、店舗数も増加。現在、原宿に2店舗、中目黒に1店舗、大阪に2店舗を展開。そして、今年3月には初の海外店舗となる、アメリカ・LA店をスタートするなど、ますます、その注目度が高まっている。今回、「ミスターブラザーズ・カットクラブ」を運営するファイヤーワークス代表の小松大輔に、西森友弥との出会いからLA出店の経緯、今後の海外戦略まで語ってもらった。

——「ミスターブラザーズ・カットクラブ」(以下、「ミスターブラザーズ」)としては6店舗目、初の海外店舗となるLA店を3月に出店しました。小松さんが西森さんを誘って「ミスターブラザーズ」を始めたそうですが、そのきっかけから教えてください。

小松大輔(以下、小松):もともと僕と西森とは、美容師とお客の関係だったんです。西森が前の美容室で働いていた時にたまたまカットしてもらって。それが2012年くらいかな。当時は今のフェードのようないわゆるバーバースタイルを理解してくれる美容師が少なかったんですけど、西森は初めからそれを理解していて、希望のヘアスタイルにしてくれて。それですごく信頼できるなと思って、ずっと西森に髪を切ってもらっています。

僕はその時はアパレルだけをやっていて、美容業はやったことがなかったんですが、アメリカやヨーロッパでは、バーバーが定着しているのは知っていて。それでちょうど日本でもヒップホップの盛り上がりもあって、日本でもフェードが少しずつ増えてきて、このタイミングであれば、日本でもバーバーが受け入れられると思って、2015年に西森を誘って、「ミスターブラザーズ」をスタートしました。当時は「これで勝負しよう」という覚悟で、会社の資金をほぼほぼ使いましたね。だから成功してよかったです(笑)。

でも、当時はバーバーをやるって言ったら、周りからすごく反対されたんです。そんなの流行るわけがないとか言われて。でも僕としてはマーケティングには自信があったし、西森の人柄があれば流行らせることはできるだろうなと思っていて。それで始めるにあたっては、西森と役割をしっかりと分けて、現場は全部西森に任せて、僕はブランディングやマーケティングなど、バックオフィスを担当するようにしました。

——2015年に原宿に1号店を出店しましたが、場所はすぐに決まったんですか?

小松:やっぱりカルチャーを発信するなら原宿じゃなきゃいけないとは考えていて、でも竹下通りや裏原ではないよなと思って。それでとんちゃん通りを抜けて、千駄ヶ谷の方に向かう通りで探していたら、今の物件を見つけて。ここしかないなっていう感じで決めました。

——知る人ぞ知るっていう感じで、いい場所ですよね。お店をスタートするにあたっては、アメリカのバーバーを参考にしたんですか?

小松:僕自身はアメリカのカルチャーがすごく好きなんですが、「ミスターブラザーズ」に関しては、特にアメリカと限定していたわけではなくカッコいいバーバーを目指しました。その時に西森が「このバーバーかっこいいんですよ」って見せてくれたのは、オランダの「シュコーラム(Schorem)」っていうバーバーの写真で、それがすごくカッコよくて、こんな感じのお店にしたいよねとお互いに話していました。

——売り上げ面では最初から順調に伸びたんですか?

小松:西森にはある程度お客さんがついていたので、売り上げはあったんすが、他のスタッフはそこまでなくて。でも、スタッフも必死でお客さんを増やして。それこそ毎日どこかに出かけて、そこで名刺を配るっていうことずっとやってました。今でもそれをやっているスタッフは多いですよ。

そうしたスタッフのがんばりがあって、売り上げ自体は順調に伸びていきました。知名度が高まったのは、2015年11月9日に「シュコーラム」の来日イベントをやらせてもらったことが大きかったですね。300人くらいの規模の会場に1000人くらい集まって、すごい熱気でした。その時にうちのスタッフは「シュコーラム」のメンバーとずっと一緒に行動させてもらって、仲良くなって。その後、「シュコーラム」が日本やアジアでツアーをやる時も一緒にやらせてもらっていて、それはスタッフにとっては大きな経験になったと思います。

「技術は圧倒的に日本人がうまい」

——LAへの出店はいつ頃から考えていたんですか?

小松:「ミスターブラザーズ」を始めた時から海外ではやりたいと思ってました。正直、お金を出せば誰でも海外でお店を出せるんですが、現地の人にちゃんと支持されるバーバーを作りたいと思っていたので、そのタイミングを探っていて。

それで具体的に動き出したのは2年前くらいからで、「PIZZANISTA!」が日本に上陸する時に「エヴィセン スケートボード」をブッキングしたのがマサ君っていうLAに住んでいる日本人だったんです。マサ君はいろいろとLAのブランドを日本に持ってきたりして、LAと日本のストリートを繋ぐ重要人物。そのマサ君にLA出店の相談をしたら、「1回LAに来てみたら」って言われて、それで2021年の3月に行きました。

僕は、バーバーって「大人の男の駄菓子屋」のイメージで、そこに人が集まっていろいろと情報交換をする場所だと思っていて、そうなるとローカライズできる人じゃないと成功できない。だから海外の店舗は直営ではなくて、現地に詳しい人と一緒にやりたいと考えていて、それでLAに行った時にマサ君に「お店を一緒にやろう」って話したら、最初は渋ってたんですけど、ロックダウン中で飲食店がほとんど営業していなかったので、コリアタウンに連日飲みに誘って、そこで朝までしつこく説得して(笑)。それでマサ君が折れて、一緒にやることになりました。

それで、去年の6月くらいに「ちょうどいい物件が見つかった」とマサ君から連絡があって、現地に行って見たら、LAのダウンタウンのファッションエリアでいい場所だったんで、ここでやろうってすぐに決めました

——そこから半年以上経っての出店になったのは、何か理由があったんですか?

小松:もともとその場所がフォトスタジオだったので、内装を全部変えたりしなきゃいけなかったりして、当初は10月オープンを目指してたんですけど、現地の人はけっこうルーズで(笑)。それでスケジュールが遅れて12月くらいにオープンできそうだったんですけど、ちょうどオミクロンが流行りはじめて、これはしばらく難しそうだなと思って、オープンを3月まで伸ばしました。

——そういう経緯があったんですね。LA店には日本から誰かスタッフは行ったんですか?

小松:副代表だったHARA KEISHIROがやりたいっていうので、LA店で働いていて、あとは現地でスタッフを雇っています。お客さんはほとんど現地のアメリカ人ですね。向こうだと日系のヘアサロンって割とあるんですけど、主に日本人向けなんですよね。だから、そういった価値観を変えられるお店にしていきたいと思ってます。

——LA出店に関しては、商機はありましたか?

小松:いろいろな人に「成功するのは難しいよ」って言われたんですけど、僕はありましたね。「ミスターブラザーズ」オリジナルの「ブロッシュ」っていうポマードを作っていて、コロナ前からいろいろな国でカットショーをやってたんですけど、技術は圧倒的に日本人がうまくて。LAにもバーバーは結構あるんですが、この技術力があれば、勝負できるなと考えてました。

——今後も海外出店は考えていますか?

小松:考えてます。具体的に台湾とシンガポールは動いていて。最終的にはニューヨークにも出店したいっていう野望はあります。それと海外では出店とアカデミーをセットでやっていこうと考えていて。海外だと美容師・理容師免許がない国も多くて、うちのアカデミーを卒業したというのが、大きな資格になると思うので。アカデミーは日本でもやっていくつもりです。すでに教科書を数冊作っていて、カリキュラムもできているので、時期を見計らっていますね。

あとLAにはギャラリーを併設しているんですが、そこで日本人アーティストの展示をやっていく予定です。日本人ってアートに対してアーテイストのバックボーンばかり気にする、アメリカにもそういう人はもちろんいますが、作品だけを見て、評価をしてくれる人はアメリカの方が圧倒的に多い。それがアメリカン・ドリームです。少しでもアメリカンドリームのお手伝いをできる日本と世界のハブになりたいなと思っています。それで、ゆくゆくはホームページでもVRでアーティスト作品を見られたり、NFT作品として販売するとかも考えていて、アートをもより身近に感じられる場所として「ミスターブラザーズ」が存在できればといいなと思います。

1番の強みは“人”

——日本での店舗展開は?

小松:店舗数をたくさん増やそうとは思っていなくて、福岡とか名古屋とか大都市への出店は考えているんですが、ブランディングが低下しないように慎重にやっていこうかなと。

——「ブロッシュ(BROSH」の方でも、最近は「ワコマリア」とのコラボが行われたりして話題になりますよね。

小松:ありがたいことにいろいろなブランドとコラボさせてもらってます。そういったコラボができるバーバーってあまりないので、今後もやっていくつもりです。それと海外でも取り扱いが増えているので、コロナがもっと落ち着いたら、いろいろな国に行って、カットショーとかもやっていきたいですね。

——日本でもバーバーが増えている中で、どのように差別化を考えていますか?

小松:うちの1番の強みは“人”だと思っていて。それぞれが個性的で、お客さんから支持されています。スタッフも職業を聞かれて、美容師や理容師とか言わずに「ミスターブラザーズ」ですって答える。それだけサロンのことを好きなスタッフがいたら、強いですよね。お客さんも「ミスターブラザーズ」のファンになって、そこからさらにファンを増やしてくれるみたいな感じで。

だからこそスタッフがどれだけ夢を見られるか、「ミスターブラザーズ」で働きたいと思えるか、そこは僕が考えていかないといけないなと。美容室ってオーナー兼美容師の人が多くて、その状況で先を見据えたブランディングをしていくのって、なかなか難しい。「ミスターブラザーズ」は僕と西森で棲み分けができているので、そこも強みだと思いますね。

——他のバーバーが増えることは気にしない?

小松:そうですね。むしろバーバー文化が盛り上がることを考えるともっと増えた方がいいとも思っていますよ。

小松大輔(こまつ・だいすけ)
ファイヤーワークス代表。「ミスターブラザーズ・カットクラブ」の運営のほか、オリジナルポマードブランド「BROSH」やヴィンテージショップ「Hedy」、アメリカの老舗ビール「パブストブルーリボン」の日本展開など、幅広く事業を手掛ける。
https://www.fireworks-japan.jp
http://mr-brothers-cutclub.com

小松大輔(こまつ・だいすけ)
ファイヤーワークス代表。「ミスターブラザーズ・カットクラブ」の運営のほか、オリジナルポマードブランド「BROSH」やヴィンテージショップ「Hedy」、アメリカの老舗ビール「パブストブルーリボン」の日本展開など、幅広く事業を手掛ける。
https://www.fireworks-japan.jp
http://mr-brothers-cutclub.com

Photography Hironori Sakunaga

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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