躍進を続ける俳優・眞栄田郷敦が初主演作『彼方の閃光』に込めた役者への想い 「その役にすべてを懸けられるかが僕にとってはとても大切です」

眞栄田郷敦(まえだ・ごうどん)
2000年生まれ。ロサンゼルス出身。父は千葉真一。2019年『小さな恋のうた』で役者デビュー。近年の主な出演作に、映画『午前0時、キスしに来てよ』『東京リベンジャーズ』『カラダ探し』、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』、TVドラマ『ノーサイド・ゲーム』『エルピス -希望、あるいは災い-』などがある。
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2019年に映画『小さな恋のうた』で俳優デビューしてから、約4年。眞栄田郷敦は『東京リベンジャーズ』シリーズや『ゴールデンカムイ』(2024年1月19日公開予定)のような娯楽大作から、数々の賞に輝いた社会派ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』、NHK大河ドラマ『どうする家康』にも出演し、目を見張る速度で人気俳優への道を駆け上がってきた。

その眞栄田が初主演を飾った映画『彼方の閃光』が、12月8日に劇場公開を迎える。色彩を感じられない青年・光(眞栄田郷敦)が自称革命家・友部(池内博之)と共に長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿る――という物語。戦争・原爆・環境破壊等に対する痛切なメッセージを宿しており、約3時間にわたって眞栄田をはじめ出演陣の迫真の演技がぶつかり続ける。

公開を前に、眞栄田に現在の心境を語ってもらった。

映画初主演について

——2022年の東京国際映画祭で本作がお披露目された際は、まだ配給会社が決まっていない状態だったと伺いました。

眞栄田郷敦(以下、眞栄田):はい。でも、僕としてはそんなに焦ってはいませんでした。一番いい形でいろいろな人に観ていただき、伝わったらいいなと思っていたので、公開が決まって良かったです。

——その場では「やりたいことをやりたいメンバーで、とことんこだわって実現した映画」と語っていらっしゃいましたが、初主演映画としてこの映画を選んだ理由を教えてください。

眞栄田:単純にこの脚本を読んだ時に強く惹かれたことに尽きます。メッセージ性が突き刺さる感じや、光という役の魅力、難しさ――。そういった部分に惹かれた企画で、たまたまいただいた役が主役だったというだけでした。いままで経験してこなかった作風であり、モノクロの映画でもあって、すべてが新しい挑戦になるからこそ飛び込みたいという気持ちでした。

——「モノクロ映画」は当初から決まっていたのですね。

眞栄田:そうですね。「こういう雰囲気です」というイメージ映像を半野喜弘監督に見せていただき、この世界観や感覚を持っている監督やスタッフの方々と作品づくりをできたら面白そうだと感じました。

——光は幼い頃に視力を失い、手術を行うも色彩が感じられなくなった役どころです。どのように落とし込み、演じていかれたのでしょう。

眞栄田:光は幼少期に視力を失って、世の中の良いも悪いも物理的には見られず、感じられない中で育ってきました。そのため、世の中に対してどこか尖っている人物、という心の部分をまず作っていき、そこから「指先の感覚を大事にしている」といった身体的な部分を考えていきました。いろいろなものを触って、肌の感度が鋭敏になるように心がけていました。

——チャレンジングな難役に挑む際、ご自身の中でルーティン化しているアプローチなどはありますか?

眞栄田:脚本から読み取れる情報を吸い上げて、落とし込むという根本はいつも同じです。そこから実際に経験しないといけない肉付けの部分については、役どころによって変わってきます。

ドキュメンタリーのような作品

——人物を追いかけるような荒々しいカメラワークも印象的でしたが、半野監督の現場はいかがでしたか?

眞栄田:劇映画というより、ドキュメンタリーを撮っているような感覚がありました。半野監督と撮影監督の池田直矢さん、照明部さんにメイクさんと各部署がセッションして、その瞬間を作っているアンサンブル感が印象に残っています。友部(池内博之)と糸洲(尚玄)が海で言い合うシーンなどはアドリブも多く、もともとはカットを割って撮る予定だったのが、みんなの芝居だったりカメラワークにピント等々、すべてがマッチしたためワンカットになりました。

——本作は長崎・沖縄の戦争について真正面から描く映画であり、だからこそアドリブで言葉を発するのには勇気もいるのではないかと思います。生半可な覚悟で言葉を足したり変えたりできないといいますか。

眞栄田:沖縄出身の尚玄さんが感じていることの強さを、リアルに感じた瞬間でした。もともとのセリフに込められていたメッセージ性にご自身が見てきたことを足されていて。あのシーンはほぼテスト(リハーサル)もしておらず、段取り(カメラや俳優の動きの確認)をやったらすぐ本番という感じで、何が起こるのかわからない点でもドキュメンタリー的でした。

——本作には、眞栄田さんと池内博之さんのバディものの側面もありますね。

眞栄田:池内さんとは途中から芝居をしている感覚がなくなりました。撮影前からいろいろとお話しさせていただいて関係性もできていましたし、池内さんが友部にしか見えないからスッと言葉が入ってくるし、自分も同じテンポで返せました。台本上には「泣く」とは書いていないのですが、池内さんの芝居の熱量に引っ張られて涙が出てきてしまう、ということもありました。

——その瞬間の生の感情・反応が出てきてしまうような現場だったのですね。

眞栄田:場所の力も大きいと思います。「光という人物を演じている」と頭ではわかっているけど、実際に戦争を経験した場所に身を置いて、自分自身もいろいろなことを感じました。その感情は間違いなくリアルで別に演じていないため、とても不思議でした。そういった意味でもドキュメンタリーのような感覚でした。

僕達は小さい頃から学校などで「戦争は理屈抜きにダメだ」と教えられてきましたが、どこか遠いことのように感じてしまっている方もいらっしゃると思います。『彼方の閃光』を経験したことで、初めて戦争を身近に感じて「伝えていく立場になったんだな」とその重要性を痛感しました。

——本作で俳優デビューされたAwichさんとの共演はいかがでしたか?

眞栄田:僕はAwichさんに演技経験がないと知らず、「詠美さんにしか見えないな、雰囲気がすごいな」と感じていました。実際にどんどん引っ張っていただきましたし、素晴らしかったです。Awichさんはとてもガッツがあって、何事にも動じないんです。

——半野監督はホウ・シャオシェンやジャ・ジャンクーとコラボレーションした作曲家でもあります。俳優であり演奏家でもある眞栄田さんと共鳴する部分も多かったのではないか、と想像しました。

眞栄田:確かに、言葉にせずともわかり合っている部分はあったかと思います。それこそセッション的といいますか「いま、こうしたらいいんだろうな」と一致する瞬間が多くありました。事前に監督からこの映画や戦争、それぞれの役に対する想いを伺っていたことも大きいと思います。撮影後半は「光ならこうすると思います」と僕が伝えて、半野監督が「じゃあそれでいこう」と言ってくれるような感じでした。

——本作のキーの1つに、写真家・東松照明さんの作品群があります。彼の写真に対して、どのような印象を受けましたか?

眞栄田:写している人の表情などには飾り気のないリアリズムがあって、それなのに綺麗で文章を含めて美しさがあると感じました。美しいものに触れてこられなかった光が惹かれたのもすごく納得しました。

目標は「昨日を超え続けていくこと」

——作られた順番は前後しますが、『エルピス―希望、あるいは災い―』や『彼方の閃光』世に問う作品に惹かれるところはありますか?

眞栄田:意識的にそういった作品を選んでいるわけではありませんが、脚本を読んで考えさせられるものに対して「やりたい」と思うことは多いかもしれません。

脚本を初めて読む時は、まずは第三者として観客に近い形で頭から最後まで読むようにしています。そこで純粋に「面白い」と思えるか、役がチャレンジングかを重視しています。作品自体のやりがいはもちろんですが、その役にすべてを懸けられるかが僕にとってはとても大切です。

——その“やりがい”は、どういった瞬間に感じられるのでしょう。

眞栄田:やっぱり現場です。自分の中で役を作って現場に行き、それをアウトプットしてみんなで1つのシーンを作っていく時間――相談しつつ時にぶつかり合いながら、試行錯誤していく時間が一番楽しいです。そのためには自分がしっかり考えていかないと闘えないし、ぶつかり合えないし、土俵に立つことすらできません。各々がとにかく考えて、みんなで集まって作っていくことができた時に、やりがいを感じます。

——2023年は『大河ドラマ どうする家康』にも出演されました。今現在の目標や、今後についてはどんなビジョンを描いていますか?

眞栄田:全く決めていません。作品はやっぱり出会いだと思うので、目の前にある「すべてを懸ける」と決めた作品を一個一個良いものにしていくことしか考えていません。そうしていけば、自然と自分もステップアップしていけると実感していますし、やりがいも感じられます。そういった意味では、目標は「昨日を超え続けていくこと」です!

Photography Takahiro Otsuji
Styling MASAYA(PLY)
Hair & Makeup Kengo Kubota(aiutare)


『彼方の閃光』

■『彼方の閃光』
12月8日からTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開
出演:眞栄田郷敦 池内博之
Awich 尚玄 伊藤正之 加藤雅也
監督:半野喜弘
原案:半野喜弘 
脚本:半野喜弘/島尾ナツヲ/岡田亨
スタイリスト:半野喜弘/上野恒太
音楽:半野喜弘
プロデューサー:木城愼也/半野喜弘/坂本有紀/中村悟/藤井拓郎
配給:ギグリーボックス
制作プロダクション:GUNSROCK
2022/日本・米/169分
©2022彼方の閃光製作パートナーズ
https://kanatanosenko.com

author:

SYO

1987年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW、Hulu等で連載中。Twitter:@SyoCinema、Instagram:@syocinema

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