俳優・高良健吾が語る自身の演技の変化 「共感より理解することが大事になった」

高良健吾(こうら・けんご)
1987年熊本県生まれ。2006年『ハリヨの夏』で映画デビュー。『M』(2007)で第19回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門特別賞を受賞。『軽蔑』(2011)で第35回日本アカデミー賞新人俳優賞、『苦役列車』(2012)で第36回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、『横道世之介』(2013)で第56回ブルーリボン賞主演男優賞などを受賞。近年の映画出演作は『ひとりぼっちじゃない』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』(2023)、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』、『Gメン』の公開を控える。
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個性豊かなキャラクターが集うシェアハウスを舞台にした人気コミック『水は海に向かって流れる』が映画化され、6月9日から全国で公開がスタートした。恋愛はしない、と宣言するOLの榊(広瀬すず)とそんな彼女に淡い想いを寄せる高校生、直達との関係を軸にストーリーは展開していくが、そこで直達の叔父、歌川茂道を演じているのが高良健吾だ。脱サラして漫画を書いている茂道は、まわりから「ニゲミチ先生」とあだ名をつけられ、その天然ぶりが愛されているシェアハウスのムードメーカー的な存在でもある。そんなユニークなキャラクターを、高良はどう捉えたのか。近年、さまざまな役柄に挑戦して、ますます役者としての存在感を発揮している高良に話を聞いた。

衣装から作品の雰囲気を感じとる

——本作に出演するにあたって、どんなところに惹かれたのでしょうか。

高良健吾(以下、高良):まず、原作の漫画を読んで、それがとても面白かったんです。そのあと台本を読んで、映画らしい台本だと思いました。原作のどこを切り取って、どんなふうに映画として見せようとしているのか。それが台本から、しっかりと伝わってきました。

——監督は『ロストケア』『大名倒産』など公開作品が続く前田哲さん。高良さんは本作で初めて前田監督と組まれたそうですが、現場はいかがでした?

高良:楽しかったです。この作品は面白くなる、という雰囲気が現場に漂っていました。そして、完成した映画では、原作の良さが映画の良さとして見事に料理されていました。衣装にしてもセットにしても、原作をそのまま映像化しただけではたどり着けないものでした。いろんな足し算をして繊細な表現をするのが、前田監督らしさなんじゃないかと思います。それは映画の最初のシーンから伝わってきます。駅から傘がいっぱい出てくるのを見ていると、何かが始まるワクワク感があるんですよね。そういう見せ方ができるのが前田さんのすてきなところだと思います。

——今回、高良さんが演じた「ニゲミチ」こと歌川茂道というキャラクターについてどう思われました?

高良:脱サラした漫画家でシェアハウスに住んでいる、ということは、何かを抱えているのは確実じゃないですか。だけど、彼が抱えているものの陰りはにおわせずに、茂道の明るさやユーモアを表現しようと思っていました。

——ニゲミチの人柄は子どもっぽい衣装からも伝わってきますね。

高良:衣装合わせで初めて監督とお会いしたのですが、そこで出てきた衣装が監督との大事な会話だった気がします。自分がイメージしていた衣装とは違っていて、その衣装を通じて作品のテイストも自分が思っていたものと違うことがわかりました。ああ、こういう雰囲気の作品なのか、ということが衣装から伝わってきて、この衣装で楽しんでみたいと思えたんです。きっと、茂道は大人になりきれない人なんですよね。衣装や部屋の様子を見ても、それが伝わってくる。大人になりきれない人の気持ちはよくわかるので、そういう空気感は大切にしようと思いました

——20代の頃に高良さんが演じた役は、屈託を抱えてヒリヒリしたキャラクターが多かった気がします。それに比べると茂道はコミカルで、登場人物達が住むシェアハウスのムードメーカー的な役割もありましたね。

高良:茂道のちょっとしたダメさ加減がみんなに笑われているのがいいですよね。「ニゲミチ」というあだ名をつけられたりして。ほんとだったら、笑われて卑屈になったりすると思うんですけど茂道は全然気にしない。

——そういうところは、『横道世之介』(2013年)で高良さんが演じた主人公の世之介を思い出したりもしました。

高良:ああ、そういうところはあるかもしれないですね。筋が通った天然というか。だからこそ、周囲も笑える。

演技に対するアプローチの変化

——高良さんは世之介役でブルーリボン賞の主演男優賞を受賞するなど高い評価を得ましたが、それから10年経った今、演技に対するアプローチに変化はありますか?

高良:完全に変わったと思います。世之介で評価された時、なぜ評価されたのか自分でわかりませんでした。自分がやったことは全部覚えていますが、なぜそうしたのかを説明ができなかった。評価されたのはありがたいことなんですけど、同じことをやろうとしてもやれない中で評価されたことが怖かったんです。それまでは、(演技をする際に)いいタイミングが来るのを待っていたんですけど、世之介以降はタイミングを待つのではなく、まず自分から何かやってみようと思うようになりました。そうすることで、自分がなぜこういう演技をしたのか、ちゃんと説明ができるようになりたいと思ったんです。

——演技のアプローチを変えることで、脚本の読み方や演技の内容も変化しました?

高良:変わりましたね。それまでは、この役は自分じゃない、と思うとお断りしていました。それが、役と自分が違っていてもあたりまえと思えるようになった。それまでは役に共感することが大事でしたが、そうではなくなったんですよね。共感より理解することが大事になりました。殺人犯だろうが、性格が悪かろうが、その役に共感できなくても、その役を自分なりに理解することはできるんですよ。理解して役に近づいていく。でも、それが正しいとは思っていなくて、最終的な演技の判断は監督にお任せしますが。

——その変化は大きいですね。演じる役も幅広くなる。役者としてキャリアを重ねていく中で、大切にしていることはありますか?

高良:若い頃は何も知らないこと、無意識が武器になる時期があるんですけど、何も知らないままだと衰えていく。ある時期からは、いろんなことを知ることが大切になるんじゃないかと思います。

——いろんなことを知るために、何か具体的なことをされているのでしょうか?

高良:「知る」というのは生き方の姿勢でもあるのですが、何かに迷った時は、参考になるような本を読んだりしています。

——本はよく読まれるんですか?

高良:好きな本屋がいくつかあって、そこのセレクトの中から気になったものを買って読んだりしています。人の感性や考え方がダイレクトに伝わる本が好きなので、ノンフィクションとか哲学書とかエッセイとか、そういうものを読むことが多いですね。ただ、小説はあまり読まなくて。たぶん、台本みたいに読んでしまうからかもしれないです。

面白い人とたくさん出会えるのが仕事の魅力

——職業病みたいなものですね。そういえば、リフレッシュされるために旅によく行かれるとか。

高良:つい最近、ラオスに行ってきたばかりです。パンデミックもあって海外に出るのは3年ぶりでしたが、僕にとっては大切な時間でした。去年からラオスに鉄道が走るようになって、鉄道で行けるところをいろいろ回ったんです。観光する場所は何もないし、不便なんですけど、それがいいんですよね。めちゃくちゃ野犬がいるんですけど、みんな穏やかで人間と共存していたのが印象的でした。国によって野犬の性格って違うんですよ。

——国によって野犬の個性が違うというのも面白いですね。経験を重ねて仕事に対する向き合い方も変わる中で、改めて感じる役者という仕事の魅力とはどんなところでしょう。

高良:面白い人とたくさん出会えるということですね。どの仕事にも面白い人はいると思いますが、物語を作ろうとしている現場には面白い人が多いんじゃないかなと思います。みんなで物語を作って人の心を動かそうとしている。その物語で人生が変わることもあるし、面白い仕事だなって思います。

——高良さんも物語は好きだった?

高良:子どもの頃、よく空想の世界に入っていた記憶があるんですよ。周りからも言われていました。さっき話しかけても聞こえてなかったみたいだけど、また、自分の世界に行ってたんじゃないの?って。そんな自分が物語を作る仕事をしているというのも面白いですね。

——天職といえるかもしれないですね。最近、高良さんは短編映画『CRANK-クランク-』で初めて監督に挑戦されましたが、機会があればまた監督をやってみたいと思いますか?

高良:思います。『CRANK-クランク-』は撮影期間が2日間しかなかったりと、制約は多かったですが、自分のやりたいことがたくさんできて楽しかったです。完成した作品を観て思ったのは、自分ごとすぎてスケールが小さいってこと。でも、やりようによっては、自分ごとでもスケールは大きく撮れると思います。今回の映画もシェアハウスという狭い世界の話ですが、それをここまでスケールの大きな物語にできるのはすごいと思いました。映画を撮ったことで映画の見方も変わったし、今度はこんなふうにしたい、ということがいろいろできました。といっても、またやりたい、なんて簡単には言えないですけどね(笑)。

Photography Takahiro Otsuji
Styling Shinya Watanabe(Koa Hole)
Hair & Makeup Kohei Morita(TETRO)

■映画『水は海に向かって流れる』
6月9日から「TOHOシネマズ 日比谷」ほかにて全国ロードショー
出演:広瀬すず
大西利空 高良健吾 戸塚純貴 當真あみ/勝村政信
北村有起哉 坂井真紀 生瀬勝久
監督:前田哲
原作:田島列島「水は海に向かって流れる」(講談社「少年マガジンKCDX」刊)
脚本:大島里美
音楽:羽毛田丈史
主題歌:スピッツ「ときめきpart1」(Polydor Records)
製作:映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 
©2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 
©田島列島/講談社
https://happinet-phantom.com/mizuumi-movie/

author:

村尾泰郎

音楽/映画評論家。音楽や映画の記事を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CINRA』『Real Sound』などさまざまな媒体に寄稿。CDのライナーノーツや映画のパンフレットも数多く執筆する。

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