ROTH BART BARON 三船雅也 × ISO  「ジュブナイル」が持つ魅力と新作アルバム『8』を語る——「新しい冒険や発見に満ちてなくちゃいけない」

ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)
シンガーソングライターの三船雅也を中心とした東京を拠点に活動する日本のインディーロッ クバンド。2022 年は、映画『マイスモールランド』の劇伴音楽と主題歌を手掛けた。 2022 年 11 月 9 日に『HOWL』をリリースし10都市12公演全国ツアーを開催。2023年は「フジロック・フェスティバル 23 」に出演。10月18日には8thアルバム『8』をリリース。現在、全国ツアーを開催中。
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シンガーソングライターの三船雅也が中心となるフォークロックバンド、ROT BART BARON(ロットバルトバロン)の8枚目のアルバム『8』が10月18日にリリースされた。本作について三船が「自分の子供時代、ジュブナイルと向き合った作品です」と語る。なぜ、三船はジュブナイルをテーマにしたのか。そしてジュブナイルに対する想いとは。映画ライターのISOとの対話から探っていく。

ISO:まずは今作『8』で「ジュブナイル」をテーマに選んだ理由を教えてもらえますか?

三船雅也(以下、三船):ジュブナイルという構想自体は前作『HOWL』を作っている時からあったんです。僕は曲やグラフィック、ライブパフォーマンスにしても、常にアイデアをいくつもパラレルに持っていて。それが本当に作品になるかはわからないんですけど、曲ができてきた中でうまく結びつくと結果的にそれが作品になる。そうやっていくつもアイデアや曲が並走していく中で、今回たまたま飛び乗ったのがジュブナイル列車だったという。

ISO:こういうテーマで作ろうと挑んだわけではなく、タイミングが重なって生まれたと。

三船:パンデミックの3年間でいろんなことを熟慮したし、『HOWL』ではロシアのウクライナ侵略のことなんかも題材にしたりと、「人間がやる度し難いこと」というテーマに自分としては十分向き合ったから、一度そこではない文脈で音楽を作りたくなったんですよね。その時に子供の目線で考えてみようと。自分の中でもう一度子供の気持ちを呼び起こしたいという根源的な渇望があって、それが深く音楽と結びついたんです。

ISO:子供の気持ちに立ち返りたいって欲求はみんな持っていますよね。

三船:大人がしがらみにとらわれた時、子供はたやすくそれを飛び越えますもんね。そこへの憧れも確かにありますけど、僕は以前から子供の目線はあったと思うんです。例えば災害があって避難所にいても、集まった子供達はすぐに集まってと友達になって遊べたりする。今振り返ると、僕らはそれに近い感覚でパンデミックの時も活動できたような気もしていて。ずっと大人目線だったら道理とか理屈で物事を考えて、おとなしくしてたでしょうし。だから今度はまた新しい気持ちでジュブナイルを見ようとしてるのかも。

映画との関係

ISO:三船さんはもともと映画監督を志していたんですよね。音楽に関しても映画の影響は大きいんでしょうか?

三船:そうですね。映画を学ぶ最中に音楽に取りつかれていった人間だからか、僕は音の前に絵があるんです。宮崎駿さんが最初にイメージボードを描いたり、ヒッチコックがまず絵コンテを切るように、絵ありきで音を作るので僕の中で映画と音楽はすごく密接。架空の映画をディレクションしているような感覚ですね。サントラを作るのに近いというか。

ISO:なるほど。サントラといえば三船さんが音楽を担当した『マイスモールランド』を観ましたけど、楽曲で登場人物の心情を表現していて素晴らしかったです。三宅唱監督の作品とかすごく相性が良さそうですし、いろんな作品を手掛けてほしいなと思いました。

三船:ぜひ、やりたいですね。これまでもここ数年はCMやドラマ主題歌などいろんなクリエイターの方と総合芸術を作る機会に恵まれて、すごく刺激をもらったんです。パッションのある監督やディレクターと作った時に、自分が思ってもいなかった場所にたどり着く感覚が面白くて。

ISO:やはり普段の制作とは全然違うものなんですね。

三船:映像作品だと、絵に合わせた時の絶妙なバランス感覚が求められるんですよね。音楽が強すぎると役者の演技を薄めて言葉が響きにくくなるとか。僕だけが良ければOKというプロジェクトじゃない。その感覚がすごく楽しいんです。普段は僕とバンド、そしてリスナーの関係だけで良いんですけど、そこに別の要素が加わるとまた違った飛躍がある。

でもこうして音楽の道に進んだことで、結果的に昔目指していた映画との繋がりが強くなるなんて面白いですよね。映画音楽は今後どんどん作っていきたいです。

ISO:今作に合わせて作られたショートストーリーもとても映画的ですよね。CGがとんでもないクオリティで驚きました。

三船:すごいですよね。僕も試写会で泣きましたもん。映像作家・安田(大地)さんが曲を聴いてアイデアを出してくれて、僕らが描きたかったジュブナイルの少年/少女性をとてもきれい

に映像作品として表現してくれました。

ISO:クトゥルフ神話やSF風のパートもあり、ジュブナイル映画っぽさが見事に現れていました。

三船:ほとんどは安田さんチームのアイデアですけど、最初は僕が好きなジュブナイル映画10作品をモチーフとして彼らに伝えました。だから映画の主人公の衣装を着ていたりとか、イースターエッグが散りばめられています。

ISO:普段はどんな映画を観るんですか?

三船:怖い作品以外はなんでも。トリュフォーやジャン・ヴィゴ作品のような古典も大好きですし、新しい作品も観ます。でも僕が映画を好きになったきっかけは特撮なんですよね。母がウルトラマンとゴジラが好きで、一緒に観に行った平成ゴジラシリーズに感銘を受けて自分でも特撮を作りたいと思うようになりました。それで高校生の時に映画の撮影現場で荷物持ちのバイトをしたんです。その時に「今はCGの時代だからもう特撮監督の仕事はない」と言われ驚愕しましたね。でも東映の人が言うなら間違いないなと挫折して。他の道も考えないと……と思いつつギターを弾き始めた(笑)。

ジュブナイル映画への想い

ISO:切ない…。今回テーマがジュブナイルですけど、ジュブナイル映画で特に印象に残っている作品はあります?

三船:19歳の時に観たジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』は衝撃を受けましたね。

ISO:渋すぎる。でも確かに反逆を決起するシーンの映像は素晴らしいですよね。開放感があるし、ドラマチックで。

三船:ストーリーも普遍的ですしね。しかも押し付けがましくないじゃないですか。こうしろとは言わないけど、お守りのような優しさはある。宮崎駿さんの映画もそうですけど、押し付けがましくないジュブナイル映画はやっぱり良いなと思います。

ISO:意見とか使命とか押し付けてくる作品ありますもんね。三船さんも「Kid and Lost」で“また高校生に世界を救わせる物語”って歌ってますけど、やたらと高校生に背負わせたり。

三船:そう、ティーンエイジャーの時にその違和感をすごく感じてたんですよね。なので大人になっても制服姿の夢を追いかけて僕らに押し付けようとするんだと。思春期特有の大人に対する不信感もあったと思うんですけど、食い物にされてる感が気に食わなかった。

ISO:わかります。押し付けと無縁のジュブナイル映画が良いですよね。『ホームアローン』とか。あれも『新学期 操行ゼロ』と同じく反逆の映画ですけど。

三船:『ホームアローン』はみんな好きですよね。守られる存在だったケビンが1人でコンフォートゾーンから飛び出していくのとか、やっぱり観てて面白いし。触れられないものに触れたり、ダメと言われたことをやったり、ラインをはみ出る瞬間を描いている。その何かを飛び越えた時、子供の部分を少しずつ喪失していくんですよね。

ISO:喪失というのはジュブナイルと密接なテーマですよね。成長とか冒険もあるけど、大人になる過程で子供心や、一生続くと思っていた関係が失われていく。

三船:『スタンド・バイ・ミー』とかね。結局少年達は成長と共に疎遠になるじゃないですか。でもその一緒に過ごした刹那の時間が永遠だったりする。小さな頃にキャンプで出会った名前も覚えていない子と遊んだ記憶が未だに残っていたりとか、ありますもん。あの映画にはそういう尊い時間が詰まってる。

ISO:たいしたことも起きないし、ゆったりしてるのにすごく密度の濃い作品ですよね。

三船:ああいうゆったりと時間が流れるエンタメ映画って、メジャー作品ではもうほとんど存在しないじゃないですか。ハリウッド映画はどんどん加速してますし。その中で宮崎駿さんは激しいラッシュの後に穏やかなシーンを入れたり、すごく勇気があるなと思いますよね。

ISO:確かに宮崎さんはそうですね。ちなみに『君たちはどう生きるか』はいかがでしたか?

三船:素直な宮崎さんが観れて僕は好きでしたね。トトロからやってきたお母さんとの関係の集大成がここなんだなと。自分と向き合ったのをしっかり感じたというか。フォークシンガーが自分のプライベートライフを歌うアルバムに近いのかな。エンタメポップじゃないけど、すごくオーガニックで何回も聴きたくなる名盤というか。ニック・ドレイクみたいな(笑)

ISO:わかる気がする。ジブリ作品と共に育った我々からすると、あそこまで素直に宮崎さんを出されると嫌いになれないですよね。

三船:そして80歳であれだけの作品を作り上げるってのが本当にすごい。僕も弱音を吐いてられないなと思いましたね。宮崎さんの前で「僕最近忙しくて」とか口が避けても言えない(笑)。

「先に進んでる主人公じゃないと惹かれないんです」

ISO:宮崎さんには誰も言えないです……。他に好きなジュブナイル映画はありますか?

三船:僕はロビン・ウィリアムズが好きなんですけど、『ジュマンジ』とかも良いですよね。ファニーだしエンタメだけど、実は父親に対するトラウマとか重いテーマも描いていて。その上で大人と新しい世代の子供が繋がるじゃないですか。ジュブナイル映画って大人と子供の対立を描くことが多いけど、協力するのも観てて面白いですよね。昔の自分と繋がる、あの時空の越え方も好きですし。

ISO:そういう時空のねじれでいくと、山崎貴監督のデビュー作『ジュブナイル』もそうですよね。ミレニアム時代のワクワクが詰まったSF映画。

三船:ありましたね。僕は山崎さんの本質はあの映画にあると思っていて。『ALWAYS 三丁目の夕日』のような人間ドラマではなく、SFと武器。だから『ゴジラ -1.0』は山崎さんのオタク感がよく出てたなと。20mm機関銃をなめるように撮ってたりして、「最高だぜ!」とか思いながら観てました(笑)。

ISO:ドラマ以外のパートに筆が乗ってましたよね。

三船:ゴジラと戦うシーンは本当に素晴らしいし、観ながら山崎さんは本当にこういうのが好きなんだなと思わず嬉しくなりました。

ISO:山崎さんの童心が見えましたよね。そういう作り手の純粋な部分が見える作品は良い。今年観た中だと『フェイブルマンズ』も素晴らしいジュブナイル映画でした。『E.T.』もそうですけど、スピルバーグのピュアな視点は本当にすごいなと改めて思い知らされました。

三船:童心を持ち続ける才能ってありますよね。そういう人の作品は透き通っているというか、純度が高い。岩井俊二さんもそう。60歳になっても、8歳のような感性も持っていて。でも本来は誰しもが空想とか楽しいアイデアを持ってるじゃないですか。でも大人になるにつれ空想に力がないと思い始めて、押し込めてなかったことにする。

僕は映画を勉強していた大学1年生の時にそれを目撃したんですよね。『セーラームーン』を観る授業があって、タキシード仮面というヒーローが登場するんです。みんな昔は純粋な目で観てたはずなんですけど、同級生の子達は彼が出てきた瞬間に笑い始めたんですよ。

ISO:大人になるとそうなっちゃいますよね。

三船:でも僕はすごく憤りを感じて。僕らはそういうものに魅せられ、生み出すために学んでいたわけじゃないですか。それを何様のつもりで笑っているのかと。これを本気で作っている人がいて、僕達もそっちに立たないといけないのに。当時は周りに合わせて笑ったほう

が良いのかなと思ったけど、今思うと笑わなかったから音楽の作り手になれてる気がしてて。

作り手の人は笑わないと思うんです。きっとスピルバーグは笑わない。そういう純粋な気持ちを持っているからこそ『E.T.』のような作品が作れるんだと思うんです。だって宇宙人が来たら、大人は防衛とか研究ってなるじゃないですか。普通友達になろうとはならない。

ISO:うん。『E.T.』は最初ホラーっぽさもあるんですよね。子供の目線で得体のしれないものと出会う恐怖感もしっかり描いてる。子供の頃って何気ないものが怖かったりするから、ジュブナイルってホラーとの相性も良いじゃないですか。『ストレンジャー・シングス』以降、『IT』や『ブラックフォン』とか、ジュブナイルホラーの波が来てますし。得体の知れない恐怖と同時にノスタルジーも堪能できるような。みんな懐かしいものへの憧れがすごいんだなと。

三船:そうやってみんなノスタルジーの奴隷になっていくんですね(笑)。人類はいつも「あの頃は良かった」と過去を懐かしみながらループして生きてますけど、僕はその呪縛から逃れました。先に進んでる主人公じゃないと惹かれないんです。

「冒険をみんなと共有できたら嬉しい」

ISO:作品にもそれが現れていますね。『8』を聴くとノスタルジーというより、始まりの息吹を強く感じました。

三船:懐かしいというのは大人の感想であって、子供はそんなこと思わないじゃないですか。だからジュブナイルを描く作品は、本来子供目線で新しい冒険や発見に満ちてなくちゃいけない。

ISO:確かに!「Boy」でも“次の冒険に出かけよう”って歌ってますもんね。

三船:そう、思い付いてしまったからやるしかない。だから僕は外に出てみたんです。

ISO:あ、ベルリン移住か。ちょうど今ジュブナイルの真っ最中じゃないですか。

三船:そうですね、現在進行形です(笑)。

ISO:僕もまだ東京に出てきて日が浅いので、若干ジュブナイル気分です。みんなも本当は冒険したいと思うんですよ。でもいろんな制約や義務感の中でできないから、心を冒険に誘ってくれる映画や音楽に惹かれる。

三船:ですよね。だから僕がしてきた冒険をみんなと共有できたら嬉しいな、と思いながら音楽作ったりしてます。今はドイツ語も話せなくて友達もいないし、毎日が「はじめてのおつかい」みたいだし、区役所とかに電話する時も震えるし。いろいろと大変ですけどね。

ISO:でもそういう新しい場所で受け取るものって刺激になりますよね。

三船:僕が住んでる地域はヨーロッパで一番子供が多いらしいんですよ。そこら中に子供がいて、その横で僕が曲を作ってる。たまに子供が話しかけてきたり。「自転車見張ってて」とか(笑)。

ISO:すてきな環境!

三船:楽しいですよ。うちの近所に墓地があって、そこに子供の遊び場も併設されてるんです。それで子供がお墓によじ登ったりボールぶつけたりしてるんですけど、墓標見ると1800何年没とか書いてて。 200年前に死んだ人と今生きてるイケイケの奴らがクロスオーバーしてるとかすごいじゃないですか。お墓参りに来てる人もいるけど、悲壮感が全くないし。ハレとケの感覚がない日本人とはまったく別のラインで生きてて面白いなぁと。その景色に囲まれながら何千年の季節の訪れを歌った「千の春」という曲を書きました。

ISO:日本とベルリンではジュブナイルの感覚も違ってきそうですよね。

三船:そうですね、違うと思います。ダメと言われない子供が強い世界なんです。性別関係なしに強い。昭和味があるというか、なんというか…

ISO:じゃりン子チエみがある感じ?

三船:そう!高畑勲みもある(笑)。 気持ちの良い場所ですよ。

Photography Masashi Ura

■ROTH BART BARON 『8』
2023.10.18 Release

[LP]2023.11.8 Release
¥4,400

[Track]
1. Kid and Lost
2. BLOW (feat. Safeplanet) 3. Boy
4. 千の春
5. Exist song
6. Ring Light
7. Closer
8. Krumme Lanke
9. MOON JUMPER
10. NIN / GEN
https://rothbartbaron.lnk.to/8_RBBhttps://rothbartbaron.lnk.to/8_RBB

ROTH BART BARON
TOUR 2023-2024『8』

2024年
2月4日 (日) 愛知 今池 THE BOTTOM LINE
2月11日 (日) 熊本 早川倉庫
2月12日 (祝月) 福岡 BEAT STATION
2月18日 (日) 大阪 心斎橋 BIGCAT
3月1日 (金) 北海道 札幌 cube garden
3月2日 (土) 北海道 札幌 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド  – sold out –
3月3日 (日) 北海道 札幌 モエレ沼公園 ガラスのピラミッド *三船SOLO
3月17日 (日) 東京 渋谷 Spotify O-EAST
https://linktr.ee/rothbartbaronhttps://linktr.ee/rothbartbaron

author:

ISO

1988年、奈良県生まれ。ライター。劇場プログラムやさまざまな媒体で映画評、解説、インタビューを担当するほか、音楽作品のレビューや旅行関係のエッセイも執筆。 X(旧Twitter): @iso_zin_

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