連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.4 「KOMIYAMA YUKA BOOKS」髙橋優香が選ぶ、本で知った未知の世界をディグリたくなる2冊

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、ラフォーレ原宿にあり世界中の人気ブランドや気鋭のレーベルを取り扱うセレクトショップGR8内にオープンした「KOMIYAMA YUKA BOOKS」の髙橋優香にインタビュー。アートピースのようにヴィンテージの本が所狭しとと並ぶ店内から、気付かなかった日本の姿とカルチャーを知れる本、そして収集家としての一面も持つアーティストの一癖あるアーカイヴブックを紹介してもらった。

荒木経惟
『往生写集』

−−荒木経惟『往生写集』について教えてください。

髙橋優香(以下、髙橋):2014年に開催された「荒木経惟 往生写集」に合わせて刊行された写真集。初期の作品「さっちん」から50年にわたって写真家の荒木経惟さんが見てきた日常、そして愛する人と猫の生と死が収められている1冊です。奥様の陽子さんとの日常、暮らした家、バルコニー、飼い猫のチロ、空。スナップがあったり、家の前の十字路を毎日撮っている写真を見ると、一つとして同じ日常はなくて、いろんな人の物語が1つの道にあるのを感じたり。写真は、客観的にそれを教えてくれるからおもしろい。この写真集は、多くの日本人が昔から大切にしている、日々を大切に過ごす心、それが辛辣につづられている1冊だなと見ていて感じます。

−−この本のどんな部分を海外に紹介したいと思いますか?

髙橋:日本の文化や日常にあるものを海外の人達に言葉で説明するよりも、荒木さんが写す日常の風景を見てもらうことは、日本のカルチャーが一番伝わりやすい方法だと思うんです。海外に拠点を移すフォトグラファーも多いですが、荒木さんは拠点を変えることなく長い間日本をしっかりと捉えているから、日本人の私でも見たことのない日本が荒木さんの写真の中にはたくさんある。どの作品を見ても日本らしさを感じますし、日本のカルチャーをずっと作って発信している、きっと荒木さんには日本を写して伝えたい思いがあって、それがきちんと海外の人達に響いているからすごいなと思います。神保町の小宮山書店でも「荒木の写真集はどこにある?」と聞かれることも多いですしね。日本では、荒木さんといえばエロティックとういうイメージや中には女性蔑視と感じて いる人もいるかもしれない。海外の人と話をすると、それで終わることは絶対にないんです。言葉が伝わらない分、写真から感じることがすごく多いんでしょうね。私は、女性に対しての愛情や尊敬がなければ、あの写真は撮れないと思う。いろんな意見があっていいですし、世界中の人と感じたことをディスカッションすることもアートの意味合いとして、大事なこと。それこそが紹介したい理由で、日本は愛の深い国民性ということも写真を通して知ってもらえたら嬉しいなと思います。

−−本や作者にまつわるエピソードはありますか?

髙橋:海外の人が名前を挙げる日本人カメラマンといえば、荒木経惟さん、森山大道さん、掘り下げている人だと深瀬昌久さんの名前が挙がります。中でも認知度が高いのが、荒木経惟さん。私自身も写真集にのめり込むきかっけになったのが荒木さんでした。ニューヨークのブックフェアで、荒木さんの本と出会ったのですが、日本ってこんなにおもしろいカルチャーがあったんだと知りましたし、自分の国のことなのに知らないことが多く恥ずかしさと驚きもありました。本に興味を持つことによって、国にも興味が出てきてカルチャーや時代背景など知らないことを知るきっかけにもなります。私にとっては日本ということに対して見方を変えてくれた、人生までも変えてくれた人。いつかお会いしてそのことを直接伝えたいです。

「陽子は少女らしい一面から、娼婦みたいな悪いところまであって、いろんな女性の角度を持っていて、すごくいい女だった」と話していたインタビュー記事を読んだことがあって。奥様の陽子さんが荒木さんを写真家にしたとも言っていました。それくらい荒木さんにとって陽子さんの存在は大きく、愛の深さを感じながらよくこの写真集を見返しています。

アントワン・オルフィー
『Buzzard Control – A Book about QSL card culture』

−−アントワン・オルフィー『Buzzard Control』について教えてください。

髙橋:パリ在住のアーティスト、アントワン・オルフィー。彼はもともとグラフィティ出身で、今はコミックアブストラクションというスタイルで活動しているアーティスト。この本は、コレクターでもある彼が収集したQSLカードという、アマチュア無線家が、交信したことを証明する為に交信相手に発行するものをまとめたアーカイヴブックです。巻頭の“Do you receive me?” “I receive you!”っていうQSLカードの意味合いを説明したやりとりの言葉もなんだかおもしろい。現代でいうSNSのようなものだった、QSLカードの当時の役割をあれこれ想像して眺めたり、楽しみ方はいろいろ。中にはアントワン自身がデザインしたカードも紛れているんです。

−−この本のどんな部分を日本に紹介したいと思いますか?

髙橋:1918年ニューヨークのバッファローが始まりと言われているQSLカード。日本でももちろん使われていて、カードには、動物、乗り物、おもちゃ、似顔絵、どこかの景色など、1つとして同じものがない豊かで多様な表現があって見ていておもしろいです。それゆえ、影響を受けたアーティストも多く、P.A.M.のミーシャ・ホレンバックやエド・デイヴィスも、QSLカードにインスパイアされているとか。この本では、エド・デイヴィスとの対談も掲載されています。

彼自身、横尾忠則さんや春川ナミオさん等の日本のアーティストが好きだったり、アニメーションスタイルのアートワークを製作したりするなど、とにかく日本のカルチャーが大好き。そんな彼の良いところは、大好きな日本のカルチャーを自分の中で消化してオリジナリティーを持って、自分のカルチャーとして表現しているところ。作品の中には日章旗風のモチーフがあったりするけれど、日本ぽくはない。好きなものは好き、でも自分はこう! みたいな表現もおもしろい。アーティストとしても、コレクターとしても、こんなにもおもしろい人がいるんだなと思いました。この本を紹介することでアントワン・オルフィーというアーティストを知ってほしい。という思いがあって選びました。彼は、この本の他にも、膨大なめんこのコレクションを1冊にまとめた『めんこ少年(Menko Boys Book)』という本も出しているんです。本にすることで、自分のコレクションをみんなとシェアするということは、コレクターの醍醐味でもありますよね。

−−作者にまつわるエピソードはありますか?

髙橋:「KOMIYAMA YUKA BOOKS」では、親交のあるアーティストの本をおくようにしていて、アーティスト同士でつながっていくこともありますし、東京が世界のハブになってくれたらという思いもあります。アントワンとの出会いは小宮山書店で、以前「アリ―ズ」の展示をした時でした。フォトグラファーのジョシュア・ゴードンと一緒に来ていたのが、この本を出しているロンドンのTOP SAFE BOOKSの人、たまたま来日していたアントワンがその人と知り合いだったことがきっかけでした。以前パリに行った時、アントワンの家に遊びに行ったこともあるのですが、暴走族の本とか、手塚治虫さんの漫画など、持っているものがかなりマニアックだったのを覚えています。

1つひとつ絵柄の異なるQSLカードはただ眺めているだけでも飽きないですし、描かれているイラストがポップでかわいいものばかり。この絵には何か意味が込められているのかなとか、大阪って書いてある! とか、見るたびに新たな発見もあって、気付いたらQSLカードの魅力に取り憑かれている。多くのアーティストがインスピレーション源にしているというのも納得です。

若者が日本のカルチャーを見直すきっかけ作りと本を読む、買う文化を根付かさせたい

私自身ファッションの仕事をしていたので、そこで培った知識を生かしファッションの歴史を感じられる雑誌や、国内外の写真家の写真集、ファッションにまつわる音楽系の本やクイアアートなどを、独自の視点でセレクトしています。世界に向け日本の文化を発信する神保町の「小宮山書店」と同様に、ここでも日本人作家に力を入れていて、まだまだたくさんいる日本人作家やアーティストの作品を日本人に見て知ってもらいたいという思いがあります。「GR8」というセレクトショップ内、しかも原宿という好立地なので、感度の高い若者がもう一度日本のカルチャーを見直すきっかけが作れたら、そしてファッションの仕事をしている人が、資料になりそうなものを気軽に探しに来れる場所にもなってほしい。そんなことも意識しています。世界のアートブックフェアを回っていて思うのが、日本人の本離れ。海外のアーティストやデザイナーは日本に来ると必ずと言っていいほど、本屋を巡ります。それに比べて、日本人はその印象が薄い。本を読む、買うという文化をもう一度根付かせられるようにしたいと思いますし、さまざまなカルチャーを知っているかどうかは、世界で勝負する上でも必要なはず。本から知識や情報を得ることの楽しさや、あらゆる目線でみることができる本のおもしろさを、ここから発信できたらと思っています。

“POETRY READING”
会期:1月27日〜2月13日
会場:GR8(KOMIYAMA YUKA BOOKS)
住所:東京都渋谷区神宮前1-11-6 ラフォーレ原宿 2.5F
時間:11:00– 20:00
入場料:無料

Photography Masashi Ura
Text Mai Okuhara
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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