舞台『ねじまき鳥クロニクル』主演・成河と渡辺大知が語る「クリエイションへの探求心」

成河(そんは)
1981年3月26日生まれ。東京都出身。2008年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、2011年第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞、2022年第57回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞。大学時代から演劇を始め、北区つかこうへい劇団などを経て舞台を中心に活動。古典からミュージカルまで幅広く出演している。近年の主な出演作品に、舞台:『髑髏城の七人』Season花、『エリザベート』、『子午線の祀り』、『スリル・ミー』、『建築家とアッシリア皇帝』、木ノ下歌舞伎『桜姫東文章』、『ラビット・ホール』、『ある馬の物語』、『桜の園』など、TV:大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、映画:『カツベン!』など。
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渡辺大知(わたなべ・だいち)
ミュージシャン・俳優。1990年8月8日生まれ。兵庫県神戸市育ち。高校在学中の2007年にロックバンド「黒猫チェルシー」を結成。ボーカルを務める。以降、音楽活動と並行して俳優としても活動を拡げ、デビュー作となる映画『色即ぜねれいしょん』(2009年公開)では日本アカデミー賞新人俳優賞授賞を受賞。2010年にミニアルバム『猫Pack』にてメジャーデビュー。また、初映画監督作品『モーターズ』(2014)で”PFFアワード・審査員特別賞”を授賞するなど多彩な才能を開花させている。
https://daichiwatanabe.com

2020年2月に初演が行われた舞台『ねじまき鳥クロニクル』が11月7日から再演される。本作は村上春樹の長編『ねじまき鳥クロニクル』をインバル・ピントとアミール・クリガーが演出、アミールと藤田貴大が脚本を担当、音楽を大友良英が手掛けた創造性豊かな舞台作品だ。

今回も初演から引き続き、主人公の岡田トオル役は成河(そんは)と渡辺大知が2人で1人の人間の多面性を演じる。村上春樹の独特な世界観を舞台ではどう表現するのか。主演の成河と渡辺に再演に向けての思いを聞いた。

——舞台『ねじまき鳥クロニクル』は2020年に初演があったものの、コロナ禍で公演が途中で中止になり、今回は再演となります。今現在、どのような稽古をしているところですか?

成河:僕ら2人でやるのは、「コンタクト」というコンテンポラリーの1つの型に従って、2人で体重をかけあったりする動きの稽古などですね。そこにはお互いの感覚も重要だし、技術的な知識も必要なんです。2人で1人の人物を演じるということは、とてもおおまかにいうと、1人の人物の内面と外面を表しているんですけど、その中で、2人で1人の人物に見えるような絡み方ができたらなと思いながら練習しているところです。

渡辺大知(以下、渡辺):「コンタクト」をやることで、精神のありようも変わってきますからね。

成河:やってもやっても終わりがないんですよ。その上、体の動きで見せるだけでなく、そこに村上春樹特有の言葉も入ってくるので、稽古を突き詰めていけば10年でもやっていられるくらいの内容です。毎日毎日、追及している日々です。

渡辺:今は自主的に実験をやっているような感じですね。前回は、全体像が見えたところで終わってしまった感じで、あらためて「ああしたい、こうしたい」ということが見えてきているので。

成河:前回は、初演でひとまず形を作ること、つまりフォーマリズムの段階で精いっぱいだったので、そこからどうやったら息づくかという稽古をしているところなんです。

——台本も読ませていただきましたが、ここからどのように舞台として形作られていくのだろう?とワクワクするような内容でした。

成河:それこそ、この舞台は文字に書かれていないことをどう描くかということが重要で、文字情報だけでは舞台の半分でしかなく、もう半分は演出家のインバル・ピントが作っていると言っても過言じゃないんですよ。言葉で描き切れないことを、どう動きで埋めていくのかを、みんなでアイデアを出しながら作っていくので、稽古の中でもまたそぎ落とされていくと思います。

渡辺:シーンごとに稽古をしている時には、これがどう成立するのかがまだ僕等にもわからないところもあったりしたんですけど、いざ通しでやってみると、ここはこんな表現になるのかと気付くこともありました。インバルのアイデアで、最初にすごいなと思ったのは、机をはさんで岡田トオルとその妻が会話している時に、心の距離が離れていくというシーンでした。例えば役者がそのようなシーンを演じる時には、声や体で距離が離れて行っていることを表現しようとするんです。

でもインバルは、「机が伸びちゃえばいいじゃん」と。その言葉を聞いた時に、まるで魔法使いのような発想力だなと思いました。そこから大道具さんや美術さん達でアイデアを出して、伸びる机を作ったわけなんですけど、そうなると役者としても、声色は変えないほうが効果的なのかもしれないとか、そんな風に考えることができるんです。僕は、そんなクリエイションが好きなので、今も楽しみながら稽古をしているところです。

成河:それだけのために数日間かかっていて、当たり前のように時間をかけてやってるんですけど、こんなモノづくりができるって貴重なことなんです。前回の動きを思い出すための2週間と、通常の稽古のための5週間、計7週間とってくれて、それでも長いとはいえないけれど、日本のやり方の中では贅沢な時間の使い方をしてくれています。渡辺:その期間の中で、細部まで突き詰めていきたいですね。この舞台は、終わりなき過程を見せて、お客さんの脳内で完成してもらうようなものになればいいと思っているんです。

——去年のダイジェスト映像を見ても、想像がふくらみました。

成河:ワクワクしますよね。初演には、原作者の村上春樹さんもいらしていて、この舞台を見てお墨付きをいただいたということで、インバルも喜んでいたし、カンパニーにとっても強力な自信になりました。

インバル・ピント、アミール・クリガー、藤田貴大、3人の役割分担

——この舞台、インバル・ピントさんが演出・振付・美術を担当して、アミール・クリガーさんが演出と脚本で、藤田貴大さんが脚本・作詞ということでしたが、その3人の役割というのはどうなっていたのでしょうか?

成河:藤田さんは日本語の部分の脚本を担っていて、インバルは、身体的な、振り付けや視覚的なイメージでの演出を中心に手掛けています。それ以外の言葉による演出をアミールが担当するという感じです。ただ、日本語と言う部分では、村上春樹の特有のしゃべり方というのがありますよね。例えば「やれやれ」というところや「なんてことかしら」みたいな部分。

渡辺:口語的にしてもいいところや、でもこれは村上春樹の言葉として残したほうがいいところもあったりするんですけど、そういう時に藤田さんの役割でしたね。

成河:そこの部分は、複雑なところなので、たくさんやりとりがありましたね。それこそ初演の時は、表現の仕方に関してアミールと衝突することもありました。

渡辺:僕は、よりよいクリエイションのために、そうやってお互いが発言をすることが良いことだと信じているところがあります。特に日本のクリエイションの場では、気を使って言わないことも多いので、それではものつくりが活性化しないなと思うこともありますし。

成河:大知のそういう姿勢のおかげでいい影響があったと思います。

渡辺:でも、そうやって議論に火をつけるからには、それなりに勉強が必要だとも思います。あらゆるパターンをイメージしたうえで、それでも難しそうだと思った時だけ疑問を呈するようにしています。

成河:それでハッとさせられたこともありましたね。それが当たり前だと思ってなんの疑問も持たなかったところに、大知の発言があったおかげで、気付くことができたり。

渡辺:僕は、面白いなと思うものや、ワクワクするものを見たくて生きているところがあるんです。表現の世界でも、ワクワクしたものを作りたいのに、人との間で忖度をしてしまったり、変に気を使ったりすることで、ワクワクするものを作れないとしたら、もったいないし、つまんないものになってしまうと思っちゃうんです。

高校生にも観てほしい舞台

——改めて、2人で1人の役をするということについてはどう思われますか?

成河:実は、2人が1つの役をやるということは、古典芸能なんかでもよくあって、そこまで不思議なことではないんですね。だから、当たり前のように観てもらえるのではないかと思います。だって、井戸の中に入ったら違う自分が出てくるっていうだけで。そういう存在って、自分の中にもありますよね。

渡辺:もっと言えば、1人の人物を2人が演じるだけじゃなくて、もっとたくさんの自分が出てきますから。そういう表と裏だけではなく、多面性を、グレーゾーンを見せられたらいいなと思っています。

成河:その表現、いいね。外側に見えていることだけではない。ある時は1人の人間が10人になっているかもしれないし、それを見ている1000人の観客と1人の人間になることだってあるかもしれないし。

——舞台でできる表現って、すごく幅が広いんだなと思いました。

成河:舞台というのが無限すぎて整理しないといけないくらいですね。そういう特別な体験をするために、ぜひ皆さんにも観に来てほしいです。特に高校生以下は1000円で観られるチケットもある(東京公演のみ)ので。

渡辺:すべての意味がわからなくても、その衝撃を記憶に残してほしいですね。僕自身もこういう仕事を始めたのが高校生の時で、あの頃って表現に飢えていたし、わからないものを知りたいって思っていました。だから、そういう人に観てほしいです。『ねじまき鳥クロニクル』を観て、思考する楽しさ、何かを受け取る楽しさを味わってもらいたいです。自分も高校時代に観ておきたかったとすら思います。

成河:人生変えちゃうかもしれないしね。

Photography Yuri Manabe

■舞台『ねじまき鳥クロニクル』
原作:村上春樹
演出・振付・美術:インバル・ピント
脚本・演出:アミール・クリガー
脚本・作詞:藤田貴大
音楽:大友良英
出演
演じる・歌う・踊る:成河 / 渡辺大知、門脇麦
大貫勇輔 / 首藤康之(W キャスト)、 音くり寿、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ
吹越満、銀粉蝶
特に踊る:加賀谷一肇、川合ロン、東海林靖志、鈴木美奈子、藤村港平、皆川まゆむ、陸、渡辺はるか
演奏:大友良英、イトケン、江川良子
主催:ホリプロ、TOKYO FM
企画制作:ホリプロ
https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/
https://twitter.com/nejimakistage

【東京公演】
公演日程:2023年11月7〜26日【全24回公演】
会場:東京芸術劇場プレイハウス 

【大阪公演】
公演日程:2023年12月1〜3日
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催:梅田芸術劇場 / ABCテレビ / ホリプロ
https://www.umegei.com/schedule/1149/

【愛知公演】
公演日程:2023年12月16〜17日
会場:愛知県刈谷市総合文化センター大ホール
主催:メ~テレ / メ~テレ事業 / 刈谷市・刈谷市教育委員会・刈谷市総合文化センター(KCSN 共同事業体)/ ホリプロ
https://www.nagoyatv.com/event/entry-36088.html

author:

西森路代

1972年、愛媛県生まれ。 ライター。 大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。 派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。 Twitter:@mijiyooon

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