STUTS とYONLAPAのNoi Naaが語る「ボーダーを超える音楽」——増えるアジア圏のコラボ

STUTS
1989年生まれのプロデューサー・トラックメーカー。自身の作品制作やライブと並行して、数多くのプロデュース、コラボレーションやTV・CMへの楽曲提供など活躍の場を広げている。2021年4月にはTVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌「Presence」を発表。同年10月にSTUDIO COASTワンマンライブを成功させた。2022年10月に3rd アルバム『Orbit』、12月にはMirage Collective名義でのアルバム『Mirage』をリリースした。2023年6月に初となる日本武道館公演を成功させた。
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YONLAPA
タイ第二の都市チェンマイ出身の4人組インディポップバンド。ボーカルのNoi Naaがシンガーソングライターとして活動を始め、その後メンバーが加わりバンドとなる。2019年11月にリリースされた曲「Let Me Go」がYoutubeで200万回再生されるなど注目を浴び、シーンの若手最注目バンドとしてその名は海外にも知れ渡ることとなった。2020年デビューEP「FIRST TRIP」をリリース。コロナ禍を経て2022年に待望の日本ツアーを敢行。never young beach、DYGLらと共演を果たすなど、大成功を収める。2023年、初のフルアルバム『LINGERING GLOAMING』をリリース。
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9月30日と10月1日の2日間、2023年に町政100周年を迎える軽井沢にてカルチャーフェス「EPOCHS 〜Music & Art Collective〜」が初開催される。これを記念して、同イベントへ出演するプロデューサー/トラックメーカーのSTUTSと、タイのチェンマイを拠点に活動するインディーロックバンドYONLAPA(ヨンラパ)のヴォーカリストNoi Naa(ノイナ)によるコラボレーション楽曲「Two Kites」が制作された。同曲の制作にまつわるエピソードをはじめ、タイの音楽シーンやインディーミュージックの交流の可能性など、さまざまなトピックについて2人に話を訊いた。

「Two Kites」のMV

——今回のコラボレーションのきっかけを教えてもらえますか。

STUTS:「EPOCHS 〜Music & Art Collective〜」のテーマ曲を作ってほしいとイベント側から依頼されて、当初はインスト曲を用意していたんですけど、どなたか出演される方のヴォーカルをフィーチャーするのはどうかという案が出てきたんです。それでYONLAPAのことを教えてもらって、聴いてみたらとても素敵だったので、「ぜひ一緒に作りましょう!」ということになりました。

YONLAPAの音楽は、その声とメロディーにすぐ惹き込まれました。柔らかくてオーガニックな雰囲気なんだけど、急に変拍子が入ってきたりとか、随所にいい意味で普通ではない要素が入っていてすごく面白い。素晴らしいバンドだなと思いました。

Noi Naa:STUTSさんの音楽はプム・ヴィプリットさんとのコラボ曲「Dream Away」(2018年)をはじめ、以前から聴いていて、素晴らしいと思っていたので、今回のお話をいただいてとっても嬉しかったです。同時に、トラックの上に自分の歌を乗せるというスタイルは今まで自分がやったことのないことでしたし、チャレンジしがいのあるコラボレーションになりそうだなと思いました。

——どんな風に作っていったんでしょうか?

STUTS:トラック自体は全部自分が作って僕のバンドメンバーの方にギターやクラリネットを少し入れてもらって、その上にNoi Naaさんが歌メロをつけてくれた形です。元はインストのつもりで作っていたので、完成したバージョンに比べて当初のものはシンセサイザーの音数が少し多かったりしたんですけど、Noi Naaさんの方でそのシンセのフレーズを活かしたメロディーを書いてくれたり、とてもいい共作になったと思っています。

——歌詞もNoi Naaさんが書かれているんですよね。

Noi Naa:そうです。バンドアンサンブルに言葉を乗せるのと全く感覚が違っていて、言葉数を多くしてみたり少なくしてみたり、悩みながら何度も書き直しました。

——タイトルになっている「Kite(凧)」のイメージ通り、ボーダーを超えていくというモチーフがとても印象的です。

Noi Naa:今回の共作のお話をいただいた時に、「ボーダーレス」や「自由」というキーワードを伺っていろいろ考えていたんですけど、いざSTUTSさんのトラックを聴いたら、自分でもパッとそういうイメージが広がっていきました。世界のどこへでも行けるという感覚や、壁が無い世界というイメージに惹かれて、言葉にしていきました。

音楽を通じて感覚を共有する

——異なる地域/文化圏で活動するアーティストとコラボレーションをするという体験ならではの面白さがあるとすれば、どんなところでしょうか?

STUTS:制作を進める上で、言語で細かなコミュニケーションをしなくとも、音楽を通じて感覚を共有できているという実感があって、そこが面白かったですね。「ボーダーレス」や「自由」というテーマ以外にも、自分の中でなんとなくイメージがあってそれもお伝えしていたんですが、実際に上がってきたリリックが本当に素晴らしくて、自分の内側にあった心象風景が音楽を通じて豊かに表現されているという感覚を抱きました。

曲名の「Two Kites」というのも、もともと自分が好きなアントニオ・カルロス・ジョビンに同名曲があって、Noi Naaさんの歌詞を読んでいて思いついたものなんです。

——Noi Naaさんは改めて今回の作業を振り返ってみていかがでしたか?

Noi Naa:すごく緊張しました(笑)。以前から国外のアーティストさんとコラボレーションしたらきっと新しい音楽が生まれるはずだと思っていたので、今後の自分の音楽活動にとってもとてもいい機会になったと思っています。

——この10年ほどの音楽シーンをみていると、実際にコラボレーションも増えているし、アジア各地のアーティスト同士の距離感がぐっと近くなっている印象があります。お2人にもそういった感覚はありますか?

STUTS:それはあると思いますね。やっぱりYouTubeだったり、ストリーミングだったり、障壁なくいろいろな音楽を聴ける環境が活動のベースになってきていると感じます。

Noi Naa:そうですね。自分が学生だった頃は、国内国外問わず、他のアーティストとコラボレーションするというのは簡単なことではなかったと思うんです。いろいろな交渉と調整を経てようやく実現するものでした。その後ストリーミングが浸透していく中で、音楽の世界が広がって、情報の壁が無くなっていったと思います。先ほどSTUTSさんがおっしゃったように、音楽が言語の代わりになって、お互い通じ合うことができるようになったと感じます。繋がりとチャンスが増えていって、その結果アジアの中のアーティスト同士で良い関係性が築けるようになったんじゃないかなと思います。

——そういうテクノロジーの発展の一方で、「人」が繋ぐコミュニティの重要性も以前に増して大きくなってきていると感じます。アジアのアーティスト同士の交流という視点でいうと、2022年にYONLAPAの来日公演のオーガナイズもされているBIG ROMANTIC REDORDSの寺尾ブッダさんの存在は特に重要ですよね。

STUTS:本当ですね。僕が台湾や香港でライブをした時も寺尾さんにはすごくお世話になりました。

Noi Naa:以前からバンドで海外でライブをしたいなと思っていて、メンバーに「どこの国に行きたい?」と聞くと全員が挙げるのが日本だったんです。そんな中で寺尾さんからツアーの話をいただいて、本当に「ありがとう!」を何回言っても足りないくらいです(笑)。

タイのインディー音楽シーンの現状

——現在のタイのインディー音楽シーンはどんな状況なんでしょうか?

Noi Naa:今はすごくインディーシーンが盛り上がってきていると思います。以前はメジャーの音楽が盛り上がっていたんですが、今では勢いが逆転している状況です。バンドを始める中高生の若い子達も増えているし、しばらく活動を休止していた上の世代のバンドが再始動したりしています。

さっきも言った通り、ストリーミングの浸透によって、レーベルやオーディション等を介さない形で自由に音楽を作って配信できるようになりましたし、昔に比べるとインディーミュージシャンが本当に活動しやすくなったと感じています。各所で交流が生まれていて、シーン全体もどんどん大きくなってきていると思います。

——STUTSさんはタイに行かれたことはありますか?

STUTS:はい。プム・ヴィプリットさんとのコラボ曲「Dream Away」のMV撮影で行きました。その時はライブハウスやクラブを回ったりはできなかったんですが、バンコクのH 3 Fというバンドとか、その後もタイのアーティストの音楽には親しんでいます。

——YONLAPAの皆さんは地元のチェンマイを拠点に活動されているということですが、やはりバンコクのシーンとは違った雰囲気があるんでしょうか?

Noi Naa:私の個人的な意見なんですが、まず、街自体の環境や雰囲気からして違うと思います。首都であるバンコクは乗り物や建物にあふれた雑踏の街という感じなんですが、チェンマイは北の方に位置する山に囲まれた街なので、自然が多くて穏やかな雰囲気なんです。山登りに行きたいなと思ったらすぐに車で行ける自由な雰囲気というか。

チェンマイのアーティストのサウンドや歌詞にも、そういう雰囲気が反映されている気がします。生活が自然と繋がっていて、その中で自分がどう感じるかが大事で、名を上げてやろうとか、商業的に成功してやろうとかいった強い野心とは無縁の空気なんです。それに比べて、バンコクの音楽産業では、みんなどうやったら売れるかとか、どういうニーズがあるかといったことに汲々としているイメージで……。あくまで自分の印象の話ですけどね(苦笑)。

STUTS:チェンマイのシーンにはバンドの数も多いんですか?

Noi Naa:数自体はたくさんいるんですけど、あまり知られていないバンドも多いですね。先ほどの話の一方で、どうやったら広く聴いてもらえるのかというのがシーンの中での課題になっていますね。チェンマイにはレーベルや裏方のスタッフもほとんどいないし、ライブハウスも一軒もないんですよ。みんな音楽バーで演奏しています。だからといって、バンコクに行って一旗揚げようとなるわけじゃなくて、あくまでみんなチェンマイが好きなんですよね。チェンマイに根ざした運営体制が整っていったらもっと変わっていくと思います。

何が言いたいかというと……私達はたまたま声をかけてもらっただけで、本当に運が良かっただけっていうことです!(笑)

——自身の音楽がコミュニティや地域に関係なくグローバルに広く聴かれてほしいという気持ちはありますか?

STUTS:ことさらにグローバルな市場を想定しているって感じではないのですが、日本だけではなくいろんなボーダーを超えて聴いてもらえたらいいなという気持ちは以前から強くあります。

Noi Naa:私も特に「グローバルであること」を意識しているわけではないですね。むしろ、自分の頭の中に流れてきた音楽をそのまま形にしたいという気持ちが強いので、わざとそういう考えから距離を取っているところがあるかもしれません。

もちろん、前提として私はグローバルな音楽が好きなので、そういう傾向は自分達の音楽にも反映されているとは思います。客観的にみても、私達以外のタイのアーティストの音楽もきっとグローバルなフィールドで受け入れられるはずだと思っています。

——その一方で、お2人の音楽には、活動拠点である東京やチェンマイならではの要素がうっすらと滲み出ているようにも感じます。

STUTS:それも特に意識しているわけじゃないんですけど、例えば旅先で曲を作ったりすると、不思議とその土地の空気や環境によって無意識的にサウンドが変わることがあるので、普段東京で暮らしながら制作しているということも、知らず知らずのうちに曲に影響を与えているかもしれないなと思います。地域性というか、その土地ならではの空気というか……。

——Noi Naaさんはいかがですか?

Noi Naa:これもさっきの話に通じるんですけど、「チェンマイに住んでいる自分としてその地域性をいかに音楽に入れ込むか」ということを念頭に置いてしまうと、今自分で考えていることをちゃんと表現できなくなってしまう気がしていて……。けれど、STUTSさんがおっしゃったように、別の場所に住んでいたらその要素が反映されると思うし、今の自分が立っている土地を無意識的に感じながら自然と要素が出ているというのはあると思います。けれどあくまで基本的な姿勢としては、いかに「今感じていることを表現するか」なんです。

——最後に、9月30日の「EPOCHS 〜Music & Art Collective〜」のステージで今回のコラボレーション曲「Two Kites」が実際に披露されるということですが、意気込みを教えてください。

STUTS:すごく楽しみですね。当日はバンドセットで演る予定なので、オリジナル音源にさらにライブ感が加わった感じで楽しんでもらえると思います。

Noi Naa:すごく緊張してます(笑)!  いつもステージではギターを抱えながら歌っているんですけど、「Two Kites」はヴォーカルだけなので、両手をどこに持っていけばいいんだろう……とか考えてしまって(笑)。けれど、きっと良いステージになるはずなので、とても楽しみにしています。ぜひみなさんに観に来てほしいです。

Photography Tameki Oshiro

■STUTS, Noi Naa (YONLAPA / from Thailand)  Digital Single 「Two Kites」
https://stuts.lnk.to/TwoKites

author:

柴崎祐二

1983年埼玉県生まれ。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、多くのアーティストのA&Rディレクターを務める。現在は音楽を中心にフリーライターとしても活動中。編共著に『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』(DUブックス、2020)、連載に「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」(『レコード・コレクターズ』)、「未来は懐かしい」(『TURN』)などがある。 Twitter @shibasakiyuji

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