髙橋優香によるブックストア「Hi Bridge Books」が誕生 人と人をつなぐ、ジャンルにとらわれない自由な空間

2023年11月末に東京・代々木八幡にオープンしたブックストア「Hi Bridge Books」。オーナーを務めるのは、神保町で80年以上続く老舗の古書店「小宮山書店」でキャリアを積んだ髙橋優香さんだ。住所は非公表で、来店は完全アポイント制。店内にはビジュアルブックを中心に、新書から古書まで並んでいる。そんなシークレットスポットのような空間に足を運び、オープンに至った経緯からアート業界に歩むことになった理由までを聞いた。

――「小宮山書店」から独立し、自身のブックストアを立ち上げた経緯を教えてください。

髙橋優香(以下、髙橋):「小宮山書店」を退社した時は、具体的なことはまだ決めていなかったんです。場所やオープン日などは辞めてから徐々に進めていこうと思っていましたが、ありがたいことに話はとんとん拍子に進み、形になったという感じ。もともとは原宿に出店しようと考えていましたが、縁があり場所を代々木八幡に決めました。

――アポイント制にしている理由は?

髙橋:お客さんとのコミュニケーションを大切にしているので。足を運んでくれた人からはよく「接客されるのが新鮮」と言われます。滞在時間は1時間程度。気になる本があれば自由に広げて見てもらったり、その人の好みを聞いて、少し違う切り口でおすすめの本を提案したりもしています。新しい出合いや発見を楽しんでもらいたいので、お客さんが知らなかった、わくわくするような1冊を手に取ってもらえたら嬉しいです。

――ショップ名の“Hi Bridge”は、ご自身の名字髙橋からとったそうですね。

髙橋:「ベドウィン&ザ ハートブレイカーズ」で勤務していた時、同会社に「Bridge」というショップがありました。“Bridge”という名前はなんか親近感があり、とても好きなショップで。店名を決める時、自分の名字にも“橋(Bridge)”が入っていることにふと気付き、“Hi Bridge Books”と名付けました。私の仕事は、人と人をつなぐ懸け橋の役目もあります。作家や買い手とのコミュニケーションをとることで、新しい出会いやカルチャーが生まれる。私も橋のような存在になれたらいいなぁという思いもあり付けました。

――店内に並んでいる写真集や雑誌はどんなジャンルのものが多いでしょうか?

髙橋:写真集や雑誌などのビジュアルブックが中心。新書から古書までを取り扱っていますが、あえてジャンル分けをせず棚に並べています。ジャンルという固定観念にとらわれてしまうと、1冊1冊の本質を知ることができない。良い紙を使っているから価値がある、サイズが小さいから安価というわけではありません。ものとしての美しさがすべて評価されるから、そこに価値の基準やジャンルはないと思います。人を何かでくくってしまうと固定観念に縛られてしまい、その人の本当の良さを見落としてしまいます。本もそれと同じではないでしょうか。

ファッション業界から異業種へ

――「ベドウィン&ザ ハートブレイカーズ」に勤務後、ブックキュレーターに転身されております。ファッション業界からアート業界の道に進もうと思ったきっかけは?

髙橋:「ベドウィン&ザ ハートブレイカーズ」を退職後、ニューヨークに2年間留学しました。その時に小宮山書店がアートブックフェアに出店していたんです。荒木経惟さんのような日本を代表する写真家の本を販売していたので、手に取って見ると、写真がもつ力強さに感動したのを今でも覚えています。海外にいる時は日本のことがとても新鮮に感じたり、今まで知らなかったことに気付けたりしますよね。海外の方は自国に対するプライドや知識がありますが、私の場合は本を通して日本を見るまでは自国を深く知ろうと思わなかった。それがきっかけでアートに興味を持つようになり、帰国後に親交があった小宮山書店に入社することを決めました。

――ファッション業界を経て、アート業界に身を置いてから感じる本の魅力とは?

髙橋:ファッションは時代性を映すものなので、時代で物事を見ていきます。私の場合は本をセレクトする上でもそれを感じることが多いですね。本は知らない人の話を聞けるのが魅力。自分が生まれていない時代のことを知れることができるし、知の範囲が広がります。なかでもビジュアルブックは言葉がないけれど、読む人に気付きを与えてくれる。人によって捉え方や見るところも異なるし、時代性や登場人物の内面を知ることもできる。本1冊だけでもさまざまな見方があるので、自分の視点を誰かにシェアできるのも良いですよね。私もお客さんや作家さんなどの多角的な視点を得ることでたくさん学びがあります。

――髙橋さんが引かれるアーティストに共通する点はありますか?

髙橋:周りに左右されずに、自分の意志を貫いている人でしょうか。あとは悲しみを知っている人の作品には心動かされる事が多いです。本当の悲しみを知っているからこその強さがあり、人の心を動かす力も持っているのではないかと感じています。

――最近おすすめの本はありますか?

髙橋:ストリートカルチャーマガジンの『LILYPAD』。ニューヨークとモントリオールを拠点とし、年1回発行しています。ドユン・ベックとバーゲン・ヘンドリクソンが編集し、毎号彼等のコミュニティーの仲間を取り上げています。DIY精神で制作している雑誌は、90年代の純度の高いZINEのようで、ページをめくるたびにワクワクします。この「ISSUE 4」は他国では反響を呼び完売したほど。昨年彼等が日本に来ていた事もあり、今号は交流のある日本人作家もたくさん掲載されています。ニューヨークの友人と彼等が親しくて日本に来た際に仲良くなりました。本号が発売された時、ちょうど「Hi Bridge Books」がオープンしたタイミングで、「ISSUE 4」を国内ではうちだけに置いてくれることになりました。

――最後に、書店オーナーとしての視点も備わった今、今後はどんな活動をしていきたいと考えていますか?

髙橋:展示スペースもあるので、1カ月半に1回のペースで国内外の作家さんの作品を展示していきたいと考えています。今年はブックローンチも予定しており、みなさんに新しい本を紹介できればいいなと。アーティストと本を作ろうという話も控えているので、たくさんのプロジェクトが進行しています!みなさんに楽しんでもらえる良いお店を作っていければと思っています。

Photography Miyu Terasawa

author:

竹内菜奈

1993年、東京都生まれ。日本女子大学卒業。学生時代に出版社の編集部アルバイトを経験したことをきっかけに、本格的に編集者としての道に進む。2018年にハースト・デジタル・ジャパンに入社。「ハーパーズ バザー」でウェブエディターとして経験を積んだ後、2022年にINFASパブリケーションズに就職。「WWDJAPAN」では編集・記者を務め、主に一般消費者向けのウェブコンテンツを手掛けている。取材分野はファッションからアンダーグラウンドなカルチャーまでを担当。

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